■□静寂なる、白き王の。 〜壱〜 <<noveltopnext>>
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――お前は、永遠となる

確かに、そう、唇から発した。
それは、何度も、何度も。
繰り返す音の欠片だ。







「おい、社の前が散らかっているぞ」
ルルーシュは賽銭箱の右孫廂に腰掛けて言う。
場所は、古びた神社の境内。
敷き詰められた玉砂利の上に落ちる枯葉を
竹箒で掃いている成年を見た。
「ああ、ありがとう」
神主が着用する着物は、袴が水浅葱色ではなく黒竹色だ。
羽織の白が際立ち、彼に良く似合っている。
玉砂利の上だというのに、靴音を立てずに言った場所へ行けるのは
草履という物を掃いているからだろうか。
素早い動きで、掃くのだが
「左方向、落ち葉が増えたぞ」
「うん、左方向」
「今度は、中央の榊近くだ」
「榊近く、」
「賽銭箱の前、」
頬杖をついて、ルルーシュは溜息をついた。
男の動きは指示に迅速に対応してはいる。
しかしだ。
「そんなに乱暴に掃いたら、散らばるだけだ」
「散らかしていないよ! それに、丁寧に掃いているし」
ムッとした表情をする男は、今年で30歳過ぎの筈なのだが
見目は17〜8歳。
やはり『日本人』特有の童顔だからだろうか。
「要領が悪すぎる」
立地条件、本日の風向きを考え、その無駄に冴える頭脳で
指示をしてみたものの
彼自身の掃き方が乱暴であれば元も子もないというものだ。
「もっと上手くできないのか?」
「……学校をサボった子には、言われたくないなぁ」
ルルーシュは詰襟のホックを外す。
「自主学習だ」
「自主学習で、神社に来る子も珍しいな」
「地域信仰と歴史について。
こんな古神社に参拝しに来ているんだ。光栄に思え」
ルルーシュの言葉に苦笑して、男は
ペコリと礼をする。
「お褒めに頂き光栄です。皇子様」
揶揄っての対応だろう。
しかし、その身振りは様になっていた。
視線を逸らすルルーシュに、気を留める事はなく
変わらず彼は箒で掃いている。
「掃除は大事だが、この古神社の参拝客は少ない
無意味だと思わないのか」
問いかけに、彼は振り返らない。
それが何故か苛立ち、腰を上げようとする。
「君が、来てくれているじゃないか。
それだけで、十二分だ」
通っている学園の近くであるが、この古びた神社に脚を踏み入れる者は草々にいない。
日に4〜5人くらいだろう。此処へ参拝にくるのは。
そして、ほぼ毎日来ているのは、きっと一人だけ。
このルルーシュだけだろう。
「……」
彼の後姿を見る。
出会ったのは、ちょうど7年前。
日本に留学するブリタニア人は多いが、それでも日本人との
特に子供との間では『奇異』と見られる事が多い。
そうだ。
無益で純粋と言われてしまう暴力が、いじめがあった。
幼い頃から、頭がよく、上手く回避できる事もあるのだが
何分、体力とそのクールに見えて内ある闘争心は抑えられず。
ボコボコにされた時もある。
周囲はいじめた側を庇い、いじめはエスカレートしていくものの
自殺をしてやろうと思うほど、ルルーシュの精神は弱くはなかった。
喧嘩で負けても、心は折れてはいなかったのだ。
だが、その時は、
足の不自由な妹と、そして内気な弟の為に買ってきた林檎を持っていた。
だから、逃げた。戦略的撤退とでもいおうか。
追いかけられ、そして、此処で。
彼、枢木スザクという男に救われた。

「そう言えば、よく効く湿布を貰ったんだ。
この前の筋肉痛に効くと思うから、」

遠い記憶から呼び戻すように
振り返らず、男は言う。
この前の筋肉痛というのは、殴られた所の事だ。
わざわざ、それを提示するのは
今日も不良に絡まれ、腹部を殴られた事が言わずとも知れている証拠だ。
ルルーシュが、自身に受けた暴力などを
他人に曝け出さないプライドを尊重しているのか。
「……油断した、だけだ」
ポツリと、呟くルルーシュに、男は、スザクは振り返った。
「君って相変わらず、突発的な事には弱いよね」
言葉は、遠い。
童顔でありながら、その落ち着いた大人の眼差しは
あまり好きではなかった。
視線を逸らし、そして戻せば、いつのまにかスザクは前に立っていた。
「自主学習の所、悪いけど。湿布貼ろうか」
彼に、その眼差しは、空虚を思わせるだけで
似合いはしないと、ルルーシュは思っていたから。






本殿の後ろに、社と同じ造りの離れがある。
此処も枢木神社の一部であるのだが、神主を務めているスザクが
寝泊りしている場所でもある。
日本独特の間取りは、ルルーシュとしてはセキュリティーが弱すぎると
言ったのは、かなり前の話。
それに、のほほんと、盗まれる物はないし私は強いしと
言って口出しは却下されている。
小さな中庭を過ぎ、縁側に竹箒を立てかけて、スザクが招く。
靴を脱いで縁側に上がり、スザクが前の障子を開けると
薄く影の指す十畳の座敷。
中央には、既に救急箱が置かれていた。
全てお見通しという事だ。
「あ、何か飲むかい?」
「いや、いらない」
「そう言わないでって。美味しいお茶を貰って……
あ、それより先に、湿布を貼ってしまおうか」
聞いておきながらも、お茶を出す事は決定しているらしい。
そんな部分で、彼の隠れた人間性が見える。
頷く前に、ルルーシュを畳に座らせて、同じくスザクも座る。
粗暴な所を見受けられるが、今のようにその座り方などは品があった。
彼は自身の事をあまり教えてはくれないが、出自は由緒正しい所であるのは
確かだ。
「失礼するよ」
そう一言告げて、スザクはルルーシュの制服の上着を脱がし、
ワイシャツのボタンを外した。
他人に、肌を晒すのは嫌いだ。
だが、この目の前の男は。
「………沁みたら、言ってくれ」
「湿布、貼るだけではなかったのか?」
微笑んで、スザクは肋あたりの青痣に薬を塗りだした。
包帯を巻いて、丁寧に湿布を貼って、
傷の手当てをするスザクを見つめる。
身を屈められているので、見下ろすカタチとなった。
普段は、彼の方が背が高いので必然的に見上げる姿勢なのだ。
瞬く、その睫毛が長く、合わせから見える鎖骨に
ルルーシュは息を飲む。
触れる手が、近くの温もりが

「ルルーシュ?」

その瞳、彼、全てが。
震わすのだ。
心というものの、全てを。
瞳を丸くさせているスザクの手首を掴んで、自身の体重をかけて
倒れこんだ。
多少の痛みは、スザクが自然に取る受身に吸収される。
畳に、呆然としているスザクの髪と着物が広がる。
顔を近づけて、やっと、自身の状況に思考が追いついたようだ。
「やめろっ!!」
手は胸を押し、けれど力は弱い。
彼自身が言う通り、スザクは武人と言って良いほど強い。
難なく、ルルーシュを蹴り飛ばす事も容易だ。
だが、それをしないのは、この身を気遣っているからだ。
「抵抗をするな、あれを、実行するぞ」
瞼が重く、伏せられる。
それは、スザク自身の憂いではない。
気づかないフリをして、ルルーシュはスザクの首筋に唇を寄せた。
遠くから、虫の音が届く。
彼と、スザクと、不純な行為をするようになったのは
一年ほど前だ。

蝉時雨の、夕方だ。







多少の護身術はスザクのお陰で習得している。
だが、何分、体力がない。
一人、二人ならまだしも、数人となれば分が悪いのは明白だ。
プリントの提出をし、階段を下りて、辺りの状況をまとめる。
通うアッシュフォード学園校舎は広い。
生徒数も多いが、時間帯は放課後。4階となると生徒の数は少ない。
(確か、3年の化学研究のヤツか?)
彼らに悪い噂が立っている。
作った薬を売買しているというモノで、物的証拠がなく部員の一人が
教育委員会の重人で下手に教員も手出しができない。
そんな彼らが、生徒会副会長のルルーシュの後をつけている。
(此処から先は、廊下が続く……隠れる事は、ほぼ、不可能。
走り切るという手もあるが……)
後をつけているのは、二人。
この先に、数人いるのは予測範囲。
奥歯を噛み、突如、振り返るとルルーシュは走り出した。
後をつけていた者の方へ、だ。
「っ、」
驚き、けれど、余裕に笑う彼らの、唸る拳を流し、
その反動と原理を生かし、投げ飛ばす。
力がないのなら、相手の力を使うだけ。
スザクから教わった護身術は成功した。
「てめぇぇっ!!」
生徒の怒声に、ルルーシュは瞳を向けずに走った。
長時間走る事は無理だ。
護身術を取得していても、全てを捻じ伏せる事は不可能。
ならば、先ほど、プリントを提出した講師がいる講義室に行くのが
得策であり走る距離の最短ルートだ。
詰襟のホックを外し、徐々に追いついてくる生徒たちよりも先に
講義室の扉の前に立った。
音を立てて扉が開き、ルルーシュは駆け込んで。
「先生――っ……っ、」
言葉を発した瞬間、視界が暗転した。
そうだ。
失念していた。
教員の中に、精製した薬の売買に加担している者がいるという情報を。


気づいた時には、縛られていた。
外からは生徒の部活動の声。
気を失って、時間は絶っていないようだ。
場所は、第二化学室。
床に倒されたルルーシュには、3人の化学部員と2人の柄の悪い男、
そして一人の教師。
「困るな、ランペルージ君」
「………」
言うまでもない。
バレそうな悪事を煙に巻く為に、利用と、口封じ。
ルルーシュの持つ権力を得ようとしているのだろう。
「予想以上に、馬鹿なようだな」
「なんだと?」
教師が、顔をゆがめる。
ルルーシュは身を捩り、縛られた腕を動かす。
「この行動に伴い、堂々と俺に顔を晒すなど
自身たちが犯人だと言っているようなものだ」
「偉そうに言ってんじゃねぇ!!!」
化学部員の一人が、ルルーシュの顔を殴った。
歯を喰いしばっていた為、ダメージは軽減されるが、身は床に投げ出される。
口端をルルーシュは上げて、彼らを見上げる。
「見える所に傷を負わせた。
十分な証拠だな、これを基に、薬品売買の事について
調べる事ができる――」
「それは無理だな。証拠は何一つ残ってはいない」
床に突っ伏しているルルーシュの髪を掴んで、身を起こさせると
不良の一人が腹部を殴った。
「っ……っ……それは、売買をしたと認めるのか?」
「ああ、認めるさ……だが、お前は、提訴できない」
怯える事なく、ルルーシュは見下す眼差しを向ける。
証拠の一つを、押さえた。
ポケット内にある、携帯で彼らの声を録音しているからだ。
証拠としては十分であるが、弱いとされれば
でっちあげの書類を作る事もできる。
どうするか、脳内で考え出すルルーシュの顎を不良の一人が掴み、
無理に口を開かせる。
「っ!?」
歯を喰いしばるが、腹部を蹴られ、開いた口腔に液状の物体を入れらる。
口を押さえられ、無理矢理、燕下させられた。
「げほっ…けほっ、貴様っ……」
瞬間、脈打ちが早く大きくなる。
「今から、君の恥ずかしい姿を撮らせてもらう。
もし、我々の、言う事を聞かないならば――」
弱みを握るつもりか。
視界が霞み、時間を稼ごうと口を開くにも、上がり出す熱が動きを封じはじめる。
飲ませられた薬は即効性である事を知らせた。
「先生、俺、そういう趣味ないんすけど」
「綺麗な顔してるから、いけんじゃね?」
「うわ〜、やべぇ発言じゃん」
ニタニタと笑う、生徒たちと、冷ややかに笑う教師。
ワイシャツを裂き、抵抗しようとするルルーシュに男が圧し掛かってきた時だ。

ガシャーンッッ

窓ガラスが盛大に割れる音が響く。
すぐ様に、飛び込んでくる影。
夕闇に映える、その和装。
「お前、何者だっ」
男は、そう、男は、
その翡翠の虹彩を持つ瞳を細めた。
圧倒的な、威圧が、其処に存在している。
「………」
一瞬だった。
風よりも、光よりも。
その動きは、美しく、しなやかで。
思考がままならないルルーシュにも、それが一瞬であったと思わせる程に。
ルルーシュを取り囲んでいた者たちは倒されていた。
「ルルーシュ、」
駆け寄ってくる彼は、床に倒れているルルーシュの縛る紐を解いて
そっと抱き起こす。
体が震えだす。
思考が、遠のく。
温もりは、優しくルルーシュを包み
気づくのだ。

恐怖を感じていた、と。

けれど、今は、恐怖はなく。
「……この、事は……」
心配事は、一つ――ナナリーとロロ。
自分を包み込む、その人は微笑んだ。
心配はないと、思わせるに十二分の表情で
意識を、ルルーシュは手離す。









気づいた時には、布団の上。
「っ、」
「私が、寝泊りさせてもらっている離れだよ」
袴姿のスザクがいた。
「君の家には、私の所に泊まるって連絡しといたから……
後で、もう一度連絡しておくといいよ」
懸念していた事を、スザクは伏せていてくれたようだ。
「どうして……」
「何か、嫌な予感して………」
言葉を濁し、そして、心配して学校に突入したとスザクは言った。
事によっては、彼自身が警察に連行されてしまう。
「大丈夫、だよ」
安心させるように、伸びる手は
妹と弟と同じ。
あたたかい。
「あ…でも、窓ガラスは弁償する……ちょっと、あれは
やりすぎてしまったし」
軽い口調で言うスザクに、ルルーシュは言葉を続けようとした。
だが、しかし。
「っ…うっ……っっ、」
脈打ち、全身が、熱く、痺れ出す。
「ルルーシュ!!」
「っ……ぁ……」
布団の中で、ルルーシュは身を縮める。
「…液体……を……っ…」
要因は、あの液体だろう。
純度は低いであろうが、ルルーシュは元より薬が効きすぎる体質だ。
予想以上に、効果を発しているだろう。
だが、これは、毒性ではない。
「熱い……っ……くっ…ぅ、」
視界が滲む。
体が熱い。
そして、変化している、体の、ある一部が。
「はぁ……はぁ……」
それが指し示すモノは解る。
だが、どうすればいいのか、ルルーシュは解らなかった。
高い理性が、ルルーシュを蝕み、気を狂わせようとしている。
「…………」
ふわりと、良い香がした。

「大丈夫、吐き出せば…楽になる」

震え上がる体を、宥めるように肩を撫で
後ろから寄り添い抱きしめられる。
「っ………っ……」
座るように抱き起こされ、瞳を左手で覆われた。
そして、抱き込む腕と、右手は
「くっ、うっ!?」
張り詰めた、その、若い性器を包み込む。
体が、熱を、欲を、欲しながら
感情は震えた。
このような事は、他人と交渉した事がないからだ。
「これは、君の、奥にある……欲のカタチ。
誰もが、持っているもの」
囁く声は優しく、震える身を宥める。
「大丈夫、大丈夫だよ。
ちょっと骨ばっているけれど……この手は、君が
好きだと思う女の子の手だ」
敏感になっているモノを、苦痛にならないように
巧みに手が動かされる。
「ほら……この手は……」
「っ……好きな……」
「うん。恥ずかしい事じゃないよ。
好きな人と、したいって思うのは……ほら、感じてごらん」
包み込む、それは、淡い。
塞がれた視界は、黒ではなく。
意識が、遠くへと堕ち飛ばされる浮遊感。
脳奥の、毛細血管のような紋様と、そして
両の眼球が痛む。
痛みが消えた瞬間、白い空間。

此処は、知っている

「見える、だろ? 君の、好きな、人が」

ああ、いた。
いたよ。
ずっと、そう、ずっと。

「っ……ああ……っ…」
ぐちゅぐちゅと厭らしい水音と、迫り来る熱。
「この手は、その人の、手だ」
唇を開く。
その人の、名を。名を。

「スザク……」

微笑んでいる、彼が、いる。
そこに、いた。
「え?」
呆けた声の、息は耳にかかりルルーシュは震え上がった。
「スザク……スザク、すざく……スザクぅ……」
名を、呼んだ。
動きが止まった彼の手に、白濁の液を放つ。
熱は、勢いを増す。
「……はぁ…ぁ…スザク…」
塞ぐ手を払い、振り向けば驚いた顔の、彼がいる。
「……はは……私と、同じ名前の――」
「枢木スザク……俺は…っ…」
腕を回して、飛びつき、そして、その唇を奪った。
歯が当たって痛むが、熱は暴走するばかりで
「んぐっ…っ……ルルーシュ、落ち着いて、
…っ…僕は…俺は――っ…」
けれど、解っていた。
その瞳が、自分を映してなど、いない事を。


だから









「うっ…ぃ……」
しっかりとしているようで、着物はとても脱がせやすい服だった。
ルルーシュが組み敷いている、その人は紛れもなく男で
程よく筋肉がついている。
「……ぐ…うぅ……」
唇を噛み締め、顔を腕で隠している。
細い腰を掴み、内部にあるモノで、ある一点を付いた。
「ひっ、いああ!?!」
顔を隠していた腕は払われ、衝撃に畳に爪を立てる。
「やあ…っ、そこは、だめっ、だっ……んん、くぅう!!」
左右に首を振り、訴える声は、甘い。
男相手に、そういう趣味は、持ってはいない。
だが、彼に、スザクに。
「此処が? すごく、声をあげているのに?」
「んんっ、う……あ、うぅあっ!! い、あ、ぐぅ!?!」
男性である証拠を握る。
高度を持ち、感じている事を知らせた。
内部は蠢き、そして、熱い。
「や、あぁ、う、るるーしゅっ、るるーしゅ、やめ、っ、っン、あ」
腰がいやらしく動く。
彼の体は、艶があり、甘く誘う。
その体は、誰かに既に開かれて。
その誰かに、愛されていた体だった。
「ひんっ、いたいっ、いたっ、やだっ、うぅあ、あっ!!」
30代の男とは思えぬ、瑞々しい肢体。
彼は、そう、彼は、その人を。

ならば、全て、奪うだけ。

それが、哀れみからなる、それから派生して
映し出される事は永遠になくとも
此処に、彼を、捕えているのは、自分だ。

「ルルーシュ、、、」

その体を、抱きしめる。
前髪さらりと音を鳴らし、額を晒す。
そこには、紅い、鳥を広げたような痣。



胸の、奥が、震えた。











携帯で、彼の、あられもない姿を撮影して
脅迫した。
これを、ばら撒かれたくなければ、スザクが、想う人に見せられたくなければ
言う事を聞け、と。
卑怯な手だ。
けれど、必死だった。

「やめろ。君が、傷つくだけだ」

唇を奪って、そして。



「……ズルイんだよ……俺は」



自嘲して、呟いたのは、スザクだった。











夕の闇。
「ルルーシュ……」
眠る、ルルーシュを撫でる手は、白く。
優しくて、あたたかい。
覚醒している意識で、それを感じて、ルルーシュは瞳を閉じたまま。
眠っている者の他愛もない、それを模して。
スザクの手を握り締めた。
心は、きっと、手には、入らない。


欲しているけれど、でも、それでも構わない。



傍に、在れば
彼の罪悪が、彼を囚え、そして、留まっていてくれれば




――お前は、永遠となる

脳裏の、自身が、呟く。
それは、スザクに。
意味は掴めない。
眼球が、少し、痛んで、そして想う。


枢木スザクを、幸を与えるのは自分だけ。


馬鹿げた、傲慢も甚だしい事を思い
けれど、何故か核心していた。


握り締めた手は、振り払われる事なく、強く握り返されたから











(終)
+++++++++++++++++
ファイルの奥底にあったヤツです。
蔵出しです。スマン。
スザクはコードでCの世界を介して、ルルーシュの場所を把握したり
精神へ介入したりできます。
色々と問題山済みな、ルルスザです。
とりあえず、ルルーシュ、スザクに一直線なので(戦争とかそういうのない)
持久戦って事で……。

補足設定
ルルーシュが18歳(態度は尊大)
スザクが28〜32歳(コード持ち不老不死なので、見目は17〜8歳、中身は○百歳)
世界設定:
・ゼロレクイエムの出来事が
世界史に載るぐらい時は過ぎ去っております。
・スザクは400年ほど前に、ゼロを引退。C.C.と共に各地を点々とし(遺跡中心に)
今は枢木神社の神主として滞在中。
・ジェレミアは愛媛で蜜柑農園経営中(半分機械なので不老不死)
・世界は一応、一つとなっており、日本とブリタニアは交流が深く
環境や施設などが良い事から留学生が多い。
・日本人のブリタニア人への嫌悪は根強い。
・皇帝支配はなく、国の象徴としてブリタニア皇族は残っております。
・ブリタニア皇族は残っているものの、ルルーシュはブリタニア家ではなく
ランペルージです。
・他キャラも、そこかしこに存在。
・ナナリーとロロが双子で、ルルーシュの弟妹です。
・ルルーシュは顔がよく、頭もよい為、『いじめ』の標的にされております。
微パラレルです。

++++++++++
裏題は、頑固石頭で面倒なスザクをどう攻略するか。