クロノによる極大魔法――Existence Denialにより巨大な体躯を崩壊させていく防衛体。 だが、崩壊は防衛体の体だけで起きているのではなかった。 防衛体の核となっている蕾擬きの内部に置いても、在る物≠フ崩壊が確実に進行しつつあったのだ。 蕾擬き内部に存在する広大な亜空間。 そこに存在している十三枚のディスプレイに異変が起き始めていた。 今まで様々なデータ等を表示していたその画面は、闇の如く真っ黒に染め上がり、 封印物を取り囲むように展開されていた十二枚のディスプレイに幾筋もの亀裂が生じる。 そして、初めから存在していなかったかの如く、広大な亜空間の闇の中へと消えていく。 更に、封印物の上に浮いていた十二枚のディスプレイと一線を画していた巨大なディスプレイ。 それも十二枚のディスプレイの消滅の後を追うかのように闇の中へとその身を散らし、封印物の周囲にはなにも存在する 物がなくなった。 だが、異変はそれだけでは止まらなかった。 まるで十三枚のディスプレイが消滅したのが合図となったのか、封印物を囲んでいる二十重もの結界に異変が起きる。 外側から一つ、また一つと時間をかけて、だがそれでも確実に結界が解かれ始めていく。 そして、最後の結界が解かれた時、封じられていた厄災は出口を求め、その産声を上げ始めるのだった。
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魔力残滓というにはあまりにも濃密すぎる魔力を吐き出し、基本形態に戻るデュランダル。 その直後、クロノがぐらりと体勢を崩し地上へ向かい落下し始める。 「クロノッ!?」 一番近くにいたフェイトが、慌ててクロノの元に駆けつけその身を支える。 クロノは気絶していた。良く見れば大量の発汗と常温よりも高い発熱をしている事をフェイトは確認する。 何度か揺すると、クロノはゆっくりと両の瞼を開ける。 「……フェイトか?」 「フェイトか≠カゃ、ないよ! もう、無茶して!!」 クロノが防衛体に対して使用した極大魔法。 あれだけの猛威を振るっていた防衛体を一撃で活動不能に陥れた事実から、その威力が計り知れない物であると言う事は 誰の目から見ても一目瞭然だった。 しかし、高威力で在るが故に扱う魔力も桁外れ。 それ故に、鍛え上げた術者とそのパワーアップしたデバイスを持ってしても限界をゆうに超え、 結果、リンカーコアとデバイスに多大な負荷をかける事になる。その為、昏倒の危険性とデバイスの破壊の可能性が 常に付きまとうという事実を抱えていた。 それが、先程のクロノの落下 ―― 気絶に繋がったのだ。 「なんで最初に言ってくれなかったの!!」 「……言ったら使わせてくれなかっただろう?」 「当たり前じゃない!!」 物凄い勢いでクロノに怒鳴りつけているフェイト。 他の面々もクロノの無茶に対し詰め寄ろうとしたのだが、フェイトのあまりの剣幕に近づくどころか一歩退く形となってしまっている。 『うわ〜、フェイトさん。怖いです〜』 『あはは……、リインの言葉に反論できへんな。……まじ怖いで』 『フェイトちゃん、クロノ君の事となると変わるから……』 その余りの形相に、リインは戦き、はやては引きつった表情をし、なのはに至ってはお手上げ≠ニいった感じになって いた。 ついでに言えば、残りの面々も似たり寄ったりの感想をフェイトに持つのはここだけの余談である。 そんな中、実働部隊に念話が飛び込んできた。 『クロノ君、みんな! 無事!?』 それは、アースラ艦橋にいるエイミィからだった。 『大丈夫だ、エイミィ。疲弊はしているが全員無事だ』 『シグナム? ……良かったぁ〜。さっきの攻撃で念話等が繋がらなくなったから心配で心配で……、 ってどうしたのクロノ君?』 シグナムの返答を受け、ホッとするエイミィだったが、クロノの魔力値、並びにヴァイタル値が著しく低下しているのに 気付く。 『な、なんでもない。ちょっと魔力を使いすぎただけだ。問題ない(それよりも助かった……!!)』 対してクロノはというと、まるで鬼のような形相で詰め寄ってくる義妹に為す術がなかったのだが、 エイミィの念話が入ったお陰で、結果的に逃れれた事に内心感謝していた。 尤も、この時点に於いては……だが。 『何がちょっと魔力を使いすぎただけだ=Aですか! 危険領域の一歩手前じゃない!! 大体、クロノ君は――』 『―――――――』 マシンガンのように続くエイミィからの念話を受け、クロノはフェイトに抱きかかえられながら別な意味で頭を垂れていた。 これなら、まだ防衛体を相手にしていた方がマシと言える程だった。 だが、いつまでもこうしては居られない。まだ、任務は終わってないのだから。 その事をエイミィに伝えると、彼女は渋々と―― 『――まあ、まだ色々と言いたい事はあるだけど、後にしましょう。まだ問題は残っているからね……』 『(結局後であるのか……うぅ)……助かる。で、アースラの方はどうだ? 動けそうか?』 『直ぐには無理だね。ただ、不幸中の幸いというか念の為に積んであった資材があるから、応急処置は可能だよ。 時間を掛ければ、長距離転送と長距離通信が可能になるから、その後、支局に向かうか救助を求めるかだね』 『そうか……了解した。後はアレだよな』 クロノが、とある一点を見る。 それにつられ残りの実働部隊と衛星軌道上のアースラ艦橋にいるクルーもアレを見る。 視線の先にあるのは、崩壊した防衛体の成れの果て ―― 僅かにある氷の結晶体の残骸とそれに半ば埋もれる形で 横たわっている‘蕾擬き’。 それは、未だ凍ったままで幾枚の花弁が欠けている状態で存在している。 「クロノの極大魔法を喰らっても、核である‘蕾擬き’が辛うじてとは云え健在とは……。一体何で出来ているんだ?」 「僕もそれが疑問だ。本気で破壊するつもりで魔法を放ったんだが……な。良くも悪くもロストロギアと言うべきか……」 「そんなん、気にする事ないじゃねーか、ユーノ、クロノ。流石にあれじゃあ、何にも出来ねぇだろうし。 やれやれ、とんだ任務だったな」 「文句を垂れるな、ヴィータ。そういうのは、全てが終わり家に戻ってからだ。まだ任務は終わっていない」 「へいへい、分かってますよ。っくうっさいな、ザフィーラは」 他の面々も幾分緊張が解けたのか、思考が戦闘から幾分警戒が低い状態に切り替わりつつあった。 「どうします、クロノ提督?」 「……取り敢えず、あらゆる意味で完全凍結されている状態だから大丈夫の筈だが。 念には念を入れた方がいいな……、『エイミィ』」 シグナムの問い掛けに対し、クロノは少しの思案の後、再びエイミィに念話を飛ばす。 『何、クロノ君?』 『封印ネットは無事か?』 『ちょっと待って……、うん大丈夫! ってアレを使うの?』 『そうだ。あれだけの猛威を振るった奴だ。念には念を入れたい。幸いな事に必要な人数も揃っているからな』 『言われればそうだね、……分かった。必要な準備は、出来うる範囲でこちらでしておくから』 『助かる。また後で連絡を入れる。少し待っていてくれ』 一旦念話を切った後、実働部隊は地上へと降下する。 流石に、魔力がほぼ枯渇状態であるクロノを一時的にしろ休まさせなければいけなかったからだ。 「それで、ハラオウン提督。どうするつもりだ? それに先程の念話にあった封印ネット≠ニは何だ?」 ザフィーラの言葉を受け、クロノは疲れた体に鞭を打って起きあがり、 今後の行動指針を皆に示す。 封印ネット=\― これは嘗て発見されたロストロギアの技術の一部を流用したもの。 能力的にはネットの中の時間を一時的だが、止める能力を持つ。その為により危険度が高いロストロギアに対し有効な 封印手段として使われてきている。 だが、局面を誤ればとんでも無い事に成りかねないので、使用には提督級の許可が下りないと使えないような設定を 施されているのだ。 だから―― 「――クロノ君はアースラに戻る必要があるんやな?」 「そうだ、はやて。そこでだ、君に現場の指揮権を委譲する。勿論、僕もサポートする。やってくれるか?」 指揮官としても高い能力を有するはやてだが、心の準備も無しに言われて最初は戸惑った。 逡巡しながら周りを見渡せば、仲間は暖かい目で見てくれている。言葉には出さない物の皆、「はやてなら大丈夫」 という事を言ってくれているのが分かった。 その意志を受け、はやては了承する。 「分かった。現場指揮権、引き継ぎます。サポート宜しくな、クロノ君、みんな」 クロノを含む全員が淀みなく頷き、了承の意をはやてに返す。 それからクロノは作戦が決まった事を艦橋にいるエイミィに連絡を入れ、詳細な封印ネットの解除手続き準備を指示する。 後は、クロノがアースラに戻って解除をすればいよいよ封印開始となる。 ただ、現状のクロノでは転移魔法すら使う事もままならないので、代わりに―― 「では、クロノさんは私が送りますね。よいしょっと……」 ――シャマルの旅の鏡を介してアースラ艦橋へ戻る手段を取った。 「済まないな、疲れているところ」 「いいえ、気になさらないでください。クロノさんと比べればこの程度の疲れ、大したことありませんよ」 「そうか……、では改めて、現場指揮をはやてに委譲する」 「了解や、クロノ君。後は私達に任せてや!!」 クロノははやての言葉を受け取ると、目の前に展開された旅の鏡を潜り衛星軌道上にいるアースラへと向かっていった。 そして、クロノが無事アースラに着いた報告を受けるとシャマルは旅の鏡を解除して一呼吸をする。 「おつかれや、シャマル」 「有り難う御座います、はやてちゃん」 はやての労いに微笑むシャマルだっったが、その表情には疲労が濃く表れていた。 それは他の面々も同じである。目立った肉体的損傷がなかったのは幸いだったが、精神的――魔力量に至っては この場にいる全員が、全保有量の二割を切っている状態だった。それ程までに防衛体の最後の足掻きは凄まじかったのだ。 それから暫くして、クロノからの連絡が入る。 封印ネットの件だが、解除手続きに後5分位掛かると言う事。 その間、準警戒態勢で待機との指令が入る。 それから―― 『――封印ネットの発動のトリガーははやてに任せる。他の面々はネットの展開に務めてくれ。 展開の方法ははやてに伝えておく。では、宜しく頼む』 全員が了承の意を返すとクロノからの念話が切れる。恐らく解除手続きに入ったのだろう。 「それじゃ、全員に配置の指示をします。時間も限られているさかい、一度しか言わんで!!」 「了解!」×実働部隊 はやての指示はこうだった。 今から使う封印ネット≠ヘ最終的に、かたち的にはピラミッド型 ―― いわゆる四角錐の形態を取るとの事。 まず、起動キーともなる握りこぶし程の大きさの球体を封印対象物の上空に配置。 更に、そこから底面の四角形を成す為に角に当たる部分に四つの球体を設置する。ただし四つの球体はそこから更に 二分割に分かれるようになっている。 そして、四つの球体――八つに分かれたモノと頂点の球体に魔力を流す事で各頂点同士が魔力で発生した線で結ばれ、 更にその間も魔力壁に覆われる事で、対象物を囲めるという仕組みになっていた。 「成る程、そしてトリガーを起こせば封印が完了……という事ですか」 「そや、シグナム。封印が成せばサイズはちっちゃく出来るみたいやから、運ぶのには問題ないらしいで」 「という事は、後は4つの球体への配置だよね。起動キーの処にはやてちゃんが付くのは当然として……にゃ?」 なのはは言葉を続ける事が出来なかった。何故なら、はやての表情が嬉々としていたからだ。 何か非常に嫌な予感がするのをなのは感じる。言うなれば、今日の学校の屋上でアリサが見せた表情と 非常に似ているのだ。 「それも既に決まってる。配置は二人一組でやってもらうで。組み合わせは――」 この時点で、リインとヴィータ、そしてユーノを除く全員がはやての思考を看破する。 なのはは口を挟もうとするが時既に遅し。 尤も、現場指揮権ははやてにあるのだから最初から反対できないという事実もあるのだが。 「――フェイトちゃんとアルフさん。そしてシグナムとシャマル。更にザフィーラとヴィータで」 「了解、はやて♪ で、最後の組は?」 フェイトが嬉々としてはやてに尋ねる。 尋ねるまでもなくそんなものは分かるのだが、それでも敢えて訊いたのは多感な乙女心から。 親友の恋を応援したいのは何もはやてだけではないのだから。 「勿論、なのはちゃんとユーノ君やで」 「は、はやてちゃん!!」 顔をこれでもか! という位に真っ赤にさせながらはやてに抗議するなのは。 対してはやてはというと、「何慌てとるんや?」と言わんばかりの半ば意地の悪い笑みをなのはに返す。 「なのは」 「は、はいぃっ!! な、な、な、何かな、ゆ、ユーノ君っ!?」 いきなり呼ばれてなのは思いっきりどもる。それでも理性を総動員してユーノの方を向きながら返事を返す。 ユーノはどもられたことに対しちょっと不審に思ったが、然したる気にも留めることなくサラリと 「頑張ろう!」 と、綺麗な笑顔で言った。 「――――――っ!!」 それを見たなのはは更に顔を紅潮させ、両手を胸の前で組んだまま、金縛りにでもあったかのようにぴくりとも 動かなくなった。 『あれは、ダメージが大きい見たいですね』 『そうみたいやな、シャマル。にしてもユーノ君もある意味天然つーうか何というか……。無意識にやっているところが怖いで』 『まあ、そういう点も含めてお似合いなんだけどね、二人は』 『確かに微笑ましくはあるのだが、何時までもこのままではかないだろう、テスタロッサ』 シグナムの言う通り、封印開始時間が迫っている中に於いて滞りなく作業を開始する為には 所定の位置に着かなければいけない。もうちょっとなのは達を見ていたい気もするが、はやてはなのはに呼びかける。 「なのはちゃん!!」 「ふぇ?」 はやての強い呼びかけに我に返るなのは。 「今から所定の位置に着いて貰うけど、ええね?」 「う、うん!!」 未だ顔を赤らめているものの、なのはからしっかりとした返事が来る。 それを確認した後、はやては実働部隊に対し、所定の位置に着くように命令を下す。 はやての命令を受けて、迅速に所定の位置に着く実働部隊の面々。 その時だった、封印ネットの解除手続き終了の一分前を知らせる報告がエイミィからみんなの下に届いたのは。
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アースラ内部にあって、厳重なロックが掛けられている保管庫の前でクロノが扉の解除手続きを行っていた。 「よし、もう少しで解除出来る。後は自分≠認識させるだけだ。『エイミィ!』」 『何、クロノ君?』 『皆に連絡を入れてくれ。もうすぐ封印ネットを現場に送ると!』 『了解!』 『現場の配置はどうだ?』 『ちょっと待って……大丈夫、全員所定の位置に待機しているよ! 後は封印ネットを送り起動させるだけ!!』 エイミィからの念話を受け、クロノは右の掌を保管庫の扉にあるパネルに触れさせる。 すると、パネルは淡い光を灯し電子音を発した。 《指紋……認識。魔力波動……認識。DNAパターン……認識。…………クロノ・ハラオウンである事を認識。 扉を解除する事を承認します》 そして、ピッという小さな電子音を発した後、全てのロックは解除され重厚な扉が静かに開いていく。
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「来たで」 蕾擬きの上空で待機しているはやての前に旅の鏡が展開されていた。 そしてその中から、封印ネット≠ェその姿を現す。 はやてはそれを受け取ると起動キーとも言える一つだけ色違いの球体に魔力を通し始めた。 すると、残り四個の球体との間に魔力で出来た線が結ばれる。 それを確認したはやては、四個の球体を地面で待機している四組に向かって放り投げた。 球体は寸分違わず各組の下に向かい、しっかりと各組が受け取る。 『主はやて。是を分けて、魔力を込めればいいんですね』 『そや、一人一個ずつ持って、魔力を込めて貰えればそれでええよ』 はやての指示を受け各組とも球体を分割し、それぞれが分割されたモノを握り魔力を通わす。 瞬間、球体の片割れ一つ一つが鈍い光を発したかと思うと地上にいる各組を結び底辺を成し、 ピラミッド型――四角錐を造り上げる!! 『よし、線は完了したで。次は面を作らなあかん! リイン、頼りにしてるで!』 『はいです。マイスターはやて。頑張ります!!』 はやての足下に白色のミッド式魔法陣が出現し回転を始める。 クロノから指示された膨大な術式をリインと一緒に組み上げていく。すると、四角錐の頂点とそれを結ぶ線が白く光り始めた かと思うと瞬く間に面を形成し、蕾擬きを完全に取り囲む四角錐 ―― 封印ネット≠ェ完成した!! 『完了しましたです、マイスターはやて!!』 『ありがと、リイン。クロノ君、何時でもええで!!』 全ての準備が整い、後は魔法発動のコマンドを唱えるのみとなった。 はやてはアースラ艦橋にいるクロノに連絡を入れ、指示を待つ。 程なくして、クロノからの最終指示がはやての下に届く。 『よし、行くで! …………えっ!?』 それを受け、封印ネットを起動させようとした矢先、それは起きた!! 蕾擬きを完全凍結させていたはず氷りが何の前触れもなく砕けたかと思うと、幾枚の花弁が一気に開き 封印ネット内に一輪の花を咲かせたのだ!! そして、次の瞬間! 取り囲んでいた封印ネットは跡形もなく吹き飛ばされる!! 小説欄 TOPに戻る □ あとがき □ 貴重なお時間を使って読んで頂いた方、誠に有り難うございますm(__)m 分量は少ない物の、区切りが良かったので前後編へと分けました。 さて、ここからやっと0幕≠ヨと繋げられます。 書いていて、自分でもホッとした次第……。 |