ネットが吹き飛ばされる映像は、アースラ艦橋でも確認されていた。 「何が起きたんだ!? くそっ、現場の状況と実働部隊の安否を早急に把握してくれ、エイミィッ!」 「了解! アレックス、ランディ。貴方達は状況確認を。私は実働部隊の安否の確認をします!」 「「了解!!」」 目の前に、幾つものウインドウが出現し幾つもの現場の状況と各種データが次々に表示される。 ただ映像の殆どは先程の現象のせいでノイズの嵐が酷く、不鮮明な画像が多い為、現場をはっきりと視認する事が 出来ずにいた。 だが、幸いにも観測データは正常に稼働している事から、エイミィは複数のキーボードを巧みに操作し、 実働部隊全員の安否確認を急ぐ。 「はやてちゃん達、実働部隊全員のヴァイタルの反応を確認! 全員無事です!!」 「そうか!」 エイミィからの報告を受け、クロノはひとまず安堵する。 だが、それもほんの一瞬の事だった。 画像を不鮮明にしていたノイズが晴れていき、正面にある大型モニターに映し出された物体を見るまでは。 「あれは……、まさかっ!?」 クロノは我が目を疑った。
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蕾擬きが封印ネットを破壊した衝撃は、ネットの構築に当たっていた実働部隊をも容赦なく弾き飛ばしていた。 「……痛っ! 一体何が起きた? 『主はやて、みんな無事か!?』」 いち早く復帰したシグナムは、念話で皆の安否を確認する。 先程の衝撃で周辺には大量の砂塵が舞い、近くにいたはずのシャマルでさえ視認する事が出来ない程に視界を 埋め尽くしていた。恐らくは他の面々にも同様の事が起きていると考えられる。 程なくして、全員からの念話がシグナムの下に届く。 幸いにも、纏っているバリアジャケットや騎士甲冑のお陰で全員が何とか最悪の事態だけは避ける事が出来た。 『一体何が起きたんだい、シグナム』 『こっちが訊きたいくらいだ、アルフ。蕾擬きが開いたところまでは私も確認出来たのだが……何っ?』 アルフの念話を受けている最中、視界を埋め尽くしていた砂塵がとある一点に収束され始めていく。 そして、砂塵が無くなり眼前に現れたのは、空中に浮いている一輪の大花。 『あいつ、クロノのあの魔法を受けても尚動けるのかよ!! くっ……!!』 『ヴィータ、大丈夫か? 無理したらあかん!!』 『大丈夫だよ、はやて! それよりもあれは、一体何なんだよ!!』 ヴィータは体に奔る痛みを無視しながら、上空に浮く大花を凝視する。 凝視した瞬間、大花の中心からどす黒い小さな立方体状の箱が出現したかと思うと、六つの面は一斉に砕け散りある物を 現実世界へと放出する。それは、全体が水晶のようなもので出来ていた。 大きさにして全長三メートル程。直径一メートルの球体を中心に左右対称に六角柱が付いている形状をしている。 そしてその映像はモニターが回復したアースラでも確認する事ができた。 あまりの出来事に言葉を失う実働部隊面々と艦橋にいるアースラクルー。 だが、その中に於いて二人 ―― ユーノとクロノだけが物体の正体を看破してしまう。 それもそのはず。今二人が目の当たりにしているのは、この惑星に来る前に提督室で偶然床に落ちた一枚の資料に 載っていたモノ。既に存在しないものと云われていたはずの旧世界の負の遺産。 それは―― 「――ディメジョン・クェイク・ボム≠セと……ッ!! 『クロノッ!!!』」 ユーノの絶叫とも云うべき念話がクロノがいるアースラへと飛んでいく。 同時にクロノからもユーノの下に同質の念話がぶつけられる!! 『何でコレがあの中から出てくるんだ! 何故っ!!』 『分からないよ、クロノ! まさか……あの蕾擬きは……あの防衛システムは……ディメジョン・クェイク・ボム≠封印 する為に存在していたのか!?』 二人の尋常成らざる状態に、周囲は戸惑いを隠せない。 この二人が恐れている目の前の物体は何なのだろうか? ユーノの近くにいたなのはが声を掛けようとした矢先、エイミィからの切迫した念話が入る。 『あの物体、凄まじい勢いで周囲の魔力素を吸収している! クロノ君、ユーノ君! アレは一体何なの!!??』 それを受け、クロノが答えを発する。 認めたくはないが現実はそれを否応なく否定する。 『あれは……、ディメジョン・クェイク・ボム=B旧暦で起きた次元災害をこえる災害を引き起こす、負の遺産……っ!!』 『なっ!?』 クロノとユーノを除く全員が絶句する。 何かの間違いではないのか? 誰しもそう思った。しかし、二人の表情、口調から嘘でない事を理解する。いや理解させられてしまったのだ。 目の前に存在しているのは、とんでもない存在だと云う事を!! 『それじゃ、私達のしてきた事はロストロギアの封印ではなく――』 『――そうだフェイト』 クロノは苦渋の表情で、喉の奥から声を絞るように告げる。 『僕らのした事はディメジョン・クェイク・ボム≠フ封印の破壊だったんだ!!』 『ッ!!!』 この言葉と突然の事態で、実働部隊の誰もが何をどうすればいいのか分からなくなった。 更に、アースラ内部の混乱が念話を通じて流れてくるのが更なる不安を助長していく。 何とかしてこの事態を打破しようと足掻いているのがひしひしと伝わってくるのだ。 そんな中で際だって聞こえたのはエイミィとクロノの叫びとも言える報告。 『クロノ君! 未だにディメジョン・クェイク・ボム≠フ魔力値が増大中! 発動臨界点まで後、360秒!!』 『な?! どんな方法でもいい、ディメジョン・クェイク・ボム≠止める方法はないのか! エイミィ!!』 『可能な限りのシミュレーションをしているけど…ダメ! 確率が全て”ゼロ”なんだよ!!』 その言葉で我慢出来なくなった、なのはとフェイトがクロノに問う。 このままではどうなってしまうのか? と。 それに対し返ってきた言葉はあまりにも無情すぎた。 『……大規模な”次元断層―次元災害”が起きる……。それもかつてない程の大きさで!!』 実働部隊の誰もが息を呑む。 死の宣告にも等しい言葉だった。だが、この後更なる現実が突き付けられる。 シャマルとザフィーラが被害範囲を訊く事によって。 『…このままでは、少なくとも10数個の次元世界が滅ぶ…、”地球”を含めて……っ!!』 聞きたくない単語が耳に飛び込んでくる。 何かの間違いだと思いたかった。アースラクルーにとっても馴染みが深く、特に実働部隊にとっては故郷と呼べる星が 無くなる。 知り合いが、恩人が、親友が、兄妹が、両親が、家族が消えてしまう。 その事実は、混乱に一層の拍車を掛ける事となる。 ヴィータは感情のままにクロノに食って掛かり、シグナムが諫める。 だが、諫めたのは将としての責任からだった。そうでなければ、ヴィータと同様に当たり散らしていたかも知れない。 けど、刻は止まらず、終焉に向かい加速し続ける。 ―― 絶望 ―― この場にいる全員がその感情に支配されていた。 現状で防ぐ手立てがなく、時間も僅かしかないという状況の中では無理もない。 『そんなのやだよ、みんなが居なくなっちゃうなんて……』 『なのは……』 『なのはちゃん……』 なのはは嘆いた。いや彼女だけではない。フェイトやはやてその他の人達も同じだった。 一人でも多く悲しむ人達を無くす為に、一人でも多く弱い人を護る為に、今の進路を選んだはずなのに、目の前で 起きている事態はその決意・努力等を容赦なくうち砕き、無に返す。 ―― 無力 ―― もうこれしか無かった。 今まで数々の困難でも力を合わせ乗り切ってきたのにそれが一切通用しない。出来るのはただ、滅びを待つだけ。 ほぼ全員が諦めようと足掻くのを止めようとしたまさにその時、一人の少年が言葉を発する。 「……一つだけこの状況を打破できるかもしれない方法がある。やらせてくれないか、クロノ」 止める術がないものと思われ、絶望に打ちひしがれていた者達から見ればユーノの言葉は闇を照らす光の如く全員に届く。 「本当か、ユーノ!!」 「……あぁ」 クロノの問い掛けに、少しの間を置いて答えるユーノ。 普段の状態ならば、誰しもその間に疑問を持ったはずである。だが、今起きている現実は全員から通常の思考を奪い、 誰一人としてその間に疑問を挟む物がいなかった。 それ故に―― 「魔法の構築と制御に専念したいから、なのは達は一旦アースラに戻って待機してくれ」 ―― ユーノのこの言葉にも誰も疑問を挟む者はいなかった。
魔法少女リリカルなのは_Ewig Fessel
Episode 06:Abschied fuer immer - 永の別れ <同時刻、時空管理局・本局> 「そろそろ、封印が終わる頃かしらね」 「時間からしてそうじゃない? にしても無茶をしたわねレティ」 本局内に設けられている提督室で、二人の女性が休憩を取っている。 両方とも提督という高い地位にいるレティ・ロウランとリンディ・ハラオウンだった。 「ん、何の事?」 「今回のクロノに与えられた任務に対しての人員配属よ」 ‘ああ、その事’と言ってレティは、コーヒーを口にする。 その後、悪びれた様子もなくこう言ってのけた。 「部下の心の安定を図るのも上司の務めよ」 その言葉にはリンディも苦笑せざる得なかった。 相も変わらず、管理局は人手不足で猫の手も借りたい程忙しい。 そのような状況の中で、今回の任務でクロノの元に配属された人員は贅沢すぎる程といっていい。 当然の如く反対論はあったのだが、レティは持ち前の話術で見事に説き伏せたという経緯があったのだ。 「尤も、私としても今回の配属に関しては感謝しているけどね」 「そう? ありがと」 その後、話題はレティが持っていた資料に移っていく。 「そう言えば、さっきから気になっていたんだけど、その資料はなんなのレティ?」 「コレ? 貴女にも昨日連絡が来たと思うけど」 「もしかして、ユーノ君が無限書庫で見つけたという禁呪≠フ資料?」 ‘そうよ’と言ってレティはリンディにその資料を手渡す。 「リンディ、貴女も知っての通り、書いてあるのは発動した場合の効果と条件だけだけど……ね」 「確か、自己犠牲魔法≠セったわね」 ユーノが先日無限書庫で偶然見つけた魔法。 それは遙か昔、戦乱が続いていた時代に開発された物だった。 戦力で劣る星が何とか覆そうとして考案された代物――分かりやすく言ってしまえば人間爆弾といっても差し支えない。 「えぇ、全く持て馬鹿げているとしか言いようが無いわよ」 「でも得られる効果は確かにとんでもないものよ。一時的にしろ、疑似次元を作り出せるなんて……ね」 リンディの言う通り、この魔法――禁呪の生み出す効果はとんでも無いモノだった。 小規模ではあるものの疑似次元を作りだし、その中に特定の対象物を圧縮し、閉じこめる。 そして、閉じこめた僅かな時間の後、再び疑似次元が消滅する事によって取り込まれた対象物も文字通り消滅してしまう という物騒極まりない魔法だった。 また、術者の力量次第で‘対象物の大きさは限定されない’というとんでもない設定まである。 「それに、この魔法を使うのに必要なのはごく少量の魔力と術者自身の命――心臓が媒体っていうんだから 昔の人達は何を考えていたのか……。全く以て信じられないわ。それに報告書では――」 「――構築プログラムは至って単純。その気さえあれば誰でも使える。だから禁呪指定された」 レティの言葉にリンディが言葉を繋げる。 仮にこの魔法がテロリスト等の手に渡ればどうのように使われるかは想像に難くない。 事実、魔法を使った自爆テロというのは少なからず起きているのだ。 それ故にこの魔法は即刻禁呪指定≠ニいう扱いを受け、存在を知っているのも提督クラス以上。 さらに構築プログラムに至っては閲覧不可という事になっており、知っているのは上層部の一部と―― 「――後は第一発見者のユーノ君以外は知らないのよね」 「それこそ杞憂でしょう、レティ。だってユーノ君には想い人がいるもの。そんな事は絶対にしないわ」 「確かにそうね。というかあの二人、早くくっつかないのかしら?」 「相変わらず好きね、レティはそういう話」 柔和な笑みを浮かべながら、レティに煎れて貰ったコーヒーを飲もうとした矢先。 何の前触れもなく、ピシッとマグカップに大きなヒビが入り中身がテーブルへ波紋のように広がる。 それはリンディのだけではなく、レティのマグカップにも同様の事が起きていた。 「これって一体……」 「何か嫌な予感がするわ……」 二人に形容しがたい悪寒が襲ってくる。 つい先程までの穏やかな雰囲気は微塵もない。ヒリヒリとした緊張感だけが二人のいる空間を包み込んでいった。
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アースラ艦橋にて、全員が固唾を呑んで現場の状況を凝視していた。 ユーノの提案通り、現場に彼だけを残して実働部隊の全員が艦橋に集まっている。 ディメジョン・クェイク・ボム≠ヘ未だ魔力素を吸収し続け、発動臨界点を示すタイマーは百五十秒を切るところだった。 「ユーノ君、お願い! みんなを助けて!!」 なのはは涙を目尻に溜めながらユーノに訴えかける。 もう彼女にはそうするしかなかった。 否なのはだけではない。ここにいる全員がユーノに全てを託していた。 『大丈夫だよ、なのは。ディメジョン・クェイク・ボム≠ヘ発動させない。みんなは助かるから』 『スクライア?』 ザフィーラが、今のユーノの言葉に引っ掛かりを覚えた。 何かかおかしかったのだ。確認を取る意味で、後ろにいるクロノに目線で投げかけたところクロノも同様の 視線を返してきた。 『ユーノ。お前……っ!?』 クロノがユーノに問い掛けようとした時、ユーノの魔法構築が始まった。 足下に淡い緑色の魔法陣が浮かびゆっくりと回転を始めていく。 と同時に、アースラ艦内に別音色の警告音が鳴り響き、クロノの前に一枚のディスプレイが出現する。 「クロノ君、これは一体何や? また何かが起こるんか!?」 「これは……禁呪発動≠フ警告? 危険度最大? っ!! ユーノ、やめるんだっ!!!」 「えっ……?」 はやて達は、‘また何かあるのか?’と恐怖に戦く。 が、それはクロノの叫びから別の意味へとすり替わっていく事になる。 ユーノからの返事は返ってこない。その間も彼の魔法構築は進んでいく。 「クロノ君、一体……どうした、えっ? ちょ、ちょっとなにこの数値? ユーノ君とディメジョン・クェイク・ボム℃辺の 次元位相がズレ始めている?」 エイミィの報告は一体どういう事なのか? 先程のクロノの叫びと関係しているのか? ユーノは一体何を行おうとしているのか? 艦橋にいる全員の視線が、未だ叫びながらユーノに連絡を取ろうとしているクロノの下に集まる。
―― 発動臨界点まで後、九十秒 ――
「禁呪ってどういう事なの、クロノ君?」 「なのは……」 なのはの言葉を受けて、未だ繋がらないユーノへの念話を続けながら、クロノは自分の目の前に表示されている資料を 艦橋にいる者達に提示した。 目を通した者達は絶句する。そして知ってしまう。 今ユーノが行おうとしている事に対して! 「ユーノ君、駄目っ!! やめてーーっ!!!」 クロノのとは比較にならない程のなのはの叫びが艦橋に響き渡る。 ユーノは自分を犠牲にする気なのだ。あのおぞましき死をまき散らすディメジョン・クェイク・ボム≠止める為に!! だが、やっと返ってきたモニターに映っていたユーノの表情と念話は、恐ろしい程までに落ち着いている物だった。 『クロノ、駄目じゃないか。その情報は君以外には見せちゃいけないものだろう?』 「何を言っているんだ! ユーノ、君は自分が何をしようとしているのか分かっているのかっ!!」 『……知っている、明らかに違法 ―― 犯罪行為だという事はね』 「そういう事を言っているんじゃない! お前は――」 『―― 一人の人間の命で、数え切れない程の世界とそこに住む数多の命を護れるんだ。決して、悪い方法じゃない』 クロノの焦りとは対照的に、ユーノは非道く落ち着き払っていた。 それが逆に今起きている異常事態を際立たせる結果になる。 「ユーノ君! なんで、なんでこんな事をするの!? お願いだから、止めてっ!!」 なのはは涙で表情をくしゃくしゃにしながらもユーノに懇願し続ける。 他の面々も先程まであった緊迫感のある表情ではなく、悲痛な表情に変わってた。 『……それは出来ないよ』 「なんでっ!!」 『止めたら、みんな消えちゃうよ。なのは』 「で、でも! そうしたらユーノ君が――!!」 『……そうだね。でも代わりにみんなを、そして、なのはを護る事が出来る。だから、僕は止めない』
―― 発動臨界点まで後、四十秒 ――
『もう時間がないか……』 「ユーノ君っ!!」 『ごめんね、なのは。お話を聞くという約束、守れなくて』 本当に申し訳なさそうに、モニターに映っているユーノはなのはに謝る。 作戦前になのはと結んでいた約束=B どんな事を話してくれるのか分からなかった。けど、結果的に約束を破る形となった事だけが心残りだった。 だが、このユーノの言葉は、なのはの今まで押し留めてきた想いを言葉にさせるには充分すぎる切っ掛けとなる。 「私は、私は……! ユーノ君の事が大好きなの!! ずっと、ずっと一緒に居たいっ!!!」 『なのは……』 「やっと、やっと自分の気持ちに気づいたのに!! こんな別れ方、嫌だよっ!!!」 なのはは両手で顔を覆い、床に両膝を付き泣き崩れる。 誰もなのはに手をさしのべる事をしない。否したくても出来なかったのだのだ。 『なのは……ありがとう』 ハッとなってなのはは顔を上げモニターを見つめる。 ユーノが微笑んでくれていた。今まで見た中で最高の笑顔をしている。 『僕もなのはの事が好きだよ。愛している。だから……ごめん』 「ユーノ君っ!!」 『大丈夫、なのはだったらもっと良い人が見つかるよ』 「そんな事ない! 私は、ユーノ君が、ユーノ君しかいないよっ!!」
―― 発動臨界点まで後、二十秒 ――
ユーノ足下に浮かんでいる魔法陣が回転速度を速める。 『ユーノッ!!』 『駄目や! ユーノ君ッ!!』 フェイトやはやて、他の人達も次々に叫び続ける。 だが、ユーノは止まらない、止めるつもりもない。 大切な仲間を、そして自分が一番慕い命を賭けてでも護りたい者の為に。 例えそれが愚かな行為だと分かっていても。 そして、魔法のトリガーを引く為にユーノは最後の行為に及ぶ。 環状魔法陣が回転する右手を左胸に刺し、己が心臓をえぐり出す!! 『さよなら、僕の大切な仲間。そして……僕の大切な愛しき人=x 「ユーノ君ッ!!!」 なのはの叫びと共に、モニターが白一色で覆い尽くされていく!!
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(どう……やら……上手く………いった……みたい……だ) 疑似次元内。 事切れる寸前、ユーノは眼前で今まさに爆発しようとしているディメジョン・クェイク・ボム≠朧気ながら見ていた。 右手は真っ赤に染まり、口と左胸からは大量の血液が止めどなく流れ続けている。 (折…角……両想い…に……なれた……の……に……な。しょう……がな……い……か) 魔法発動前のなのはの告白を思い出す。 嬉しかった。本当に嬉しかった。なのはも自分と同じ想いを抱いてくれた事が。 でもそれ以上に罪悪感も感じていた。どんな形であれなのはを泣かせてしまったのだから。 そして、自分勝手とは分かっていても祈らずにはいられなかった。 (なのは……には幸せ……になって……ほし……いな) その祈りを抱きながら、ユーノは静かに瞳を閉じた。 それを合図であるかのように、疑似次元は崩壊を開始する。 だが、その時不思議な現象が発生した。 どこからともなく光の球体が現れユーノの左胸に収まったかと思うと、ユーノの体は無数の光の粒子に包まれ 疑似次元内から跡形もなく消え去るのだった。 直後、疑似次元は爆発寸前のディメジョン・クェイク・ボム≠ニ共に虚無へと消え去っていった……。
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禁呪発動から十数秒後、再びモニターに映し出されたのはなにもない、ただ一面に広がっている惑星の荒野。 そして、アースラ艦内は先程まで鳴っていた警報は形を潜め、代わりに鳴っているのはいつもの規則的な電子音と―― 「ユーノ君……、ユーノ君……、ユーノ君……、ユーノ君……、ユーノ君ーー……っ!!!」 ―― 床にうずくまっている、なのはの慟哭だけが、何時まで何時までも艦橋に響いていた……。
――― Episode 07に続く…… ―――
小説欄 TOPに戻る □ あとがき □ 貴重なお時間を使って読んで頂いた方、誠に有り難うございますm(__)m 誰か脳内翻訳機でも開発してくれないかな? と思っている時の番人です。 どうも、頭で構成している部分が文章に成らなくて右往左往しながら書きました。 で、出来上がったのが今話。色々と突っ込むところはあるかと思いますがここいら辺が限界……orz。 にしても、少しでも重い話を書くのにかなりのエネルギーを必要とする事を改めて知り得た次第。 書き進めていくたびに気分が沈むのを感じました。 さて、今話で何とか構想上に置いての序盤を書く事が出来ました。 次話からはやっと中盤以降と相成ります。 既に原作とは別系統の時間軸であり、尚かつお粗末なSSでお見苦しい処もあるかも知れませんが 次回もよろしければ読んで頂けると嬉しいです。時の番人でした。 |