『逃れゆくアタランタ』とは?
錬金術寓意画『逃れゆくアタランタ』は、ミハエル・マイヤー(1566〜1622)によって作られ、1617年に出版されました。マイヤーはパラケルスス派の医者であり、ルドルフU世に侍医兼外交官として仕えた人物です。
イェイツの名著『薔薇十字の覚醒』で述べられているように、当時のプラハは薔薇十字運動という思想史的にも重要な一大ムーブメントの真っ只中にありました。その運動の一つの表れがマイヤーの『逃れゆくアタランタ』なのです。すなわち『逃れゆくアタランタ』は、──薔薇十字運動における政治的絡みについてはここでは置いておくとして──薔薇十字運動の中心をなす思想すなわち錬金術思想に全体を貫かれているのです。
『逃れゆくアタランタ』は、50葉の寓意画及び、それぞれに対応するラテン語6行詩、音楽によって構成されています。ジョスリン・ゴドウィンは『アタランタ』を「ヘルメス主義的作業を補助するものとして音楽を用いた類稀な例なのだ」と言っていますが、絵画、言語、音楽の全てを用いて思想を伝達しようとする試み、それが『アタランタ』の根底にあります。
皆様、是非『逃れゆくアタランタ』に触れてみてください。錬金術思想という一見不可解な思想に対する理解の糸口が、『アタランタ』を通してもたらされるやもしれません。マイヤーが自らの生徒に対して意図したように…
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*『逃れゆくアタランタ』の画像(No.1〜No.50解説付き)および音楽(No.1〜No.18画像付き)は、The Alchemy Web Siteにて鑑賞出来ます。
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参考文献
- Stanislas Klossowski de Rola, The
Golden Game (London, 1988).
- Alexander Roob, Alchemy&Mysticism
the Hermetic Museum (Italy, 1997)
- Adam McLean ed., Atalanta
fugiens─Magnum Opus Hermetic Sourceworks22
(London, 1987).
- F.イェイツ『薔薇十字の覚醒』(工作舎)
- Joscelyn Godwin, "Music and
the Hermetic Tradition," Roelof van
den Broek, Wouter J.Hanegraaff
ed., Gnosis and Hermeticism (New
York, 1998).
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