「彼の記憶

私は学生の頃、音楽を楽しんでいました。一日のうちの大半をその音楽に費やす時期もありました。その音楽活動のなかで初めてレコードになったのは4曲入りのコンパクトアルバムの「TULIP」です。

Yさんが作ってくれました。博多織のお仕事をされていて、音楽が好きで、色々な新しいレコードを聴かせてくれたり、旨いものを食べにつれてってくれたり、大変お世話になりました。さて、レコードを作る事は決まって、Yさんのステレオのレコーダーでいざ録音をしようとして重要なことに気が付きました。ステレオで録音するマイクが4本必要です。その日は録音を断念し、岸川さんに相談しました。

岸川さんはKBC九州朝日放送のラジオのディレクターでラジオ番組「歌え若者」やその他の番組でお世話になっていました。ステレオ録音ができる器械があるから、と快く引き受けてくれました。

後日聞いた話ですが、4人のメンバーが演奏出来るスタジオとステレオのレコーダーのある場所は30メートルほど離れていて、ライン(ケーブル)を繋ぐのに大変苦労された様です。(AMラジオ局の場合、ステレオの必要はないので、機材は使われていませんでした。)

そんな訳で、録音中は演奏する私たちと岸川さんは離れているので、1曲終わるごとに私達のスタジオに来てくれて「OK!OK!テイクワンOK!」。
4曲ともに「テイクワンOK!」で、岸川さんは笑顔ばかりの1日でした。

普段の岸川さんはラジオ番組を作るという仕事で、特にリハーサルでは音に関しては厳しく、私たちアマチュア出演者は緊張の連続でした。そんな岸川さんの厳しさの中で私たちアマチュアは少しずつ、演奏の腕を上げ、音楽の楽しさを知らず知らずのうちに身に付けていったのだと思います。

岸川さんが亡くなられて、しばらくして、ご自宅に電話をしました。奥さんが出られ「今、私の方から吉田さんにお電話しようと思っていたところなんですよ。主人が最後まで使っていた財布に吉田さんの名刺だけが入っていて、きっと元気になったら東京のお店に行こうと思っていたんでしょう。」電話が終わった後、岸川さんのことが頭から離れず、一週間ほど岸川さんの記憶を辿っていました。不思議なことに気が付きました。学生の頃私が感じた岸川さんの印象は今も変わらず私の中にあり、そしてこれから先も変わることはないでしょう。

そしてこの歌が出来ました。

「彼の記憶(mp3音源です。)ページを開くとすぐに曲が流れます。

(この音源を権利者の許諾なく使用、複製する事は禁じられています。)