平成10年度舳倉島僻地総合診療実施報告書

平成10年8月12
舳倉診療所所長 児玉 貴光

平成10年度舳倉島僻地総合診療は、8月1日()と2日()の2日間にわたり実施され、関係者一同の尽力によって無事終了いたしました。皆様の御協力に厚く御礼申し上げます。
以下に、本年度の実施状況を報告いたします。

. 日程
平成10年8月1日(土) 13001900
       2日(日)  7001200(外科)
             9001200(その他)

. 場所
舳倉島開発総合センター内
玄関ロビー(受付・眼科)
診療所;診察室(外科)
検査室(内科)
コンピュータ室(耳鼻科)
保育所;調理室(メンタル・ヘルス)

. 実施診療科
内科、外科、耳鼻咽喉科、眼科、メンタル・ヘルス(心の内科)

. 診療従事者
内科   :上田 章人 医師(市立輪島病院)
      吉本 登美子 看護婦(県立中央病院)
外科   :高畠 一郎 医師(有松中央病院)
      濱 由紀子 看護婦(県立中央病院)
耳鼻咽喉科:小森 医師(小森耳鼻咽喉科医院)
      清水 シズ子 看護婦(県立中央病院)
眼科   :山村 敏明 医師(公立穴水総合病院)
      松原 悦子 保健婦(輪島市保健環境課)
心の内科 :加藤 佐敏 医師(県庁健康推進課)
受付   :県庁厚生部より次長を含め4名
協力   :松本グローバルメディカル社より2名
その他  :児玉 貴光 医師(舳倉診療所)       16

. 受診状況
のべ受診者数(受診件数)は108人で、実際には57人の島民が受診した。

図1 総合診療受診者患者分布
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図2 総合診療受診者年齢別患者分布
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図3 総合診療受診者性別患者分布
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図4 年度別受診人数と受診件数の推移
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図5 年度別各科受診件数の推移
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. 診療結果
各科専門医の診察の結果、総受診件数108件中69件において、所見が認められ、それぞれに対して@所見の指摘、A治療計画の指示、Bその場での治療がなされた。

図6 各科有所見者の割合
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. 考察

7.1 全体総括
本年は、全体の受診件数はほぼ例年並であった。ここ4、5年に比較すると件数が減少しているが、8月1日がエゴノリ採りの日であり、島の海女や漁師達の多くが輪島本土近くに行っていたこと、2日の天候が悪かったことが原因と思われる。様々な悪条件にもかかわらず、これだけの受診件数が得られたのは、専門医による検査・治療を熱望する島民の意識のあらわれであると思われる。

7.1 内科
本年度もほぼ全例にわたって血圧測定、検尿、血糖測定、心電図検査を施行した。
そのうち、多くの患者に関して、検査・与薬の追加変更、生活指導の指示がなされた。島民の多くは、漁業を生活の糧としているため、非常に不規則な生活を送っている。そのため生活習慣病を背景に持つ者が多く、専門医による生活習慣の改善指導などは非常に有意義なものであると考えられる。ただし、最も予防が重要と思われる年齢の受診件数が少なく、当該する島民の健診受診の啓蒙を行っていかなければいけないと思われる。

7.2 外科
本年度より従来の上部消化管内視鏡検査に加えて、乳癌検診を実施した。
内視鏡検査に関しては、例年並の受診件数が得られた。普段の診療では診療所医師の1人勤務であり、合併症発生の危険性を考慮して実施していないため、島民からの需要が高まっているものと思われる。また、悪性腫瘍が早期発見され、職場復帰した島民も多く存在し、最も関心の高い検査であると言える。
また、本年も1例悪性腫瘍が発見されており、今後もますます需要は高まっていくと思われる。
また、乳癌検診に関しては、事前の宣伝活動が少なかったにもかかわらず、診察希望者が存在した。女性の中では需要も高く、来年度以降も継続することが望まれる。

7.3 耳鼻咽喉科
舳倉島の職業構造上、耳鼻咽喉科には多くの受診件数があり、しかもその大半が女性であった。
診療結果としては、中耳炎、外耳道炎、耳管狭窄症といった例年通りの疾患も数多かったが、咽喉頭異常感症など、喉頭ファイバーによる検査が有用な疾患も増加しており、専門医健診としては実に充実したものとなった。
また、生活習慣による耳鼻科的疾患としては、喫煙による喉頭癌が挙げられるが、来年以降は喫煙者を対象とした喉頭ファイバーによる喉頭癌検診の実施も考慮に入れたいところである。

7.4 眼科
本年度もやはり多くの島民が受診し、様々な指導がなされた。
眼科診療では、白内障、緑内障、糖尿病性網膜症など慢性疾患の経過観察をこの場で行うという意義も含まれており、総合診療の果たす役割は大きいといえる。
また、専門的眼科診療を行うにあたっては、眼圧測定器、オートリフラクトメター(自動屈折率測定装置)などの機器は不可欠である。現在、当診療所には、細隙燈と眼底鏡のみが常備されており、多くの機器を持ち込む総合診療は非常に意義深いものである。(日常の診療にも役立つ眼圧測定器やオートリフラクトメーターの導入も考慮に入れたいところである。)

7.5 メンタル・ヘルス(心の内科)
今年度初めての試みだったメンタル・ヘルスは、島民にその趣旨が伝わっておらず、受診件数は少なかった。
しかし、普段の診療から感じられることは、島民はなかなか精神的な問題については口を開きにくいだけに、継続していくことは意義が大きいと思われる。もう一つ問題点としては、島民は初対面の人間にあまり口を開かない、ということが挙げられる。これを解決するためには、この先長きにわたって診療を継続し、島民の認識を高める必要があるであろう。


. まとめ
診療所、そして舳倉島を囲む環境は年々変化している。
昨年より就航した「ニューへぐら」や性能が向上した漁船、増加した輪島市内の医療機関などが挙げられる。
これらの変化に伴って、数年前に比較して島民が本土の医療機関を受診するのは、随分と容易になってきている。にもかかわらず、多くの島民が、この機会に健診に訪れるのは、長年にわたり総合診療に携わってきたスタッフに対する信頼のあらわれだと思われる。今後とも、島民の健康水準の引き上げ、診療所の医療レベルの向上のためにも、総合診療の半永久的継続が望まれる。

. 謝辞
至らない点も多かったでしょうが、皆様のおかげで無事に総合診療を終えることができました。この2日間というのは、短い期間でしたが、私自身勉強になることが多く、本当に充実しておりました。
また、皆様と共に仕事ができる日が来るのを楽しみにしております。
本当にありがとうございました。心から御礼申し上げます。


舳倉診療所 児玉 貴光