2週連続巻頭特集、12.23「クイーンオブエクストリームトーナメント」出場者ロングインタビュー第一弾、一人目は今年エクストリーム界に彗星の如く現れ、一撃必殺のカウンターを武器に破竹の快進撃を続ける松原葵選手に、試合に賭ける意気込みから因縁浅からぬと噂の来栖川選手のことまでたっぷりと語ってもらった。 * * * ――まずはトーナメント出場おめでとうございます。 デビューイヤーにして初出場になる訳ですが、今の率直なお気持ちはいかがですか。 松原 長かったです。 ――そうですね。エクストリームは年間成績でトーナメントの出場者が決まりますから、言ってみれば予選を1年もやってるようなものです。 松原 はい。でもそれくらいの方が本当に実力のある選手が残ってくるんでいいのかも知れないです。ただ怪我しちゃうと……。 ――確かに近頃の試合はどんどん過激になっている気がします。 松原 そう言うのってよくないと思うんです。突いたり蹴ったりで怪我させちゃうならまだしも最近場外へ向かって投げた人がいたじゃないですか(10.20笹岡恵美対ジャクリーン・ルイス戦)。あれって無茶苦茶だと思うんです。いくら反則じゃないからってそんなことしたら相手は怪我するって分かってるし、そんなの試合じゃないです。 ――つまり「勝負」にこだわりすぎて「試合」をおろそかにしてると? 松原 うーん、難しいことはよく分かんないですけど多分そう思います。エクストリームの舞台に上がる以上最低限エクストリームの精神に則って試合すべきです。 ――エクストリームの精神と言うと? 松原 極力危険を排除したスポーツとしての格闘技、だと私は思ってますけど…。あ、それなら寸止めとか防具とかの方が安全か…。 ――でも、エクストリームのグローブは安全性が高いので評判いいんですよ。 松原 そうなんですか? ――はい。あとこれは出場選手の人選にも関係してくるんですけど、エクストリームではあまり関節技を使う選手がいないのでその辺のトラブルも少ないようですし……。 松原 そう言えば少ないですね。って言うか私まだ当たったことありませんよ(笑)。 ――そう言えば記憶にありませんね。でも今度のトーナメントにも1人いますからひょっとすると……。 松原 ほんとですか? 嫌だなあ……。 ――嫌なんですか? 松原 嫌ですよぉ。グラウンドは嫌いです。 ――「嫌い」?「苦手」じゃなくて? 松原 ある意味「苦手」かも知れないです。相手に怪我させてもいいんならどんな関節技も抜ける自信があるんですけど、テレビですしね。放送できないようなことは出来ないし…。 ――じゃあもし当たったら? 松原 当たらないように祈ります(笑)。あ、でも私ものすごくクジ運悪いんですよー(泣)。 ――じゃあもう勝負は始まってる訳ですね(笑)。一回戦は幸運の女神とですか。 松原 そんなこと言わないでくださいよー。何だかほんとに当たりそうな気がしてきたじゃないですか! ――でもファンとしては見てみたい気も…。 松原 困りますぅ。だってつまらない試合になりますよ、きっと。 ――と言うことは一応シミュレーションは出来ていると? 松原 そう言う訳じゃないんですけど。特にどの試合、と言うんじゃなくて「グラウンドの選手が相手ならどうしようか」と考えることはあります。私の先生はいつも「まず頭で考えろ」って言う人ですから。 ――「頭で」ですか、なるほど。では是非その考えなどちらっと…。 松原 とりあえず秒殺を狙います。 ――秒殺、ですか。これはまたあっさりと。 松原 はぁ。でも必ず試合開始の時には二人とも立ってる訳ですから、できればそのまま立ち技で決めたいです。 ――でも相手も素直にその手に付き合ってくれないのでは? 松原 大丈夫ですよ、一発で決めてしまえば。逆にそれが出来なかったら私の方が厳しいかも知れないですから。 ――つまり今度は自分が相手に付き合うことになる訳ですよね? 松原 そゆことですね。でもそうなる前に、少なくとも倒される前に勝ちたいです。 ――なるほど。確かに今や「一撃」が代名詞の松原選手ならではの言葉です。 松原 そんな……。私なんかじゃ打ち合ったら負けちゃうから早く決めたいだけです。私チビだからスタミナないし軽いからすぐ投げられちゃうしおまけに打たれ弱いし…。 ――それじゃ弱点だらけじゃないですか(笑)。でもその体格に劣る松原選手が大型外人選手を一撃でKOするシーンが何度もありました。正直信じられないと言うのが多くのファンの意見だと思うんですけど、あれは一体どう言う―? 松原 すいません。技のことは話せません。 ――やっぱり今回もそうですか。でもそれはさっきも話に出てきた「先生」に教わった技なんですよね?ではその「先生」はどういう格闘技をやってる人なんですか? 松原 だから話せないんですよう。それがエクストリームに出場する条件なんです(泣笑)。約束なんです! ――そ、そうですか。なら仕方ないですね。 では話題を変えまして、聞くところによると同じくトーナメント出場が決定している来栖川選手とは浅からぬ因縁があるとか…。 松原 そんな因縁なんて…。ただ小さい頃からずっと目標にしてきた人なんで、そう言う意味では今回のトーナメントに特別な思いはあります。 ――初対決ですね。 松原 はい。楽しみにしてます。 ――特にどの辺りを? 松原 ずっと憧れだった綾香さんがどのくらいのレベルにいる人なのか、ようやく知ることが出来ると思ってます。憧れではなく実際の綾香さんを。 ――自信はありますか? 松原 はい、もちろん。勝負は時の運なのではっきり勝つとは言えませんが、でも勝つ自信はあります。ってこれは先生の受け売りなんですけど。でも絶対届かないレベルではないと思ってます。私の知る限りでは。 ――と言うことは届かないレベルも知っていると言うことですか? 松原 知ってますよ。先生も、先生の先生も到底届かないです。でもまぁ、あの人たちはもう人間じゃないですから。私の一生の目標です。 ――また「目標」という言葉が出てきましたが、では、来栖川選手は目標じゃないんですか? 松原 目標―と言うか、まぁ確かに綾香さんは当面の目標ではありますね。今乗り越えなくちゃならない壁と言った方がいいかも知れないです。 ――そうですか。でも前回優勝者の来栖川選手はシードですから、かなりクジ運が良くないと決勝戦まで当たりませんが…。 松原 あうぅまたそれを……。それが今、一番の強敵なんですよう。殴れない相手が一番怖いって先生もよく言ってるんですぅ。 ――はは…。じゃあ来年のトーナメントには「幸運の女神」にもエントリーをお願いするように言っておきますよ。 松原 ほんとお願いします。とほほ…。 * * * 爆発的な瞬発力をキュートな笑顔とブルマーに隠し、研ぎ澄まされた一撃でKO街道を進み続けデビューイヤーを鮮烈に駆け抜けた松原葵選手。ごくごく普通の女子高生の口から時折発せられる覚悟にも似たその言葉には、我々記者もはっとさせられることがある。 そんな気弱げな外見と自信に満ちた内面とのギャップこそが、この選手の最大の魅力なのだと思い知らされるインタビューだった。 エクストリーム界に鮮烈に舞い降りた「対撃天使」。彼女の挑戦はこれからもまだまだ続いていくようだ。 |