3.死神の弟子

   1

 『―大岡流は元々飛騨忍者の技だ。武士が戦場(いくさば)で相手を殺すために編み出された他の古武術とは、自ずから性質が違う。
 ―逃げるための技なんだよ。何としても生きて主人の元へ戻り、得た情報を伝えなくちゃならない。
 武士と忍者では戦う目的が違う。武士道なら敵に背中を見せるのは恥かも知れないけど、でも忍者に武士道はない。あるのは絶対の主命だけだ。
 だから、とにかく逃げなくちゃいけない。大岡流はそれを極めようとした。
 まだ何キロも走らなくちゃいけないかも知れないから、怪我しないように極力足技は使えないし、体力も使えない。一刻も早く戻らなくちゃいけないから時間もかけられない。―分かる?
 時間も体力も使わずに、怪我もせずに、それでいて逃げるのに十分な時間を稼ぐ。それを突き詰めていくとどうなるか、分かる?
 ―そう、擦れ違いざまに相手の急所を一撃して殺してしまう。それがベスト。つまり―
 その方法を四百年かけて極めたのが、この飛騨大岡流体術なんだよ…』


 男は薄く微笑すら浮かべて平然とそう言った。葵の口がぽかんと開くのも気に止めず、その目に怖れの色彩が揺れているのも気にせずに…。
 恐ろしいと思った。しかし同時に、いくつかのことに合点がいった。
 男の持つその技が一瞬の瞬発力に特化していることや、カウンターの技術に長けていること。
 ―カウンター…。
 葵の心に、その言葉だけが響いていた。
 低く腰を落として膝に力を蓄える。爪先に重心を乗せ、踵を僅かに浮かせて全方向に対応できる体勢をとる。
 顎先に右手を引きつけ、軽く左手を前に出して、その指先の彼方に相手の―男の姿を見据える。
 ―相手がカウンターを狙っているのが分かっているのなら、わざわざこちらから仕掛けることはできない。「クロスカウンター」のようなカウンターにカウンターを合わせる高度な技術は、今の自分にはもちろんないのだ。
ならば、相手に先に仕掛けてもらって、それにカウンターを合わせていくしかない。
 三歩ほどの間合いを挟んで、二人はじっと静止していた。
 先に動いたら勝ち目はない、葵はそう思っていた。
 もちろん自分が勝てることはないにせよ、敢えて張られた罠の中に飛び込む必要はない。勝てないまでも一週間の成果を見てもらいたい、あわよくば一泡吹かせてやりたい。そう思っていた。だから、ここは根比べだと思っていた。
 「……………」
 「……………」
 そよ…と境内を風が流れていった。木の葉が小波(さざなみ)のような音を発て、男の前髪が一房、はらりと顔にかかった。
 誇らしげに揺れる長い髪―。
 「狼のたてがみ」だと男は言っていた。狼は流派の神様で、皆伝以上の位を持つ者だけが髪を長く伸ばすことを許されるのだ、と。「かいでん」がどれほどのものなのか、葵に想像は付かなかったけれども…。
 ジリ…と男の前足の指が僅かに進んだ。尺取虫のように動いたその裸足の爪先を、葵はじっと見逃さないようにしていた。
 ジリッ、ジリッ、と前足の膝が正面を向いた。注視していなければ気付かないような僅かなその動き。そして葵は必死で次の動きを察知しようと、その足に全神経を向けた。
 何にせよまず間合いを詰めなくては攻撃できないのだから、とりあえず最初に動く足に注目していれば何とかなると考えていた。
 そして静止―。空気がゼラチンで固まってしまったかのような沈黙が、重く二人を支配する。
 もう、すっかり辛くなくなっていた。
 はじめの三日は椅子に座ることも階段の上り下りさえも辛いほどの激しい筋肉痛に見舞われたこの低い構えも、たった一週間の訓練で、かなり姿勢を維持できるようになっていた。毎日冷たい視線を浴びながら、学校にいる時でさえ暇を見てせっせとやっていたのだ。その結果が自分の裏腿にはっきりと自覚できることが、葵は何よりも嬉しかった。
 ザリッ、と微かに蹠頭(せきとう)が土を噛む音がした。前足を送り、後ろ足を引きつける。―男がいよいよ半歩、また半歩と間合いを詰め始めた。
 どこかで必ず大きく踏み込んで来るはず―。葵はその瞬間を見逃すまいと、一心にその足の動きに集中した。
 途端に、今まで空気だと思っていた周りの空間が、ゆっくりと渦を巻いて二人を取り巻くように密度を増し始めた。
 ―息苦しい。
 急に空気が薄くなったような周りから圧迫されるような、そんな感覚に葵の全身は包まれた。見る間に呼吸が荒くなってくる。「機が熟していく」というのはこう言うことなのかも知れない。
 緊張感に似ている、と葵は思った。内臓が縮こまるようなイヤな感覚。そして―突然緊張が弾けた。
 ―来る!
 思った瞬間、目の前に男はいた。素早くガードを上げる。
 ガッ!
 受けた左腕に走る激痛。しかし―
 「ぐうっ!」
 男のボディアッパーが、葵の右脇腹に直撃していた。手加減しているのか拳がめり込むほどではない。
 男が拳を退いた。支えを失ったかのように、葵の体が前のめりに頽(くずお)れる。膝を着き、両手を着いた。
 「うぅ…」
 そこが肝臓だと葵は知っていた。今打った張本人が前にそう教えてくれたのだから…。
 「大丈夫?」
 男が葵に手を差し伸べた。その手には、今日も葵の赤いグローブが着けられている。
 「はい、何とか…」
 少し顔をしかめながら、しかし葵は脇腹を押さえて独りで立ち上がった。
 ―一瞬男の体が沈んだのは分かった。一気に間合いを詰めてくるのも。―でもだからこそ、動きが見えなかった。右フックの後に打たれた二の手に気付かなかった。
 「今、カウンター狙ってたんでしょ?」
 不意に言葉が降ってきた。葵は声のした方を見上げ、そしてできるだけ毅然と体を伸ばして目線を上げた。
 「はい、一応…」
 「ふん。まあ、それは別に悪くないんだけど…」
 男が右、左と手からグローブを引っこ抜いた。そしてまとめて片手に持つ。
 「受け方、それじゃ痛いでしょ? まともじゃん」
 「はい。でも…」
 「しょうがないって? 別にいいんだけどね、俺なら痛いのヤだから避ける。受けにゃならんのなら『竹風』で受ける」
 「ちくふー?」
 「うん。まぁ、スウェーみたいなもん。風に靡く竹の如くに、って。打撃と同じ方向に同じ早さで動いて衝撃を後ろに逃がす。つまりね―」
 男が手にしたグローブを投げ上げた。―受ける。ぽすっと音がして、グローブは手に収まった。
 「これが普通の受け。で」
 言うや再びグローブを投げ上げた。今度は受ける瞬間に手を下に引く。そしてグローブは音もなく再び手の中へ入った。
 「これが竹風。要するにそゆこと。まぁもちろん一月で出来るようになるもんじゃないけど、そう言うもんもあるんだって知っといて。これを体全体で使えるようになれば、いくら喰らってもダメージは少ない」
 「はぁ…」
 衝撃を大きく吸収するとか後ろへ逃がすとかそう言うことなのは分かるが、もちろん神ならぬ身の葵にとっては、人間業には到底見えなかった。そう言うことをいとも事も無げに言ってのけるまで練習することが、つまりは「強くなる」と言うことなのだろうと思う。全く自信のなくなる話だ。
 「あと目線がだめ」
 「え?」
 また溜息をつきかけた葵が、その間もなく男の声にはっと顔を上げた。
 「何て習った?」
 「―――――」
 答えようとして、口籠もった。頭をフル回転して必死に記憶を掘り起こす。
 「……………」
 葵が何か言いたげにぱくぱくと口を開きかける。が、どうしても、そんなことを習った記憶は一向に思い出すことが出来なかった。
 「……………」
 気まずいような居心地の悪さが、辺りにぼんやりと漂い出す。
 「そっか、習ってないか…」
 まるで叱られでもしたかのようにどんどん小さくなっていく葵に、自分も気まずくなってきたのか男がたまらず声をかけた。
 「葵ちゃん、今ずっと俺の足見てたでしょ?」
 「はい。足を見ていないと間合いを詰めてくる瞬間を逃しちゃうから…」
 「…うん、まあそれは合ってる。でも確かに足を見てれば接近はいち早く分かるけど、分かるね?」
 男が、まるで宿題を教える親のように葵に微笑みかけた。
 「はい。そのせいで突きが見えませんでした。最初のは見えたんですけど、次の左が…」
 「うん。それが分かってれば上出来。じゃあ、どうすればいい?」
 「どう…ですか?」
 その言葉に、一瞬にして葵の目は困惑に支配され眉がハの字に下がった。そしてまた叱られた子犬のように小さくなる。
 どうしても答えが浮かばないのか、葵は次第にオロオロと落ち着きを失い、しかし男はそれでもじっと辛抱強く次の言葉を待っていた。 静かだった。境内には葉擦れの音だけが鳴っていた。そしていつまで待っても静かだった。
 男がたまりかねて葵に目をやった。その目に見事なまでの渦巻きがぐるぐる巻いていて、男は思わず苦笑した。
 「―そんなに難しく考えなくていいよ。簡単なこと。手を見てれば突きは見えるし、肘を見てれば肘打ちは見える」
 「それはそうですけど…」
 男の助け船に乗りようやく現実へと帰還を果たした葵だったが、その目に渦巻きは消えてもまだ困惑の色は消えていない。
 「うん。そしたら足技とか踏み込みとかは見えないね。でも、もし何でも出来るとしたらどうしたい?」
 「何でも、ですか…?」
 「うん。出来るかどうかはおいといて」
 ん…と、一瞬考える葵。何も出来ない自分を基準にしないのであれば―
 「両方見えれば…」
 「正解。そう、両方とも見る」
 えっ、と思わず声が零れ、葵は男の顔を見た。当たり前のことだが、人間の目は別々の物を同時に見ることは出来ない。カメレオンとは目の作りが違うのだ。
 「ちょっと構えてみて」
 男は本堂の階段にグローブを置き、葵から少し離れた。さっきと同じ位の間合いを空けて対峙する。
 言われるまま葵が構えた。空気に腰掛けるように自然に腰を落とし、踵を僅かに浮かせるように重心を前へ…。
 「じゃ、その視線のまま俺の後ろの景色を見て」
 「はい」
 素直にその言葉に従う。言葉の意味は分からなかったが、この人の言うことには何でも従うと決めていた。
 男の後ろにこんもりと繁る鎮守の森は、既に色付き始めていた。気の早い枝などはもう葉を落とし始めているほどだ。
 「ね、相手の全体が見えるでしょ?」
 「え?」
 突然の言葉に、思わず葵は男に目を移してしまった。掴みかけていた何かが、するりと指の間からすり抜けていく…。
 男が眉を顰(ひそ)めて苦笑した。
「―だめだめ。後ろの景色にピントを合わせたまま相手を見んの」
「え? あ、はい」
 慌てて葵はまた紅葉の森に視点を合わせた。
 ―あ…。
 男が歩いて近付いてくる。ピントが合っていないのではっきりとは見えないが、しかしその動作はしっかりと、十分に認識できる。
 男が手を突き出した。―見える。受け流す。右フック、左ボディ。
 「ね?」
 そして男にピントが合った。笑っているその目に、目を丸くした自分の顔が映っている。
 驚いた。ちょっと違和感はあるが、確かに上段中段の両方が同時に見えた。「しっかり相手を見て」とはよく言われていたが、こんな事は町道場では到底教えない。
 「それが『全体視』。それで間合いが詰まれば、その時は目線を相手の胸あたりに動かしてまた相手の全体を見ればいい。とにかく死角を作っちゃだめ。OK?」
 こくこくと葵は頷いた。もうそれしかできなかった。
 ―自分の中で革命的な成長が起こっている。今、まさに。それが自覚できる。
 もしもこの「目」を確実に自分のものに出来たなら…。いくら先輩の連続攻撃が速くとも、もう「目が着いていかない」と言うことはなくなるのだ。目を動かす必要はないのだから…。もちろん、体の動きが着いていくかはまた別の問題だが…。
 きっと、慣れるまでは大変だろう。人間の目は意識したものに焦点が合うように出来ている。それをコントロールしようと言うのだから…。しかし、そこから得られるものは計り知れないだろう。
 「―私、頑張ります!」
 「ん」
 男が笑う。とても満足げに。
 「じゃ、と言う訳で今日はこれでおしまい。今日はどうしたら俺に勝てるか、自分なりに考えとくこと。それが宿題。いい? どんな手を使ってもいいからさ」
 「はい!」
 迷いのない葵の声が、今日一番の元気を境内に響かせた。もちろん、その宿題はおよそ無理難題ではあったけれども…。
 ―楽しい。
 この人は、自分の知らない世界を知っている。それを、惜しげもなく自分なんかに教えてくれる。
 何者かは知らない。
 その技が人間業でないことももう知っている。それを学ぶことで、自分は「人間」から離れていくのかも知れないけれども…。
 でも、それでも構わなかった。
 楽しい。
 死神の弟子について、日一日と自分が変わっていくことが…。
 多分、それはとても恐ろしいことなのだろうけれど…。

   2

 「せーの」
 ガチャ…
 練習を終え、いつものように二人で抱きかかえるようにウォーターバッグをけやきの枝から外し、本堂へと運んだ。自分の体重くらいあるバッグを頭上のフックに掛けたり外したりするのは実は毎日死力を尽くす作業だったので、それだけでも手伝ってくれる人がいるのは助かる。何せ床置き型のバッグがあると知ったのは、これを買った後だったのだ。
 もちろん「格闘技同好会」に人が来てくれればそれで済んだことなのだが、わざわざ無様な姿を晒した自分に基礎から教えを受けようとする者などいなかった。逆に三人だった女子空手部は、今や部員二桁を数える程になっているらしい。もっとも、大半は「ミーハー坂下ファン」だと言うことだけれども…。
 「よっ!」
 殆ど独りの力で軽々とウォーターバッグを本堂の縁の下に放り込み、先生が顔にかかった前髪を掻きあげた。そしてお賽銭箱の前にいつものように座り込む。葵もいつものように、その一段下にちょんと座った。
 「さっきのカウンター狙いね…」
 いつものように男がそっぽを向いたまま話し出す。葵はお尻の向きを変えて、体ごとそちらを向いた。そして少し見上げる。
 「何もしないでただ待ってたらカウンター狙ってます、って言ってるようなもんだからさ、やっぱ少しくらいは牽制でも何でもしないとだめだよ」
 「はぁ、でも…」
 「そのために近付くのが怖いとかはまあ分かるけどね。でも、戦いは騙し合いだからさ。そりゃ…」
 男が顔を向けた。が、葵はじっと目を逸らさなかった。それは失礼だと思ったから。
 「…相手の攻撃の届く間合いに留まるのは怖いよ。迂闊に手も出せやしない」
 「そ、そうなんですか?」
 葵の柳の葉のような眉がぴくりと上がった。普段黒でいっぱいの目に、白い部分が広がる。
 意外だった。相手の間合いに「留まる」と言うことは、当然自分の間合いまで詰めていくことでもあるはずだろうに…。なのに、怖い?
 「うん、やっぱり怖い。相手の間合いの中って、つまり得体の知れない相手の領域の中だからね。出来れば長居はしたくないわね」
 「先生くらいの人でもそうなんですか?」
 「うん、そりゃそうだよ。自分の間合いで戦いたいのにレベルの違いはないよ。要は、いかに自分の間合いに持っていけるかって事」
 「……………」
 そりゃ楽したいもんよ、と先生は笑った。 
 ―つまり、上手い人というのは、そう言う技術に長けていると言うことなのだろう。言われてみれば当たり前の話だ。葵は、自分の言葉があまりに低次元なもののように思えてきて少し俯いた。
 不意にぼすん、と頭に手が乗った。顔を上げ、その手の主を見上げる。
 「そんな顔しない」
 そしてぐりぐりと葵の髪を混ぜ返す。
 「まぁ、それは結局実戦勘みたいなもんだからさ、経験を積めば自然に出来るようになるよ。でも、まずはそれもどうすれば自分が出来るようになるか考えること。それが大事」
 「はい!」
 「それと、あとフェイントに騙されないようにね」
 「え?」
 「さっきの初撃、右フック、あれフェイント」
 「ええっ!?」
 その言葉に思わず驚愕の声を上げる葵。
 フェイントと言えば「ねこだまし」のイメージがある。それが、あのガードを打ち砕かんばかりの一撃がフェイントだなんて…。
 「うん、フェイントだよ。日本語で言うところの虚打の右鉤拳。もちろんフェイントっても当たれば効くけどね、でも本命じゃない」
 「それじゃあ…」
 「いかにもフェイントフェイントじゃ騙せないでしょ? そうやって右上に相手の意識を向けておいて、んで左下から本命を打つ、と。そうでないと当たんないよ。わざわざフェイントと分かってて喰らってくれる奴なんかいない」
 「は、はぁ…」
 確かにそれはそうだが、確かに騙されて初撃を全力でガードしたが…。
 「戦いは理屈だよ。考えて、それを実行できるように練習する。ね?」
 「でも…」
 練習と口では言うのに、先生は一向に実戦に向けてのことを教えてくれない。もっと強力な技とかの練習をしないと先輩との差は開く一方なのに…。
 俯く。軽く唇を噛んで。
 「そのためには、まずは考えた通りに動いてくれる体が必要。基礎体力はまぁまぁあるみたいだから、あとは筋肉を付け換える」
 顔を上げる。大きな瞳の奥に黒い不安が広がっているのが見え隠れする。
 「心配すんな。汗の量は自分を裏切らないよ」
 その言葉に、葵ははっと目を瞠った。まるで砂漠で天啓を受けた聖者のように。
 そして葵は理解する。
 ―そうだ。
 自分には努力することしかない。
 迷いは―必要ない。
 他には何も持っていないのだから…。

   3

 着替えから戻ると、先生はまだ同じ場所で秋空を見上げ、鼻歌なぞを歌っていた。
 「―で、先輩てどんなひと?」
 唐突だった。視野の端に見えていたのか空気の動きを感じていたのか、葵が近付くや否や、男は待っていたかのようにその質問を投げかけた。
 少し面食らった様子だったが、でも葵は口元に笑みを浮かべて男に応じた。
 「坂下先輩ですか?」
 うん、と答える男に顔を向けたまま歩み寄り、葵も元いたポジションに腰を下ろした。誰がいるわけでもなかったが、スカートの中が見えないようにバッグを脚の上に抱く。
 「すごい人ですよー」
 そう言って葵も空を見上げた。高く澄んだ天蓋の碧に、白い鱗雲がふわりと浮かんでいた。遠く焦点した葵の目に、過ぎし日の時間がゆっくり流れていく。
 「小さな頃から全国大会の常連で、天才空手少女の名を欲しいままにしてた人なんです。成績も学年トップで文武両道。礼儀正しく責任感は強く、優しくて正義の塊みたいな人で…」
 「尊敬してるんだ」
 「はい! 先輩と綾香さんは私の誇りです!」
 向こうがどう思っているかはともかく、こっちが勝手に誇りに思うくらいは、あの二人なら大目に見てくれるだろう。でも―
 不意に、葵がしょんぼりと俯いた。
 「でも―私は先輩を裏切りました。あんなによくしてもらってたのに…」
 バッグを抱く腕に力がこもった。ぐっと唇を噛み、目の奥に熱いものがふくらんでくるのを堪える。
 「それは違う」
 不意の言葉に顔を上げた。光彩が潤んで不安定に揺れている。
 「他の流派を学ぶことは別に裏切りじゃない。強くなって、成長した自分を先輩に見てもらいな。それに―」
 合った視線のその先に、柔らかな表情があった。不安をかき消すような自信に満ちた穏やかさ。
 言葉は光だった。心に垂れ込めた暗雲を切り裂く確かな光―。
 「―葵ちゃんは強くなるよ。そう思ってる、マジで。先輩だって分かってたんだよ。だから、素質のある葵ちゃんを放したくなかったんだ。見込みがないのならとっくに放り出してるよ」
 「そんなこと…」
 ある訳ないと今までなら思っただろう。先輩の性格からして、単にどうしようもない自分を放り出すのが忍びなかっただけなのだ、と。
 しかし今は違う。
 これほどの実力を持った人がそう言ってくれるのだ。その言葉は、きっと信頼に足るものなのだろう。
 それに実際のところ、本当に男は葵の素質は感じていた。
 自分の動きに目は着いてきていた。体は何かをしようとしていた。―動体視力の良さと反応の速さ。それはなかなか訓練でも身に付かない貴重な「才能」といえた。もちろん、誉めてその気にさせるのはものを教える基本ではあるのだけれど…。
 葵が立ち上がり、男に正対する。
 「ありがとうございます」
 そして深々と頭を下げた。
 「先生のその言葉を信じて、これからも一生懸命頑張ります」
 「ん」
 男は満足そうに微笑み、葵に座るよう促した。結局、素直にせっせと練習する者が一番伸びるのだと男は知っている。「素直」は葵の素質の一つだ。
 「―まぁ、武術家にとって、絶対に越えられない壁が側にあるのは幸運なことだ。俺もバケモノじーさんがずっと側にいたから、驕ることなく精進できた。そんな先輩が二人もいるって事は、言ってみれば凄ぇラッキーなことなんだよ」
 「でも…」
 葵が薄く苦笑した。壁が壁と分からないほどに高いときは、どうしたらよいのだろう?
 「あのお二人を見ていると、生まれ持った才能の違いを凄く感じます。私なんかではとてもあんな…」
 葵は思わず言葉を切った。男の表情が変化し、向けられた視線が急に抜き放たれたように鋭くなっていた。
 「葵ちゃん分かってないよ」
 「え?」
 「才能は実力の器にすぎない。器の大きさとその中身の実力に関係はないんだ。努力しなければ天才だってただの人だよ。変わってくるのはその実力が「人間の限界」に達してからだ。天才はそこからまだ伸びる。器に空きがあるから努力の余地がまだあるんだな。でも、そのレベルまでいける奴は滅多にいないけど」
 葵の表情が衝撃に固まった。
 「才能は実力の器」だなんて、考えもつかなかった。才能は、持って生まれた不変のものだと思っていた。でも―その言葉その考え方は、自分の心に勇気を与えてくれる。
 「う〜ん…」
 と、葵の感動とは無関係に、脈絡なく男が口元に手を当てて唸りだした。
 「…どうかしましたか?」
 「うん。いやー、そこまで言う坂下先輩って一度見てみたいなー、と思って…」
 (ああ、それなら道場の場所を…)
 パンッ!
 びくっ!
 突然、何か閃いたのか男が手を打った。
 言いかけた葵は、びっくりしてそのまま言葉を出すタイミングを失った。
 「そうだ! ちょうどいい。葵ちゃん、手紙書いてよ」
 「え?」
 驚いた猫みたいに目をまん丸にしたまま固まっていた葵は、はっと我に返って男に疑問の目を向けた。
 「―挑戦状だよ。果たし状か。坂下先輩に再戦を申し込むためのさ」
 そうだった。
 特に考えてはいなかったが、再戦のことは勝手にこっちが考えているだけで、先輩はまだ知らないのだ。確かにやるのなら早く申し入れた方がいい。しかし挑戦状とは…。ましてや果たし状なんて!
 「何か持ってない?」
この人は、黙っているとどんどん話を進めていく。どうも、自分のペースとは合わないみたいだ。
 「あ、はい。ありますあります」
 慌てて学生カバンを開く葵。中を探り、かわいいピンクのレターセットを掘り出した。
 「何故レターセット…」
 「え? みんな持ってますよ。授業中とかに友達に手紙出すんです」
 「………あそ。ま、いいや。とりあえず書いて」
 ジョシコウセイの考えることを理解しようとするのが土台無理なのだ。生物種が違うのだからと、男は無理矢理自分を納得させた。
 「え…と、何てですか?」
 「何でもいいよ。この間は負けたけど、今度は絶対勝つから特訓の成果を見て欲しい。ついてはいついつに同じ場所で再戦する事を申し入れたく云々、とか」
 カバンを下敷きにして、葵が便箋に丸っこい文字をちまちまと埋めている。どうも、今言ったことを殆どそのまま書いているようだった。素直と馬鹿はとても似ていると男は思った。
 「―10月11日松原葵、と。出来ました、先生」
 「ん、じゃあ封筒入れてこっちちょうだい」
 「あ、はい」
 葵が封筒の表に「坂下先輩へ」と書き込んでいる。「坂下何某(なにがし)様」と書くのが筋だと思ったが、その方がらしくていいかと思い直して口出しするのをやめた。
 便箋を中に入れ、ぺたりとお花のシールで封をする。
 「はい、これでいいですか?」
 宛名をこちらへ向け、葵は封筒を差し出した。「上等」と男がそれを受け取る。
 しかしその封筒を見るや、男は少し眉を顰(ひそ)めて苦笑した。
 「―どうしました?」
 「あ、いや、別に」
 これを渡されたら普通はラブレターだと思うだろうなと思って男はちょっとなんだかなな気分になったが、しかしすぐに持ち直した。
 「うし!」
 男が立ち上がった。
 「じゃ、これ先輩に渡しとくわ」
 「え? 先生がですか?」
 「うん。ついでに先輩見てくる」
 「……………」
 葵は、男のその嬉しそうな表情に、一抹の不安を感じずにはいられなかった

   4

 学校をぐるりと囲む道路一つを隔てたフェンスに寄りかかり、男は葵から得た情報通りにその一団がやってくるのを、ぼーっと待っていた。位置的には学校の裏手だったが、授業を終えた生徒たちが、思ったより歩いている。
 そんな疎らな人波を眺めながら、人目があるのは嫌だなぁとか考えていた。と、道路の彼方から、微かな足音が低く響いてきた。男が音の方に注意を向ける。
 ―したっ、したっ、したっ、したっ…
 ?
 あまり普通には聞けない足音だった。しかし、すぐにその音は男の記憶と合致した。 
 ―今時裸足で走っとるんかい!
 男が独りでツッコんだ頃、赤い制服の女生徒たちが、順々に道を空けていくのが見えた。まるで中央突破だと男は思った。
 ―さて、いよいよ御登場かな?
 そして、白い胴着を着た一団が息を弾ませ、何の記録を狙っているのか凄いスピードで走ってきた。これが空手部のランニングなら、陸上部員は大変だ。
 ―ん?
 しかし、走ってきたのは三人だった。葵情報では急に女子部員が増えて十七、八人になったという事だったが…。もう辞めてしまったのだろうか?
 疑問は多々あったが、恐らくあの先頭の人が坂下先輩に違いないと、男は思った。―黒帯を締めた着晒しの空手着、ベリーショートの黒髪、お侍のような雰囲気。葵の言っていた全てが、その人物に当てはまった。
 「―男前だなー」
 男が思わず呟いた。
 目元涼しく、細くて背も高い。かく汗まで爽やかだ。男でもこんな「美青年」はなかなかいない。
 フェンスを離れ、男が二歩三歩と前へ進み出た。そして道の中央で立ち止まり、左へ向き直る。
 はっ、はっ、はっ、と規則的な息遣いが、男の側を通り過ぎる―
 「坂下先輩で」
 後ろに向かって、男が声を張った。途端に全ての足音が止む。
 「そうですが―」
 その声に含まれる、明らかな怪訝の響き。
 振り返った。肩で息をして滝のように汗を流すお供の二人に対して、坂下先輩は全く呼吸の一つも乱れていなかった。
 「―何か御用でしょうか?」
 限りなく模範的な受け答え。一流企業の受付に置いておいても恥ずかしくないくらいの…。
 「これを―」
男が、手に持っていたピンクの封筒を差し出した。しかし坂下先輩はその封筒を一瞥すると、全く取り乱す様子もなく冷静にこちらに手の平を向けた。
 「すみません。そう言うのは受け取れませんので。失礼します―」
 「待った」
 ランニングに戻るべくさっさと背を向けかけた坂下を、男は素早く呼び止めた。
 ―恐れていた通りだった。やはり勘違いしているのだろう。しかし律儀な性格なのか、呼び止められた坂下は再び男に向き直った。本人はとても迷惑そうな顔をしていたが、休めるお供の二人は「地獄に仏」みたいな顔で男を見ている。
 「差出人は俺じゃない、葵ちゃんだ」
 「葵?」
 眉間に皺を寄せ、坂下は男の差し出す封筒に目を落とした。
 「見てやってくれ。それが、今のあの子の気持ちだ」
 限りなく胡散臭げな目を何度も男とその手元の封筒に向け、そして僅かな沈黙の後、それを受け取った。
 宛名を確認し、裏を返して差出人を確認。そしてビリビリと無造作に封を切った。シールを剥がせばいいのにわざわざ封筒を破るあたりが体育会系だと男は思った。
 封筒から便箋を取り出し、広げる。そう言う顰眉(ひんび)すべき内容なのかただ単に丸文字が読みにくいのか、坂下は何度も眉間に皺を寄せて、じっとピンクの紙を見つめていた。
 何度も読み返しているのだろう。大して長くもないはずの文章に、随分長くかかっている。
 と、不意に坂下が顔を上げた。
 「―それで?」
 そう言うと思っていた。頭のいい人間なら、こういう場合はまず相手の様子を見るだろう。
 「返答は?」
 「お断りします」
 そうあっさり答えると、坂下は便箋を再び折り畳んで封筒へと戻した。そして男へと突き返す。拒絶の意志を込めて。
 「そもそも他流試合は道場で禁じられていますし、先週のアレは例外中の例外です。もう二度とやる気はありません。では練習の途中ですので―」
 「逃げんのか?」
 背を向けかけた坂下が、その言葉にぴたりと動きを止めた。
 「あの子には今、俺が稽古を付けている。あんたも気付いてるんだろう? あの子には素質がある。間違いなく強くなるぞ」
 ゆっくりと、坂下が振り向いた。イライラと逆立てた感情を必死で押し殺しているのが、手に取るように分かる。
 「空手なんぞじゃ勝てやしない。ましてや、他のもののよい所にすら目を向けようとしないあんたじゃあな。万年二位がお似合いだ!」
 ギッ…と坂下の口の中で歯が軋(きし)る音がした。いい所を突いたと、男が腹の中でほくそ笑む。
 「あの子は一番強くなるんだ。あんたみたいに二番じゃなくな!」
 「くっ…」
 坂下の全身が硬く緊張してくるのが分かる。筋肉が臨戦態勢を取り始めているのだ。もう一押し。
 男が、笑った。
 「あの子は強くなるよ、あんたじゃ到底勝てない。無論…俺にもかなわない」
 絶対の自信に裏打ちされた不敵な笑み。嘲りと侮りを、突き刺すように坂下に浴びせてくる…。
 カーッと坂下の顔が赤くなった。目が血走り、全身が細かな震えに揺れる。
 「怖いんならやめちまいな! 二番なんて所詮そんなもんだろうさっ!!」
 「なっ!」
 瞬間、遂に坂下の体を怒りが突き抜けた。そして弾かれたように飛び出す。
 「言わせておけばっ!」
 「先輩っ、だめです!」
 しかしお供の制止を振り切り、坂下は一気に最短距離で間合いを詰めた。そして電光石火の右正拳を―
 カシィッ!
 乾いた音がして、一瞬で男と坂下の位置が入れ替わった。男が防御し、坂下はそのまま突き抜けたのだ。そして正対。
 「えっ…?」
 お供の二人は、何が起こったのか分からずただ目を白黒させている。
 (迅えなー、びーっくり)
 思った以上に速かった。右正拳の後にきっちり左下段蹴りを出して、後ろ向きに下がっていった。
 大した腕だった。しかし、純空手の弱点はしっかり身に付いてしまっているようだった。
 男が笑った。
 久しぶりにレベルの高い勝負が出来て嬉しかったのだが、しかし坂下は、その吊り上がる口端の意味をそうは捉えなかった。
 突然、バッと右足を上げた。男の下腹めがけて切り裂くような前蹴りを出す。そして着地と同時に左右のコンビネーションを―
 (えっ―?)
 何かが起こった。
 右正拳の下に滑るように潜り込み、男は坂下の体に肉薄していた。
 (そんな…あの連撃をかわしてその上懐に…!)
 時間がスローモーションで流れるような錯覚。極限の攻防の最中でしか知り得ない、選ばれし者の時間―。
 男が顔を上げた。そして―笑った。
 ゾッと、坂下の背筋を戦慄が駆け抜けた。
 死神を見たと思った。
 無慈悲で、冷酷で、凍えるような紫の炎が、その瞳の奥にチロチロと踊っていた。
 ドッ!
 そして坂下は地面に強(したた)かに叩き付けられた。帯を掴み、足を掛けて真横に倒されたのだ。
 突きを出して開いた坂下の体はものの見事に受け身なしで倒れ、アスファルトでワンバウンドした。
 「ぐ…!」
 「先輩っ!!」
 大慌てで坂下に駆け寄るお供たち。―何が起こったのかよく分からなかった。先輩が左右の連突きを出した瞬間、どうなったのか「大外刈り」風に先輩の体は地面に投げ倒されていたのだ。
 「うぅ…」
 よくは分からない。しかし事実として先輩は地面に這い、顔に擦り傷を作って血を滲ませている。
 男が歩み寄る。
 坂下はまだ立ち上がれない。
 と、毅然とお供の一人が立ち上がり、尊敬する先輩をお守りするように男との間に立ちはだかった。
 「やめとけ。お前は先輩より強いか?」
 「う…」
 思わずお供が絶句した。黒帯を締めているとは言え、自分には「実戦経験」はない。しかしそんなことを言われても、今更どくわけにもいかない。
 「……………」
 お供が窮していると、男はお供を無視してやっと人の手を借りず起きあがろうとする坂下に声を掛けた。
 「あんたくらいの腕なら、今俺が追い打ちにいけたことも、まっすぐ頭から落とせたことも分かってるだろう?」
 キッと坂下が男を睨み付けた。敗北を認めた悔しさがその目にはあったが、しかしまだ戦う光は失っていなかった。その潔さはむしろ気持ちがいい。
 実際、倒れたところに追い打ちにもいけたし蹲(うずくま)った自分の体を支点にして、「大外刈り」ではなく「背負い投げ」風に大きく跳ね上げて頭から落とすことも出来た。
 しかし男はそれをしなかった。するのは…自分じゃない。もっとも、こんな所で〈奈落〉を使う気もなかったが…。
 ふと気付くと、何の騒ぎかと辺りに人が集まり出した。そして、あの坂下好恵が地を食(は)んでいると知ってざわめき始める。
 「ヤバいな…」
 生徒同士の喧嘩ならまだしも、自分は在校生ではなく部外者だ。自分はともかく、葵の再戦に影響が出るのはマズイ。
 「オイ、後輩!」
 「は、はいっ!」
 上から呼ばれるのに慣れているのか、自分に立ちはだかったお供の後輩は、思いの外素直に返事をした。
 「ここで先輩と二対一で練習してたことにしろ、いいな。これは練習中のちょっとした怪我だ。でないとお前らも停学喰らうぞ!」
 「は、はいっ。分かりましたっ」
 あっさり後輩は返事をした。体育会系は扱いやすくて助かる。
 「よし! ―じゃあ坂下さん!」
 憎(にっく)き仇に声を掛けられ、坂下の目に鋭さが増した。今にも飛び掛からんとする猛獣のようだ。
 「返事は葵ちゃんに直接してやってくれ。まさか今更やらないとは思ってないけど、そちらの都合のいい日時と場所を。試合は公開でもいいし非公開でもいい。頼むよ」
 「……………」
 沈黙を了承と捉え、男は頷いた。坂下の目にその意志はなかったが、どのみち「やむなし」と思っているのは明白だった。
 「うし。じゃあな後輩たち、後のこと頼んだぞ」
 それだけ言い残すと、男はひらりと身を翻(ひるがえ)して人混みに突入し、あっという間に姿を消してしまった。
 それと殆ど入れ替わるように、体育教師がやってきた。
 「何の騒ぎだこれはっ! 一体どういう―」
 間一髪だった。
 後輩たちは男に言われたまま、体育教師に事情の説明を始めた。


 次の日―。
 緑葉高校では、坂下好恵の頬に貼られたバンソーコーの話題で持ち切りだった。
 本人はもちろん何も語らずただ一日中ムスッとしているだけだったし、空手部の女子二人を捕まえても「練習中の怪我」としか言おうとしなかった。
 もっとも本人たちが語らずとも、謎の人物に坂下が敗れたというのがもっぱらの噂だったが…。しかしその噂を無闇に口にするのは、手負いの坂下を相手にするのと同じくらいに恐ろしいことだった。
 けれども人の口に戸は立てられないもので、その噂はすぐに他の学年にまで行き渡った。本人がどう思っているかはともかく、坂下好恵は有名人なのだ。
 そして松原葵は、1Cの教室で独り頭を抱えていた。 
 ―ああ、やっぱりですぅ…。
 昨日、男は神社に姿を現さなかった。それにあの坂下先輩を見に行くと言った時のワクワクするような目…。アレは綾香さんが「手強い相手と戦う」前に見せるのと同じ目だった。
 ―そんな、わざわざ先輩怒らせるようなことしないで下さいよお…。それに…
 それに坂下先輩は自分でバンソーコーを貼るような人じゃない。大方の怪我は自然治癒に任せる人なのだ。と言うことは……。
 嵐の予感がする。