卵の秘密


複数の卵を産む鳥は、最後の卵を産み終わるまで抱卵を開始しないことが多く、
先に産んだ卵は暖められることもなく、ほとんど放置されていることになります。
これは、雛たちが孵化する日をできるだけ同じにするための知恵なのですが、
卵って死んでしまったり、腐ってしまう心配はないのでしょうか。

ニワトリの卵を念頭におきながら、卵の秘密をちょっとだけ考えてみましょうね。

腐らないわけは卵が生きているからなのですが、
その卵を守るために、卵には・・・

【その1】:卵のカラの表面にはバリアが張ってある
産卵する時に卵のカラの表面にバリアが張られるのです。
産まれた直後の卵は触るとベトベトしていて濡れて光っています。
これは産卵するときに卵管内で出る粘液です。
これがカラの表面を覆うクチクラ(キューティクル)というバリアなのです。
卵は生きていて、気孔という小さな穴で呼吸をしているのですが、
このクチクラが、気孔から卵内部へ微生物や細菌、ウィルスが侵入することを防いでいるのです。

【その2】:卵白に抗菌物質が含まれている
卵白にはリゾチームという抗菌、抗ウィルス作用、免疫を高める作用のある天然酵素が含まれています。
風邪薬で「塩化リゾチーム配合」って聞いたことありませんか?
この卵白に含まれるリゾチームを利用して各種の医薬品が作られているのです。
卵白中のリゾチームは、卵の細胞分裂が始まると分解されてしまいますが、
卵の細胞分裂が始まらなければ、室温で数ヶ月卵を放置してもその効力が残っているそうです。

【その3】:卵黄にもバリアがある
卵黄にも卵黄膜というバリアがあります。

以上のような仕組みで、卵は細菌やウィルスからガッチリ守られているので、
痛んで死んでしまうこともなく、細胞が生きているので腐りにくいというわけですね。

付け加えますと

有精卵は抱卵をしなくても温度が高いと細胞分裂を起こしやすいので、
その場合はリゾチームが分解されて効力がなくなるため、夏場には腐敗しやすいことになります。
雛が正常に育っている場合は別です。

生卵よりもゆで卵の方が腐りやすいことになります。
これは、細胞が死んでいるからなのですね。

【クチクラ層について】
クチクラは表面を保護する役割として、いろいろな生物に見られるものです。

クチクラはCuticleキューティクルとも呼ばれて、哺乳類の毛の表面に存在し毛の艶はこのクチクラによるものです。
また、カブトムシなどの甲類の昆虫の羽根の表面や、椿のようなツヤのある植物の葉の表面にも多くあるのです。

卵の表面のクチクラは水で簡単に取れてしまうのですが、卵の表面には雑菌が付着していることから
売られている鶏卵の多くは出荷前に洗浄されているので、クチクラ層も洗い流されています。
そういう意味では、細菌に対して無防備な状態となっているわけですので、
買ってきた卵は冷蔵庫に保管したほうが良いことになります。

新鮮な卵は表面がザラザラしている、と聞いたことはありませんか。
クチクラは乾くとザラザラした感じになるのですが、
古くなってクチクラがはがれてしまったり、洗浄によって水に溶けてしまったりすると
卵の表面はツルツルになります。

【卵の色について】
鶏の卵の色は、白色、褐色(濃いものから薄いものまで)があります。
この色のもととなるものは産卵直前に分泌されるポルフィリンという色素なのですが、
このポルフィリンは、血液の赤血球の中にあるヘモグロビンを構成している物質で、
卵のカラの外表面とクチクラを着色します。
着色は卵の表面だけですので、カラを割ってみると内側は白いのです。

このポルフィリンは内部の卵自体には関係ないわけですので、
「赤い卵の方が栄養価が高い」というようなことはありません。

また、茶色い鶏は茶色の卵、白い鶏は白い卵を産むような印象がありますが、
卵のカラの色と鶏の羽の色とは無関係なのです。
実際、我が家の真っ白な烏骨鶏が産む卵は薄い褐色をしています。

ツバメやその他の鳥の卵の模様を形成するのもこのポルフィリンなのですが、
『卵殻質としての卵殻強度は、褐色卵が少しまさる。
特に、内容が漏れ出るような破卵の発生率が低い。』

との記述があり、また、野鳥の卵の模様について、
『卵の模様というとカモフラージュ機能を思い浮かべますが、
それ以外にも卵の殻を丈夫にする機能も重要なのではないか』

という論文がに発表(バーダー2006年11月)されたとのことで、
ポルフィリンは卵のカラの強度を増す役目も果たしているのではないかと思われるのです。

また、卵の色は鶏が年を取るとともに退色し、飼料や体調によっても影響されるとのことです。

ところで、青い色の卵もあるのです。
南米チリ原産のアローカナという鶏が産む卵は薄い青色をしています。
しかし、この青色はポルフィリンとは違って、胆汁の色素であるビリベルジンと言われるもので、
卵の表面だけでなくカラそのものが青色をしているとのことです。


【卵の取り扱いについて】
卵を保管するときは、たまごの丸い方を上に、尖ったほうを下にします。
尖ったほうを下にして保管する理由は、卵黄がカラに接触すると外部からの細菌等の影響を受けやすくなるからです。
卵黄は日にちが経つにつれて上に上がってくるのですが、丸い方には気室があり、
卵黄がカラに触れずにすむわけです。

また、卵は生きていて呼吸をしていますが、この呼吸をする気孔から冷蔵庫内の匂いを吸収しやすいので、
強い匂いのするものをそばに置かないなどを考慮して保管すると良いですね。

買ってきた卵を家庭で洗う場合は、食べる直前であれば問題はないと思うのですが、
洗うことによって、水と一緒に気孔から細菌類が入り込むこともあるので止めた方が良いのです。

また、一旦、冷蔵庫で冷えた卵を常温に出しておくと、卵の表面に結露して、やはり同じ理由で
雑菌が入り込みやすくなるので気を付けなければません。
洗浄していないクチクラ層の付いたままの卵も、冷蔵庫で冷やしたあとに常温に出すと結露して、
クチクラが溶け出し、雑菌で汚染されやすくなるので注意しましょう。
溶けると触った手がベトベトするので分かります。
いずれにしても、卵を汚染から守るためには、一旦冷蔵保存した卵については必要量だけ取り出して使用し、
卵に温度変化を与えないようにすることが大事なこととなります。

また、卵は腐りにくい食材ですが、サルモネラ菌による食中毒を防止するためには、
各家庭での適切な取り扱いが大事です。
外からの汚染だけでなく、近年では産卵した時点ですでに内部がサルモネラに汚染されている場合もあり
賞味期限をしっかり守って、割った後はすぐに食べるようにしましょう。
そして、ひびの入った卵は、そこから雑菌が入るので、できるだけ早く調理して食べてしまいましょう。


(以上 2007年5月23日記)
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