読っきったミユタン第9章「よかん」



にぎりしめたつり革。湿り。
自分の肉体から浮かび上がる蒸気。
ミユタンの通学途中の電車の中である。
すこし息苦しい8時。混んではいないのだ
が緊張しているのだ。「誰も見ている
訳でもない!落ちつけ!落ちつけぇ〜!」
と自分に言い聞かせても、たまに向かいの
乗客と目が合ったりするとその論は、
崩れ落ちるのであった。意外と他人は
見ているものである。

今朝、用意で忙しくもあったが天気予報を見ていて
日中の最高気温は39℃にまで跳ね上がりを
見せるようである。電車の車両を出た瞬間
、そのきざしを感じさせた。
暑いのである。
眼球をしめつけられた感覚を覚えた。あ!瞳孔が
開いた!そしてミユタンは、いがみながら駅の改札を出、
校舎へと小走りで向かったのであった。

29℃。
ようやく正門の前に差し掛かると、同じように
少しラフなファッションで、靴はいまはやりのを
はいた男子も急ぎ足であった。
そう「恋」である。整髪もきっちりとされていて、
少しこぎれいな方であった。いわゆる「好青年」
とでも言えようか、感じの良い青年であった。
いわゆる「タイプ」だったのである。
ミユタンは、その男子を追いかけることなく
とぼとぼとしたペースで逆に避けるかのように
自分の教室へと向かった。

メガネをかけ、いかにも「自分はえらいんだ」的な
中年男の講義を聞くことなく、ミユタンは妄想の
世界へと入っていった。もちろん今朝の男子の事が
主(おも)である。

***(C.Effect)

日曜日、しかもかなり良い天気。
暑くもなく、寒くもない。ちょうど良い温度。
どちらかといったら、暖かい、そしてたまに
涼しい風が吹いていてそれは、心地よい。
そんな気候のもと、ミユタンとその男子は、
ピクニックなる若者や老人、そして皆が好む
アクティビティへと走り出す。とても外交的。
そしてお互いは、笑みだらけ。
常に、爆笑まで行かず、ウソ笑いでもなく、
その中間の中途半端で意味のない笑いをキープしている。
そんなに楽しくはない。

人がおる。隣に人がおる的な「ゴッ!」とした存在感を
ミユタンは感じていた。

いつものように、何ら変わりばえもなく
時がすぎ、いわゆる「帰宅」時間になった。
帰路途中もその「男子」のことで頭がいっぱいに
なっていった。前を通りすぎるCoupleらを
見るなり急に目が泳ぎ出したり、
デパートの横に配置された流行りもん男女ポスターを
チラチラいわゆる「Chiramy」を何度となく
繰り返していた。

Yeah, It's my home...
いやらしい外人特有の鼻声発音で帰宅。
さっそく夕食の準備である。
宿題はあとまわしなのが、なんと「ミユタン」流
なのであった。そして作り始めたのが
イタリアの春のささやき「カルボナーラ」
であった。以前から何度か作っていたので
失敗もせずきれいな「カルボナーラ」が
完成した。

こんもり乗りな「カルボナーラ」を目の前にし、
ミユタンはいつもかかさず見ているお気に入りの
番組にスイッチをまわした。いつも
笑いをさそう番組でミユタンは、かかさず
見ているのである。
面白げなシーンである。
だのに、ミユタンはなぜか笑えない
のであった。そう心の8割をしめているのは
今朝の「男子」事であった。
自分の笑いがきびしくなったのか、それとも
番組の質の低下が影響しているのかと
一問一答していったが、すべて違っていた。
すべての原因はその「胸キュン」であった。
そう胸キュン刑事(デカ)である。

そして何をしても楽しくない時間が
やってきたので、ミユタンはさっそく
薄汚いほこり高き畳エリア(51)にせんべい布団を
貧弱に敷き始め寝る事にした。
豆電球もOff!にして横になる事25分。
今までのおセンチなアワーも全てなくなり
だらしのない顔で睡眠の深い湖の底へと
沈んでいった....
2時AM。良い風が来る6月の夜中であった…


読っきったミユタン第9章〜「よかん」から完全抜粋。
現在、宋朝社出版、婦人雑誌「もろ刃」より
好評連載中。 定価600円 

c + p 2001 Kenichi Waga
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