読じ登る「ミユタン」第8章〜アパート暮らし 作:Kenichi
Waga
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蜩。ひぐらしである。対して
気分は良いものではない。
つちかった殿様気分で新しい一歩。
つまりアパート。そう。このオオビリング寮
とも今日でサラバだ。
そう考えたミユタンは一言ぽつり
「あたしには引越しが必要」と
影でにらみをきかせていた。
そう思い立ったミユタンはまるで
これから初めてヒトデを見た少年の
ような顔で、自室を出た。
* * *
小さな小さな路地をゆっくりとした
足でしかもどっしりとミユタンは
角を曲がり、目も泳がせ「初」を
堪能していた。
不動産屋のドアの前に立った。
真鯛のような匂いのする看板には「やまもと不動産」と
丁寧な字で書かれていた。全ては何かが
始まろうとしている感が目と頬の間を冷たく流れた。
「すみません」
すこし震えもしたが、
明るいし普遍な印象を与える事が出来て
すこやかな自分を感じた。
健康である。
古ぼけたデスクに座っていた、
王子様のような老人がこちらを
見つめてきた。
「用はあるのか?」
老人は、そういっては、中に入って座るように
うながしてくれた。
そそくさとちいさなお椀に注がれた
ウーロン茶。みた事も無い色のおせんべい。
そして納豆も単品として出てきた。
思ったより親切そうなその老人に
ミユタンは少し戸惑い、ちょっぴり
楽しかった。
そんなこんなしているうちに時がたつのも
すっかり忘れてしまい、良かった。
力の無い女、もう一歩でやるせない老女の話し。
地球のお城話など盛り&だくさん。
気がつけば4時。おじいさんともなんなく
お別れをして、帰路についた。
あたりいちめん緑の光線がミユタンを
照らした。とても好きだった。
ミユタン寮部屋に入る。ドアを開けると窓から
オレンジと赤の色光線と、丸い物体が
ミユタン家具をてらてらさせていた。
秘密めいた部屋をかき分けるようにして
入った。ピピピと音がなる留守番電話には
メッセージが入っていた。2件も入っている。
1件目はたちの悪い無言電話。ばかたれが。
2件目にはなんとさきほど談話していた老人
からであった。水色のボタンをポッチト押すと
かぼそい声で「楽しかった。またきてぇ」
と本当に小さく、高い音域で流れた。
また行こうと思ったミユタンであった。
ほんのりゆらいだ時間をしっかりと味わった
ミユタンは、郵便受けチェックをしにいった。
小包がポストに無理無理これまた不可能感漂う
入れ方であった。母からであった。郵便局で押される
はんこがなかったので、母が直接入れに
来たのだろう。YOREYOREで、しかも穴も開いている
その小包の箱をそっとはさみで開いて見ると、
いろいろなものが入っていて、ミユタンはすこし
うれしかったし、ほろ来た。お茶、きゅうり、
なす、じゃがいも、ラーメンなどいろいろその
箱には入っていた。ミユタンは夕方、夜になって、
少しお腹がすいていたので、ラーメン用のお湯を
沸かした。ラーメンはまるでベビースターラーメン
のようにちいさくこれまた細かくなっていたが、
ミユタンは、叙情感を噛みちぎった。
安堵されたゆるやかな夕日光線がミユタンのこめかみを
ざっくし刺していた。
読じ登る太陽光線「ミユタン」第8章〜アパート暮らし
税込み230円 出版:さほやま出版>移籍しました。
(C)2000 Kenichi Waga、Licensed By Kentan Records Japan
無断転写、複製、商品化は
きみのおじいちゃんも知っていたよ
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