novel.3
読めた「ミユタン」第3章
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ちいさく押し込んだその座布団を差し出すと
その女性は本当にちいさくちいさくお辞儀をした。
見違えるように彼女はすこし笑って見せた。
ミユタンは、この場の雰囲気を少しでも盛り上げたかったのか
、まだダンボール、缶詰などの私物たちが散乱していた中から
急いだ様子で、きゅうすと二つの湯のみを取り出した。
まさにそれは、老女のうしろ姿のようにも見えたような感じ
がした。
ミユタンは、なんなくお茶を彼女に
差し向け、泣いた妖精のような口調で
ミユタンは「どうぞ」とつぶやいた。
しかし、彼女は一向にその湯のみに手を触れようとせず、
酸味の効いたマシュマロだけをほおばっていた。
石畳の桜。はるかなる空気。さしせまった温度。
これらが二人を取り囲んでいた。そうすると、
彼女のうちポケットから、真っ白な名刺をミユタンに
さし出した。ミユタンのその時の表情はもうお煮しめの中の人参
のように見えた…。
3日後。
まるで外はこれからスイカでもたべようかといわんばかりの
暑さ。猛暑の手前、見えなかった世界を心から
堪能しようと決断したミユタンは地をしっかりと
踏みつけていた。 まったくもって緊迫とした表情で
「猛烈」ということばが一番似合うファッション
であった。いわゆるちまたで言う「アルバイト」である。
向かう先には、どろどろの底無し沼ともいわれぬ恐怖
がミユタンの喉ぼとけをアタックしていた。
「あのう」そう不変的な単語を口にしたとたん
ミユタンの心の中のみずすましはいったん遠くへと
飛ばされたようだった、しかし、きどり髭をはやす
その店員の口から「きみだね」という声が聞こえるまでは
安心は出来なかった。いわゆる喫茶店である。
客は午前中は3人。午後には4人といった感じであった。
そのいつもだれかににらまれているのではとおびえてならない
その店員は、ミユタンに「一部始終」すべての
事柄、法則、成り立ち、方法、そしてそれにまつわる結果
等を丁寧にひとつひとつ教えた。
午後からは、その店員は外にでていて、ミユタンが
店番として任せられる事になった。みずくさそうに帰る客。
年よりの客。不倫に憧れを抱いていそうなめがねをかけた
45歳強の客。女客。いろいろだ。知っていそうで知らない
何かを顔面すべてを使って吸収しているように感じた。
午後4時半。ちいさな小窓から一線の夕日からもれた
光が手前のカウンターにレトロ感あふれたように
当たっていた。最後の客。慣れ感と気取り感が
漂うその指で釣りを渡す。真面目だ。どちらかといったら
真面目だ。閉店。みつかったらやばい的に店ののれん
を早々と下げ、明かりを消した。 店のシャッター
を閉め、帰路であった。あたりには、家庭的な
香り。ミユタンの新鮮心。夕日。若さもある。
読めた「ミユタン」第3章〜友情。夕日。アルバイト
次回予告 読みたい「ミユタン」第4章〜母の突然訪問 掲載予定。
税込み850円。sha社から発売中。
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