蔦きうい パーソング歌集

 

パーソング第一番 休日のキューティーハニー

 

休日のキューティーハニーが縁側で戦闘服をつくろう猫と

 

甘夏のにおう茶室にしゞまあり老子が妻とオセロ終日(ひねもす)

 

豆腐かう帰りにジョージ・ハリスンが大艦隊を仰ぐゆうぐれ

 

どてら着のジェームズ・ボンドが障子越し雪のあかりでひもとくひみつ

 

金星にダリがあがなうコロニアル風の邸宅かえる(かりがね)

 

いくつもの橋をわたって啄木がみしらぬくにのあのたまご屋へ

 

風邪ひきの紫式部が雪の日の待合室でめくる「non・no」を

 

春泥はゆるり地平へ国境でリンゴ飴売る中村主水(もんど)

 

雪ふかき武生にアンが発注するマリラのための紅い眼鏡を

 

休日のキューティーハニーがおとうとに腰をもませる「笑点」見つつ

 

パーソング第二番 竹やぶのゴルバチョフ邸

 

菜の花をうどんにのせて竹やぶのなかゴルバチョフ邸に配達

 

井戸端でキューティーハニーがご近所にお裾分けする蕗味噌の出来

 

肺病みの荷風が女と別れぎわ採った土筆を玉子でとじる

 

格さんが華道の師匠に路地うらでわたすホワイトデイのわたあめ

 

道元が雲水たちに吹聴する木屋町三条くだるジャズカフェ

 

紅サンゴ蘇我馬子がふところに飛鳥豊浦ゆきの聖夜を

 

湯上りのモモレンジャーがあきらめた恋を茶の間で万華鏡へと

 

救われた白雪姫が閨房でとまどう王子さまの熱愛

 

漱石が片手で経営する私立中学校訓「努力厳禁!」

 

里へかえり酢豚のうまさに驚いたダルマが修行をくやむ半生

 

パーソング第三番 アンヌが肉屋で

 

傷ついたモロボシ・ダンの昼飯にアンヌが肉屋で買うメンチカツ

 

プラトンが塩ジャケ焼くたび憂いますしずく景徳鎮(チントーチェン)の青磁は

 

横丁の湯川秀樹が煙草屋で少年ジャンプを買った空梅雨

 

サルトルが学園祭で女生徒に貰う缶コーヒーの飲みさし

 

測量師Kが城下にだすカフェのランチ赤蕪スープ はつ雪

 

空海がワインを味見する午後のラ・トゥール・ダ・ルジャン路地うつ時雨

 

アシモフが屋台でつくねかじりつつ見上げる人の行末の空

 

立たされた春の廊下でエジソンがえがく九龍(カオルン)駅の設計

 

ゼラニウム咲く中庭で読む『風とともに去りぬ』をパブロ・ピカソは

 

宝石を駅に託して火山ゆき最終バスに乗りこむ乱歩

 

 

パーソング第四番 李白が夜汽車で

 

徒然に李白が夜汽車で読む本はガリバー旅行記 胡国春日

 

ユトリロがシカゴのバーでおとうとの彼女とランデブーする雪夜

 

マルクスが休暇のたびに別荘で卵リゾット きたれ初恋

 

西鶴が村のはずれの沼べりでサキ読むゆうべ夏はどこかへ

 

マラッカに雨ふりつもる昔より腕が伸びきてモームの肩もむ

 

恋すてた式子が河口で南海へ飛び去るプテラノドンを見ていた

 

あけがたの火鉢に炭を転がしてバス待つ清少納言のこいびと

 

レオノール藤田がボルガの朝焼にえがく浚渫船と子犬を

 

遠花火きこえる夜にモロボシが浴衣の裾をなおすアンヌの

 

ウォークマンからのロシア語みよちゃんが四ツ橋筋をくだる小春に

 

パーソング第五番 由紀夫がプラモを

 

春ゆうべ三島由紀夫がガンダムのプラモをつくる恋はとおくに

 

十兵衛と言問橋でわかれてより寄せくる風も我もさゞなみ

 

鎌足が中大兄(なかのおおえ)にさそわれてラーメン喰いに春の夜のゆめ

 

吹雪く夜に熱のアンヌが二度三度ねだるキャンベルコーンポタージュ

 

アラジンが城門でた後むらさきの霧におかされゆくリスボン

 

「こんど来て」十手を修理に出す店の未亡人より銭形平次へ

 

駅地下でティッシュを配るシャカムニが好むひるめし不二家のピラフ

 

成長した親指姫が北国の運河の街でひっそり個展

 

生きのびて海へ旅したパトラッシュがひとりみつめるパナマ籍船

 

いにしえの高知のみやこ春きざす千代紙市場にマルコポーロが

 

パーソング第六番 晩年のマルコ

 

晩年のマルコが神戸の居酒屋でしのぶ大草原の横雲

 

雪の日のバーの戸たたきゾラが訊く北天下茶屋駅はどこかと

 

縁側で糠雨をきく義政の手に『黄金虫』ときがこぼれて

 

ラーメンを丼に移して窓の外ラムセス二世は雪のナイルを

 

木枯のお城の北の一室の炬燵でうたたねのエリザベス

 

雪国に梅の息吹をまきちらしゲルダが女王さまとくちづけ

 

モナリザが運河の横のアパートで海外ニュースを見てる春陰

 

かぐや姫が月で結婚した人の短所は煮〆の味うすきこと

 

せっかくの長寿の薬を富士山でもやす帝のつぎのこいびと

 

土産手に岡本太郎が茅めぶく蘇州の運河を美女まつ街へ

 

パーソング第七番 卑弥呼上洛

 

東雲の長崎本線おとうとの無言がしみる卑弥呼上洛

 

ジャスミンが闇はむゆうべ雪平に出汁はる世阿弥の次の野心は

 

孫文が蚊遣をたいて策をねる月の庭萩 恋はみずいろ

 

ラジオからポルシュカポーレ業平がたらいで洗たく背には幼な子

 

樽柿が貨物でとどくコロンボの丘を十八こえたふるさと

 

カツオから届く絵はがき春うらら引越しました早川さんへ

 

竹やぶをこげどもゴルバチョフ邸へたどりつけない何処かでサティが

 

抜け道にふりそそぐ月ハリスンが豆腐かたてに時のかけらを

 

セントルイス中央駅で褪せてゆく夜とコーラが コロンボ定年

 

一袋二銭闇あります上洛の卑弥呼がひっそり客まつまひる

 

パーソング第八番 次元が不二子に

 

御簾ごしに薫る白檀かねてより次元が不二子によせるほのかな

 

格子からのぞく大名行列のなかに悲しい貌のエノケン

 

灼光の渦巻星雲人類はどこから来たのだろうと人麻呂

 

青鬼が漂着する村廃船をくべて暖炉のメレンゲの紅

 

雪の朝べスがこっそり異母弟にもらうマーブルチョコを百粒

 

一億年前の沼べりスナフキンが弦をなだめて「朧月夜」を

 

来ぬ文に踵をかえしバーグマンが銀河でさするホオズキの皺

 

雲うかぶ無聊アリゾナ州立大ピアノ科教授ノダ・メグミ

 

ナポリ港近くの書店で『潮騒』のとなりに鬼平ヌード写真集

 

空腹に口をとがらすモナリザよ「春高楼の……」柿むくダヴィンチ

 

パーソング第九番 

 

火曜日に生まれた人はカレー好き田沼意次田村正和

 

 

匿してた亀屋のきんつば盗み食いする業平を赤子がニヤリ

 

 

雫石小岩井間に軽便を敷いて賢治の霧の夢路を