蔦きうい句集
月見町へ
あさ霧の軒に月棲む空屋敷
寒山がゐて拾得もゐて炬火支度
裏庭のその裏にある瓢畑
しら樺や小村のおくの霧ひとつ
先客は瞳に非あり縁将棋
向日葵や滝廉太郎宛て山景色
初こひは寺町通り筋むかひ
観覧車 外務大臣大恋愛
納豆を喰つて出てゆく内蔵助
柿買ふていつか斑鳩三尊像
祖父の家がある鶴見まで星日和
家出して耳門ある借家かな
レモン割ってミラボー橋の大崩壊
暑き日の暮れ方にゆく同郷会
遊郭に出でたつもりが月見町
文明の大中心地ゆゑあを蜜柑
雑踏といふ雑踏に胡蝶かな
秀麻呂といふ山があり昼時雨
シラクサに太宰を訪ぬミモザ垣
大空や肌理を気にする野良地蔵
菜の花を見捨てて上る肥後大名
足留めの河も肘寄す夜蕎麦かな
枯野路を百万本の卒塔婆かな
精神 ピカソ・ピカビア森の夏
海賊を叱る道徳くさい姉
たとふればカリフォルニアの顔である
海岸へ斥候出す夜明け哉
二里往つて終戦を聴く瓜茶漬け
夕立の音を卓に立てておく
隠居所や人もをらぬに雪のふる
杜甫兄を夢路に見舞ふ秋風鈴
居場所
詰らない人間どもにふたをする
爺が生まれ爺が死にたる函の底
うそなみだ星の居場所の通知かな
オロナミンCの看板 家出かな
ミシシッピゆきの電車の遅刻僧
碧空にボタンをかけて古書店主
みっちゃんの小さい背中 津軽ゆく
城郭の内側に月 某か
旅に出て村上春樹句集かな
崖下にまたひとりいる俺似かな
目が合うてたもとに隠す秘密一丁
盗まれて
なおあまりある
地平線
津軽平野をころがってきた蜜柑
炬燵から土星をのぞく奴がいた
横丁のそのまた路地のむこうの国