あらすじ

 

東京の郊外のある町に、小さな工務店を営む北浦正造(70)は、町の工業発展を狙って出来る、新明治橋の建設に反対する。

それは、町の様子が一変してしまうのを恐れるだけでなく、かって自分の手掛けた橋が取り壊されてしまうからだ。

しかし、 正造を中心とする町の自治会の反対を押しきって、市長の息子、山本卓(30)は強引に建設を行い新明治橋は完成する。

そして正造は明日で解体される旧明治橋の上に、孫娘の北浦舞子(14)と一緒に来ていた時、そこに竜神様と呼ばれる巨大な竜巻が現われて、正造たちの方へと進路を向ける。

 

 

 

 

 

○古い橋の上

古い橋の真ん中に北浦正造(70)と、北浦舞子が二人並んで立ち、

川の流れを眺める。

舞子「この橋とも、今日でお別れね、おじいちゃん」

正造「時の経つのは、早いものじゃ、この橋の図面を書いたのが

  昨日の事の様に思える」

  舞子が新しく出来た橋を眺めながらつぶやく。

舞子「この町には、この橋が一番良く似合っていると思うよ」

正造「そうだな、なにも取り壊さなくても良いのに」

舞子「おじいちゃんがこの橋を作ってから40年も経つんでしょ、

 全然信じられないわ」

正造「年をとるのは、あっという間だぞ、ま、お前も大人になれば、

 わかるはずだ」

  舞子が新しく出来た橋を眺めながらつぶやく。

舞子「それにしても、この町にあんなに大きな橋が必要なのかしら」

  二人の後ろに黒いメルセデスが止まり、山本卓(25)が

  車から降りて二人の方へ来る。

「最後の見納めですか、北浦さん」

正造「君か、私に何か用かい」

「新しい橋の開通式には出て頂けるんですね」

正造「遠慮しとくよ、私は新しい物が余り好きじゃないんでね」

「新明治橋が開通すれば、東京との流通が格段に良くなるんですよ」

正造「そのかわりに大気汚染や、いろんな問題が起きる」

「その事は何度も話し合ったじゃないですか」

正造「何一つ問題は解決していないはずだが」

「残念ですね、じゃ私はこれで失礼します」

  卓が車に乗り込み、窓を開けて車内から声を掛ける。

「明日から、この橋の解体作業に掛かりますので、じゃ」

舞子「いやな奴!!」

正造「こら、そんな事言うもんじゃない、きっと彼はこの町の為に

 必死になっているんだよ」

 

○新しい橋の上

  卓が作業員に命令をする。

「何だ、この汚れは、明日の開通式には政界や、いろんな所から

 多数の方々が出席されるから、よく掃除しろと言っただろう」

作業員「申し訳ありません。すぐ綺麗にします」

「今から全員でもう一度掃除のやり直しだ、わかったな!!」

作業員「は、はい、わかりました」

「明日は天気だそうだ、これも私の日頃の行いが良いからかも

 しれんな」

作業員「....」

  しばらく作業員たちが掃除を続ける。

  一人の作業員が、海面に巨大な竜巻が発生しているのを見つける。

作業員「なんだあれは!!」

  一人の年老いた作業員が叫ぶ。

老作業員「龍神様だ」

「龍神様?」

老作業員「この地方に伝わる風の神様です」

 

○古い橋の上

正造「そろそろ帰ろうか、舞子」

  舞子が竜巻を見つけて驚く

舞子「おじいちゃん、あれ見て!!」

正造「まさかあれは...」

舞子「竜巻よ!!すっごーい!!初めて見たわ」

正造「間違いない、あれは龍神様だ」

舞子「あれが龍神様、すごいじゃん」

正造「感心しとる場合じゃないぞ、早く逃げるんじゃ」

舞子「こっちへ、向かってくるよ!!」

  正造は腰を痛めてしまう。

正造「あ痛たた...こりゃ、いかん」

舞子「おじいちゃん、大丈夫」

正造「舞子...今すぐお前は走ってこの橋から離れるんだ!!」

舞子「おじいちゃんはどうするのよ!!」

正造「わしなら大丈夫じゃ、さあ早く行くんだ!!」

舞子「そんなのいやよ!!」

  巨大な竜巻が二人の近くまで移動する。

正造「だめだ!! もう間に合わんぞ、しっかりと、わしの体に捕まるんじゃ!!」

舞子「すごい風、飛ばされちゃうよ」

 

○新しい橋の上

  竜巻は旧明治橋を通過して新明治橋へと向かう。

作業員「こっちへ来るぞ」

老作業員「皆、逃げるんだ」

「何を言ってるんだ、そんな必要は無い」

老作業員「どうしてですか!!」

「この橋のワイヤーは、瀬戸大橋と同じ物を使用しているんだ、

 竜巻ぐらいでは、びくともせんよ」

  巨大な竜巻を見て、作業員達はあわてだす。

作業員「逃げろ!!」

  作業員達は逃げ出す。

「待て、お前ら私の言う事が聞けないのか」

  卓の後ろに竜巻が迫る。

「なんて大きさなんだ」

  卓もあわてて逃げ出す。

 

○古い橋の上

  舞子が正造にしがみ付きうずくまっている。

正造「舞子、もう大丈夫だぞ」

舞子「あれ、竜巻は何処へ行ったの?」

  正造が新明治橋の方を指差す。

正造「ほら、あれを見てごらん」

  新明治橋が真ん中を境に、左右へと滑らかに崩れていく。

舞子「どうしてこの橋は大丈夫だったのかしら?」

正造「わしにもわからん、だだ言えるのは、この橋は

 新明治橋よりも頑丈だったと言う事だな。ハッハッハッ....」

舞子「そらそうよ、だって、この橋はおじいちゃんが作った橋だもん、当然よ」

正造「この橋は、わしだけで作ったんじゃないぞ」

舞子「え....」

正造「この橋は、腕自慢の職人達の魂がこもっているのじゃ、

 だから、あの橋とは比べ物にならないぐらい頑丈な橋なのじゃ」

 

○新しい橋のふもと

  卓が海辺に這いつくばり、頭をかかえる。

「何てことだ、数億もの費用を投じた橋が崩れてしまった」