あらすじ
代議士の父を持ち、裕福な家庭に生まれ育った
森下有紀(20)は、東大にストレートで合格するほどの
才能の持ち主でもある。
一方、中谷光(20)は、高校を中退して就職もせず、
ただ自分の夢ばかり追いつづける青年である。
東大で清掃のアルバイトをしていた光は、そこで
有紀と出会い、やがて付き合うようになる。
二人の仲を知った、父の裕次郎はあらゆる手を使って、
二人を引き離そうとする。
そんな裕次郎の行為に、光は疲れ果てて、一人で
東京を離れようとしていた。
○地下鉄のホーム
中谷光(20)が電車を待っている。手には大きな鞄を持ち、
表情は暗い。
線路をはさんで向い側のホームに森下有紀(20)が
駆け込んで来る。
走って来たため、息を切らしている。
有紀 「何処へ行くの!!」
光 「やっぱり無理なんだよ」
有紀 「何が無理なの!!」
光 「僕と有紀ちゃんは、誰がどう考えても、つりあわないと思う」
有紀 「どうしてそんな事言うの」
光の立っているホームに、電車が来ます、
というアナウンスが流れる。
有紀 「絶対に電車に乗らないで、今そっちにいくから」
有紀は階段を降りて通路を走り、上りのホームに出る。
電車はすでに出た後で、誰もいない。
有紀 「どうしてなの」
有紀はその場にしゃがみ込んでしまう。
柱の影に隠れていた光が、茫然としている有紀の後ろに立つ。
光 「相変わらず走るのが早いんだね」
有紀 「何も言わずに行くなんて卑怯よ!!」
光 「ごめん、有紀の顔を見ると辛くなるから、だから・・・」
有紀 「逃げるの!!」
光 「逃げるんじゃないよ」
光が有紀をにらみつける。
光 「大阪でシナリオの勉強をするんだ、どんなに苦しくても一人で
生活していくつもりだ」
有紀 「私も行くわ、大学も辞める、二人で暮らしましょう」
光 「そんなこと出来ないよ」
有紀 「出来るわ!!」
光 「今、二人で東京を出たら、いろんな人たちを裏切ることになる。
有紀はそんな事が出来る人じゃ無いはずだ」
ベンチで寝ていた酔っ払いAが二人の方を向く。
酔っ払いA 「うるせぇーな、寝てられねーじゃねぇーか、ウィ・・」
酔っ払いAが有紀の首に付けられているネックレスを見る。
酔っ払いA 「あれ、ねえちゃんよ、あんたクリスチャンかい」
有紀 「そうですけど」
酔っ払いA 「じゃ、ビートルズのレット・イット・ビーて、曲知ってるかい」
有紀 「知っていますけど、それが何か関係あるのですか?」
酔っ払いA 「悩み苦しむ時は、聖母マリア様が現れて救いの言葉を
掛けて下さる。すべてなすがままに、てよ」
光、有紀 「なすがままに?・・・」
電車が来ます、というアナウンスが流れ、最終電車が到着する。
光が有紀の手を引っ張る。
光 「行こう」
何のためらいも無く二人は、電車に乗る。
ホームで酔っ払いAがよろけながら手を振る。
酔っ払いA 「がんばれよ、ウィ・・・」