1、出会い
時、西暦2030年、ここは東京の市立中学3年A組の教室である。
「昨日話をしましたように、今日は転校生を紹介します」
「え ! どんな子」
「俺さっき職員室で少しだけ見たぜ!わりとかわいい子だったよ」
「うっそー、なーんだ、女の子か」
教室が騒々しくなる。
「はい皆静かにして、藤谷さん入ってきてもいいわよ!」
教室の扉をあけて、一人の少女が物静かに入ってきた。
髪は短め色白で、どこかの令嬢の様な少女だ。
「藤谷つぐみです」と正面を向き、お辞儀をして顔をあげたその時、
教室は押し殺された様に静まりかえった。
やさしく澄んだ瞳の下の右ほほに、3cmぐらいの傷痕が
あったからだ。
その傷痕は縫合した後もなく、薄っすらとした赤色は、
色白の肌に、まるで筆で描かれたようだった。
「み、みんな、仲良くしてあげるようにね、
じゃ席はそこの窓際に座って」
若い女教師は、声が少し震えていた。
少女は何事も無かったように席に座った。
そして窓の外をぼんやりと眺めていた。
誰かが小さい声でつぶやいた
「あんなに奇麗な顔をしているのに・・・ 」
6時間目の授業が終った。
「今日の授業は、これまでにします」
「中谷君、藤谷さんがなにか分からない事があったら、
教えてあげるのよ」
「は、はい、わかりました」
中谷光 、真面目で少し気が弱く、ごく平凡な中学生だ。
「こんなカワイコチャンが隣に座る事になって、ラッキな奴だな!」
光の後ろの席に座っている、高木健太が言った。
高木健太、剣道部所属、光の友人でこの中学の番長でもある。
「相変らず軽い性格ね、あんなの絶対に相手にしたら駄目よ。
私、森下恵、宜しくね」
森下恵、成績優秀で3年の学年委員長で誰とでも
気軽に打ち解ける性格の持ち主だ。
光、健太、恵の3人は、家も近く幼なじみの仲だ。
「藤谷さん、今日はあなたが掃除当番だから、えっと・・・ 今日は
一班だから、高木君と中谷君それに森下さんがいっしょだから」
女教師が藤谷に言った。
「さーやるで!」
健太が張り切っている。柄に似合わず奇麗好きなようだ。
「そうね、さっさと済ませちゃいましょう。どうしたの光君、
さっきから藤谷さんのほうばかり見て」
恵が言う。
「お前もしかして・・・」
「ち、ちがうよ、ただ」
「ただなんだよ」
「ただ、どこかで会ったことがあるような気がするんだ」
「また古い手を使いやがって」
「そう言う事、言うか」
「私もどこかで会ったような気がする」
藤谷が小さい声で言った。
「さあ終わったわよ。みんな帰りましょ」
恵が言った。