世界の北側にはニブルヘイムと呼ばれる、氷の国がありました。この国の中心には、フヴェルゲルミルと呼ばれる泉があり、ここから11本の川が流れていました。世界の南側には、ムスペルヘイムと呼ばれる炎の国がありました。ムスペルヘイムには炎の巨人スルトが生まれました、彼はムスペルヘイムの南の端の岬に坐し、炎の剣を持ち、来たるべきラグナロクを待っていました。
ニヴルヘイムとムスペルヘイムの間にはギンヌンガガップと呼ばれる広大な裂け目がありました。ここにニヴルヘイムから流れる川と、ムスペルヘイムからの熱気が出合い、濃い霧が発生していました。ある時この霧から一人の巨人が生まれました。彼の名をユミルといい、生まれたときから邪悪でした。ユミルは眠っているときに汗をかき、その汗から一組の男女の巨人が生まれ、ユミルは全ての霧の巨人の祖となりました。また、ニヴルヘイムから流れる氷が融け、その中から一頭の牝牛アウドゥンバラが生まれました。巨人族は牝牛アウドゥンバラの乳を飲み大きくなっていき、牝牛は氷と塩をなめていました。ある時、牝牛が氷をなめていると、中から髪の毛が現れました、翌日には頭が現れ、三日目には美しく、力に満ち満ちた肉体が現れました、これが神々の祖ブーリです。
ブーリは気高く力強くそして美しかったのです。彼は霧の巨人ボルソルンの娘ベストラを妻とし、オーディン、ヴィリ、ヴェーという三兄弟を生みました
ブーリの三人の息子達は、邪悪なユミルとその眷属である霧の巨人族が気に入らず、日増しに険悪な雰囲気になっていきました。ついに彼らはユミルと戦い、ユミルを殺してしまいました。ユミルの傷口からはおびただしい量の血が勢い良く流れ出、大洪水が起こりました。この洪水で霧の巨人族はベルゲルミルとその妻を除き全て溺れ死んでしまったのです。
オーディンとヴィリとヴェーは、ユミルの死体をギンヌンガガップの中央に運び、その死体から世界を作りました。ユミルの肉からは大地を、骨から山脈を、歯や顎などの小さな骨は砕いて岩や小石を、ユミルの血は大地の周りを埋め尽くし、海となりました。三人はユミルの頭を持ち上げ天空とし、ムスペルヘイムから飛んでくる火花を捕まえ、太陽と月、そして星々を作り、それを天空と大地を照らすようにしました。
大地は、広大な海の内側に横たわっていました、その大地の東の山地に生き残った霧の巨人達を住まわせました。これが巨人の国ヨーツンヘイムです。兄弟達はこの巨人達と仲が悪かったので、大地の内側にユミルの眉から作った垣根を作りました、この垣根の内側をミッドガルドと呼びました。また、ユミルの脳を空に撒き、雲としました。
ある時、三人が海岸を歩いていると、二本の木が倒れているのを見つけました、一本はトリネコの木で、もう一本はニレの木でした。三人はこの木から最初の人間の男と女を作ったのです。オーディンは魂を、ヴィリは知恵と心を、ヴェーは聴覚、視覚、嗅覚、味覚、触覚の五感を与えました。男はアスク、女はエムブラと名付けられ、ミッドガルドをその住まいとして与えられたのです。この二人が全ての人間の祖となったのです。
出来たばかりのこの世界には、太陽と月は有りましたが、昼と夜の区別はありませんでした。そこで、光り輝くテリング神の妻ノートとその息子ダグにそれぞれ馬車を与え、天を走らせることにしました。父に似て輝く美しさを持つダグにはスキンファクシと名付けられた馬を与えました。この馬のたてがみは金色に輝いて、辺りを明るく照らす昼となりました。髪の毛も、肌の色も漆黒のノートにはフリムファクシと呼ばれる霧のたてがみを持つ馬を与え、半日遅れで、息子の後を追いかけさせました。
しばらくすると人間の中にムンディルファリと呼ばれる男が天に本物の太陽と月があるにもかかわらず、自分の息子にマーニ(月)、娘にはソール(太陽)と名付けました。この余りの不遜さに怒ったオーディンは、この二人をさらって、本物の太陽と月の導き手として天に置きました。
太陽も月も、昼も夜も、そしてマーニとソールも天を駆け回っていますが、これはスコールとハティと呼ばれる巨大な狼に追われているからだと伝えられています。この二匹の狼はミッドガルドの東にある鉄の森の女巨人の息子達で、名前をスコールとハティと呼ばれていました。スコールは太陽と昼そしてソールを、ハティは月と夜そしてマーニを追いかけていました。そして彼らはラグナロクが来ればこの狼に食べられてしまう事が運命として定められていたのです。
三人の兄弟達はユミルの体にわいた蛆虫たちのことも忘れてはいませんでした。兄弟達はこの蛆虫に人間の姿と知恵を与えました、彼らは山々の下にある洞穴に住み着きました。彼らは人間よりも小さかったので小人と呼ばれ、彼らの住む国はニダヴェリールと呼ばれました。
こうして大地を作り終えた三兄弟は次に自分達の住む国アースガルドを作りました。アースガルドは巨大な城砦に囲まれた、光り輝く宮殿でした。神々の住まいアースガルドと人間の住まいミッドガルドは三色の虹の橋ビフレストによって結ばれていました。
アースガルドに住む神々はアース神族と呼ばれ、三兄弟の眷属です。彼らとは別にヴァン神族と呼ばれる神々がアースガルドの一角に住んでいました、彼らの国はヴァナヘイムと呼ばれていました。世界の創造の中で神々とは別に妖精も誕生し、この世界に住み着いたのです。光の妖精はアールヴヘイムに、暗黒の妖精はスヴァルトアールヴヘイムに住みました。
こうして世界を構成する九つの世界が出来ました。そしてこの九つの世界を貫くのが世界樹ユグドラシルです。