トップ > 神話の杜 > 中国の神話「黒仙人と白仙人」

黒仙人と白仙人

中国のある農村に趙顔という少年がいました。

ある日、少年が畑で仕事をしていると旅の老人が少年を見つめながらため息交じりにふと呟きました。「かわいそうに・・・あの少年は十九の歳までしか生きることが出来ないであろう・・・」と、この話を聞いた少年とその親は驚き、慌てて老人の後を追い、「何とか、長生きが出来るようにはならないのでしょうか。」と泣付きました。あまりに熱心な親子の頼みに老人はある助言を与えました。

「この村の東のはずれに麦畑がある、私の言う日に、その一番南にある桑の大木をさがし、特上の酒と、鹿の乾肉を届けなさい。その日は仙人が碁を打っているから、だまって酒と肉を差し上げなさい。ただし、決して喋ってはいけないよ、分かったね。」

少年はいわれた通りに、酒と肉を持って桑の大木の場所へいきました。すると、老人の言う通り桑の木の下で、北側に黒い髪の仙人が、南側に白い髪の仙人が座って碁をさしていました。少年は黙って酒を注ぎ、肉を差し出しました。仙人は碁に集中しているらしく、少年お差し出すままに酒と肉を食べながら碁を打ちつづけました。

そのうち、碁を打ち終わった仙人は少年に気づき「なぜそこにいる。」とただしました。しかし少年は老人の助言の通り黙して喋らず、只酒と肉を勧めました。

仙人はしばらく席を外すよう少年に言うと、何やら相談を始めました。しばらくして南側の仙人が「うまい酒と肉であった、ただで追い返すわけにもいくまい」と言うと、側においてある寿命帳を開き「うむ・・・趙顔、趙顔・・・と、おお、そなた、十九の歳で死なねばならぬとは少々酷い事よ。」と言うや否や筆を取り「十九」を逆さに読む記号を書き込みました。そして、寿命帳を閉じると。「もうよかろう、帰るがよい。」といいました。

少年は喜び、家に帰りました、老人に礼を言うと、仙人の事を話してくれました。

「北に座っていた仙人は、北斗の仙人で死を司っておる。南の仙人は南斗の仙人で長寿を司っておる。どうやらそなたは南斗の仙人に気に入られたようだ。それにしても九十一歳(注とは上出来、上出来。」

老人は、少年を見送ると再び旅に出ました。この老人は名を「管輅」といい魏の国の賢人で、人相を見るのを得意としたといわれています。


注)日本では、19は「十九」と書きますが中国では「一十九」と書きます。つまり日本では最初の「一」が省略されているわけです。そのため、逆さに読むと「九十一」となるわけです。ちなみに「百」や「千」もそれぞれ「一百」、「一千」と書き、「万」以上は日本でも中国でも「一万」、「一億」・・・と書きます。