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座標系の話

 私がよく星を見ていて何か特別な星を指し示すとき一番手っ取り早いのは「あそこ」といいながら指を差すことです。しかしこれではなかなか見つけてもらえないことがよくあるので、場合のよっては「あの山の一番高い木の少し上」などのようにいろいろな補足事項をつけて、私が見てもらいたい特別な星を指し示します。

 実際に星の観測なんかをやっていると、もっと正確にこの星の位置を書き表す方法が必要になります、そこでまず直感的に思うのは先の『指差した方向』を数字にしてしまうというやり方です。『指差す』ということは単純に言うと、『どの方向』で『どのくらい上』にある。ということです。

 その前に人類の宇宙観をほんの少しだけ(後でまた話します)、古代ギリシア人が考えるさらに以前から存在する宇宙観の一つとして『天球』と言う考え方があります。天球と言う考え方は、おおざっぱに言うと、この大地はとてつもなく巨大な球(ドームのようなもの)に囲まれていて星や太陽、月などはその球に張り付いていると言う考え方です。そしてこの球が回転することにより、星や太陽が動くとされています。

 ・・・無論、現代の我々は宇宙がこのような構造ではないと言うことを知っています。しかし、星の見かけの運動をとやかく言うとき、この天球の考え方が非常に役に立つのです。その考え方は、まず、星は巨大な球に張り付いており、その位置関係は互いに変化しない。そして、その球の中心には小さな地球があり、その星を見ている私たち観測者はこの地球の上に居る・・・という感じです。

 また、観測者から見て、頭の真上を『天頂』その反対側を『天底』といいます。

 さて、再び座標の話ですが、まず『どの方向』と言うのは『方位』のことで、真北を0°とし、東(90°)、南(180°)、西(270°)の順番でぐるりと一周する『方位角』で現します。これは、皆さんも小学生のときに使った(たぶん…)方位磁石に書かれているメモリと全く同じものです。

 『どのくらい上』と言うのは、日本ではあまり見かけませんが「地平線から目的の星がどのくらい離れているか。」と言うことで、『高度』と言います。この高度は方位と同じく角度で現します。この場合地平線を0°、天頂を90°とします。そして、地平線から高度を測り始め天頂を越えてしまったとき、つまり高度が90°を越えてしまったときは、方位を180°ひっくり返してそちらから測り直し、高度が常に90°を越えないようにします。一般的に高度は『目的の星に最も近い地平線』から測り始めるのようになっています。以上のような座標系を『地平座標系』と言います。

 『地平座標系』では『方位角』と『高度』、この二つの角度を用いることによって空にあるさまざまな星の位置を一意的に定めることができます。…ただしこれは星を観測する人が同じ時間に同じ場所にいたときの話しで、実際には時間が変われば星の位置が変わり、場所を移動すれば相対的に地平線の位置も変わります。そこで、観測する位置や時間に関係なく特定の星を指し示すことのできる新たな座標系が欲しくなってきます。これが次にお話する『赤道座標系』です。

 先に話した『天球』。この天球上に現在地球上で使われている『経度』『緯度』のようなものを、そのまま作ってしまおうと言うのが『赤道座標系』です。この赤道座標系は地球上の経度と緯度をそっくりそのまま天球にまでひきのばした様なものになっています。すなわち、地球の赤道を天球面に移したものが『天の赤道』であり、地軸(地球の北極点と南極点を結ぶ軸)を延長し、天球面と交わる点が『天の北極』と『天の南極』になります。地球上で『緯度』に相当するものは『赤緯』で、『経度』に相当するものが『赤経』です。

 『赤緯』は天の赤道を 0°とし、天の北極で +90°また、天の南極では -90°となる値を持ちます。一方、『赤経』は、春分点(春分の日に太陽が居る場所)を起点として東回りで 0h から 24h までの値をとります。天の赤道で囲まれた面を『赤道面』といいます。

 もう一つ別の座標系を紹介します。地球から太陽の動きを観測していると、天球上を少しずつ西から東に向かって動いているのがわかります。実は太陽はちょうど一年かけて天球上を一周していて、この時太陽の通る道筋を『黄道』といいます。この黄道を基準にして先の赤道座標を当てはめたものが、『黄道座標系』とよばれるものです。天の北極に相当するものは『黄道の北極』、南極は『黄道の南極』といい、座標は『黄緯』『黄経』であらわされます。黄道に囲まれた面を『黄道面』と言いますが、この黄道面は赤道面に対し約 23.4°傾いています。

 天の赤道と黄道は交わりながら傾いているので、交点が 2 つあります。そのうち太陽が赤道の南から北にかけて移動するときに通過する交点を『春分点』、逆に北から南へ通過する交点を『秋分点』と呼びます。太陽がこれらの点を通過する現象をそれぞれ『春分』『秋分』と呼びます。よく、天文年鑑などで“10時46分:春分(太陽黄経 0°)”と書いてあるのは、まさにその時刻に春分点を通過すると言うことです。また、春分点から太陽の進行方向に対してそれぞれ 90°、270°離れた点を『夏至点』『冬至点』と呼び、これを通過する現象を『夏至』『冬至』といいます。