ハナメガネおじさんの沢日記 (新潟 胎内川 楢ノ木沢)
02/6/29・30(土・日)両日快晴 カヌ沈隊・もんきーず・すみ放
記=ハナメガネおじさん
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核心部にくると眉毛が動くおじさん |
山で一人で酒を飲んでいると、下が何やら騒がしい。また、山登りをやる奴等だなと思っていたが、時間は夜中の2時をとうにまわっている。
こんな時間まで呑んだくれて騒いでいるような縦走屋はいないはず。なにやら楽しげだ。酒を差し入れたら、歓迎してくれるかもしれない、と思い彼らの前に出ていってみる。
最初はひどくびっくりしていたようだが、酒を呑み始めればそんな事は関係なくなった。いろんな人間と酒を酌み交わすのも、たまには良いものだ。
白々と夜が明け始めてくると、何やら支度を始める。
よくよく話を聞いてみると、これから楢ノ木沢にいって岩魚をめいっぱい釣っては食おうという魂胆らしい。いや、面白いことを考える奴等もいるものだ。ただ岩魚を食うのではなく、握り寿司にしようってんだから。
そんな愉快なことを見過ごす訳にはいかない。是非参加させてくれと頼み込む。
いやだのおやだの言っていたが、輪郭がモヒカン山に似ている男が、ひとつのザックを持ってきて寿司桶を括り付けると、「おじさん、去年会ってるの忘れてるんすね。実は、今年はおじさんと一緒に行こうと思ってたんすよ。」と満面の笑みで言ってくれた。
そうか、去年も来てたのか、すっかり忘れているよ、わるいね、どうも。今日は楽しいことになりそうだ。
5時に宴会場を出発。今日は水量は多くない。去年はかなり多かったようだ。水は冷たいが楽勝で渡れそうだ。
気合を入れながら渡りきる。取り付きから山に入り、アゲマイノカッチを目指す。踏み後がはっきりしてるので道は間違うことはないが、傾斜が急だ。
おじさんも山は歩きまわってるが、こんな重い荷物は担がないから、ちょっと失敗したかと思った。
荷物といえば一升瓶くらいなものだ。それがどうだ。奴等は頭ひとつ分くらい上にでているザックを担いでいる。それでいて登るのが早い。彼らはカヌ沈隊という集団だと自己紹介してくれた。会話の端々に「硬派」という言葉が出てくる。男とはなんたるか、硬派とはなんたるかを追求しては山に入り、呑んだくれているらしい。なかなか見上げたものだ。
壁のような斜面を這い上がると、アゲマイノカッチの頂上だった。明るく広いブナの森の中、ビールで乾杯をする。冷えていないビールなのに、汗をかいた後はうまい。日常では何も感じないことに、感動できるのも山に入る楽しみだ。先はもう見えているらしく、ここで大休憩をとることにする。すると、彼等ががみな、遠くを見るような恍惚の表情で話し出した。
「おじさん、楢ノ木沢にはねえ、岩魚寿司太郎の一族が棲んでるんすよ。去年はすっかり世話になって....。今年もあえるといいなぁ。」硬派な男たちに、こんな表情をさせる岩魚寿司太郎!おじさんも会いたい。そんな会話の後、眠りに落ちた。夢の中では、岩魚寿司太郎が微笑みを浮かべながら楽しそうに寿司桶に乗ってクルクルと回っていた。
昨夜は一睡もしていなかったので、すっかり気持ちよく眠ってしまった。
まだまだ楽しいことはこれからだ。先を急ごう。701を目指し、尾根沿いに進む。
尾根沿いの道は非常に細い。下りになると目の前を木の枝と葉が邪魔をして見えない。701らしきところで休憩をとる。
モヒカン山に従って先を進むが、どうやら勘違いをしていたらしく、沢に下りる地点を通り過ぎてしまった。
他の皆が「ああだったろ、こうだったろ。」と説明するのを神妙に聞いて、子供のようにうんうんうなずいている。そして言う言葉は、ほんとうに不思議そうに「何でそんなに覚えてんの???」それが帰りには、「あれが俺の道だったんだよ、まいうえい。」と言う言葉に変わる。
701から楢ノ木沢に大きくせり出している支尾根に入る。支尾根の道は長い。
でも、沢に下りるにはこれでも一番傾斜が緩いのだ。途中で松の木にナタ目の入った目印のところの右斜面を降りる。
こんな山深い中で、道があるのも不思議なものだ。この道は結構な傾斜。というよりは、崖でしょ?というところもある。いつもだったら、お助けやらザイルが出るところだが、きょうはおじさんなので何とか潅木を頼りにクリアする。こんなところですべったらぁ、岩にぶつかりぃ、木に激突してぇ、沢に落ちてお陀仏だ。こわいこわい、気をつけねば。
やや傾斜が緩み、広い場所に出たと思ったら、ブルーシートとビニールで出来た立派なテントらしきものがあって、「なんじゃ」と思わず声が出る。
古いんだか新しいんだか分からないのでなんだか気持ち悪い。そしてすぐその下が楢ノ木沢である。
沢の水は少し濁ってるが、冷たくて気持ちが良く、生き返る。水の勢いが強く、流されそうになる。
おじさんはあまりにびっくりして、まゆげがいつに無い速さで動いてしまった。
先に進む新潟組の山帰りレンシャと絶倫ゴールドが竿を取り出す。ルアーである。渓流釣りでルアーなんてのもあるのだ。
何回か投げるが、だめらしい。しかし次のところで、ヒット!しかも続けざまに二人ともである。そして最後に山帰りレンシャは尺上の岩魚を釣り上げた。
おじさん興奮して声もでなかった。丸々太ってでかい。今夜の岩魚寿司は期待できそうだ。
まもなく幕場に到着する。釣り師がよく使っているようで、色々なものが木からぶら下がっている。
非常に広く、6人いてもたき火の場所と宴会の場所と寝る場所がそれぞれ十分に取れるくらいだ。
ビールを冷やし、さっそく先ほどの尺岩魚を刺し身にして、とろろをおろし、そばを茹で昼にする。いや、うまいのなんの。岩魚って甘いんですねぇ....。
酒もすすむ。天ぷらもある。こんな贅沢を山の中でできるとは!!おじさん感動で、またしてもまゆげが動いてしまった。
食事を終えると、それぞれ竿を手に沢に入っていく。
おじさんは、山には入るが釣りはやったことが無い。なぜなら釣れないものと思い込んでいるからだ。「ここならすぐ釣れますよ。大丈夫。」と、パンティ二級と呼ばれている男に励まされ、ピンクハンターに教わりながら仕掛けをつくる。先に竿を出していた男が首をかしげる。どうやらまったくあたりがないらしい。
するとカヌ沈隊とは違う男二人が沢の奥から下りてきた。どうやら先行者がいたらしい。これは....ひょっとするともう釣れないの??一抹の不安がおじさんの頭をよぎる。
おじさんは釣れないまま幕場に帰ってくると、モヒカン山が一匹釣っただけだった。ま、さっきのと合わせて全部で3匹いる訳だし、なんとかなろう。まだ明るいが4時を回っている。ブルーシートを張り、宴会の準備を始める。それぞれがおつまみを手早く作りはじめる。その手際の良いこと、おじさんは感心した。うまいつまみとうまい酒かぁ。里にいるよりいい生活しているよ、間違いなく。
疲れと酒でいつの間にかウトウトとしていたようだが、周囲の空気が変わりざわついているのに気がついた。
目をあけると、うす暗がりの中に白い影が...。なんだ?まさか幽霊じゃぁとはっきりしない頭で考えていると、「寿司子だ、岩魚寿司子だよ!」と誰かつぶやいた。ニコニコと微笑み、白のステテコ、ピンクの腹巻き。
なるほど、これがうわさに聞いた岩魚寿司太郎の妹、寿司子か。
彼女は軽い足取りで我々の宴会場に近づいてきた。チラチラと流し目でつまみを物色している。
寿司を握るのが好きだが、里の食べ物に対する興味はかなり強いようだ。
そして寿司子が魚篭の中に視線を落とすと、それまでの笑顔を凍り付かせた。
どうやら釣果が気に入らないらしい。その場の空気が一気に冷え切ってしまう。寿司子が帰ってしまっては、楽しみにしていた一流の岩魚寿司が水の泡になってしまう!
すると、おもむろにモヒカン山と絶倫ゴールドが立ち上がり支度を始める。そして、小声でパンティ二級に
「俺たちがもう一度釣りに行ってくる。その間寿司子をなんとか引き止めろ!」
「よし、まかせろ」
彼等が沢に消えていくのと同時に、寿司子の目の前にはつまみが並び、栃尾セット(※)で接待を始める。沢のプロジェクトXである。寿司子は笑顔を取り戻し、すごい勢いで次々に食べ始める。栃尾セットも残り少なくなった頃、二人が寒さに震えながら帰ってきた。
皆が固唾を飲んで見守ると、モヒカン山は高々と二匹の岩魚を頭上に掲げた。やる時はやります。だてに遊んでいないようです。感心しました。
寿司子も新鮮な岩魚に大喜びで、そそくさと寿司飯をきり始め、みるみるうちに寿司桶を握りでいっぱいにした。そして、すっかり我々が寿司に夢中になっている間に、いつのまにか寿司子は姿を消していた。ありがとう、寿司子。君の目を見てお礼の言葉と気持ちを伝えたかった....。
翌日、心配されていた雨などどこへやら、雲一つない晴天であった。梅雨の時期とは思えない。今日も暑くなりそうだ。
来た経路をたどり、苦手な下りを克服しそうな勢いで下山完了。また来年再会することを誓い、おじさんは彼等と別れたのだった。
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栃尾のあぶらあげを焼いたのと栃尾の地酒「越乃景虎」のセット。絶品
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栃尾のあぶらあげを焼いたのと栃尾の地酒「越乃景虎」のセット。絶品
6/29
5:10 駐車場出発/6:30 アゲマイノカッチ着/8:50
同発/9:30 支尾根到着/10:15
支尾根から右に下りるところ/10:35 楢ノ木沢に降り立つ
11:00頃 幕場
6/30
6:00頃 起床/9:00 幕場発/9:30 支尾根取り付き
/10:45 701の辺り/11:30
アゲマイノカッチ/12:35 下山・宴会
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