湯桧曽川高倉沢左俣右沢 

ダメダメ合宿in土合

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平成13年10月 12日〜 13日

硬派者:深町隊員 さる奴隷

1/25000 地形図:「水上」「茂倉岳」


白山書房から刊している「山の本」という雑誌がある。
値段がチト高めだし、沢のことはほとんど載ってないので、いつもはもっぱら立ち読
みで流すのだが、今季号は南会津の小特集があったので、気まぐれも手伝って買って
みた。ここではその雑誌の内容や感想には触れないが、所々にあらわれる「丸山岳」の三文字が気になって仕方がない。
丸山岳山頂から眺めた南会津の山波。眼を閉じれば、ついこの間のように浮かび上がる。
ああ、南会津。よかったなぁ。来年もまたいきたいなぁ。

そんな想いを胸に、上越に出かけることにした(関係ないけど)。
昨年から計画していた白毛門沢と高倉沢を登ってみよう。あのときは遠く感じられた上越も、今はだいぶ近く感じられる。この一年で自分がどれだけ成長したのか確かめるつもりだ。

直前まで単独で考えていたのだが、数日前になってサルが同行することになった。
せっかくの単独が…などとは思わない。同行者ができて嬉しい。
早朝、上野から列車に乗り土合へ。上野駅の近くに住んでいると、まことに便利。玄関を出てから土合の無人改札を出るまで、およそ3時間で谷川に着いてしまう。
異様に重い荷物に喘ぎながら土合の長い階段を登ると、改札でサルが待っていた。
サル。この男はキャンプ集団「もんきーず」に所属しているが、今年の2月、カヌ沈の奴隷候補に志願してきた珍しい奴。俺と同じように「硬派」の毒気にあてられた人だ。
俺は哀しきサラリーマン、サルは地質の博士様であるが、カヌ沈に入るまでのプロセスは似たものがある。なんといっても同い年というのが良いではないか。上でもなければ下でもない、そんな気兼ねのない関係は、非常に貴重だと思う。

湯桧曽川を徒渉して高倉沢出合。予想以上の水量の少なさに驚く。

本当にこの沢でいいのか?

と何度も確認するが、どうやら間違いはないみたいだ。
入渓してすぐ、サルが足を滑らせて転ぶ。酔って暴れて捻挫したという右足は完治していないもよう。
「まあ、適当にのんびりいこうぜ。どうせ短い沢だし、楽勝楽勝♪」とナメてかかっていたのだが、これが後々災いすることになる…。

すぐに5mくらいの滝が出る。水量のわりに存在感があり一瞬ウッと思ったが、左を登って問題なし。少しいって8mのナメ滝だが、左に残置ロープがあった。
右俣を分け、特に何もなく遡行していくと沢はまた左右に分かれる。左のほうが沢床が低いが、「まあ、どっちに行っても大差ないだろう」ということで意見が一致し、たまたま右寄りにいたので右の支沢に入る。しかしこの沢はガレっぽく、すぐに水が涸れてしまった。

「ん〜、さすが人気度1の沢。ぜんぜん面白くねぇ。」

などと文句を言いながら登る。背後に赤く染まった赤沢山を見るころ、沢は徐々に草付きスラブに。「遡行図にあった40mスラブってこれかなぁ?」と半信半疑で登るが、いやはやどうも40mではきかない。傾斜も強く、振返るとなかなかの高度感。しまいには、垂直か少しハングした壁にあたった。フカマチ、左に逃げ気味に直登。5.9くらいだろうか、ちょっとビビるところも。足の痛いサルは右から潅木沿いに登る。「どうだぁ〜」と叫ぶと、「微妙だぁ〜」という答え。むこうも良い塩梅ではないらしい。本当に初級の沢なのか?
それにこの、笹でもハイ松でもない、グネグネ曲がった高い強靭な薮。これはなんという木だっけ?執拗に我々を拒み、やたらと疲れる。それにムッとするほどの獣臭。なんか間違えたんじゃないの??
ほとんど薮の急登になってきたので、現在地を把握するため、すぐ左の尾根にあが
る。両側は深く落ちている。左の谷は左俣、右は大きさからいっても右俣か?高度も
まだ1200m?
ここからがツラかった。尾根は痩せ尾根、いくつもの偽ピーク。薮はやたらと喧しい。足があがらなくなり、「まだかぁ〜まだかぁ〜ふざけんなぁ〜ふざけんなぁ〜」といつもの言葉が自然と口をつく。
2時間後、やっと右手に登山道のある稜線を見る。サルはまっすぐ登り、フカマチは下り気味にトラバースして登山道に転がり込む。が、最後の登りで完全に死んだ…。

谷川岳はあいにく雲に覆われていたが、なにはともあれ、ビールで乾杯。さらなるビールを求め、天神平に向けて下降する。そういえば、朝から口にしたのは行動食のみ。当てにしていた水上の駅弁にフラれたせいだ。どうりでバテるはずだよな…とイイワケしつつ、駆け足そのままにレストランになだれ込む。目当ては生ビールだが、せっかくなのでトンカツ定食まで食する。悪いことはしてないハズなのに、やはりちょっと後ろめたい気がする。

「こんなところにレストランとロープウェイがあるからいけないんだよな」

というと、「じゃあ、そういうふうに報告に書けよ」というので書いた。
そして当然、ゴンドラの上の人となった。

硬派・軟弱とは精神力に拠出するもの。貧弱な高倉沢出合を一瞥して硬派の気概を忘れ、軟弱の淵に落ちればどこまでも。土産物屋で串蒟蒻、串焼餅などを買い食いすれば、幕営予定地であった白毛門沢出合まで行くのが億劫になる。
「ここでいいじゃん(サル)」と言えば、「タープを張るのも面倒だね(フカマチ)」と掛け合い、東黒沢出合の河原で即座に酒を呑みだす。ものぐさコンビの奏でる旋律、とどまることを知らず。
フカマチ持参は久保田の翠寿、サル持参は八海山の原酒。酒は最高、焚き火も良し。(飯は最低。)酩酊の果てに寝坊もすれば、白毛門が俺たちを嘲笑っていた。

昼、一の倉沢を見に行く。険しくて雄大な岩壁をぼんやりと眺めながら、初志を貫かなかった己を恥かしく思った。
堕落した合宿だった。ダメダメ合宿だった。サルの足が完治していないことを差し引いても、あまりにも緊張感が欠落しすぎていた。ルートミスしかり、忘れ物しかり。

硬軟自在に遊ぶことを標榜とする我らカヌ沈隊。

軟に遊ぶ山行も素敵であり、重要である。だが「白毛門沢」は、俺にとっては挑戦であり、「硬」の位置づけにあったはず。
南会津、下田川内の渓に憧れ、いずれ行くといって憚らない俺だが、途中で「硬」を「軟」に翻すような軟弱ぶりでは、渓に失礼というもの。雲に隠れた谷川岳の岩壁に、「お前には見る資格すらない」と言われているような気がした。

この山行を肝に銘じ、深く反省したい。

<フカマチ隊員>

 

 

 

 


コースタイム


硬派夜営集団カヌ沈隊

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