泙川水系 三重泉沢

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平成13年5月 3日〜 4日

★★

硬派者:狩猟班長 深町隊員 ユウ奴隷候補

1/25000 地形図:「皇海山」「丸沼


「片結びでもチョウチョ結びでもなんでもかまわねぇからサッサとコイ!ボケ!」
ガレとドロと残雪のいやらしいトラバースの連続。異常なまでに恐れおののくユウ奴隷候補を引きつれての高巻きにこれ異常時間を費やすならば、せめて安全にと判断した俺は、トップでザイルを伸ばした。セカンドはこともあろうかハーネスを忘れ、代りにケツにシュリンゲを食い込まし、1人三角木馬状態のユウ、最後は俺のビレーでフカマチの番だ。しかし遥か先にはロープをいじくり何度も結び直すフカマチの姿が見えた。

「はぁ?アイツ まさか八の字出来ねぇんじゃねぇの!?はぁ〜あ…。」

 ここは足尾山塊 泙川(たにかわ)支流 三重泉沢(さんじゅうぜんさわ)。長男の初節句の為、カヌ沈隊本体の奥利根雪稜合宿に無念の不参加となった俺は、一足先に渓で遊ぼうと、足尾にアタリを付け、半ばヤケクソでフカマチとユウに声をかけた。

「ヨォ フカマチ。足尾山塊ってしってるか…。」
「ドコっすか?ソレ…。」
「俗世間から忘れ去られた地味な山域…あの足尾銅山のせいで
素人釣り師の盲点…沢によってはイワナ健全…。オマエもしらべろ・・・。」

 調べてみると、97年にむげんが集中を行っていた。その中の三重泉沢。なんと高巻きで6時間半をついやした“八丁クラガリ”という壮大なゴルジュ帯があるらしい。その先は広河原となっており、そこからはイワナが結構生息しているようだ。一泊二日ならフカマチやユウを連れてでもなんとか行けるか?いや、フカマチは体力が皆無だし、ユウは釣り師に産毛が生えた程度だし、連日の雨での増水の心配もある。やはり秩父あたりでお茶を濁すか…。しかし秩父かぁ・・・どうせなら足尾あたりの沢の偵察にでも行きてぇしなぁ。まあダメもとで行ってみっか。フカマチとユウの体力強化、ルーファン訓練とロープワークの勉強会だな。まあそれでイワナの塩焼き程度が食えりゃあいいだろ。しかしなぁ 奥利根部隊にはやはり引けをとるなぁ。そうだ!

「フカマチ!ごにょごにょごにょ・・・ふふふふふ・・・。」

<記 ヤス狩猟班長>


「負けてるな…」
上野の喫茶店ブルームーン。狩猟班長のヤスさんは目を閉じ、腕を組み、静かにそして重く、その言葉を口にした。
「うーん、そうっすね…」
そうなのだ。GWを目一杯満喫できるオザキ隊長、ヨコサワ炊事班長、さる奴隷候補の三人は3泊4日で奥利根に入る。
早春の奥利根…。光り輝く銀世界。魅力的なルート。しゅうしゅうと鳴るブナの焚き火。
「何がしゅうしゅうだ! くそっ!」
家庭の事情、仕事の事情があるヤス狩猟班長、フカマチ隊員、ユウ奴隷候補の哀れな三人は、1泊2日の日程である。
当初の計画は奥秩父の沢であったが、それでは奥利根に対抗するべくもないことに気づいたのだった。
「いやあ、奥利根は最高だったなぁ、うほほ〜♪」と高笑いする隊長の顔と、それを前にして無言で首を垂れる我々の姿が、行く前から容易に想像できる。
「やはり奴らに対抗するには、"狩猟"しかあるまい。実は極秘で入手した資料があるんだが、こんなのはどうだ?」
「フムフム、なるほどなるほど。でもそれって天然記念物なんじゃないっスかぁ?」
「まあ、いいじゃないか。奥利根隊に勝つには手段を選ばずだ! 行くぞっ!」
「ハッ、そうでありますね、行きましょう!」

5月3日未明。某山塊、某林道の車止めゲートに到着。
極秘資料によると、このゲートは巧妙な細工が施されているという。深呼吸し目を閉じ、ヒミツの鍵を差し込み、厳かにヒミツの呪文を唱えなければ開けることができない。成功すれば林道歩きをカットできるのだから、失敗は決して許されないのだ。
「∞∴♀@♪√」
呪文は慎重に唱えなければならない。間違えると恐ろしい罠が作動するのだ。ほとんどインディジョーンズの世界だな。
「アレッ? アレッ!?」
呪文を間違えたフカマチの顔が恐怖に歪み、みるみる蒼白になる。罠にはまった! 鍵が抜けない! 押しても引いてもダメ!
「∞@♪√∴♀!」「∞@♪√∴♀!!」
するとゲートがギーという微かな音と共に開きはじめた。危ない、間一髪だった。
しかしこの呪文はあまりにも危険なので、あまり多用したくないな。

入渓は某橋から。堰堤を2つ越え、しばらく進むと両側が立ってきてなかなか良い渓相になる。天気は小雨。若干増水しているのだろうか、予想していたより水量は多い。
20分ほど歩くと、「八丁クラガリ」と呼ばれるゴルジュの入口につきあたった。狭い水路の奥には、一見して直登不可能な2段の滝がある。流れは轟々と迸り、側壁はツルツル。某資料にはハーケンを打って突破したともあったが、この水量ではとてもムリ。トラロープの下がっている左岸の垂壁を登って巻く。
それにしても悪い巻きだ。ここを越える釣り師もいるようだが、命知らずとしか言いようがない。昨年落ちて死んだ人がいる、というのも充分に頷けるところだ。残置ロープはどうにも信用できなく、細いバンドを木の根に頼ってのトラバースだ。
途中で狩猟班長が空中懸垂。支点にした木がグラグラ揺れ、今にも岩が落ちそうなので見ていてドキドキした。危険なのでフカマチとユウはトラバースを続行。
なんかヤバイなぁヤバイなぁと言いつつ進んでいたら、やっぱりフカマチが落下した。両手でぶら下がって体重をかけた腕くらいの太さの樹が、突然根元から折れたのだ。瞬間的に壁を蹴ってジャンプし、下斜め前方にある太い樹にしがみついて九死に一生を得たものの、これまでの人生が走馬灯のように脳裏に再現された刹那だった。後ろから目撃したユウによると、そのアクションは段違い平行棒の

「トカチェフ」のようだったという。
それは一世一代のムーブともいえたが、ひとつの事故として認識すべきものであった。危険な懸垂下降も同様であり、この不用意な行動を深く反省し、褌を締め直す必要があった。

沢に降りるとすぐにまたゴルジュ。3mのチョックストンで、平水時はショルダーで越えられるようだが、今日の水線突破は絶対にムリ。左のバンドが行けそうな気がしたが、偵察に登った狩猟班長が首を横に振って戻ってきた。やはり高巻くしかない。しかしこれが、泥付き・草付き・ガレ・岩・残雪と、なんでもござれの登攀とトラバースだった。トップで歩くフカマチは冷や汗タラタラ。雨が降ったせいか、足元はケーキの上の生クリームのような柔らかさだ。
だが、爪先を泥にねじ込ませ、黙々とステップを刻んでいるうちにだんだんと楽しくなってきた。妙に楽しくなってきたぞぉ! うほほ〜! ノってきた頭にはなぜか「じゃんけんぴょん」のBGMが…
ここで10時。すみだ放沓山岳会との提携企画

katuyakukin.jpg (43830 バイト)「X作戦」の時間だ。作戦とは、10時きっかりに括約筋を絞め、万歳三唱しながらお互いにエールを送るというもの。えーっ、こんなところでやるのぉ? と言いつつガレ場で万歳三唱。キッチリ約束を果たしました。遠い奥秩父の井戸沢で、スミホウはどんな状況なんだろう?

沢に降りるとすぐにまたゴルジュ。深い釜を持った滝で、同様に直登不能。
少し戻り、岩尾根の脇のいやらしい泥壁を登る。傾斜は立っていて、ガレの上に泥が被さる構造になっている。スタンスが決まらなく、ズルズルと実にイヤラシイ。
フカマチは心臓バクバクで登りに弱い。ユウは柔らかい足元に弱い。狩猟班長は

「落ちたら死ね」と言い残し、サッサと登ってしまう。ひとりだけアイスバイルを持っているのにヒドイ人だ。だが、この程度が登れないと雪稜は望むべくもないらしい。ここは根性、ただひたすら根性の場面である。
尾根に上がっても状況は良くない。すっぱりと切れ落ちたゴルジュの側壁の上をトラバースしなければならないのだ。滑落の恐怖に堪え、微妙なバランスで凌ぎながら進む。
何事にも常にイケイケの狩猟班長は恐れというものを知らないらしい。この世で恐いものはオクサンだけか?
後ろを見るとユウが遅れている。川原歩きでは滅法早いユウもトラバースはどうも苦手らしい。ヤツは以前、釣りをしているときにこんな高巻きで滑落したことがあるという。 その無表情は完全にトラウマにやられている顔であった。へこむな、がんばれ!

沢に降りるとすぐにまたゴルジュ。こんどは1m程度の滝だが、轟々と渦巻く深い釜を従えている。高巻きはもうウンザリなので、ここはどうしても突破したいところ。試しに左のハング壁に取り付くが、ホールドは縦の浅いクラック状で、我々のクライミング技術ではムリ。やはり冷た〜い水を泳ぐしかない。
じっくりと流れを読む。釜はくの字に曲がっていて、流芯は右。平水では左をへつれるだろう。しかし、屈曲点で洗濯機のように渦を巻いているため、今は考えられない。うかつに飛び込めばドザエモンだ。
泳いで右壁にとりつき、落ち口付近まで思いっきりジャンプしてケノビすればいけるか? でも誰がいく?
カヌ沈隊は民主的な集団だ。日頃は体育会系でならしているが、いざという局面では、限りなくフェアな方法がとられるのだ。日本で最もフェアな方法とは、すなわち、ジャンケンである。
「じゃんけんぴょん!」 …狩猟班長が泳ぐことに。
胸まで浸かった狩猟班長は「ぐおおおおおー! 冷てええええ!」と雄叫び一発。くるりとこちらに向き直り、

「テメェらも味わいやがれ!」と水をかける。絶叫が谷に木魂するが、それだけでは突破はできない。
ロープをつけ、流れに逆らって泳ぐ。右岸のホールドにつかまったが、強い流芯におされ、体制を保持できなくなって敗退。だが、水中にスタンスがあるようだ。代わってユウが飛び込むが、同じように敗退。
そして泳ぎの苦手なフカマチがダメもとで挑戦。手は平泳ぎ、足はバタ足で懸命に泳ぐが、なんとしたことか全然前に進まない。泣きそうになりながら戻って水からあがると、風に吹かれて異常に寒い。
「せめてホールドまで行ってこい!」と罵倒され、踵を返して再度挑戦。ジャブジャブ… おっ、こんどはホールドをつかめた。ホールドといってもそれは、つるつるに磨かれた岩にはしる浅いクラックにすぎず、片足でスタンスに立ち込むと、今にも剥がされて流されそうだ。左手をいっぱいに伸ばしてまさぐると、かすかなホールドが指に触れた。
その瞬間、頭にあったのは「もう高巻きしたくない」という執念のみだった。腕力で強引にひきつけると、非常に無理な体勢になった。すると、水中に一本の細い倒木がひっかかっているのが見えた。あれに乗れるか? 下では、狩猟班長とユウが反対側に飛び込めと騒いでいる。うるさい! オレはいま水中に宝物を見つけたのだ。ええい、ままよ!
我ながら恥ずかしくなるガッツポーズ。泳ぎで手柄を立てたのは始めてだ。いや、泳ぎというより、この冬、インドアでクライミングの練習をした成果だろう。オレもなかなかやるものだ。
ザックをピストンし、ロープで全員突破に成功。しかし全身ズブ濡れでとっても寒い。三人とも歯の根が合わなくなり、このままでは低体温症になってしまう。早く焚き火がしたい。

この先から巨岩帯になる。いくつかの岩をショルダーで越え、あるいは巻く。しかし「八丁クラガリ」はまだ終わっていない。地形図では、最後のゴルジュを残しているようだ。そこを突破すれば、あとはテン場まで穏やかな川原歩き。釣り師がほとんど足を踏み入れることのできない、イワナ天国が待っているはずだ。
しかし、ほうほうの体で到着した最後のゴルジュは、絶望的な2段5mの滝だった。大きな釜、凄まじい瀑布。某情報には滝の左側を直登したとあったり、突き刺さっている倒木を利用するなどと記されてあったが、それは絶対にムリ。釜の右壁に細いバンドがあるのだが、途中で2段になっていて、そこをクライムダウンするのはちょっと曲芸じみているように思える。左岸右岸ともに壁が立ち、高巻くなら、さっきやっとの思いで突破した釜まで戻るのか。
詳しく偵察してみると、バンドの落差に残置ロープがあった。6ミリ程度の腐ったようなロープに命をかける? 切れたら最後、白く泡立つ釜の中でイワナの餌になるだろう。いやだ、恐い。
その他にわずかな可能性があるのは、左岸の濡れたルンゼだ。だが垂直に近いルンゼは見るからに危険。登ったとしても、上の状態も怪しい。イケイケの狩猟班長はその下に立ち、登りたくてウズウズしているようだ。きっと彼には

イワナ天国への階段に見えるのだろう。
ここで哀しきサラリーマン・フカマチが目を覚ます。もはや錫ガ岳など不可能。ピークを目指すなら、ゴルジュを全部いっぺんに巻いて広川原まで出てしまうべきだった。それに明日、同じルートを下降するとしたら、いったい何時間かかるのだろうか? GWの渋滞も心配だ。明後日の仕事に間に合わなかったらどうしよう… 只今15時。悩みどころである。2時間くらい戻ってテン場に泊まるか、2時間かけて高巻きするか。はたまた、強引にルンゼを登るか…。
壁を登るか否かで意見がわかれたので、とりあえず昼飯にする。ラーメンを啜りながら見上げる壁。あの壁をフリーで登るのはキケンすぎる。しかし…


raichyou.jpg (51419 バイト)その時! 視界の端で何かが素早く動いた! アレだ!
遡行でアップアップだったため、あやうく忘れるところだったが、我々の真の目的はアレだったのだ。
狩猟班長が追う!

あ、お〜、あ〜あ、うっ、お! あっ!

 

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三重泉沢橋から先の入渓点

 

 

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やはり増水しているようだ。

聞いてないゾとユウ

 

 

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寒いので突破する気が全くしない

 

 

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度重なる高巻でバテるフカマチ

 

 

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狩猟班長がトップを切るが寒くて敗退

 

 

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深町が突破したあとザックピストンで越える

 

 

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ケツにシュリンゲを食い込ませ懸垂するユウ

 

夜。焚き火を囲んで満足の表情を浮かべる我々がいた。「奥利根でブナしゅうしゅう」とまではいかないが、良い焚き火ができた。マイタケごはん鳥そぼろ入りと、豚汁をたらふく食い、酒を舐めながら遡行で疲れた身体を寝転んで癒す。
沢で遊ぶ者だけが味わえるステキな夜である。そして、(※2)雷鳥の丸焼きを骨までしゃぶる…。

ん? 雷鳥の丸焼き?


psn00013.jpg (30397 バイト)そうなのだ。我々は「秘められたゴルジュ中に雷鳥が生息しているらしい」という怪情報をキャッチし、あわよくば捕獲し、できれば丸焼きにして食ってしまおうという、「奥利根でしゅうしゅう」に充分に対抗しうる合宿を成功させたのであった。
塩、胡椒、ニンニク、回転させる棒まで用意し、強火で一気に焼き上げた雷鳥の旨かったこと。その味、頬の落ちるが如くであった。
「うめえええぇ!」
谷に木魂する嬉しい悲鳴。しかし、どこかニセモノ感を拭い切れなく、空しく響きわたるのだった…。



なお、天然記念物を狩猟することは違法ですので、絶対に真似しないで下さい。

<記 フカマチ隊員>


「じゃんけん、ポイッ!!」
・・・・・・・・・・・・
・・・・うぉぉぉぉぉ〜〜〜・・・・・。

「マジでぇ〜・・・・」
狩猟班長はそそくさとザイルを環付きに8の字で結び付ける。
昨日、今日と降り続いている雨でかなり水が増水している。
右岸に流れがブチ当たり、その流れは岸壁の下へと巻き込んでいるように見える。
もちろん足は底に届かない。あそこをへつっていくと間違いなく岸壁の下に引き込まれそうな勢いだ。狩猟班長はその右岸を少しへつり、屁伸び・・・いや・・・蹴伸びで一気に進もうとするプランらしい。腰まで水につかり雄叫びをあげている。川原のあちこちにはまだ残雪が残り、水は冷たいというより痛い・・・。狩猟班長は右岸に沿って進める所まで進み、更にへつれる所までへつり、一気に蹴伸びをした。
・・・が水量が増した強い流れの前に敗退、こちらに流されてきた。
帰ってくるなり、とりあえず・・・
(なんでオレだけ濡れねぇーとならねぇーんだ・・・・)
とばかりにオレ達二人に寒さで震え、雄叫びを発しながら水をかける。水に濡れてしまえばこっちのもの。次は深町さんが続く。しかし・・・・事もあろうか入ってすぐあっという間に帰ってきてしまった・・・。深町さんはこの前の釜の沢の時もそうだったがかなり泳ぎには自信がないみたいだ。
「しょーがねぇー、高巻くかっ!」
・・・・・・・・・・・・。

一同気が重い。
ここまでにも際どいトラバースをしてきた。
深町さんに至っては体操の鉄棒競技の世界の大技「(※1)トカチェフ=背面飛び越し懸垂」に挑んでもらえた。
後ろから見ていて何とも奇妙な体の動きをしていた。
次の機会には以下の大技を是非披露してもらいたい。


「トカチェフ」に宙返りを加える。トラバース落下のフォームをコンピューターで分析した結果、足が滑り近くの木の幹まで手を伸ばす事により体の回転にはずみがつく「伸身」で行き、その後、素早い回転に有利な「開脚」の姿勢を取れば、「宙返り飛び越し」が実現できると出た。
しかも、飛行中、開脚のまま思い切り前屈すると、宙返りの回転スピードを上げることができ、木の幹のキャッチに余裕が生まれることも分かった。
難易度は最高ランクのEだろうが、特別な筋力アップをしなくても10aを制覇した深町氏なら出来るはず。


余談は置いておいて・・・
しかし、あの体の捻りは見事だった。

話は戻り、滝の前。
ただ一人泳いでいない者がいる。
オレだ・・・。
ここで泳がなければ軟弱者のレッテルを貼られかねない。意を決し、飛び込む。プランは左岸の多少緩やかな流れを泳ぎ、その先の出っ張った岸壁に取り付く。その岩をへつり、急流に逆らい突破というプランだ。泳ぎには多少自信があるが、なにせ金玉が縮む冷たさだ。出来るだけ遠くに飛び込み難無く左岸の出っ張った岸壁に到達。取り付けるホールドと足場を確保。出っ張った岸壁の先を覗き込みホールドがあるか確認するがツルツルピカピカ。足場も探すが急流でなかなか足が出ない。その内に流水の冷たさで手足の感覚というよりは体全体の感覚が失われていく。とうとう力つき
「痛てぇー、痛てぇー」と叫びながら流されてしまった。今まで生きてきてここまでの冷たい水の中に首まで漬かった事はないだろう。体全身が冷たいのではなく痛い。
「金玉が縮む」とよく表現されるが、それを超えるような冷たさだ。しかし、何しろ敗退し流されてきてしまったのだ。あの出っ張った岸壁から先を少し行けば高捲かなくともいいのだ・・・。狩猟班長は再度オレのとったルートを行くが同じ所で敗退。
そして深町さんだが、1回目は初めと同じようにすぐ流されてきてしまったが、チーフリーダーがこれではと思ったのだろう。2回目は出っ張った岸壁まで到達。その行方を狩猟班長とオレは震え叫びながら見ていた。深町さんも同じ所で苦労しているようだ。しかし暫くすると出っ張りの向こう側へと姿が消えた。どうやらクリアーしたようだ。多分、高捲きたくないという一心だったと思う。
しかし、のちのちこの泳ぎが・・・。

その後・・・
すぐに10m程の滝が。すぐ高巻に入る事になった。何だったのだ、今の泳ぎは・・・。
必死こいて泳ぎ切ったが無駄骨だった。高巻が終わると今度は2つでかい滝。ニつともフ
カマチさん、狩猟班長ががザックを下ろし、空荷で上がり三人でリレーで荷物を上げクリア。しかし・・・その行くてには・・・更に2つの滝が待ち受けていた・・・。
その二つの滝はまん中に倒木が同じ様にかかっていた。記録ではその倒木を使い上がっているようだが、今日の水量では無理だ。高巻はというと、フリーでクライミングしなければ行けないような所が一番可能性があるだけだ。とりあえず滝の近くまで深町さんが偵察に行くがダメなようだ。そしてしばらくの検討の結果、かなりいやらしい岩場を登ることになった。近付いてみるといよいよいやらしい。狩猟班長がとりあえず登ってみるが残りの二人はさっきの泳ぎで体力を消耗しきってしまっている。それにその岩場は危険なように思えた。通常なら倒木を使い楽に通過出来るはず。この二つの滝を越えれば、今日の幕場の広河原のはず。二人の意見はとりあえず飯。
という事で、冷えた体を暖かいラーメンで癒した。飯を食いながら検討したが、撤退を決意した。目的地直前での撤退でかなり悔しいが、あの岩場は危険すぎると判断。
泳ぎでの体力の消耗が著しい、水量が多い等の結果、撤退と相成った。

幕場となる場所を探しながら下る事となった。何回か嫌な高巻を引き返しようやく幕場になる場所に到着。その時オレはかなり遅れての到着となる。どうやらオレは土が柔らかいトラバースは苦手らしい。恐怖を感じてしまう。昔、まだカヌ沈に入隊する前、一人で釣りに出かけ今日のようないやらしい高巻のトラバースで今日の深町さんのように「トカチェフ」を体験した事がある。その時は運良く手近の木にしがみつき九死に一生を得た(多分落ちても死なない所だったが)。しかも同じ日に二度も・・・。
それがトラウマになっているのかも知れない。こんなに自分の中でこの事が残っているとは思いもよらなかったが・・・ビビッていた。これはすぐにでも克服しなければいけない。それには経験しかないと思われる。硬派野営集団カヌ沈隊の端くれとして実にみっともない。

ようやく幕場についたオレは着くとすぐに釣りの用意をし、竿を振りに行った。しかし、遡行を初めてから一回も魚影を見る事がなかったこの川。釣りでは有名な川の事だから釣られてしまったか、若しくは今日のこの寒さ、水量の影響か・・・?虫もほとんど飛んでいない。とりあえず川の中の石をひっくり返してみると虫はいるようだ。
この寒さなのでハッチの数が少ないだけのようだった。しかしニンフをつける気になれず、とりあえずお得意のカディスでポイントを探って行く。しかし一向にアタリはない。濁りはないが、それにしても水量が多い。岸際のちょっとした弛みにフライを落とすとイキナリ「パシャッ!」。「あっ!」吃驚して合わせが遅れてしまった。今日の飯が・・・二人は期待して待っているのだろう・・・と考えるとプレッシャーを感じる。またしばらくアタリがなかったが、深い淵で流れが巻いている所を何度となくフライを流していると

「パシャッ!」。「おっ!」

合わせはばっちり決まったが・・・。アタリ切れ・・・なんとした事か・・・。それ以上はまた高巻しないと行けないのであえなく撤退してきてしまった。あ〜、行く前は岩魚が群れているのを想像していたのに・・・。きっと広河原から上には沢山いたんだろうなぁ、と思いつつ引き返した。

夜、いよいよメインディッシュがくるくる回っている。丸焼きは初体験だ。何とも言えないイイ香りが漂っている。塩、胡椒、にんにく、スパイスがきいていて絶品である。狩猟班長の舞茸そぼろ御飯と豚汁もたらふく頂き良い気持ちになって来た。昨日山梨から寝ずに東京山小屋に到着。すぐに出発したためオレは寝ていない。パチパチと燃える焚き火が心地よくついウトウトしてしまう。なんてイイ気持ちだ。これで雨が降ってなくて、満天の星空だったら尚良いが、未だに昨日からの雨はシトシトと降り続いている。明日は晴れるのだろうか。そんな事を考えながら眠りに着いた。

<記 ユウ奴隷候補>

 

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今回の炊事担当は狩猟班長

 

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マイタケそぼろご飯と豚汁

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ウッシッシ

死ぬほど美味い雷鳥の丸焼き

 


(※1)トカチェフ:〈1〉鉄棒にぶら下がって体を前方に大きく振る〈2〉体が鉄棒よりも上がったときに手を離す〈3〉鉄棒の上を飛び越えて戻り、再び鉄棒をつかむという技。

(※2)雷鳥の丸焼き:”肉の万世”にて400円で購入いたしました。スンマセン

コースタイム
三重泉橋(7:10)〜八丁クラガリ入口(8:30)〜八丁クラガリ最終5m滝(1:30)〜下降開始(2:30)〜八丁クラガリ入口下(4:30)幕営


硬派夜営集団カヌ沈隊

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