乗鞍岳山スキー

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平成13年3月 10日〜 11日

★★

硬派者:炊事班長 狩猟班長

1/25000 地形図:「乗鞍岳」


「諏訪湖かぁ 松本までもうチョイだな」
11日午前9時 快晴 横澤号は諏訪湖を右に眺め快調に中央道を飛ばしていた。俺と横澤は1月、2月と山スキーの計画をたてていながら、天候や調査不足にて二度も計画変更を余儀なくされ、土合で涙の雪上野営に変更したり、岩原ゲレンデで女人ともども雪のテーブルで美味しくワインを頂いてしまったり、となかなか計画通りに事は進まず不満はつのるばかりだった。隊長には『軟弱モノめ!』と罵倒され、今回こそはなんとしてでも合宿を成功させなくてはまた隊長にナニを言われることか。そんな経緯もあって、今度こそ!と乗鞍岳山頂より雪煙を上げ滑降する姿を想像し、鼻息が荒くなった俺達を乗せた車の窓ガラスは少々曇り気味であった。

 乗鞍岳は昔から山スキーが盛んで、野麦の集落へ滑りこむものや平湯へのロングツアーなどいくつものコースが滑られている。中でも乗鞍高原スキー場から乗鞍岳を目指すコースはリフトを利用して1日で山頂を往復でき、山スキー初心者の俺達でも十分楽しめ、晴天に恵まれれば3000mの稜線で穂高や槍を望むことができる魅力的コースなのだ。それに帰りはちょいと足を伸ばせば白骨温泉もあり、乳白色の湯で疲れをいやせば最高の山旅にふさわしいフィナーレとなる。

が、しかし・・・。
「ヨコサワ・・・なんかおかしくねぇか?」
「おおお!名古屋向かってんぞ!」

はぁ・・・。例によってくだらない与太話しで盛りあがり、気合を入れ過ぎた為か、松本方面にお別れも告げず、しっかり名古屋方面に向かってしまっていたのだ。ロス時間、1時間少々。慌てて飯田ICで涙を浮かべつつ哀れな迷い人に扮して高速料金を免除してもらい、そのままUターンさせてもらい、心を改め再度松本に向かったのであった。

 11時に到着した現地の天候は予報通り灰色の雪。春の日差しの中、華麗なシュプールを描くと言う夢は簡単に打ち壊された。ヨコサワの鼻歌(曲:ミニモニじゃんけんぴょん:”)まじりの中、荷物を詰め終わり、例によって荷物チェック。
「メチャクチャ重てぇゾ!クソ」とヨコサワ
「はぁ?どれどれ なんだよ変わんねぇゾ」と俺。まあそれぞれ相方のザックに納得して出発。
登山計画書は乗鞍岳スキー場第一リフト脇の黄色いポストに投入。一回券(300円)を3枚購入し、リフト3本を乗り継ぎ終了点に12時30分到着した。
しんしんと降り積もる雪の中、シール登行を開始する。今回のBCはリフト終点から少々登ったところに幕営する予定。それにしても快適だ。こんなにもスキーをつけて新雪の中を登るのが快適だったとは。体調も絶好調。今回は楽勝モード。ははは 今回は宇宙人に遭遇(阿弥陀岳南稜報告参照)しなくて済みそうだ。

 ひとりガツガツ上って行くと、おや?ヨコサワのペースがおかしい。やけに遅れがちで、顔面からは下界の毒素がだらだらと流れしたたっている。まあ大丈夫だろうとさらに先を進むと、まったくヨコサワがついて来ない。下を見ると登りなのにコケまくって雪だらけ。もうぜんぜんダメ状態で顔は

(はやく はやくここに泊まろうよぉ)と目出帽の中からこちらを見つめている。まだ下にリフトが見えるというのに軟弱なものだ。まあしかたない。免停中の俺を一人運転してここまで連れてきてくれたのだ。しかしいくらなんでもリフトの音が聞こえそうなところはイヤなので、「もうチョイ行こうぜ!」とだましだましずるずると引きずり上げること1時間。やっと人の気配の薄れた適地を発見。テン場が決まるといきなりヨコサワは元気になる。

「タリラリラァ〜ン♪タリラリラァ〜ン♪ラリラリラァ〜んのぉ じゃんけんぴょん!じゃんけんぴょん!」またもや鼻歌(曲:ミニモニじゃんけんぴょん)まじりの中、二人でスコップを振るい今晩のテント場を丹念に整形する。

「テントの下にスキー敷こうぜぇ〜!」と俺
「やだ!切れたらヤダもん!やっさんのエッジ切れてるでしょ?切れたらヤダもん」と”ヤダもん”を連発するヨコサワ31歳。このヒトは見かけによらずモノを大切にするいいヒトだ。まあヨコサワのもんだからしょうがない。多少寒くてもガマンしよう。
テントに入るとブーツ脱ぐのももどかしく「ビール!ビール!」と騒ぎ立て、とりあえずカンパーイ。みるみるビールとワインは空になり、酩酊気分の2人は”すみだ放沓山岳会”から拝借してきた歌をがなりたてる。
「滝場のハイカラ沢屋ァ〜♪ キュートな足元 タビタビっ!♪ がははは!おもしれぇおもしれぇ!」ひとしきり歌い終わりだらだらと夕飯までうたた寝をする。今晩のメニューは浅草今半の特製タレで頂くスキヤキなのだ。山のような食材を広げひたすら食べる食べる食べる。俺達は入山するたびに体脂肪率が上昇するから困ったものだ。ふと酩酊気味のヨコサワが
「くそ〜! なまら癖Xめぇ〜!」と突然叫び出す。マッキンリーから滑降した”なまら癖X”のことが相当気になるらしい。俺達もカヌ沈隊のスキー部隊として、なにか名前をつけようという事になる。幾つかの案が出てきたが、最終的に雪山で体脂肪率を上げる俺達らしく”デブリ脂肪肝”という名前に決まったはずだが、酔いが冷めると共に少し淋しくなり、やはりその名前はやめようと言うことになった。


翌11日

「ヨコサワ!起きろ!」
「ううん なんじぃ〜?」
「もう6時だゾ!」
予定より1時間も寝過ごした。昨日は気絶したように良く眠り小学生並の10時間も寝てしまった。平日より山の方が睡眠時間をついつい取りすぎてしまう。飯も食いすぎ、酒も呑みすぎ、朝のお勤めもたっぷり一斗缶。まあいい。

朝メシはスキヤキ味の程よく残るラーメンを胃袋に流しこみ、俺はそのあと俗世間の匂いの濃いメロンパンを頂くと”ヤスらしい”とヨコサワに鼻で笑われる。

7時30分 やっとBCを後にした。昨晩の雪はひたすら降り続き、何度か便所のたびにヨコサワが雪かきを行った。一晩で25cm程度積もっただろうか。テントを出ると目の前の斜面は昨晩の雪でトレースも何も無い白銀の世界が広がっていた。空は快晴。日差しが目にしみる。

「きぇぇぇぇ〜!!キモチィィィ〜!!」
「よーし!頂上から滑るぞぉ〜」
と叫び、ヨコサワが登り始める。
ストックを突くと、思いの他斜面に潜りこむが、スキーを履いた両足は快適に進む。改めてスキーの機動性を実感しつつ高度を稼ぐ。

位ヶ原手前の短い急登ではスキーでの登行は不可能だった。斜面の手前の樹林帯に1パーティーがテントを張ってこちらを眺めている。斜面的にも雪崩の心配が多少ありそうなので弱層テストをやろうと思ったが軟弱な俺達は面倒なのでヤメた。こんな不精な俺達はそのうち雪崩にやられるかもしれない。次回からやることにしよう・・・。

斜登もぜんぜん歯が立たないにでしかたなくラッセルを開始するが、わかんを持ってこなかったのでヨコサワが空身ラッセルをし、俺が荷物を担ぎ上げなんとかのっこした。
先ほどのパーティーが俺達のトレースをたどり、ひょっこりと追い付いて来た
「キタナイやつらめぇ〜」穢れのない大自然の中でヨコサワが憎悪の炎を燃やす。
「今日の第一登は俺達なのだ!くぅ〜 やっさん 早く行こうよ行こうよ行こうよぉ!」まったくヨコサワは容姿は紛れもないオヤジなのに子供のようなやつだ。

快晴の中、頂上は目前に見えるが風が相当強くなってきた。肩の小屋や観測所がよく見える。ここから先の通常ルートは肩の小屋まで進み、稜線伝いに登るのが一般的だが、速攻勝負と決め、結局スキーをデポし、アイゼンとピッケルにて直登を開始した。心地よい音と共にアイゼンがピタピタと効く。高度が上がると共に風が強くなり体感温度も徐徐に下がり始める。ピッケルを持つ手が寒さの為痛い。岩稜帯と雪面の混ざったなかなかキツイ登りでいやらしいところが随所にある。
気がつくとヨコサワがついて来ない。まだ遥か下にいる。
「ヨコサワ大丈夫かぁ!」
「&▽〒♂⇔∪♀%£∨†√・・・・・。」なにかヨコサワが言っているようだが、強風と目出帽のため聞こえない。
「はぁ!?バテてんのかぁ?」
「&▽〒♂⇔∪♀%£∨†√・・・・・。」
眼下に見下ろした横澤炊事班長の目出帽の中の目は、散歩に行きたがらない犬の目に似ていた。
(一人でいっていいよ。ぼっぼく待ってるから・・・ねっねっねっ。)
そんな目だった。
「ヨコサワぁ〜!!」
目の前の頂上は偽ピークだと思ったが、粘りを見せて一気に登るとそこは剣ガ峰3026m地点だった。思わず両手でピッケルをかざし強風に吼える。しばらくして登ってきたヨコサワと握手。今年初めてのピークハントだ。頂上には神社があり写真を取ったあと、行動食を食らう。なぜか加藤文太郎を気取ったヨコサワの行動食は甘納豆だ。いつもの俺はカロリーメイトをボソボソと食べるのだが今回はヨウカンを試してみた。これはなかなかすんなり喉を通り行動食としてはとても良い感じだった。

”ダメな人”となっていたヨコサワは得意の下りで天狗になった。
「うひょ〜!うひょ〜!やっさん!いいよコリャ最高だよ!うひょ〜!ちょっと先あるいてみぃ!」

「なんだよその元気は・・・。」

「いやぁ さっきは一人で登ってきてって何度言おうと思ったことか あははは」

やっぱりこのヒトは・・・。ダメダメだったヤツがなんで下りでこんな元気になるのか解らないが、言われるがまま下りのトップを雪とたわむれ駆け下りてみる。なるほどキモチいい。トレースのない斜面は本当に気分のいいものだ。ものの10分程度で頂上からデポ地点まで下る。気がつくと位ヶ原までスノーハイクに来た人達やらがちらほら増えはじめていた。
「さぁ〜て これからが本番ですよぉ うほほほほ!」まったくこれから登りが無いとヨコサワはラテン系になってしまう。雪面は数パーティーでトレースだらけになりつつあるが、ここから先は待ちに待ったスキーだ。しかしふにゃふにゃの登山用プラブーツではこの重い雪はどうにもならず俺達二人はコケまくり。「うおおおお!!!!絶対ブーツ買うぞ!アルペンブーツ 絶対買うぞ!帰り道で買うぞぉ〜」そう叫びながら春スキーを満喫したおやじ二人は日焼けと凍傷で顔を赤や黒に染め下山して行った。



<記 狩猟班長>



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ゲレンデトップからシール登行

 

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夕食前のうたたね至福の時

 

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翌朝は快晴

 

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新雪にトレースをつける

 

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次第に風が強くなり始める

 

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頂上直下の岩稜帯をキックステップで登る

 

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槍、穂高を遠くに望む

 

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頂上から北に伸びる通常ルートの尾根

 

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頂上の神社

 

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快適そうにすべる真似をする

 

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BCで一服 春の日差しが眩しい


コースタイム
(1日目)乗鞍高原スキー場リフト下(11:55)〜リフト終点(12:34)〜BC2200m (13:48)
(2日目)BC2200m(7:26)〜位ヶ原(9:48)〜剣ガ峰(12:00)〜位ヶ原(12:40) 〜 BC(1:29) 〜リフト下(2:19)


硬派夜営集団カヌ沈隊

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