奥秩父柳小屋合宿報告(前半)
お…重い、重すぎる…。
川又から柳小屋まで約10キロのトラバースルートを、宴会用に準備した大量の酒や食料を背負って歩く。2週間前にも酒をデポしてきたので、さぞかし盛大な宴会になるだろう。
今回は、ゲストとして迎えた「瀬音の森」代表の黒沢さんの話を聞きながら、道々で採ったキノコを肴に焚き火を囲んで大いに呑みあかし、さらには、ドライスーツで潜り源流岩魚を観察しようという、奥秩父の渓を目一杯満喫する極めて素晴らしい合宿なのである。
高度成長期に使われていたという森林軌道のレール跡は、紅葉した落葉の感触を足の裏で楽しみながら歩く。ブナ林を見上げればその枝は威厳に満ちて高く、朽ちた倒木にはブナハリタケ。何度訪れても気持ちの良い、素晴らしい山だ。が!
その深い森のなか、
歩くだけで脂汗ダラダラの人間が2名いた。
カヌ沈隊の下部構成員たち、すなわちオレとガリガリだ。昨晩、友人の結婚式で激しく酩酊したというガリガリは、紙粘土で作ったようなウスラ白い表情をしていて、生気というものが全く感じられない。いわゆる完全なグロッキー状態というやつだ。にゃはは〜
ザマアミロ〜
しかし、自分も人のことを笑っていられる身分ではない。ちょっとでも登りが続くと幹部の背中が一気に遠のいていく。テクテクと涼げに歩く隊長、あんたはバケモノか〜!
荷物の重さは同じ程度のはずだが…
ん!? まてよ!
そういえばさっき、オレが小便しているあいだに荷物が分けられたよなぁ、さては重い物ばっかり勝手にオレのザックに放り込みやがったな!
絶対そうだ! そうに違いない! くそぉぉぉぉ!
「今のオレは山がキライだ…」
とボソボソ言ってるガリガリと休憩する。すると、
「ドッカーン
ドロドロドロ」というオソロシげな爆裂音がした。きっと滝から岩が落ちたんだろうと思いつつ歩きだすと、そこには、できたてホヤホヤの土砂崩れがルートを破壊していた。
もしや幹部が巻き込まれていたりして…
などと思って下を覗きこむが、幹部連中の骸とおもわしき物はなさそうだった。でもこれで、
「遅れたのは土砂崩れであやうく死にそうになったんス、はあ。」
とかいって言訳できるなぁ、と考えたオレであった。
柳小屋に到着。すでにカキピーをポリポリやってる狩猟班長に、「テメーら遅せぇんだよ!
まったくよ〜」と怒られる。ガランとした小屋の中で円座になり、とりあえずビールで乾杯。山のように積み上げられた酒を眺め、
「これだけの酒を持ち込んだ人はいないだろうねぇ」
と黄色い笑みを浮かべる隊長は、すこぶる御満悦の様子だ。オレは汗びっしょりのシャツを着替えようとザックを開けた。
が!、なんとしたことか着替えがスーツしかなかった。
忘れてた…。荷物を軽くするため、着替えを置いてきたのだ。これは「絵的に面白いから」という理由で強制的に持って来させられたスーツで、
「ドライスーツで渓に潜る狩猟班長と、アオキの速乾性ドライスーツを間違えて持って来てしまったフカマチ」(”もみ”のマスター入知恵)というテーマがあるらしい。仕方がないのでYシャツを着てネクタイもする。無論のこと靴下もちゃんと用意してきたのだ。小屋の隅にうずくまり、
「サラリーマンの自縛霊」とかいって写真を撮って遊ぶ。酒を呑んでいると、2人組が小屋に入ってきた。「なんでスーツの人がいるんですか?」と場違いなオレの格好に驚いたようす。「え〜っと、仕事帰りに拉致され、気がついたらココまで来てしまったのです…。」と、仕方がないのでテキトウに答えた。
柳小屋を今夜の宿とする登山者がぞくぞくと集まってきて、某女性ガイドに引率された15人くらいのパーティがやってきたときには、収容人員をオーバーしていた。この人数が横たわることはできない。やはり最近の岳人にデカデカと紹介されていた影響が大きいのか。
「どうする?」と顔を見合わせたカヌ沈隊は、小屋の外で寝ることに決定。河原にブルーシートを張り、焚き火を起こす。雨が少し降っているが、出てみれば外のほうがよっぽど快適だ。採ってきたブナハリタケ・ムキタケなどを、炊事班長がテンプラにする。旨い!酒を呑み、与太話に花を咲かせ、酩酊すると学習能力が低下する隊長がローソクまみれになりながら、奥秩父の夜は更けていったのであった。
<記 フカマチ隊員>
奥秩父柳小屋合宿報告(後半)
ガリガリ隊員 報告待ち おたのしみに!
|