上越・魚野川毛渡沢シッケイ沢単独

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平成12年7月19日〜20日

★★★★

硬派者:隊長

1/25000 地形図:「土樽」「三国峠」「茂倉岳」「水上」


<ルート> 土樽〜毛渡沢〜シッケイ沢中俣〜シッケイの頭〜仙ノ倉北尾根〜仙ノ倉山〜平標山〜平標新道〜土樽


風が渡り、雲が流れて行く。

仙ノ倉・平標間の気持ちの良い尾根は、「アルプスの少女ハイジ」を思い起こさせる風景だ。

俺はといえば、朝イチから2時間の藪漕ぎと水不足でボロボロ。危機迫る表情だったに違いない。通り過ぎる登山者は目を合わせようとは決してしなかった。

平標山山頂で小休止。残り僅かな水をチビリとやる隣で、ハイキングのおじさんが小さな小さなザックから1リットルのペットボトルを2本おもむろに取り出し、「ゴクッ、ゴクッ、ゴッキュキュキュ、トクトクトクトク・・・」と喉をならす。

「くそオヤジめ」と呪いながらも、売ってもらおうか、などと考えている自分が可愛い。


上越魚野川毛渡沢・シッケイ沢に単独で入った。のんびりと釣りでもしながら一人の時間を楽しもうと考えたものだ。

単独は久しぶり。気負う事も無く、お気に入りの本と酒をザックにしのばせ、早朝気分良く車を走らせた。

2時間弱で土樽駅に到着。

ルートは土樽〜毛渡沢〜シッケイ沢中俣〜シッケイの頭〜仙ノ倉北尾根〜仙ノ倉山〜平標山〜平標新道〜土樽。毛渡沢は滝らしい滝はなく、明るい沢らしい。心配なのは雪渓の有無だ。駅から毛渡沢出合いまで、仙ノ倉谷沿いに1時間の林道歩き。出合で一服。梅酒を割って飲む。思ったより水量が多いが、天気も良く、気分も上々。

さて、行くか。

今日は平日。へたっぴな俺の振る毛鉤にも、イワナが食いついてくれるかもしれない。所々、竿を振ってみるが反応は無い。しばらく歩くと渓相が変わった。沢は雪崩の影響か倒木で埋め尽くされズタズタになっている。先行していた3人組の釣り師に追いついた。「これじゃあ、釣りにならないよ」と帰っていたが、この様子が続くようなら、とても沢登りにならない。「まあ、もうちっと頑張ってみっか」と倒木クライミングを続け、シッケイ沢に入る。倒木も徐々に少なくなり、再び竿を出す。テクニックもクソもない提灯釣り。反応はあったが、針にかからない。

すぐに二俣だ。左から10M弱の幅広のナメ滝が合わさっている。右俣にはスノーブリッヂ。さて。ここが思案の為所。当初の予定は、シッケイ沢左俣〜仙ノ倉山〜万太郎山〜吾策新道〜土樽。が、どうも雲行きが怪しい。雷雨になりそうである。加えて左俣は少々長い。

結局左俣は諦め、中俣からシッケイの頭に詰めることにする。

問題は幕場である。この出合い付近に幕を張り、イワナを釣り上げ焚火を楽しみたいところだが、今ひとつなのだ。あちこちで寝転び、快適度を確認するが、しっくりこない。1時間ほどウロウロしながら高台の幕場を探すが、快適な一夜を約束してくれるような場所は無い。時間だけが過ぎて行くなか、地形図や遡行図と睨めっこ。最悪、稜線まで詰め上がる事も考慮に入れ、遡行を再開することにした。もうすぐ3時になろうとしている。これより上では、楽しみにしていた焚火はまず無理だろう。が、兎にも角にも夕立ちが来る前に、なんとか幕場を見つけ、幕を張ることが大事。

スノーブリッジは安定していそうだが、右から簡単に巻けそうなので巻いた。すぐに左から小さな支沢が入る。そこが、中俣出合。見落としてしまうのか、小さい沢なので中俣だとは思わないのか、間違えて右俣に入ってしまうパーティーが多いらしい。

中俣は、"滝と言えば滝かなあ?”といった程度の小滝が連続した後、突然開け、300M程のスラブになる。乾いていれば全く問題は無いだろうが、スラブは濡れていて、しかも所々雪が残り、

一人で罵詈雑言を口にしながら登る。水流から外れるとグジュグジュの草付きで、なかなか悪い。途中からガスが出始め、視界が利かない。遠雷が聞こえ始める。疲れてはいるものの、休んではいられない。結局、シッケイの頭まで詰め上がってしまった。源頭は草原で、ワタスゲやニッコウキスゲに囲まれ、ガスが切れた正面には万太郎山が大きく、なかなかの眺め。しかし、草原ではブルーシートを張るにも、立ち木がなく、辛うじて山ウルシの低木とアイスハンマーでシートを固定。生暖かい風が出てきたと思ったら、ポツリ、ときた。稜線上なので増水の心配は無いが、落雷と風が心配だ。ジャラ物は少し離れたところに放置したものの、一発落ちれば、無傷ではすまないだろう。アイスハンマーを土に埋め込み、後は祈るだけ。

夜は雷雨の中、ブルーシートを布団のように被り、ウイスキーを飲みながら、「風雪のビヴァーク」を読みふける。なかなかの臨場感だ。

いつの間にか酩酊。熟睡。気がつけば、万太郎山が朝焼けに染まっている。草原に我唯一人。なんとも気分が良い。

シッケイ沢源頭で汲み上げた2リットルの水も、すでに余裕がない。コーヒー1杯を入れ、パンやカロリーメイトなどを頬張れるだけ頬張る。快晴なので体力の消耗も激しいだろう。ルートの選択肢は2つ。仙ノ倉山まで北尾根を藪漕ぎするか、イイ沢を下降し、仙ノ倉谷に至るか。結局、雪渓が恐いので藪こぎを選択。目前に仙ノ倉山が見えているものの、所々、密な潅木帯でてこずる。あたり一面、咲き乱れているニッコウキスゲだけが救いだ。予想以上に時間がかかり、二時間の藪漕ぎとなってしまった。水不足とシャリばてでヘロヘロになりながら、平標新道を下る。平標新道から仙ノ倉谷を見下ろすと、

西ゼンと東ゼンの出合いより下流はびっしりと雪渓に埋め尽くされ、所々パックリと口を開けている。もしイイ沢を下降していたら、と思うとぞっとする。今回は結果オーライだったが、状況判断の難しさを実感した。まあ、その様々な状況判断の積み重ねこそが、沢旅の面白さなのだろうけど。

仙ノ倉谷の渡渉点で、ようやく水不足とシャリばてを解消。あとは、のんびりと土樽駅(土樽駅に車を止めたので)まで歩いた。

<記 隊長オザキ>

 

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コースタイム概算(釣りをしていた時間を除く)。

土樽〜毛渡沢出合 1時間毛渡沢出合〜シッケイ沢出合 3時間(倒木が少なければ、もっと早いだろう)シッケイ沢出合〜中俣出合 30分中俣出合〜シッケイの頭 2時間30分シッケイの頭〜仙ノ倉山(仙ノ倉北尾根) 2時間

*仙ノ倉北尾根の藪漕ぎは、ほとんどが視界のきく熊笹。1750Mからの登りは、尾根上や仙ノ倉谷側は密藪がうるさいので、毛渡沢側をトラバース気味にルートをとるのが良いと思う。


硬派夜営集団カヌ沈隊

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