阿弥陀岳 南稜

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朝日を浴びる阿弥陀岳

平成12年12月29日〜30日

★★★

硬派者:隊長、炊事班長、狩猟班長

1/25000 地形図:「八ヶ岳西部」


まるで星のなかに頭を突っ込んだような…。

満天の星空。キンと張りつめた空気。雪を踏みしめる音と、テントから聞こえてくるヤツらの話し声。どれもこれも懐かしい。あれから丸1年が過ぎた。どれほどこのひとときを待ちわびただろうか。また再び山に来ることができたことが何にも増して嬉しい。

股間から綺麗な弧を描きながらもう一度夜空を見上げた。冷たい空気のなか、心はとても暖かかった。


1229

カヌ沈隊幹部三名は久しぶりに山での顔をそろえ、2000年を締めくくる冬合宿“阿弥陀岳 南稜“を目指し、中央高速を飛ばした。当初の予定は北アの爺ヶ岳〜鹿島槍を予定していたが、寒波の到来により天候が悪化した為、今回はそれを避け、この時期比較的天候の安定している八ヶ岳へ逃げてきたのだ。バリエーションに一応属する南稜は雪稜と岩峰の変化にとんだ脱一般ルートとして知られている。俺の試験も無事終わり、こころ踊らぬなずがない。本格的な山は去年の丁度今ごろ、唐松岳以来のことだ。その後はろくな運動もせず、せっせと勉学に勤しんでいた俺だったが、体力的な不安はあまりなかった。

学林に車を停め車中で仮眠を取るが、久しぶりの興奮の為、一向に寝つけず目をギラつかせ29日の朝を迎えた。美濃戸口駐車場に登山計画書を提出に行ったヨコサワが、現在では舟山十字路から先のゲート跡(今は無い)を超えて、車は中に入れるという情報を仕入れて来た。さっそく林道奥地まで入りこみ入山。当日は快晴、無風。絶好のコンディション。いきなりの急登をゆっくりと登り始めるがどうも調子がでない。プラブーツの感触もいまいちで、何度か締め直したが、練習の為とはいえ雪の少ない尾根をアイゼンをつけて登ることもいまいち慣れない。しかし長い登りはとどまることなく続いゆく。

『おかしい…おかしいぞ…こんなハズでは…はぁはぁ』

少々バテ気味で、ヤツらに離されることもしばしば。

「かぁぜがっ♪〜」『かぁ〜ぜがっ♪ 』「ふぅ〜けばっ♪」『ふぅうけばっ♪〜』「ちんちろりん♪」

前ではヤツらが“似非山賊の歌”を掛け合いで歌っている…。くっそぉ忌々しい…自分のペースがつかめない。80Lのザックは重いにしてもやはりおかしい。1年のブランクがこんなにもツライとは

2370を過ぎたあたりで悪夢は突然襲ってきたのだ

『いてぇ!イテテテテ!足!あしがぁぁぁぁぁぁ があががががあ!!!!!』突然棒のように硬直し、つった足を抱え込みもだえ苦しむ俺。『なんでだぁあ!けけけ今朝 ううううんこしなかったからかぁああががが!!!あががぁごごごめんなさいかみさまもうしませんんんんっていや しますしますちゃんとしますってばぁぁぁぁぁ!!!!』心の中でそう叫び唱えていると

『うふふ よわっちぃのぉ♪のほほほ♪』

と嬉しそうにパチリパチリとのけぞる俺のまわりで小躍りしながら写真を撮る隊長オザキ。鬼畜めっ!激痛で顔を醜く歪め苦しむ中、『撤退』の2文字が頭をよぎる。んなバカなっ!こんな登り程度でっ!?目障りなやつらはさっさと先に行かせた。しかし1人さみしく雪上を根性で進むがあまりの激痛で直に倒れこむ。『こうなったら匍匐前進だっ くっ はぁはぁ なんなんだよ!クソォ!』自分自身にモーレツに腹が立つ。薄れ行く意識の中で、忌々しいフカマチの声がどこからともなく聞こえて来た。

『あれぇ?どうしたんスかぁ?スかぁ?スかぁ?))))荷物もちましょうかぁ?かぁ?かぁ?)))))』

『うるせぇ!ボケ!』そう叫びながら雪上を芋虫のように進んでいると次第に痛みが去っていき、その後は先ほどの激痛が嘘のようになくなりった。いや”幻”か”宇宙人”の悪戯だったのだろう。こんなとこで足がつるワケがない。

青ナギ手前の樹林帯には阿弥陀を正面に見上げる最高のテント場があった。阿弥陀岳はいやおうにもヤル気をソソるイケナイ姿で俺達を見下ろしている。

なにはともあれ今日の行動予定はこれで終了。あとは美味いヨコサワのメシを食らって酩酊になだれこむだけ。ニラのないのが残念だが、ヨコサワの絶品のチゲ鍋がモヤシと絶妙にマッチして美味すぎる。息も付かずに腹に流し込む。メインディッシュの“ナゼかすっぱい焼き肉”は少々頂けなかったが、とにかくたらふく頂いた。その後は文字通り呑めや歌えの大宴会。カナシイかな歌はあまり知らないので似非”山賊の歌”を何度も繰り返す。会話は全て山賊のメロディーに乗せているといってもいいほどの乱痴気騒ぎだ。

『そぉれにぃしても グビっういぃ 今日のやすはフカマチに見せたかったなぁ〜ハァ〜ういぃ♪』

正月の浅草映画館通りを歩いていそうな赤鼻面のオザキがトロンとした目で嬉しそうに繰り返す。その横でヨコサワが南稜への熱い想いをモンゴル人のような形相でヒトリ語っている。酸欠気味のテントの中、ラジオからは

『カーコンビニクラブ!♪へこみ直しますっ!』と下界の元気な声が鳴り響いている。(オマエのへこみも治してもらったらどうだぁ?)と俺の中で誰かが囁いた…。

 

1230

5時起床。予定通りだ。昨晩はいつものごとく泥酔し寝袋に入らないオザキを女房役のヨコサワと人のメンドウをみるのがやたら嫌いな俺とで寝袋に詰め込んだ。今朝は今朝で昨晩先に気絶したオザキが猛烈な尿意に襲われたらしく、一番にもぞもぞと起きだし、インナーブーツで“世界のチーズ”をにゅるりと踏み潰し、プロトレックの僅かな明かりで足元を照らし、じたばたと暗闇の中テントの外へ出ていった。相変わらず”駄目な人”だ。

出発は予定より30分遅れた730分。試しに繋いだ携帯電話で在京本部のフカマチに留守電報告を入れ出発。

バリエーションルートということで心して取りついたのだが、P3手前のトラバースが少々いやらしかった程度で、核心部のP3下のルンゼにはフィックスロープまで用意されており、少々興ざめしつつも安易に使用してゴボウで登ってしまい、午前1130分 登頂。

下山ルートは御小屋尾根を利用。コンティニアスで仲良し3人組となりどんどん高度を下げたあとは単調な下りが続く。晴天の中、スノーハイク的気分で舟山十字路までゆっくり下る。舟山十字路から駐車した場所までは、空腹をいやすことの出来ないアメ玉を頬張る俺と珍しくシャリバテ気味のヨコサワが「なんか食わせろ なんか食わせろ」と呪文を唱えつつ今回の山行を終了した。

 

<記 狩猟班長>

 

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最近清清しい笑顔を心がけているというオザキ隊長

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立場山手前から

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宇宙人に太ももの筋肉をつままれのた打ち回る狩猟班長

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阿弥陀岳をバックに

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無名峰からの眺め。イケナイ姿だ

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頂上にて 後ろは赤岳

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雲海に浮かぶ富士

 


硬派夜営集団カヌ沈隊

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