丹沢・四十八瀬川・勘七ノ沢

平成12年4月  日

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天然のしいたけを採取し、喜ぶガリガリ奴隷候補

★★★

硬派者:隊長  ガリガリ奴隷 客人 稲垣殿

1/25000 地形図:「大山」

 久しぶりの合宿である。本格的なシーズンには、ちと薄ら寒い季節ではあるが、今回の合宿は沢登り。神奈川県は丹沢、勘七の沢である。難易度は一級、ヨーするに初心者、入門者に最適の沢である。日帰りコースの短い沢であるが、ゴルジュあり、本格的な滝の登攀ありで、沢登の魅力を十二分に凝縮された沢であり、シーズン中には滝を前に列ができるほどの人気がある有名渓である。最近、合宿にご無沙汰のワタクシは、前日、運動不足から生じる、失神こむら返りを懸念し柔軟運動にいそしみ、遠足を待つ小学生の様を呈して、眠れない夜を過ごしていたのであった。

 立ちはだかる岩塊を睨みつけ、己の力により滝を屈服させる。山頂に突き上げ、眼下の雄大な景色を眺めつつ、ビールなどをぐびぐび頂く。そして夜には星空のもと、焚き火の周りに車座になり、言葉少なげな男達は静かにバーボンを呷る。くー!いいじゃないいいじゃない。オザキ隊長との待ち合わせの場所、焦点の合わない眼で、ガードレールに腰をかけ不気味に微笑んでいた私は、危うくダンプに跳ね飛ばされそうになり我にかえったのであった。

 待つこと少々。

「テメェ!こんな変なところで待ち合わせすんじゃねえ!駐車場ねえじゃねえか!」巨大な人間がサンダル履きで走ってきた。隊長である。「すいませーん」早速ザックを後部座席に放り込み助手席に飛び乗った。初めて乗車するカヌ沈隊旗艦デリカ隊長号は、つい最近購入したとは到底考えられない状態に混沌としていた…。この瞬間より、俺の非日常が始まるのであった。

 今回のメンバーは、泣く子も黙るカヌ沈隊オザキ隊長、そして隊長が所属する、自然を愛する集団「瀬音の森」のツワモノ稲垣さん。オーストラリア帰り、本格派フライフィッシャーのフミさん。そして、最近、すきやより吉野家のほうが旨いなあと感じている自称カヌチニストのワタクシの4人である。前日は「瀬音の森」のボランティア活動で、山という山にヒノキの苗木を植えまくった我々は、今回の幕営予定地である二又の出合いを目指し車を走らせたのであった。

 目的の出合い近くに車を止め、橋の上より川を見下ろす。水を見た瞬間、フミさん稲垣さんの顔つきがかわる。この豹変振りただ事ではない。稲垣さん瞬く間に釣上げる。結局1時間そこらで良型塩焼き旨いぞサイズ3匹、味噌汁のだしで旨いぞサイズ1匹ゲット。こんなに簡単に釣れるものであるのか。俺も本格的に釣りやってみようかと、マジでかんがえる。フミさん曰く「ここらへんはあまり釣れないのでは」ということであったが、思わぬ穴場であったようだ。流木を集め火を起こし、食事の仕度。今回の炊事班長が参加していないため、食事担当はワタクシであった。献立は前回序の口隊合宿でまあまあの評価を受けた豚シャブ、茸汁である。前日いそいそと用意をしていたのだが、稲垣さんが「これ食っちゃってよ」となんだか凄いものを出してきた。どかっとまな板においたその塊は、何やら動物の肉のようである。

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剣鉈でマグロをさばく、硬派野営人・稲垣さん

 

今夜のオカズはカジキマグロのしゃぶしゃぶだ

 

稲垣さん曰く、カジキマグロの切り身だそうだ。さらに特注のしゃぶしゃぶ専用鍋、卓上カセットコンロ、座布団。次から次とどかどかお店を広げ始めた。腰にぶら下げたでっかいナタで無造作に切り分け、皿に盛り付けている。なんなんだこのひとは。車の中にハーネスも常備されているし、素もぐりで伊勢海老つかまえるらしーし、うーんただものではないな。

 さて、このマグシャブなるものであるが、舌の回ること、回ること。もう矢も盾も堪らぬや。その味、筆舌に尽くしがたし。少しレアで頂くのがとてもよろしい。スバラシイ仕事ですね。おいしゅう頂きました。あらかた食べ終わった後は、うどんを入れ青いのをざくっとぶち込み、しゃきしゃきちゅるちゅる頂いた。さらに、焚き火周りにはヤマメの塩焼き、さらには落ち棒拾い中に発見した肉厚天然しいたけ。遠赤外線により、香ばしく焼き上げたこれらの品、ワタクシの五臓六腑は震えるばかり。その味、芳醇かつ濃厚、至宝であり究極であった。このようにして男達の阿鼻叫喚、酒池肉林の夜は更けていくのであった。

 ショートカットの女がいる。

ホテルの一室。女は怪しげに微笑むと、するすると、そしてじらしつつ服を脱ぎだした。俺もつられて服を脱ぐ。その女はしなやかな体をあらわに、俺にしなだれかかってきた。俺は腰を抱き、いきり立つ息子をなだめんばかり、人間の本能的情動にまかせようと……。。。ん… ? 

「てめえええ、いつまで寝てるんだああ!!さっさと起きろ!!」 

いざゆかん、まさにその瞬間であった。我が愛するさきっぽは、めくるめく花園へあと僅か2p、緊急接近エマージェンシー状態であった。硬派野営中にまさかこんな夢を見るとは。叩き起こされて良かったものか悪かったものか。しかし、実弾暴発カピーパンツで遡行したら後世に名が残ってしまったであろう。アホである。

 そんなこんなで、遡行当日朝となる。突如現れた、林道ゲートを管理する親爺に「あんた達、どっからはいったんだ!駄目じゃないか!ここはキャンプ禁止だぞ!おいおい!こらこら!」と怒られつつ、我々は素早く撤収し、身支度を整え入渓となった。

 二又を左に折れるといきなりF1である。自分は初めての本格的な滝の登攀である。滝の脇に立つと思ったより高い。隊長はトップでスルスルと登ってしまった。上手いもんだなあと感心しつつ、すこし怖いが、ナントカなるだろうと、安易に考え、降ろしてもらったザイルを早速環付に付け取りつく。思ったより手足が動き簡単に登ることができた。なんだ簡単ではないか、有頂天になった俺ではあるが、後に思い知らされる。F3かF4か忘れたけれども、斜度がゆるくフリーで登れそうなところがあり、隊長が大丈夫だろうと判断したところを挑戦してみた。まったく話にならない。意気込んで取りついてみたものの、「この岩にひっかけた足が滑ったらどーなっちゃうんだろう。」「この苔むした岩大丈夫かなあ。」「おおお、脹脛がこむら返りになりそうだ。」不安ばかりが先行する。右上にホールドになりそうな出っ張りがあるのだが体重移動が恐ろしく手がでない。にっちもさっちも行かなくなり、完全な達磨である。なんとか足場を見つけ安全地帯でザイルを出してもらう。ザイルで確保されているという絶対の事実。すべっても大丈夫という安心感。腰に感じる絶妙なテンションの感覚。隊長が神々しく見えた瞬間であった。

 F5に到着、15mの大滝である。今回のメンバーではザイルワークができる人間が隊長しかいない為、高巻を選択。次回来る機会ががあれば、技術的になんとかなるようにしたいものである。その後小さなゴルジュを越え、核心部を過ぎた後は、空沢をひたすら上り稜線へ至った。途中解りづらい分岐部には赤布がうってあり、支沢に迷い込むこともなかった。大室山到着後、一般ハイカーの中でガチャガチャとジャラ物を鳴らし、俺は沢を上ってきたんだゾーと自慢するのは、若輩者の自分はとても気持ちのよいものであった。

(記 ガリガリ奴隷)


沢始めの、しかも最初の滝を目前にしたときの緊張感はなんともいえない。

それが、なかなかにして滝らしい滝なら尚更だ。

丹沢・四十八瀬川・勘七ノ沢。あまりにも有名なこの沢は、F1からF5の滝を持つが難易度的には目前にしているF1が一番難しいことになっている(FはFALLの意、滝をあらわす。下流から順にF1、F2となる)。

先行パーティーの最後の一人が滝の中程で難儀している。

5M程のその滝は、思っていたより悪く、一度クライムダウンして仕切りなおし。去年まで愛用していた渓流タビは、つま先のフエルトが無くなり、今回から秀山荘の渓流シューズに変えたのだが、そのフリクションをいまいち信用できない。

勘七ノ沢は人気の沢だけあって、支点工作には全く困らない。腐ったハーケンやリングボルトではなく、しっかりしたハンガーボルトだ。ガリガリ、稲垣さんとも、いとも簡単にF1をクリアー。F2・7Mは楽勝。稲垣さんの希望もあって一応ザイルを出す。F3もノーザイルで行けると判断したが、稲垣さんとガリガリにとっては、途中少し悪いところがあるらしく、お助け紐ならぬお助けザイルを出す。稲垣さんは、片手でブーリンを結び上がってくる。

沢登りが始めてだとは思えないが、源流での釣りを目指しているので知識はカヌ沈を凌駕する。

ガリガリには末端に8字結びを作ってザイルを下ろす。

先行パーティーは8人。滝では必ず、待たされることになり、F4では1時間以上待たされることとなった。沢の遡行は小人数に限るな、などと考えた。

ガリガリは、米子沢や御前山・中尾根合宿などで良い経験をしたらしく、待っている間に、あったかいスープを作ったりして、そこそこ慣れてきたようだ。つめの登りで少々バテてはいたが、いいペースでの遡行ができた。

F4を登り、その後やっと先行パーティーを抜かしたところでF5の大滝である。左壁を水流沿いに登れば問題はなさそうだが、15Mの高さが気になる。事故が多いことも知っていたので、ちょっと嫌な感じがする。まさか後続を待たせて確保の仕方を教えるわけにもいかず(実際には、やり方だけは教えてはいた)、かといってノーザイルで登るには、ちょっと怖い。かなり迷ったが、8人組が巻きに入りそうなので、先に高巻くことにした。

結果、その後停滞することもなく花立山荘に詰め上げることができた。

しかし、である。俺の気分はスッキリしなかった。

「登れない」のと「登らない」のでは全然違う。後続パーティーに先行してもらって、じっくりと滝に向かうべきではなかったか。それが、沢屋を目指すものの姿勢ではないのか。滝の登攀訓練いうことにテーマを置き、丹沢に来ているのだ。いろいろな意味でトップで登ることの難しさ、重要性を感じた。

そして、それはそのまま俺達の実力なのだ。

山行自体はそこそこ充実したと思うし、天気にも恵まれた。ガリガリにはそこそこ楽しんでもらっただろう。しかし、今回、幹部が不参加だったことが想像以上に俺を不安にさせた。それ程に、横澤とやすを信頼していた自分を実感した山行だった。

(記 隊長 オザキ)


コースタイム

遡行時間 二又〜花立山荘〜二又 5時間(滝の待ち時間を差し引いた推定時間)


硬派夜営集団カヌ沈隊

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