南アルプス某所 奴隷強化合宿

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(畑薙ダムを前に)

平成11年9月18日〜19日

硬派度 ★★


硬派者 隊長、炊事班長、狩猟班長、奴隷候補・フカマチ・ガリガリ 客人ユウ

計6名


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今回カヌ沈隊は隊長の独自ルートにより入手した情報を頼りに、南アルプスは畑薙ダムに流れ込む某沢へキノコ、岩魚三昧大宴会を目論んだ。しかし軟弱奴隷候補2名と客人1名を引き連れ、獣道をはいずり、ヤブコギに泣き、懸垂下降にて到着した極楽浄土のベーキャン地点のはずだったが・・・。

今回の報告書は奴隷候補2名と客人より


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フカマチ奴隷候補からの報告

「ラクッ!」峡谷に甲走る絶叫。
我々は今、直下100メートルに迫る川を見下ろしながら、崖にへばりついているところだ。

ラクとは、落石注意を知らせる合図。
下でザイルを確保している炊事班長の傍らを、歪に尖った拳大の岩が駆け抜ける。
残像さえ見える得意の高速移動でヒョイ、と避けるものの、頭に一撃食らえば頭蓋骨陥没も充分ありうる。危険極まりないことに間違いはい。少し気を抜けば、待っているのは、死もしくは重傷。大袈裟ではない。
「コエぇ〜っ!」ガリガリ奴隷候補が叫ぶ。
微妙に緊張で頬を強張らせているのは、ユウ奴隷候補。
先走り奴隷候補ことワタクシは、意識的に平静を装う。
我々奴隷候補3人は、今回が懸垂下降初体験である。なにもこんな険所でしなくても・・・処女のように身を固くしたりはしないが、「やさしくしてね」とはお願いしたくなる。


tibetan-kensui2.jpg (60526 バイト)オレの番。ハーネスをチェック。エイト環にザイルを通す。焦りなのか、一度は逆に通してしまう。
体重をザイルに預ける。右手の握力を弛めると、自重で下降し始める。
「なんだ、簡単じゃん!」心の内で笑う。
しかし、調子に乗ったときが危ない。足場を確認せず、左にヨレて不安定な岩を踏んだ。
「ラク!ラク!」もの凄い勢いで奈落へ落ちる岩片。
事後反省。我が身の確保だけを慮していてはいけない。ここでは、自分の過失が仲間の命を奪うことに直結するのだ。
30メートルのザイルを使って3度の懸垂下降。降り立つと隊長の笑顔と握手が待っていた。
「お疲れ!」だか「おめでとう!」だか忘れたが、その言葉が妙に嬉しかった。

さて。導入の章を終えたところで閑話休題。
合宿の具体的な行程と顛末は、ガリガリ奴隷候補とユウ奴隷候補が記すだろう。しからば、ワタクシは少々違った角度から書かねばなるまい。同じ内容の繰り返しでは、読むほうもつまらないだろうからだ。そこで、
カヌ沈隊の奴隷とは何か!というテーマに沿って進めていこうと思う。

朝。
道というには余りにも頼りない踏み跡を辿って登る。
木々の間から垣間見える青空を仰ぎ、一息つく。オレの心臓は、既にバクバク状態。
クソッ!秩父40のときと同じじゃないか。ゼエゼエ。
淡々と、事も無げに進む隊長と狩猟班長の背中が遠ざかる。あの人たちはタフだ。基準にしてはいけない。
それにしてもザックの重さが肩に食い込んで痛い。背負い直すのに便乗して、また休む。
「乳酸が貯まってきたぁ〜」後ろでガリガリ奴隷候補が嘆いている。オレは同類を発見し、密かに嬉しい。
ガリガリ奴隷候補。その愛称に似合わぬ、182センチ・80キロの立派な体躯のこの男は、一見すると物静かそうな顔をしているが、「ウオー」「ウメー」「コエー」など、感情を片仮名二文字と横棒一本で表現するのが好きらしい。根が単純なんだろう。
その後ろ、さっきから無表情を貫いているのがユウ奴隷候補。この時点では身分は客人だが、今は奴隷候補扱いとする。因みにこの人は足が異常に臭いらしい。やせ形体型は足が臭いという通説どおりである。
隊長と狩猟班長が地図とコンパスで現在地を確認している。オレも覗き込みたいが、黙ってついていくことにした。次回までに読み方を学習し、地図を持参しようと決意する。勾配・距離等を把握しているのとしていないのでは、精神疲労がかなり違うのだ。クソッ!

takibi.jpg (23795 バイト)夜。
飯の後、缶ビールを煽る。猛烈に眠い。疲労している。
話題がカヌ沈隊の奴隷候補の今後、というテーマにいたる。
「連れていってもらうだけ、じゃダメだ」と狩猟班長。
「ナニをやりたいのか、ハッキリさせること」と、隊長の御言葉。
kanbu.jpg (43055 バイト)非常に興味深い。なるほど確かにそうだ。
・・・汗をかいて登り眺望を愉しみ、草樹を触り観察し、大小動物に親しみ、渓に足を浸し、魚や茸を採取して喰らう。焚き火を囲み、語らい、酒を舐め、寝る。山で遊ぶのは、素晴らしい。
しかしである。
たとえば、地形に関する知識が無ければ、遭難してしまう。遭難した場合の正しい対処法を知らなければ、死ぬことも充分ありうる。
どれ程の重量の荷物を背負って、どんなルートをどれだけ歩けるのか、自分で知っていなければならない。どの茸が喰えて、どれが中毒をおこすのか、また、どの場所にどのようにして寝ればよいのか。
羅列すると切りがないが、全ての要素がそれぞれ奥深い。
事前に知識として蓄えておく事が肝要だし、体験して初めて学習することも必要。
「山に行って茸と山女を喰いたい。では、それにはどんな準備が必要か?」
そのへんに、
「硬派」の欠片が隠されているような気がしてきた。

奴隷候補とは、修行中のカヌチニストである。我々には、身につけるべき技術、蓄積すべき知識は沢山あるのだ。しかし、教えていただくが故に、
幹部の下僕でもある。
それを忘れてはいけない。
ガリガリ奴隷候補・ユウ奴隷候補・ナカハラ奴隷候補。奴隷仲間は増えた。
近い将来、奴隷合宿なるものをやる必要があると思われる。


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ガリガリ奴隷候補からの報告書

※ガリガリは某動物病院の獣医なのである。

山から日々の生活に戻り、「は〜い、モンドの介ちゃん、今日はどうしましたか?」
「うーん、風邪ひいちゃったようだね」「お大事に」、いつもの何変わらない日常に埋没する訳だが、未だに、心ここに在らず。犬などにガブガブ齧られ、イタタタタと我にかえり、仕事仕事と言い聞かせて見るものの、
注射マシーンと化してる自分に気づく。


会う人会う人に自慢話。さも自分が釣上げたことのように源流イワナの話をし、受け売りの茸の講釈を垂れる。
 夢の話、映画のワンシーンが頭の中にこびり付き、なにかの拍子で染み出てくるように、ぼーっとすると、そそりたつゴルジュの壁から差し込む
光の帯、ブナ林の薄暗い苔むした地表、絶えることの無い豊かな水の音が、脳裏をよぎる。便サンを見るとなぜかマイタケご飯のかぐわしい芳香が視床下部を刺激し、雑踏の中、リュックを担いでいる人を素早く発見しては、観察し、「うむ、あのザックだったら、ヌンチャクカッコ良くつけられるなー」「ぬう、軟弱バックめ」と、かなり怪しい熱い視線を男の背中に送っている。garigari-kawa.jpg (35703 バイト)
 診察台から物を落すたびに、ラックラックラックと独り言を唱え、突然、エイト管の向きは、こっちで良かったかなと、確認し、紐を見つけるとすぐさま意味も無く
8の字を作ってみたりする。


 朝の定期便を済まし、渦に消え行く分身を眺めてふと思う。幕営地での朝のキジ。(キジ:野営生活では欠かすことの出来ない行事。野糞 一般的に”キジ撃ち”という)ゆるキジ、かたキジ、みずキジ、みだれキジ。キジにはいろいろあるが、今回の遡行での唯一のキジは、2色のツートンキジであった。はじめの半分は黒々とし、暗赤色で艶悪く、下界の様々なしがらみ、愚痴、怠惰、嫉妬を如実に顕わすものであった。残り半分は、なんというべきか、
芳醇で濃厚、尊厳かつ偉大。筆舌に尽くせないほどの至宝のきじであり、山の不動たる力、ブナ林の静寂、沢の生命、それらを咀嚼・凝縮したものが、分解され、森によって浄化されたもの。なるほどなるほど、妙に感心してしまうのであった。

garigari-taityou.jpg (33513 バイト)今回の遡行、山登りほとんど未経験の自分としては、かなり楽しみであった。初めてのカヌ沈隊での活動が、軟弱ベーキャン方式とは言えど、ハーネス、ザイルなどを装備しての沢登り。「懸垂下降?エイトカン?なんだそれはー!」てな状態であった俺としては大丈夫かな?と、かなり心配であった。しかし体力、運動神経にはそこそこ自信が有ったため、まあ何とかなるだろうと軽くかんがえていた。


 甘かった。何も体につけていない状態では、何てことない、がれ場のトラバースでさえも、滑落の恐怖が付きまとう。重いザックはずしりと肩に食い込み、汗腺という汗腺はすべて開ききり、少しバランスを崩しただけで落ちてしまうのではないかと、足がすくむ。斜面の急登では、脹脛の筋肉が酸素欠乏・乳酸蓄積で悲鳴を上げる。
「ねえお願い、やすんでくれないかな」心の中でつぶやいてみても、幹部の人間はなんだか、尋常でない体力・胆力の持ち主、散歩をするがごとくスタスタと歩いている。おそらく幹部たちの細胞の中には、ぎっしりと葉緑素がつまっていて光合成を行いエネルギーを得ているのだろう。そして、心臓にはボウボウと毛が生えているに違いない。疲れたり、怖かったりするのが恥ずかしく、独り言というか叫びに近いものが多くなる、照れ隠しと同じものだろう。「慣れだよ、慣れ」とは、言っているけど根本的に何かが違う気がする。朝2時ごろ草薙ダムに到着し、それだけで疲労困憊、睡魔が襲い、いち早くシュラフにくるまり眠りたい時でさえ、幹部たちは「ようようビールでも飲もうぜ」と、ガハガハ騒いでいる。カヌ沈隊恐るべし
 まあこれから、「硬派とはなんぞや」というメビウスの輪のようなような命題を解く為、日々是精進しようと考えている今日このごろのであった。


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客人ユウからの報告

「もしもし、今富士だからもう少し待っててぇ〜」
「・・・・・ハイ・・・・・」
「ガシャ・・・・プープープープー」
「・・・・・・・?!」
マジでぇ〜〜〜〜〜?!
と始まった今回の合宿。僕は初めて参加する。山越え、懸垂下降、初めて会うカヌ沈隊隊員の方々、尺への期待が高まる中、準備を着々と進めて来た。しかし、こんな所に落とし穴があることなど、到底僕には予測出来なかった。書けば書く程悲しくなる。集合時間を12時間間違っていたのだっ!
「もしもし・・・ユウですけど・・・まだ家なんです・・・。」
「なにぃーーーーー!まだ家ぇーーーー!!こりゃ〜始末書決定だなぁ。」とやすさん。
僕は急いで最終チェックを行い、シャワーを浴び身支度をした。こんなに急いで支度すると絶対何か忘れると思ったが、もうそんな事はかまってられない。荷物を愛車にブチ込み、車に乗って、もう一度忘れ物がないか思案したが大丈夫であろう。車を走らせ、一路某ダムを目指す。横沢さんにどのくらいかかるか聞いた所、4時間くらいかかるとの事で、かなりの距離である。くっそぉ〜〜〜絶対追い付いてやるぅ〜〜〜。
 やっとの思いで国道1号。ここまでは遅い車を少々あおりつつ、そのためペースが遅かっ た。国道52号は一車線で、追い越し車線はごく僅か。その隙を突いて抜いて来た。国道1号線は2車線の所もあり、そこから一気にペースを上げた。某ダムに向かう道に右折。ここからは山道だ。日頃、釣りで林道をよく走っている僕であるが、注意しながらの走行であったが、かなり攻めている。途中、橋がいくつもあったが、その一つの橋の手前で
「ピカッ!」「・・・・?!」・・・・マズイ・・・・オービス???
しかし、今はそんな事にかまっている暇はない。もうやってしまったものはしょうがないと言い聞かせ、なおも爆走する。途中、きつね、たぬきが僕の走行を邪魔しに来たが、逃げている姿はビビりまくっていて非常に可愛い。やっとの思いで某ダムの一つ手前のダムに到着。・・・・人がいる。念のためにこの道で合っているか、某ダムまではどこを行けば良いか、またどのくらいかかるか聞いてみた。すると・・・「ここから1時間くらいかかるけ
ど・・・」と、暗にお前今からそんな所に行くのか?と言いたげな口振りでそのおやじは教えてくれた。1時間かー・・・まだまだあるなぁと思いつつ、でもあのおやじで1時間だからぁー・・・20〜30分で着くなと思い、また車を爆走させた。


 
某ダム到着っ!
現在AM3:32。家を出たのがAM0:31。3時間の行程であった。次回からは集合時間はキッチリと確認しようと思った。早速、習志野ナンバーの銀のエルスターを探した。いたいたっ!しかしみんなは眠っている・・・。ライトを照らしながら、少し小さめの声で「おはよぉ〜〜〜〜ございます。」
と、『ドッキリの寝起き』の様に近づいたが鼾で返事をするばかり・・・。みんな爆睡状態であったため、これは起こさない方が良いなと判断。僕も寝袋を出し、寝床に着いた。
しかしっ!空は満天の星空。もうすぐ冬だという事を感じずにはいられない澄んだ空だった。天の川が良く見える。しばらく見ていても何故か寝つけない。そんな中、流れ星を十数個見る事が出来た。2時間くらいずーっと星を見つづけている。もう空は明るくなり始めている。すると、向こうで「モソモソッ・・・」と・・・・。見てみると、まだ皆さんの顔をホームページ上でしか見た事のない僕は、誰だか解らなかったが、凄く優しそうな人が僕を見て「おはよぉー!」と声をかけてくれた。僕も「おはよーございます。」と答えここまでのいきさつを話し始めた。後でやすさんがみんなを紹介してくれて解ったが、「おはよぉー!」の主は女房役の横沢炊事班長であった。

出発
 今回僕は50lザック、ハーネス、ヘッデン、ジャラ物を皆さんから借りるため、自分の軟弱ザックに荷物を押し込んで来た。その荷物を横沢さんから借りた50lザックに詰め替える。
(ここでお礼を・・・隊長、やすさん、横沢さん、上記の物を貸して頂きありがとうございました。)
ザックに詰める時もやはり詰め方がある。使わない物は下の方に詰めるし、背の方はあたりが良い様にしなければいけない。僕は、こういう事を全くやった事がないので、親切に横沢さんが僕にレクチャーしながら詰めてくれた。今回僕は初参加で客人という事なので、かなり荷物を軽くして頂いた。皆さんに比べたらホントにメチャクチャ軽い。凄く悪いと思ったが、自分がどのくらいの体力があるか解らない現時点、お言葉に甘えさせてもらった。
しかし・・・いざザックを背負うと、軟弱な僕にとってはかなりの重さに感じた。これを背負って山を一つ越える事など僕に出来るかかなり不安になった。

吊り橋到着。
turibasi.jpg (75979 バイト)ぐうぉ〜〜〜〜〜、なんちゅーーーー橋だっ!!こんなもんを渡るのかー!
ワイヤーならまだしもハッキリいってあれは針金を少し太くした程度の物だ。しかも錆びている。そんなんで橋を吊るして、しかも板一枚を歩くのである。高さは何メートルあるか解らんくらいの高さである。落ちたらもちろん即死である。はじめは揺れも少なく、斜面も近くにあるので、こんなもんかと少々なめていたが・・・行くに従って、揺れはひどくなるし、高さもある。しかし、これはどー表現してもこの吊り橋を渡らなければこの恐怖は理解出来ないであろう。初っぱなからこの橋。この先を思うと・・・・不安である。普通に渡ってもかなりの恐怖を味わえるのに、重い50lザックを背負って渡るのである。慣れていない僕は荷物に振られて落ちかねない。集中を途切れさせる事は、即ち死を意味する。なんて硬派だ。僕は橋を渡っている時はそんな事も考えられなかった。ただただ橋を渡る事に集中していた。死ぬ思いで橋を渡り切ると、隊長、深町さん、ガリガリさんがニヤリッとしながら僕を迎えてくれた。凄い経験だった。カヌ沈隊に感謝。

ここからは登りである。
薄く伸びた道を登って行く。人が他にも入った跡があったが、きっと林道関係者であろう。
急な上り坂を重いザックを背負い登って行く。登る度に背負い慣れていないザックは肩にメリ込む。しかし、僕のザックはみんなより遥かに軽いのだ。一歩一歩を自分のペースで確実に登って行く。しかし、荷物にすぐ振られてしまう。今回、ザックは横沢さんからお借りした物で、少々僕には大きく、サイズが合っていないのだ。たとえサイズが合っていたにしても、きっと荷物に振られてしまうのであろう。強靱な下半身は登るため、強靱な上半身は荷物を支えるために不可欠だと悟った。途中途中で休憩を入れながら、果てしなく思える登りを登って行く。隊長から「ユウっ!大丈夫かぁー」とのお声が。「大丈夫っす!」と答える
息は荒い。この一声はかなり効いた。気合いを入れ直せたという感じ。やすさん、横沢さんからも軟弱な僕を気付かっての声が・・・・。何度もその声に救われたような気がする。

 隊長は先頭を行く。ルートを選び、みんなが安全に進める所を選び、足で踏み固め、登りやすくしてくれる。鉄道でいう、機関車のような物だ。みんなをグイグイ引っ張って行ってくれる。実に硬派で頼もしい人だ。
 休憩中やすさんは、ジョークと突っ込みをかまして、みんなの笑いをとり、みんなの精気を取り戻してくれる。隊列の中程にいつもいて、前後に注意を払いながら進んでいる。
ルートを考える時は、隊長と相談し、ルートを切り開いて行く。なんて硬派な人だ。
 殿はいつも横沢さん。横沢さんは帰り道の事を考え、分岐点にマーキングしていく。
小便ではない。枝でバツの字を作り、印を付けておくのだ。帰りはそれを見れば何処から帰れば良いか解るのである。後ろから静かにいつもみんなを見守っている。横沢さんが後ろにいると、安心して進めると僕は思った。なんて頼れる人だ!
 深町さんは、初め
海パン一丁で登るつもりだったらしい。ザックは米軍の物で、足袋はソールに金属のピンが付いている物を使用。この格好だけでも見るからに硬派だ。しかし外見では飽き足らず、内に秘めルオーラも凄い物を持っている様に見受けられた。
 ガリガリさんは、物静かで独り言が多いようだ。しかし体はガッシリしている。顔は温和でいかにも優しそう。実際にかなり温和な人との印象を受けた。しかし内に秘める硬派さは、物凄い物だと見受けられた。

この様に隊列が組織されていると、僕のような軟弱な奴がいても安全に登る事が出来、もしもの時の対応がすぐにとれる様になっていた。一つ一つ感心させられる事ばかりだ。こんな事を思いながら尚もきつい上り坂を一歩一歩登って行く。一歩踏み出すごとに
大粒の汗が滴り落ちる。もうピークだっ!!と何回思った事だろう。しかしイヤまだだろーと思い返し精神的にへこまない様に努力した。人間気の持ち方で変わるものと僕は常日頃思っている。
しかしこの登りはかなり堪えた。

ippuku.jpg (39486 バイト)やっとの思いでピークに到着。
しばしの休憩をとり、尾根ずたいに下る事に・・・。しかしかなり急斜面である。これは待望の懸垂下降か。しばらく尾根を下り、途中トラバースを試みたがガレていたため無理みたいだ。幹部三人衆は、ルートを必死で探している。僕は、それを観察し次回のために学習しようと思った。だが、そんな事は永年の経験がなせる業。僕には到底真似出来ない。しかし、一歩でもそれに近づくことを目指し、すべてを逃さず見ていた。しかしやはり、懸垂下降は免れないみたいだ。僕にとっては初体験なので、ワクワクしてきた。フライフィッシングを始めた頃のようなこの胸の高鳴り・・・。しかし、いざやるとなるとかなりビビる。隊長、やすさん、横沢さんにもう一度レクチャーしてもらい、右手だけは絶対離さんぞっ!!
と思った。準備万端。エイト環にザイルを通し、環付きに繋ぐ。隊長から声がかかる。
期待と不安が入り混じり、アドレナリンが放出される。が、しかし・・・いざ下ってしまうと楽しすぎて不安などは消えてしまった。下で待っている横沢さんが再度、懸垂下降した後の事を親切にレクチャーしてくれた。懸垂下降は安全だという事が十分理解できた。懸垂下降は3回行った。3回目は少し高度になり途中でトラバースする。3回目の懸垂下降を行った所がもうすでに河原のすぐ近く。隊長と堅い握手をし、とうとうやったという実感が涌いてくる。
最後の力を振り絞り、僕は河原に降り立った。何とも言えない達成感が全身を駆け巡る。
僕にとってカヌ沈隊での第一歩。感動せずにはいられない。いつの間にか疲れも何処かへいってしまい、充実感だけが残っていた。

so-men.jpg (33540 バイト)昼食。カヌ沈隊では恒例らしい、ソーメンである。しかしこれほどうまいソーメンは食った事がないというくらいうまかった。

しばしの休憩の後念願の源流釣行。みんなの期待を背負い、いざ川へ。ここで釣っておかねば、対応が変わってしまうのではないかというくらいのみんなの期待感が僕を押しつぶす。
かなりのプレッシャーだ。しばらく行ってもアタリがない・・・。どーゆー事だとやすさんと顔を見合わせながら釣り上がる。しかししばらく行くと、流れの中に動くものを見たような・・・。とりあえず慎重にキャストするが1投目では出なかった。2投目。「出ろ・・・・出てくれぇ!」と心の中で叫びつつ目はフライを追っている。「ゴボッ!」よしきたっ!!
その瞬間竿は大きく弧を描く。サイズは21センチの岩魚だった。なおも釣り上がるが、やすさんが先行者の足跡発見っ!こんな所にまで・・・。
しかし一尾釣れた事は奇跡だ。これでヨシとしよう。この一尾は終始先を譲ってくれたやすさんのおかげで釣れたようなものだ。心優しい狩猟班長に感謝。

yokozawa.jpg (38563 バイト)夜・・・。

tenpura.jpg (38450 バイト)
横沢炊事班長のうまい飯が。まい茸御飯、茸の天ぷら、自家製味噌の汁(隊長が採ったうす平茸入り)、自家製味噌で下拵えしてあった手羽先。なんてうまいのだ。さすが炊事班長である。特に手羽先。みんなで一気に平らげてしまった。炊事班長に感謝。

次の日・・・。
朝起きて飯を食っていると・・・竿を持った男女の2人組が・・・。某ダムの水位が下がり、
アプローチが容易に出来る道があるようだ。せっかく朝もう一度と思っていた釣りは諦めざるおえなかった。

今回僕はかけがえのない経験をした。僕は釣り師であるが、カヌ沈隊とともに行動する時は、一人の軟弱な奴隷候補である。夜にやすさんが僕に言っていた。カヌ沈隊は源流で釣りをするための組織ではなく、山を登る組織なのだと。(※山だけの集団ではありません・・・狩猟班長 談)だから、これからも
釣り目的で来てもらっては困ると。しかし僕は、釣りが目的ではなかった。山を登り、下り、自然の匂い、日射し、川の流れ、音、みんなで食べたそーめん、みんなで囲んだ焚き火、みんなで飲んだ酒
が全ててで、
釣りはその中の一つに過ぎない。釣りは好きだが、カヌ沈隊に参加する時はその他多くの中のただの一つなのだ。そこをカヌ沈隊隊員の方に理解して頂きたいと切に思った。これからもカヌ沈隊でいろいろな事を経験出来ればと思っている。

最後に・・・

これからは奴隷候補として、精進して行きたいと思っております。
以後末永くよろしくお願いいたします。


硬派夜営集団カヌ沈隊

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