カヌ沈隊の朝は遅い。
えばれる事ではないが、毎度のことなので、最近は開き直り気味。合宿前夜の酒は、宵宮の酒。想いを明日出会う渓や山に馳せ、飲る一杯の美味さを我慢する方が無粋というもんだ。
というわけで、翌朝8時出発。
森林軌道を早足で歩く。カツラやサワグルミの大木を鑑賞しながら、ゆっくりと歩くのに最高のコースだ。入川の渓相も素晴らしい。1時間程で、赤沢谷出合いに着く。
ここから柳小屋までは、落ち葉のラッセル。冬枯れの広葉樹の森も良いものだ。ブナ林あり、モミ、ツガ林あり、シオジ、サワグルミ林ありで、楽しい。が、結構長い。
左手に見える破風山(破不山)が大きい。
途中、スズタケの藪で黒っぽい動物がガサガサと逃げて行くのを、熊と間違え、びびって30cmくらい怯んだのを、やすに爆笑された。正体はカモシカだった。
柳小屋は平成9年に改装され、とてもきれいだ。訪れるのはほとんどが釣り師のようだ。小屋で30分程休み、正午出発。今のペースで、順調に行って5時ごろ甲武信ヶ岳に着くだろう。
日没までに稜線に辿りつければ、ヘッデンで小屋まで行くことができる。
日没との競争なので先を急ぐ。2時間程で、2段50メートルの千丈の滝が突然姿をあらわす。その水量、落差に圧倒される。滝上のアズマシャクナゲの群生地を過ぎると、渡渉点だ。登山靴を脱いで渡れば良いのだが、不精者二人は石を飛んだ。
対岸に渡ると、小さな指標があり、消えかかった文字は甲武信ヶ岳まで3時間と記してあった。行ける。予想通りだ。徐々に不明確になりつつある踏跡を忠実に辿る。その踏跡も落ち葉埋もれ、解り難い。1本とる間隔が短くなってきた。バテてきたのだ。それでも、しぶとく進む。行けども行けども、なかなか三宝沢に出合ってくれない。そして、とうとう踏跡と指標を見失った。もともと踏跡はあてにはしていなかったので、沢沿いに進もうとするが、目前に10メートル程の滝がある。”巻く”という行為は非常に体力を要する。日没も迫っている。もはや、ここまでか?
その時、やすが、ニヤッとしたのだ。
俺は瞬時にして、奴の言わんとすることを悟った。
「ビバークでしょ。ビバーク」
異論ナシ。すぐさま、ビバーク地を見つけ、落ち葉を集める。集めながら、”木の葉隠れ”などと言いながら遊ぶ。たっぷりと落ち葉を敷き、くつろぐ。汗で濡れた衣類は着替え、温かい食事を摂る。あとは、また酒。昨日、禁断の酒(今日呑むはずの酒)にまで手をつけてしまったので、南アルプスのピュアモルトは500ml弱しかない。それを奪い合う様にして呑む。
「お前、今の”グビッ”はちょっと多いんじゃない」
「いや、さっきお前が飲んだ時なんか、”ゴクッ”だった」
なんて牽制しあい、どっちが多く飲んだかを、翌日まで言い争ったのだから、困った者達だ。
この、邪心に満ちた煩悩の権化達も、さすがに冒頭の風景には、息を呑まざるを得なかった。
晩秋の秩父合宿は、以下の歌で締めくくりたい。
”奥山に 紅葉踏み分け 鳴く鹿の
声聞く時ぞ 秋は哀しき ”
(猿丸大夫)
記 隊長 オザキ |
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森林軌道をひたすら進む
改築された柳小屋
廃道のような丸太橋ばかり
紅葉は既に終り、厳しい冬を迎える前の静けさがあった。
落ち葉のラッセルでひたすら登る
紅葉もあと僅か
真の沢を見下ろす
初冬の渓も静けさを迎える為に氷結し始める
どうしてもコレをやりたかったようだ・・・。
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