晩秋の甲武信ヶ岳

川又〜柳小屋〜甲武信ヶ岳〜雁坂峠〜川又

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森と同化し、至福の時をむかえるオザキ隊長

平成11年11月22日〜23日

★★★

硬派者:隊長、狩猟班長

1/25000 地形図:「金峰山」「中津峡」「雁坂峠」


予想時間 登り8時間、下り9時間。晩秋の森林軌道から、コースタイムも判らない踏み後も微かな廃道を進み、甲武信ヶ岳山頂に突き上げようと試みた今回の幹部合宿。僅かなビバークの可能性が現実となったが・・・。

titibu1-buna.jpg (49458 バイト)深夜。

閉じた瞼にも感じることが出来る明るさに眼を覚ますと、コメツガの大木の枝の間から見事な満月が顔を覗かせていた。
煌煌と照らされた樹木は青白く浮び上がり、幻想的な風景を創り出している。
静寂の中、すぐ近くで「キュン。キューン」と鹿が鳴いた。
完全に森に同化したような、この不思議な感覚は、かつて経験したことの無いものだ。馥郁とした森の空気を一度鼻から大きく吸うと、凍れた大気が肺に流れ込み、自分の肺の大きさが解る。

俺達は、今、奥秩父・真の沢源流部標高約1900M地点に、テントもマットも無い状態でビバークしているのだ。
気温はマイナス8℃。
無謀という声も聞こえてきそうだが、ゴアのシュラフカバーと羽毛の寝袋の組み合わせは、”マイナス8℃”という寒さを微塵も感じさせない。おまけに、寝袋の下には日没前にせっせと掻き集めた、落ち葉をたっぷりと敷いてある。

ビバークの可能性は、正午に柳小屋を出る時点でかなり意識していた。真の沢林道は一般的に廃道とされ、踏み跡がどれ程のものか全く予想できず、当然ながらコースタイムも解らなかった。ただ自分達のペースと甲武信ヶ岳までの距離、等高線の入り組み具合からいって、日没ぎりぎりになるだろう、と予測だけはしていた。仮に雨になる可能性が僅かでもあったら、柳小屋で1泊していただろう。


 

カヌ沈隊の朝は遅い。

えばれる事ではないが、毎度のことなので、最近は開き直り気味。合宿前夜の酒は、宵宮の酒。想いを明日出会う渓や山に馳せ、飲る一杯の美味さを我慢する方が無粋というもんだ。
というわけで、翌朝8時出発。
森林軌道を早足で歩く。カツラやサワグルミの大木を鑑賞しながら、ゆっくりと歩くのに最高のコースだ。入川の渓相も素晴らしい。1時間程で、赤沢谷出合いに着く。
ここから柳小屋までは、落ち葉のラッセル。冬枯れの広葉樹の森も良いものだ。ブナ林あり、モミ、ツガ林あり、シオジ、サワグルミ林ありで、楽しい。が、結構長い。
左手に見える破風山(破不山)が大きい。
途中、スズタケの藪で黒っぽい動物がガサガサと逃げて行くのを、と間違え、びびって30cmくらい怯んだのを、やすに爆笑された。正体はカモシカだった。
柳小屋は平成9年に改装され、とてもきれいだ。訪れるのはほとんどが釣り師のようだ。小屋で30分程休み、正午出発。今のペースで、順調に行って5時ごろ甲武信ヶ岳に着くだろう。

日没までに稜線に辿りつければ、ヘッデンで小屋まで行くことができる。
日没との競争なので先を急ぐ。2時間程で、2段50メートルの千丈の滝が突然姿をあらわす。その水量、落差に圧倒される。滝上のアズマシャクナゲの群生地を過ぎると、渡渉点だ。登山靴を脱いで渡れば良いのだが、不精者二人は石を飛んだ。
対岸に渡ると、小さな指標があり、消えかかった文字は甲武信ヶ岳まで3時間と記してあった。行ける。予想通りだ。徐々に不明確になりつつある踏跡を忠実に辿る。その踏跡も落ち葉埋もれ、解り難い。1本とる間隔が短くなってきた。バテてきたのだ。それでも、しぶとく進む。行けども行けども、なかなか三宝沢に出合ってくれない。そして、とうとう踏跡と指標を見失った。もともと踏跡はあてにはしていなかったので、沢沿いに進もうとするが、目前に10メートル程の滝がある。”巻く”という行為は非常に体力を要する。日没も迫っている。もはや、ここまでか?
その時、やすが、ニヤッとしたのだ。
俺は瞬時にして、奴の言わんとすることを悟った。
「ビバークでしょ。ビバーク」
異論ナシ。すぐさま、ビバーク地を見つけ、落ち葉を集める。集めながら、”木の葉隠れ”などと言いながら遊ぶ。たっぷりと落ち葉を敷き、くつろぐ。汗で濡れた衣類は着替え、温かい食事を摂る。あとは、また酒。昨日、禁断の酒(今日呑むはずの酒)にまで手をつけてしまったので、南アルプスのピュアモルトは500ml弱しかない。それを奪い合う様にして呑む。
「お前、今の”グビッ”はちょっと多いんじゃない」
「いや、さっきお前が飲んだ時なんか、”ゴクッ”だった」
なんて牽制しあい、どっちが多く飲んだかを、翌日まで言い争ったのだから、困った者達だ。
この、邪心に満ちた煩悩の権化達も、さすがに冒頭の風景には、息を呑まざるを得なかった。

晩秋の秩父合宿は、以下の歌で締めくくりたい。

”奥山に   紅葉踏み分け    鳴く鹿の
                    声聞く時ぞ      秋は哀しき ”
                                           (猿丸大夫)

 

記 隊長 オザキ

 

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森林軌道をひたすら進む

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改築された柳小屋

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廃道のような丸太橋ばかり

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紅葉は既に終り、厳しい冬を迎える前の静けさがあった。

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落ち葉のラッセルでひたすら登る

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紅葉もあと僅か

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真の沢を見下ろす

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初冬の渓も静けさを迎える為に氷結し始める

 

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どうしてもコレをやりたかったようだ・・・。

 


コースタイム
川又(8:00)〜赤沢谷出合い(9:00)〜柳小屋(11:30着12:00発)〜千丈の滝上 渡渉点(14:00)〜三宝沢渡渉点手前・不動滝ビバーク地点(15:30)

*赤沢谷から柳小屋までの経路は地形図と大幅の異なるが、十文字峠方向に辿れば問題なし。千丈の滝上の渡渉点から甲武信ヶ岳までは3時間と指標アリ


硬派夜営集団カヌ沈隊

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