外秩父七峰縦走大会(カヌ沈隊秩父山麓に散る!)

☆☆

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「秩父40」
それは、かなり硬派な大会だった。
決してナメてはいけないものだった。
結果から先に申そう。
我々カヌ沈隊は・・・完全敗北した。砕け散った。
言い訳は沢山あるが、それにはまず、前夜の作戦会議から話を進めなければならない。

 

99.4.18 「秩父40」 スペシャル(前編)

奴隷候補 カウパー深町 談

狩猟班長のお下劣心中

4月17日、22時。隊長宅に到着した。
行き着くまでにも色々とあったが、とにかく到着。
他のメンバーは既にきていた。
といっても、今回の「秩父40」に参戦するカヌ沈隊は、僅か4名。
隊長オザキさん、狩猟班長やっさんさん、奴隷タグチくん、そしてオレ。
当初参加する予定だった、炊事班長ヨコザワさんは、以前から患っている「ニョド」の状態が思わしくないために棄権。副隊長は連絡不備のため欠席。タケイシ隊員は、ええと、何だったかな、、、とにかく体調不良のため出場辞退。
隊長と狩猟班長は、この事態を「カヌ沈隊の軟弱化」と重く見、本日の、作戦会議兼前夜祭にて徹底的に闘論するつもりのようである。
かくして、ビールが次々と空になり、焼酎を1本呑み干すころ、我々の闘論会に火が付きはじめた。
議題は、カヌ沈隊の今後の活動・野外活動・仕事・生活など、人生全般の広範囲に渡って網羅され、ときに爆笑し、ときに鋭い指摘を飛ばしあいつつ、いつ果てるともなく続いた。

明日の「秩父40」は06:30からスタートである。従って、ここを05:00に
は発たねばならない。
現時刻、0:30。オレは睡眠時間を案じ、左手をおもむろに90度捻転させ、腕時計に目をやった。
「てめぇ、時計なんか見るんじゃねぇよ」
間髪入れず、隊長から罵倒された。
カヌ沈隊において、野外生活にて使用する時計は、「腹時計」と「日時計」のみ。

腕時計は「軟弱」な道具なのである。
それはそれで良いのだが、酩酊気味の隊長の脳は、どうも、少々の混乱をきたしているらしい。
「まあ、いいか。徹夜でいったるぜぇ!」
と、同じく酩酊気味のオレの脳も、どうも、*アルファ化が進行中みたいだ。
そして、奴隷のタグチくんが、追加のビールと焼酎を買いに行った・・・

只今の時刻、2:30。
時計を見た狩猟班長が「あ!」と声をあげるまで、事態の深刻さに気付く者はなかった。
慌ただしく就寝。
狩猟班長は3分、タグチ奴隷は2分後にイビキをかき始めた。


 - 中編へつづく。

●自己管理●

今回の参加者は”奴隷候補深町”も言ってるように、当初7人の参加予定が4人。当初参加表明者のほぼ半分の人間が不参加となった!こりゃあ絶対”サボリ軟弱野郎”が1名は含まれていると十分考えられる。男たるもの腹くくったからには、それがいかなる障害が発生したとしても、その目標に向けて全身全霊で排除していき、コンディションを整えるべきなのだ。前回の三頭山での我輩の膝の故障などは軟弱極まりないものである。その屈辱的な敗退は我輩の左膝に濃厚な膿となって淀んでおり、今回はリベンジ的な意味合いが十分あったのである。

●酒●

大会前夜はビール一本飲んでさっさと就寝のつもりであったのだが、何故あんなに盛り上がったのかと今思い返しても、一体何を討論していたのかさえもさっぱり思い浮かばない。ただ一つ覚えていることは”奴隷田口はボキャブラリーが欠落している”ということぐらいか・・・。

●時間管理能力●

隊長オザキは時計を持たない。おまけに財布も持たない。ようは拘束されるのが極端に嫌いなのだ。なので携帯電話も極端に嫌うため、当然使い方も良く理解できていない。以前呑んでいるときに、我輩が他の幹部に電話をし、ついでであったので、隊長オザキに電話を代わったのだ。そこで事件は起こった!なんと隊長オザキは小さい携帯電話に激しくとまどいながら、聞くときは耳に携帯を押し当て、喋るときは、耳から放し口元まで携帯電話を持っていったのだ!それもなんどもなんども・・・まるでハンディー無線のように・・・。その時我輩は哀しさと当時に涙も溢れ出てきていたことだろう。ちなみに唯一所持しているポケベルは、目覚まし時計と化し、当然携帯することはない。


*アルファ化:デンプンが加熱と水分によってトロトロになること。歯磨き粉が口の中で泡立つのも、この原理。脳がビールと焼酎によってテロテロになるのも、この原理。

99.4.18 -「秩父40」 スペシャル(中編)

奴隷のタグチくんに起こされて、目を覚ました。
時計を見やる・・・ 06:00!?。
確かに、目覚ましを04:30にセットしたはずなのだが・・・
狩猟班長を起こす。
隊長にも声をかけるが、「眠い」「いきたくねぇ」「やめようよ」などと、ダダをこねていた。
起きあがるまで30分。
なんだかんだで07:00。
ようやく出発。
睡眠不足と二日酔いで、全カヌ沈隊は体調不良。
眠い目を擦りながら、一路、埼玉は小川町へ。

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隊長のカタモミをする奴隷田口

●当日●

翌朝は奴隷田口に起こされ、まったくもって不快な目覚めであったが、時計を見て凍りついたと同時に急速にやる気が失せて行ったのが自分自身のなかではっきりと感じられた。それは誰もが一緒だったはずだ。それを軽軽しく発していたのが 隊長だったのだ(冗談にしか聞こえなかったが、大分ダダこねていたのは事実である。多分ホンキだっただろう。)そのとき悪魔が隊長の背中に重くのしかかっていったのがはっきりと見えた。それを追い払うかのように、奴隷田口にカタモミを強要する隊長。耳からは酒粕がだらだらと流れ出していた。

 

08:30。
登録を済ませ、いざ出発。天候は曇り。
この頃にはもう、全員がシャン、としていた。
自らの失策を補填するべく、かなりハイペースでの行軍が必要となってくるのだ。

fukamati.jpg (208721 バイト)櫻・菜の花・たんぽぽ・オオイヌノフグリ・ヤブカンゾウ・雑草・犬・穴・鯉のぼり
・スイトンの匂い、などに気をとられ、クダラナイ話で笑いつつ、記念撮影をしつつ
も、4人の足どりは、他の参加者の誰よりも速い。
ひとつ山を越え、汗をかいて体内に残るアルコールの処理が完了したころには、追い抜かした人数は100〜200をくだらなかった。
ここが、カヌ沈隊が硬派たる所以なのである。
ただガシガシと、歩く。ハイペースで歩く。
kyuukei.jpg (255664 バイト)「もう休みましょうよ」などと戯言をほざいたら、もう最期だ。
むこう3年間は確実に「奴隷深町は軟弱野郎だ」というレッテルを貼られ、嘲笑されバカにされる。
隊長は隊長として、班長は班長として、奴隷は奴隷として、それだけは絶対に避けねばならない。
だから、疲れていても、誰もペースを下げない。
あげ足は、100%すくわれる。
弱みは、100%握られる。

ここが、カヌ沈隊の恐ろしいところだ。

後編へつづく

●出発●

この時点ではすでにカヌ沈隊は絶好調であった。唯一不調を訴えつつあったのが隊長であった。「腰がおもてぇなぁ」「首のあたりがちょっと」「やべぇ 頭に酒粕が溜まってる」などとぶつぶつ繰り返していた。

(ふふふ 隊長 あんたはもう負け犬化が進行しつつあるようだな・・・。)

奴隷候補深町は、絶好調と言う感じで飛び跳ねていた。

(ふふふ ばてるぞ 愚か者め・・・。)

●丸秘いんちき所持品●

○梅干4個(乳酸処理に有効)

○バーム(効率良くエネルギーを持続させる。アスリート御用達ドリンク)

○カロリーメイト、ザバスゼリー(まさにエネルギー源 極端に疲労したときの摂取後効果は覿面)

 

99.4.18 -「秩父40」 スペシャル(後編)


雨が降ってきた。最悪の事態だ。
ゴアテックスのヤッケでも、着て歩いてると、ムレれて暑い。
急な勾配の斜面を登っていると、汗が滝のように流れ、心臓はバクバクしてくる。

この登りは、いつまで続くのだ・・・ハアハア
オレはこの時、タバコをやめることを本格的に考えた。
隊長を先頭とする我々カヌ沈隊は、休憩する人々を横目に、淀みなく、淡々と、そして機械的に、両足を回転させ続ける。
肺が痛ぇ。
このとき、ホンの一瞬、オレの心に「軟弱」の影が忍び寄った。
「ほんのちょっとだけ休み、すぐ追いつこう・・・」
と、3歩ぶんほど、時間にして約4秒間、足を止めた。
そのとき、まさに、その瞬間!最も恐れていたコトが起こった!
それまで黙々と歩いていた隊長が、ふと、こちらに振り向いたのだ!
オマケに、「おい、もうすぐだぞ(がんばれ)」という励ましの言葉まで頂戴してしまった。これは、かなりヤバイ。
もう「軟弱者」のレッテルが、オレの背中に貼られたも同然だ。
「あんたは超能力者か!?」
と、心の中で、罵った。しかし、異変が生じたのは、それから程なくしてからだった。

●疲労困憊●

七峰のうち、二つ目の山を進んでいるときであった。先頭は隊長、二番手に奴隷田口、その後ろに俺、最後尾は奴隷候補深町。霧雨から本降りにかわった雨が徐々に俺たちの耐力を貪りつつあるなか、そこそこの急登の連続が続いていた。奴隷二人は登山を舐めていたため足元はスニーカー。すべる足元は予想以上に疲労を呼ぶ。登山靴を使用している我々でさえ難儀をしいられているなかスニーカーの登坂能力は皆無に近い。ただ黙々と休んでいる他の参加者を追いぬき、ただひたすら登る 登る 登る・・・。

その時ふと背後の気配が薄れていくのに気づいた。 深町がいない・・・。そのはるか後ろに深町がいた。急勾配の登山道では考える以上に離れた仲間は遠くに感ずる。

(そうとうバテてるな・・・。そういえば深町との登山はこれが初めてではないか・・あの性格、ううむ ムリしているのでは・・・。)

登山の心臓、心肺機能はマラソンや他のスポーツとも違う独特のスタミナを使うという。しかしスポーツに心得のあるやつは”登るだけの運動”を軽視する。しかしそこが落とし穴なのだ。独自のリズムと普段使用しない筋肉、関節、のきしみが相乗効果となって全身を襲う。登山経験の浅い人間はその苦痛の処理方法すら知らない。ただ音もなく砂時計のように疲労は蓄積されていく。

俺「オザキ 休むか?」

隊長「ん?」

短い会話のあと、俺は顎でうなだれる深町のツムジを指した。

隊長「おい もうすぐだぞ!」超能力者ではない隊長が叫ぶ

奴隷候補深町は空元気を出し100万ドルの笑みで急勾配を走りあがってきた。頂上はまだ先なのに・・・。

 

急勾配の下りで、隊長の膝がイカれた。
膝蓋骨の下が、非常に痛むらしい。
道ばたでテーピングをする。
オッサンが、「ひざにきたか〜」と言って通り過ぎる。
オバさんが、「サロンパスより利くよ〜」と貼り薬をくれた。
屈辱にゆがむ、オザキ隊長

dannen-2.jpg (257199 バイト)「これで、さっきの失態をウヤムヤにできる・・・」
と、密かにほくそ笑む、オレ。
・・・いたしかたない。
オザキ隊長こそ、カヌ沈隊のカリスマ。
泣く子も黙る、カヌ沈隊隊長。
隊長の死は、全員の死。
かくして、カヌ沈隊は、一敗地にまみれたのである。
やむなく、下山ルートをとる。

●爆弾●

ついにこの時が来た。隊長の足が腐ったのだ。前回の三頭山での屈辱を隊長オザキが今この時噛み締めているのがひしひしと伝わってくる。相当な痛さのはずである。満足に足が出せない。向きをかえ、体重のかけ方を変えても無駄だ。もう貴様の膝は腐ってきているのだ。

このときとばかりに、俺は三頭山での隊長のように”どんぐりを拾いながら黄色い笑み”を浮かべようとおもったが、残念ながらドングリはなかった。

隊長の屈辱的な顔・・・。ただ油断は禁物、いつなんどき俺の膝も腐り始めるかもしれない。俺も爆弾を抱えており、俺の膝も徐々に異常を来しつつあったのであるから・・・。

ん?奴隷田口だけが元気だぞ・・・。

 

hanseikai.jpg (238361 バイト)焼肉屋にて、反省会議が開かれた。
不測の事態はあったものの、問題の根本は、やはり、「寝坊」にあった。
「秩父40」を、完全にナメていた。
自分の体力を正確に把握し、ペース配分を考えなければ、制限時間内に完歩するのは、難しい。
完歩した人は、胸を張って「健脚」を名乗れるだろう。
山歩きは、奥が深い。
カヌ沈隊は、来年も出場する。
必ずリベンジする。
オレは今から、1年後が非常にたのしみである。

●反省●

今回は奴隷候補深町がバテ、隊長オザキの膝が腐り、俺の膝も徐々に腐り始める兆候もあったこともあり、また、途中棄権のルートとバスの時間を計算した結果、棄権を決定した。

それは正しい判断であったと思う。なぜなら自然のなかでは無理ほど危険なことはなく、また疲労により正しい判断など出来るはずもないのだ。

ただ一つ、反省すべき点は、傲慢な自分たち人間の耐力を過信しすぎたことである。

カヌ沈隊として良い勉強であったのは確かである。

狩猟班長 記

硬派夜営集団カヌ沈隊

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