雪で立ち往生した高千穂の想い出
熊本発宮地行の列車は熊本駅豊肥2番線から発車する。
豊肥2番線って?と思ったが他の駅では0番線にあたるような1番線の先にある短いホームだった。
京都駅では山陰ホーム、大阪駅では環状線ホームが全く同じようなものかな。
定刻の1時間以上も前に列車はすでに入線していて、レールバスのような出入り口の新しい車両が2両連結されていた。
真新しいこの車両は2列+1列の座席配置でそのせいか通路が広くてゆったり。座席も旧型の新幹線のような感じで、
まるでスイスのインターシティの1等車のような気分になっていた。(ちょっと大げさ?)
乗り込んでぼうっとしているとぞろぞろと人が乗り込んできた。発車15分前だ。
知らない間に前に古いディーゼル車両が連結されて3両編成にもなっていた。
その後もどんどんお客が増えて発車する時間にはほぼ満席になっていた。
豊肥本線に乗るのは今回が二回目で、前回は大分から熊本へだったので、反対から乗るのは初めてだった。
前回に乗ったときには初めての阿蘇の雄大な景色に見とれたまま過ごしたが、今回は残念ながら阿蘇の手前の立野で
下車する予定だ。
できれば立野発車後すぐにあるスイッチバックも体験してみたいのだが、そうすると今回の予定の南阿蘇鉄道の時間に
間に合わない。
スイッチバックといえば、前回はどんどんバックする電車にびっくりしたもので、他の場所と違って上下の落差があるので
ここのスイッチバックは面白いと思っている。
そうそう、その後の旅程は南阿蘇鉄道を乗り過ごして、高森から高千穂へ抜け、さらに宮崎に向おうと思っている。
熊本を発車した列車には水前寺駅でたくさんの人が乗ってきて超満員状態。特急が水前寺まで走っているためだろう。
超満員のためあまり車窓を楽しむこともできず、いつの間にか立野に到着した。
立野駅から南阿蘇鉄道に乗り換え。駅の0番線にはその第三セクターのレールバスがポツンと停車していた。
普通列車からの接続はよく、乗り換えたりんどう号は間もなく出発した。乗車率は7割ほど。思ったよりも混んでいた。
走り始めてすぐトンネルを抜け、白川橋梁にさしかかる。列車の橋梁といえば高千穂や餘部が有名だが、ここも劣らず
すごく高い谷の上だ。高千穂のように速度を落としてくれたりすることも無くあっという間に通り過ぎ、もう一度トンネルを
抜けると全く別世界のような阿蘇山麓の盆地のような景色となる。
南側からみた阿蘇の山々は、よく知ってる阿蘇の風景とはまた違った趣があり、こっちはどことなくおだやかだ。
列車には観光客らしき人はほとんどいなくて、駅に止まるたびに地元の人らしき数人が降りる繰り返しで、終点の高森
駅に着く頃には車内は3割くらいの乗車率になっていた。
そういえば通路の向こうの席には熊本からずっと一緒の列車だった女子高生が座っていたが、南阿蘇鉄道内ではずっと
チョコーレートやポテトチップスを食べていた...。
終点の高森駅は改装中で、仮の駅舎はホームの端のプレハブの建物だった。
南阿蘇鉄道は車内でバスのように料金を払う仕組みなので、駅に改札が無く、まるで外国の駅のようだ。
駅からのバスの接続時間は調べてある。停留所を探すと歩いて20mくらいのところにあった。
宮崎交通のバス停は実に古く、立派なバスターミナルを想像していたら全く予想が外れてしまった。
バス停の待合室には何人かの荷物が置いてあるだけで閑散としていて、山奥のバス停の雰囲気だった。
まだ発車まで10分ほどあるのを確かめて食料を買いに行ったが、高森駅前は思った以上に店があり、スーパーマーケット
も開いていた。
前方に迫った阿蘇の外輪山は、ここがずいぶん山奥のような印象を与えるが、もしかしたらシーズンになると観光客がいっ
ぱいになるのかもしれない。
食料を買い込みバス停に戻ると、もうバスが来ていたので急いで乗り込んでみると、あのよく食べる女子高生が後ろの方
に乗り込んでいた。こんなルートを使う人はいないのかもしれないと思っていたけど、高千穂に抜けるのは案外普通のルート
なのかも知れない...。
景色がよく見える前方に席をとり発車を待っていると発車寸前に1名乗って来て、乗客は合計4名になった。
バスはバスターミナルを一周して外輪山を登り始める。登る途中はずーっと阿蘇の雄大な景色が見え、始めて阿蘇を実感し
ていたが、少し登るとあたりは一面の雪景色に変わり、道路は凍結してチェーンが必要になった。
登りきると高森峠のトンネルがあり、そこを抜けるともう阿蘇は終わりだった。
そこから先は雪に埋もれた荒涼とした景色が続き、バスもどんどん下って、あとは高千穂に着くのを待つだけと思っていた。
柳谷というところで1名降り、乗客は3人となった。
そのころには日も暮れて、少しうとうとしていたが、何やらバスがよくゆれるなと思って目が覚めると、バスは立ち往生して
いて、運転手が右の後輪を気にしている様子。どうやらチェーンがはずれてしまったらしい。
そのうえ、あとは下りと思っていた道も再び上りになっていて、もう一度峠を越えないといけないらしい。
このままチェーンの片輪がない状態で峠を上れなくなってしまうとどうなるのだろう。バスの中で夜明かしになってしまうのだ
ろうか?バスのガソリンが切れて暖房が効かなくなってしまったりはしないのだろうか?などと考えていると少し不安になっ
てきた。
しばらくそのままの時間が過ぎた...。
やっと雪が小降りになると、バスは時速10kmくらいのスピードだが、のろのろ動きはじめ、そのうちに峠にさしかかった。
あとは本当に下りだけで、スリップさえしなければなんとか高千穂には着きそうで、ほっとした一瞬だった。
だが、バスのスピードは前にもましてのろのろで、一体いつ高千穂に着くかは全くわからない。高千穂からの予定時刻はとっ
くにすぎ、それどころか高千穂からの最終の電車さえもうない状態になっていた。
またバスが停車した。今度は何だろうと思っていると、運転手さんがいきなり服を脱ぎ作業服に着替えてチェーンをはずし
はじめた。あとはチェーンなしで通常のスピードで走れるのだろう。
こんなに遅れたバスに乗ったのは初めての経験だった。
すると作業を終えた運転手さんが話しかけてきて、今日どこに泊まるのか聞いてきた。
本当はそこから高千穂鉄道で抜けるつもりだったので、そんな用意はしていない。
宿が決まっているはずもなく、そう言うと、民宿を探してくれるという。
後方の女子高生も知り合いらしく、うちに泊まってもいいよと言ってくれた。なんて優しいんだろう。
こんな雪の中に閉じ込められるとみんな仲間のような感覚になってくるようだ。
そんないい時間を過ごしているうちにバスは高千穂のターミナルに到着した。
結局、運転手さんが探してくれた駅前の民宿にお世話になることにしたが、実はその時が初めての民宿体験だった。
...朝ごはんが美味しかった。