だい・はあど2
今日は確か、俺の歓迎会・・・だったと思う。既に出来上がった 同僚達が、あっちこっちで勝手に盛り上がっていた。俺はといえば、 手酌で一人冷めたまま皆をながめていた。いいんだけどさ、別に。 ふと見渡すと、一番の美女が男達の手を逃れるようにして、こち らに来る所だったヴァンプ、という言葉を思い起こさせるような、 魅惑的な女性だった。気の所為かもしれないが、入社した時から彼 女の視線を感じていた。一瞬視線がぶつかって、俺は心の中で口笛 を吹く。 彼女を逃がした音子達の視線を背中に受けながら、その美女は俺 の向かいの席に座った。 彼女に言われるままにグラスを空け、気がついた時にはお開きの 時間になっていた。立ち上がろうとして、よろける。 「ほら、しっかりして」 彼女の腕が俺を支える。周りの男達が、羨望と軽蔑の入り交じった 眼差しを向ける。 「家、何処?」 やっとの思いで口にすると、彼女は自分も同じ方向だと言った。 「じゃあ、私、この人を途中で降ろして帰るから」 そして、呼んであったタクシーに向かった。後ろで同僚が叫ぶ。 「襲われるなよ」 「どっちが!?」 キャラキャラと笑って俺をタクシーに押し込んだ。後ろで酔っ払い のけたたましい笑いが起こる。 俺はシートに納まった途端、落ちるように眠りに吸い込まれて行っ た。 徐々に意識が戻ってくる。どうもオカシイ。・・・自分はどうや らバスルームにいるらしい。 体を投げ出したまま、未だ覚束ない思考が、漸くそこまで確認し た時、目の前を白いものが遮った。 豊かな乳房が、ゆさり、と揺れる。勢い良く立ち上がろうとした が、手足を縛られていて、動けなかった。感触からして、Yシャツ のようだ。な、情けない・・・・・・っ! ひんやりとした細い指が、じたばたと足掻く俺の顎に掛った。な されるがままに顔を上げた俺の鼻先に、艶やかに微笑む彼女の顔が あった。妖婦そのものの表情である。無け無しの理性とプライドを 総動員する。 「どういうつもりだ?」 彼女は答えずに膝を突くと、ゆっくりと俺の口を唇で塞いだ。右 手が俺の首筋を滑り降りて左胸に当てられる。うーむ。どうしよう。 不本意なんだが仕方が無いって事で。オイ 次の瞬間、俺は声に出来ない叫びを上げた。彼女の指が肋骨を突 き破り、俺の心臓を鷲掴みにしている。声を出そうにも、横隔膜が 動かせない。痙攣のように卑屈貸せるだけだった。 彼女は力ずくで俺の心臓をつかみ出すと、恍惚の表情を浮かべて それを眺めた。白い腕を鮮血が滴り落ちる。 「俺・・の・・心臓を・・・・返せ・・」 やっとの思いでそれだけの事を言うと、振り向いた彼女の瞳が驚愕 に開かれる。 「ば、・・・化け物・・・・!!」 後ずさりながらも俺の心臓を放さない・・・・。 「あんたに・・・言われる・筋合い・は・・無い!」 彼女は俺の手足がまだ自由に為らないのを確かめてから、俺の左 胸にぽっかりと開いた穴に、恐る恐る心臓を押し込んだ。 バスルームのドアに背を押し付けるようにして立っている彼女の 目の前で俺の傷はあっという間に塞がっていった。 「何で、こんな事をしたんだ?」 「私・・ヴァンパイアに成り立てで・・要領が分からなくて・・・」 消え入りそうな声でそう言った彼女の表情が一転する。 「ねえ。これから毎日、血をすわせてくれたら、貴方の事は黙って いてあげる」 「そ、それはちょっと・・違うと思うんだ・・け・ど・・・」 引きつる俺に、普段ならば文句の付けようのない魅惑的な女性が全 裸で迫ってくる。だが、幸か不幸か・・地獄の幕開けにしかならな い事を俺は理解していたのだった。 TOPへ