食 堂
中学2年の初夏。交通事故で入院中の弟を見舞った病院の食堂で
わたしが注文したのはカレーライスだった。
一目で入院患者とわかる、車椅子の初老の男性のことを、今も思い出す。
すぐ近くの席についた彼が、コーヒーフロートかコーラフロートかなにか
およそ、外見と似つかわしくないものをオーダーしたので、
めずらしいなという気持ちでなんとなく横目で観察していた。
しばらくして注文の品がやってくると、彼は無表情に
上に乗ったアイスクリームを つついて
つついて、つついて、つついて、つついて、つついて、つついて、つついて
とうとうアイスは全部溶けて、グラスの中は白くにごったようになった。
結局彼は、ストローに口をつけることなく、そのまま食堂を出ていった。
わたしは勝手に、なんだか胸が締め付けられたようになって
下を向いてぽたぽた涙をたらした。
母は「カレー辛いの?」とわたしに聞いた。
今思えば、競馬に負けて腹が立っていただけかもしれない。
明るく清潔な食堂の中で、ぽつんとひとりだった彼のことを、
なぜか繰り返し思い出すのです。
|