名前も覚えていない小さな男の子

高校3年の冬休みだった。

雑用係として、小中学生のスキー教室にくっついて行った。

その小さな男の子はたぶん小学校2年だったから、

今はもう、いいかげん青年だろう。

彼はめちゃくちゃだった。

ひどく手におえない子供で、やせっぽっちでチビのくせに

やたらと喧嘩を売り、誰からも好かれなかった。

だけど周りの大人は、少し黙認していた。

ここでしか暴れられないことを知っていたからだ。

3泊4日の中で、ある晩彼はおねしょをした。

昼間の暴君ぶりがうそのように

彼は萎縮していた。

彼は、ちぢみあがっていた。

お互いの距離が少しずつ溶けはじめたころ

スキー教室は終わった。

バスを降りてお別れ会の会場へ入る。

そこには、子供たちの親が待っていた。

暴君は王座を追われ

正座をして小さなひざに手を乗せ

折れるほどまっすぐに背を伸ばして

おりこうにしていた。

母親はそんな息子を目を細めて眺めていた。

なぜ?

なぜ?

なぜ?

なぜ彼は

あんなに萎縮して緊張してるんだ。

おかあさんの前で。

なんで笑ってるんだ。

あんな背中を見て

なんで笑っていられるんだ。




























オモイダシテシマウコト。