浸潤癌(扁平上皮癌)

*** 組織分類 ***



ついに、浸潤癌のところまでやってきました。
書きたいこと、書かなければならないことが、てんこもり!!で、どこからどう書いていいのか迷うほどです。省くことのできない大切な項目も沢山あります。
いずれおいおいに書いていくことにして、実際に私たち細胞検査士が組織型を推定するときに、どんな所に注目し、どう診断しているのか、そのためには何を知っていなければいけないのか、というあたりを中心に少し書いてみようと思います。

ところで、ここであっさりと書いてしまった、「組織型」って、なんでしょうか??
一般的には癌は「癌」であって、胃癌、子宮癌、肺癌、、、etc.せいぜい、すごく悪い癌、早くみつかった癌、、、といった区別しかしいないのに、なぜ私たちは組織型などというものを判定し、分類しているのでしょうか??
まずはそこらへんのことから説明していこうと思います。

癌には、由来する細胞によってさまざまな種類があり、それがさらに分化度によっても区別されているということは、前にも書きました。
組織分類というのは、腫瘍を分類するのに組織学的・細胞学的に鑑別し組織型を推定すること、つまりどんなタイプの癌なのかを分類することをいい、これによって病名が決まる=最終診断となるものです。
組織分類に対して、肉眼的に実際の腫瘍の形や色、発育方向など外観による分類、というのもありますが、こちらは目に見えるのが前提ですから、当然ある程度以上大きくなった癌にしか通用せず、また、最終診断にもなりません。
なぜ、組織分類が最終診断になるほど大切なのか、、、それは、癌の種類や分化度の違いが予後に大きくかかわってくるから、です。

子宮頚癌の場合、組織型は腺癌と扁平上皮癌のふたつに大きく分類されます。
扁平上皮癌は全体の90%を占めるといわれており、私のHPもそのことを踏まえて、扁平上皮の病変を中心に取り上げてきました。
ここでは、比較のために、もう一つの腺癌についても、簡単にふれてみます。
腺癌については、いずれ詳しく書くつもりでいます。(いつになるかは、、、いつものことながら不明です。すみません)

赤い文字を クリックすると別枠に組織の画像が開きます>

この絵は、正常腺組織、と腺癌を摸式的に表わしたものです。
一応、分化度は中分化くらいのものを描いたつもりで、もとの組織の特徴を残したままで癌になっているところを表わした、、、つもりです。
正常組織では腺腔が一つだったものが、癌化して細胞の分裂が盛んになったことで腺腔の数が増えています。
また、もともと一層性の円柱上皮だったのが何層にも増殖し重なってきています。
腺細胞が本来もっている、腺腔を作ろうという働きは癌になってしまった後でもまだ残っており、高分化な癌ほど著名にその傾向があって、はっきりと丸く並んだ、けれども小さくて未熟な腺腔を沢山作るようになります。
逆に低分化な癌では腺腔を作る能力は無くなってきて、かろうじて、腺を作るために細胞同士がくっついている程度、、、のものになります。
この絵の腺腔はまだはっきり構造がのこっていますから、どちらかというと高分化に近い、、、と言えるかもしれません。
核は、正常組織では基底膜に近い同じ位置にずらっと並んでいますが、癌では上下さまざまな位置にあり、大きさもばらばらでそろわなくなってしまっています。(これを核の極性の乱れ、と表現します)
細胞ひとつひとつの大きさはまちまちで、本来基底膜を足場にして並んでいるはずの細胞が、基底膜なしでもどんどん増殖してしまっているため、モコモコと不規則に積み重なってしまっています。
腺癌の絵は二つ描いてありますが、上の絵は、癌細胞が間質組織の中へ中へと食い込んでいる様子、下の絵は、内側に間質細胞を伴いながら、内腔へと伸びている状態を表わしています。
ごく初期段階の腺癌は、みんな上の絵の様に腺細胞の増成した状態から始まるのですが、だんだんとそれぞれの特徴を出してきて、内腔方向へポリープ状に増殖するもの、組織の中深く増殖していくもの、と分かれていきます。むろん、癌腫が大きくなれば、どちらとも区別できなくなってしまいます。


扁平上皮は、もともと20層くらいの細胞が積み重なってできていて(絵では、省略してしまっています。これまたすみません)、外層にちかいほど(絵では上にいくほど)分化し角化しているのですが、癌ではそういった方向性を無くしてしまっています。
それでも、扁平上皮と同じように何層にもつみかさなった構造をしており、この絵ではうまく表わせなかったのですが、細胞質は腺癌にくらべると広く、分厚く、くっきりとし、本来の扁平上皮のもつ特徴を備えています。
また、重要な所見として、扁平上皮細胞が核を真ん中に持っているのと同じように、癌細胞であっても核は真ん中付近にあります。
腺癌と同じように、内腔方向へと増殖していくもの、組織の中深く増殖していくもの、と両方あって癌腫が大きくなると両者を区別しづらくなることも同じです。


肉眼的分類でいうと、子宮ちつ部の癌は、カリフラワーのように内腔にむかって飛び出しつつ大きくなるタイプのもの(外方発育型、といいます)が多いようで、この場合、出血などの症状が出やすく発見しやすいため、子宮癌の予後がいいことの理由のひとつとなっています。
反対に、組織に食い込んでいくものもあり(内方発育型、といいます。見ためは噴火口または潰瘍状です)この場合は症状が出にくく、そのため発見が遅れがちで、このタイプ癌の予後は悪くなります。
扁平上皮癌と腺癌のどちらがどっちのタイプに多いのかは、一概に言えないようで、肉眼的分類には限界があることがわかります。


さて、そろそろ、なぜ肉眼的分類でなく組織分類が行われるのか、説明しなければいけませんね。
癌が小さく手術によって簡単に取り切れてしまう程度のものであれば、それが扁平上皮癌であろうと、腺癌であろうと、また、このあとに書く分化度が高かろうと低かろうと、あまり関係はありません。

子宮頚癌の5年生存率
(1971-1988)

(日本産婦人科学会 1997年)
進行期治療症例5年生存例(%)
I22278819342(84.9)
II147579657(65.4)
III102384140(40.4)
IV2241308(13.7)
5002433447(66.9)
すべての癌細胞を残すことなく、ちゃんと取ってしまいさえすればいいのです。

左の表は、子宮頚癌の治療と、5年後の生存率をまとめたものです。
癌が小さければ小さいほど、治っていることがわかるでしょう??それに、いわゆる0期の上皮内癌についての記述がないのは、治癒率がほぼ100%なので、表に入れる必要がないからなのです!
何度も書きますが、癌が小さければ小さいほど、患者さんの負担は小さくてすみます。
子宮頚部の場合でいうとIa期なら円錐切除だけですむし、そうすれば子供を作ることもでるのです。
より小さな癌を見つける、、、そのための子宮癌検診を行い、私たちはそのための努力をしているわけですが、大変残念なことに、検診の受診者数は頭打ちの傾向にあります。

きちんと検査を受ける人は毎年きちんと来るのですが、受けない人はとことん受けない、いざ出血がひどくなり、下腹痛や排尿障害が起きて、はじめて病院の門をたたく人が減らないのです。
だから、日常的に検査していても
「なんでこんなになるまで放っておくんだろう??症状はいっぱいあったはずなのに、、、。」
と我が目を疑ってしまうような癌に出くわすことがなくなりません。
毎年きちんと検査を受けている人はなにか異常が起きた場合の発見も早く、最低限の負担で治療出来るのですが、当然、発見の遅れた人の場合は大変です。
どんな治療法を採用するのか、手術を中心に進行度によって放射線や化学療法も検討し、もっとも有効な方法を決めなければなりません。
このとき、組織型というのが、大変重要な要素になります。

大ざっぱにいって子宮頚癌に関しては、扁平上皮がんよりも腺癌の方が10%ほど予後が悪いようです。
治療については医者の領域で私には詳しくは述べられないのですが(勉強不足です、すみません。これから勉強します)これは腺癌の方が扁平上皮癌より奥で発生するため、潰瘍型の発見しにくい発育型だった場合に自覚症状が出にくく、発見が遅れがちなことが理由にあげられます。
また、腺癌は扁平上皮癌にくらべると放射線治療があまり利かないということも重要な要素として関係します。周囲の正常組織に強い障害があらわれるほどに大量照射しても局所治療の困難な腺癌、、、というのもあるのです。
そのため、手術の不能な進行した癌に有効なはずの放射線治療が意味をなさず、癌治療を難しくしています。
組織分類では、腺癌、扁平上皮癌の区別だけでなく、このあとすぐに書きますが、組織型をさらに分化度の違いによって細かく分類ており、それぞれの予後がやはり変わってきます。
例外も多いのですが、癌一般に言える「分化度の低い癌ほど予後悪い」というのが子宮癌でもあてはまります。

子宮癌に関しては、細胞診は確定診断にはなりません
病変をねらってはさみのようなもので小さな組織を切り取り、病理標本にする「ねらい組織診」や治療もかねることもある、円錐切除術での手術材料が最終診断となり、その後の治療方針をきめます。
でも、その確定診断を得るためのこのような検査をするとき、どんな病変を疑っているのか、わかっているのといないのとでは、検査の質が違ってきます。
具体的には、たとえば、腺癌を疑っているのなら頚管の奥の方から組織をとってこないと意味がないのですから、細胞診での診断結果に「腺癌を疑うので、頚管の精検をしてほしい。」ということが書いてないといけません。
それがないと、手前の扁平上皮領域の組織だけしか採取することなく、結果は陰性=癌はない、などという間違った結果を導くことになってしまうこともありえるのです。
出血などの自覚症状があって病院へ行き、細胞診をやって癌細胞が出たのに、手前の方しか組織を取ってこなかったので、頚管の奥に隠れていた腺癌を見逃してしまった、、、。
細胞診で明らかな癌細胞が出ていれば、ただちに再検査することになるのですが、時間も手間も、無駄なだけです。そんなことの無いようにするには、どんな組織型でどのあたりを精密検査すればいいのか、できるだけ細かく推定する必要があるのです。

ここで、ちょびっと、私自身の反省もこめてひとこと。
組織型の推定は、時に難しく、また患者さんの姿が見えないところでの「(組織型が)あたった、あたらなかった」は、クイズにでも回答するかのような気楽な討論を巻き起こしがち(そうなんですよ、、、!)ですが、より高い精度の検査結果を得るためには、組織型推定が当て物、、、であってはいけません。より沢山の情報を集めてきちんと推定できるようにしなければいけないのです。
そのためには、検査を受ける患者さんはちゃんと問診に答えて、細胞を採取し検体をつくる医療機関はちゃんと良い検体のつくれる手技を行い、臨床所見など書きもらすことなく診断書に記入し、染色など一連の標本作成作業はつねに完璧に行われ、そして、検鏡する私たちは豊富な知識と経験をもってより正確な推定が行えるようにしなければならない、、、のです。
<<もっとちゃんとやらなくっちゃ、自分。





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