子宮に出現する細胞と
子宮頚部扁平上皮癌のできるまで



*** なんで、子宮から?? ***


細胞がどんな風に見えるのか、具体的な例をあげるのに、子宮、特に子宮頚部を題材にとりたいと思います。
なぜ、子宮なのか、、、??男の人には関係のない臓器なのに、、、??
一番の理由は、細胞診の役割のもっとも確立されている臓器が子宮だから、です。
日本で一番多く細胞診が行われている癌検査は、まちがいなく、子宮癌検査です。
子宮癌、特に子宮頚癌は、発生する場所がほぼきまっていて、しかもそこは医師が直接目で見ながら細胞を採取出来る検査しやすい場所にあります。そのため、細胞診の正診率が大変高く、信頼のできる検査としての地位が確立しているのです。

もう一つの理由は、子宮癌に関しては、初期癌についてなど細胞形態が充分に研究され、他の臓器よりも詳しく色々なことが説明できるから、です。

細胞診は、アメリカに移住したユダヤ系ギリシャ人のGeorge Nicholas Papanikolaou (1883-1962)という解剖学者が1920年頃に確立し、発展させた学問です。彼が、1942年に報告したパパニコロウ染色は、少しずつ形を変えてはいますが、今も細胞診の最も重要な染色方法であり続けています。
この、パパニコロウ博士の研究していたのが、子宮の膣の細胞であり、子宮癌研究の歴史はそのまま細胞診の歴史と重なっています。他臓器へは子宮癌細胞形態の応用(、、、といっては他の癌の細胞を独自に研究していた学者も多いので言い過ぎかもしれないですが)として広まりました。
世界中の細胞診は子宮癌の検査から、始まったのです。

さらにもう一ついえば(実はこれが一番の理由だったりもするのですが)、私自身が毎日一番たくさん見ているのが、子宮癌検査だから、、、です。(^ ^;;
この点に関しては、得意分野から始めよう、という私のわがままを許して頂くしかありません。



*** 子宮の構造と出現する細胞像 ***

<<写真が別枠に開きます。赤い文字をクリック!してみてね>>





子宮は、お腹の下の方で、膀胱の後ろ、直腸の前にある、逆さなすびのような形の臓器です。
外陰から、外子宮口と呼ばれる子宮の入り口まではざっと10cmほど、子宮底をお腹の方へ向けてちつとは「く」の字の関係でつながっています。

子宮は大きく分けて3つの部分に分けられます。

そのうち子宮体部は、赤ちゃんを育てるところであり、子宮のもっとも重要な部分です。
体部の外側は赤ちゃんを支えられるよう固い筋肉からできています。内側は、卵子が着床するために必要なベッドの役割を果たす、子宮内膜とよばれる細胞で覆われています。
いずれ詳しく書くつもりですが(いつになるかは、、、??)この子宮内膜は円柱上皮細胞と呼ばれる一層性の細胞からできており、ホルモンの働きによって支配されていて、性周期にあわせて変化します。

ちょっと、用語の使い方として、細かい説明になってしまうのですが、、、円柱上皮細胞が筒状になってそこから粘液などを産出している状態を「腺」といいます。「腺腔(または腺管)を形成している」と表現し、この腺腔を作っている細胞を腺細胞と言います。粘液や、消化液、乳汁など、みなそれぞれ、この腺のなかでつくられています。
腺細胞と言わずに「円柱上皮細胞」といった場合は、腺を形成している細胞のほか、腺腔作っていない、臓器の内側を構成しているだけの細胞もすべてが含まれます。、、、うぅん、わかりづらいですね。
実際のところ私自身、腺細胞と円柱上皮細胞をあまり厳密に区別することなく、使ってしまっています。<<あまりよくないことではある、、、かな。
文中で、入り乱れて使ってしまっていたら、とにかく、単層の円柱状の細胞のことだ、とだけ思ってください。


内膜は、排卵時には、分厚くて(約10mmほどにもなります!)コイル状の血管の豊富な、やわらかいベッドになります。
このベッドは、受精卵が着床しやすいよう、、、つまりくっつきやすいように、べたべたとした粘液を産出する、腺でできています。
そして、着床がなかった場合、機能層と呼ばれる表面側の増殖した部分は排出され(=生理です)、下の方の基底層だけが残って、また次の排卵のためのベッドを作り直します。この作業が初潮から閉経までほぼ月1回、年12回×約40年≒500回ほど繰り返されているのです。
排卵のある前の、盛んに増殖してベッドを作っている時期を「増殖期」といいます。
絵では、核と核の間が狭い細胞で表わしています。細胞膜が薄いため、細胞質の境界線がはっきりせず、大きな塊としてみえることが、よくあります。
排卵後の、粘液を分泌し着床を待っている時期を「分泌期」といいます。
絵では、細胞質を薄紫色で表わしていますが、これは細胞質内に粘液が溜まりその粘液が染まるためにこんな色に見えることが多くなるからです。


すこし子宮の出口に近い位置になると、小型で、丈の低かった内膜細胞から、丈の高い頚管円柱上皮細胞組織図はこちら)、 へと変化していきます。
頚管円柱上皮細胞は、外部からの雑菌などから体部を守るための粘液を産出し、腺腔を形成しています。
それと同時に、膣内に入ってきた精子を、線毛とよばれる細い毛で奥へ奥へと送り込む手助けもしています。
頚管に限らないのですが、腺細胞に粘液が溜まっている状態は、真上から見るとちょうど蜂の巣のように見えます。
粘液が、蜂蜜、核が幼虫、といった感じでしょうか?
きれいに並んだ蜂の巣様構造は、腺がきちんと一層性に分化している証拠であり、良性のあかしです。
膣は、扁平上皮細胞組織図はこちら)によって覆われています。
前にも書いた通り、皮膚が扁平上皮で出来ていることからもわかるように、扁平上皮は、何層にも細胞が重なった多層性構造の、大変丈夫な組織です。膣は外部と直接つながっている皮膚の延長であるため、刺激に強く、丈夫な必要があるのでしょう。
ただ、皮膚の扁平上皮が、核が消えてしまうまで分化する(お風呂でとれる、あか、、、のことですね)のと違って、膣の扁平上皮は核が無くなってしまうほどには分化することはありません。核は最後まで残っていますので、子宮頚部の細胞診では、通常、脱核した細胞はみられません。
そして、ちつの扁平上皮は内膜細胞と同じく、分化度はホルモンによって支配されています。
絵の左側の様に、増殖期には分化が進んで(角化して)、オレンジ色の色素に染まった表層細胞が沢山あらわれます。核は小さく濃縮して見えます。
排卵がおきると分化が進まなくなり、中層細胞は薄い緑色に染まっており、核は濃縮せずに、細かいクロマチンをもった小さな球状にみえます。

分泌期の、中層までしか分化していない状態は、核の濃縮した表層細胞(皮膚により近い状態、、、ともいえるかな)にくらべるとやや刺激に弱く、強度が足りません。でも、人間の体はうまくできたもので、外部の刺激から身を守るための、立派な対抗策を持っています。
実は、この中層細胞には、グリコーゲンという糖質が皮膚の扁平上皮に比べて沢山含まれています。分泌期に中層細胞が増えると、それにともない、グリコーゲンを餌とするデーデルラインかん菌という乳酸菌の一種が繁殖するようになり、このデーデルラインかん菌の作り出す酵素によって、膣内は酸性に保たれ、他の雑菌の繁殖が抑えられます。膣には自浄作用がある、、、というわけです。
お腹の中のビフィビス菌は有名ですが、膣に善玉菌がいる、、、というのはあまり知られていないかもしれませんね。

最近の超がつくほどの清潔主義のせいか、外側を洗うビデのみならず、膣洗浄まで毎日行っている人がいるようですが、これは、せっかくのデーデルラインかん菌をも洗い流してしまうことになり、あまりおすすめできるものではありません。ちつ洗浄は、生理をはやく終了させるため、など、限られた場合にのみ使うべきです。

これらの上皮細胞成分のほか、赤血球、白血球などの血液成分や、子宮筋腫の潰瘍をおこしたところから落ちてきた細胞、妊娠関連細胞、さまざまな感染症の原因となるもの(カンジダ=真菌=かびの仲間、トリコモナス=原虫=アメーバの仲間、など)、もしくは感染により変化した細胞(HPV、ヘルペス、など)、その他にも色々なものを細胞診でみることができます。


*** 子宮頚癌のできるわけ ***


では、次に子宮頚部扁平上皮癌のできるまでを簡単に説明します。
頚部腺癌、体部腺癌、については後回しにします。すみません。
さらに、卵巣そのほかのがん、、、については、、、うぅん、いつかは書けるといいんですが、、、。ごめんなさい。

頚部扁平上皮癌は、子宮のほぼ特定された場所にしかできません
それは、円柱上皮細胞と扁平上皮の境目あたりです。上の子宮の絵でいうと、子宮膣部のところにある、円柱上皮をあらわす緑色の線と、扁平上皮をあらわすオレンジ色の線の境目のあたり、もう少し正確にいうと、緑色の円柱上皮側にできます。

では、なぜそこにできるのでしょうか??

子宮膣部というのは、頚部のうち膣の方に出っ張ってる部分をさします。(上の絵では、子宮を3等分に完全に分けて書いてしまっていますが、子宮頚部の一部分だ、と思ってください。)
この子宮頚部(〜子宮膣部)の形は年齢によって、大きさや出っ張り具合に差があります。
体部の大きさが変化するのは妊娠のときのことを考えればわかると思いますが(双子の妊娠のときなんて、そのうち破裂するんじゃないかと思ったくらい大きくなりました(^ ^))、赤ちゃんの入る体部だけでなく、子宮全体の形や大きさは年齢によって変化しているのです。
成人女性では、子宮膣部が大きくふくらんで、膣の方へ出っ張ってきます。
これは、線毛をもつ頚管円柱上皮が表に出ることによって、精子の運動を助けるという機能がはたらき、妊娠しやすくなるため、と考えられています。
扁平上皮(Squamous cell)と円柱上皮細胞(columnar cell)の境目を、両方の英語の頭文字をとって、S-C-junction といいます(組織図はこちらです。多層になった扁平上皮と単層の円柱上皮がはっきりと区別できるのがわかると思います)が、これが、頚部内から膣の方へと移動し、膣に露出するようになります。つまり、頚管円柱上皮細胞が頚管内にとどまらず、外から覗ける位置にまで出てきてしまうのです。
右の絵では、腺腔を作っている緑色の円柱上皮が、年齢によって位置がずれているところをあらわしたつもなのですが、、、わかります??

この、 頚管円柱上皮細胞が膣に露出している状態を偽びらんといいます。
一般にびらんというのは、炎症をおこしてしまって表面が荒れた状態をいうのですが、覗いて見たとき、本当に炎症がおこってしまっている真性びらんと一見よく似た、赤っぽい色に見えるのです。
上に書いた通りの、加齢にともなったまったく生理的な変化で、本来なんの心配も無いものなのですが、この、頚管円柱上皮細胞が膣に露出している状態、、、というのが癌化については問題になります。


前述した通り、扁平上皮は何層にも重なった丈夫な組織ですが、頚管腺はたった一層からできています。
扁平上皮は、角化によって細胞質の構造が密になった、固い作りの細胞になっています。また、上の方では剥がれやすくなってはきますが、真ん中より下の方では、刺のようなものを互いに沢山つきだして、隣とがっちり結びつきあい、丈夫な組織を作っています。
ところが腺細胞は、単層なうえ、細胞そのもののつくりも繊細(おぉ、パソコンの変換でもたまにはまともな言葉がでてくる!)、レースのように華奢な細胞からなる組織です。
その繊細な腺細胞が、生理的変化とはいえ、膣に露出してしまい、扁平上皮なみの刺激にさらされるのだから、たまりません。
少しの刺激でも、たちまち影響を受けて炎症をおこしてしまいます。
偽びらんが真性びらんになってしまうこともしばしばです。

で、どうなるか??
人間の体は、何度も書きますが、本当によくできていて、対抗措置をとろうとします。
腺細胞の付け根に、何にでも分化できる幼若な細胞(予備細胞、といいます)が出現組織図はこちら)し、何層にも分裂、分化して、丈夫な扁平上皮をまねた形態をとろうとするのです。
細胞質はレースのようだったのが厚みをまし、広くなり、隣の細胞との結合を強くするための刺をまねしたものまでできて、さらには多層性になります。すべて、外部の刺激から子宮を守ろうとする変化です。
この細胞を扁平上皮化生細胞組織図はこちら)といい、本来腺細胞があるはずの場所が、これに置き換わっていきます。
左の絵では、真ん中に小さくて幼若な細胞が一つだけ描いてありますが、それが沢山増えて、化生細胞に分化していくのだ、と思って見てください。

では、どうして癌ができてしまうのでしょう??
子宮頚部扁平上皮癌ができるには、ヒト パピローマ ウィルス(=HPV)という、簡単にいうといぼを作るウィルスが関係していることがわかってきました。
このHPVは、50〜60種類もの型があるのですが、そのうちの16、18、31、33番の型のウィルスに発癌作用があるらしいのです。
ちつ部に露出した円柱上皮の部分が、HPVにさらされてしまった結果、どうやら癌ができるようだ、、、。
このことは、癌の遺伝子研究が進んできて、子宮頚部癌を調べて見たとき、その多くにこれらのウィルスの遺伝子がまじっていることからわかりました。

(細胞診では、HPV感染した細胞に核の周りの細胞質が白く抜けてしまう Koilocyto と呼ばれる独特の細胞形態が現われます。この細胞は、前癌病変の最も早い状態なのではないか?と注目されてきましたが、残念ながら、Koilocyto は16、18、31、33番のウィルスによってできるものでは無いことが、遺伝子の研究からわかってきました。ただし、高度異形成という、明らかに前癌病変とおもわれるものにもKoilocyto が見られる場合があり、まだ、詳しい関係はわかっていないようです。

絵では、黄色い矢印は普通の(?)刺激、赤い矢印がHPVによる刺激、をあらわしています。
ただし、HPVによる刺激があったからといって、すぐに癌ができるわけではありません。何年も何年もたってから癌になったり、たぶん、なにも起きない場合もあるのだと思います。
HPVの危険因子をもった幼若な細胞が、そのまま何年もねむっていて、年をとってからなんらかの原因で(他の因子も絡むのかもしれません)癌化することもあるのです。
癌化の詳しい過程や、癌として発現するまでの年数の推定など、現在も研究は進んでいます。


ところで、ここでもう一度、子宮頚部扁平上皮癌の出来る場所、、、というのを考えてみてください。癌のできるSCJ(扁平上皮と腺細胞の境目)は、高齢者では頚管の内側にもぐりこんでしまっていて、外から覗いただけではわかりづらくなってしまっていることを、思い出してみてください。
ちつを覗きながら細胞をとる場合ですら、きちんと頚部の奥まで機具を差し入れなくては採取出来ない位置にSCJが移動してしまっているのですから、ましてや、自分で細胞を採取する自己採取法では、まったくかすりもしないことがおわかりになると思います。

細胞の採取については、また、詳しく書くつもりでいますが、ここでは「子宮癌検診は産婦人科で受ける」ことを、強くおすすめしておきます。

右の写真は、子宮の細胞を採取するための器具です。
上の二つは頚部細胞を採取するためのもので、上から

Cervex−Brush(UNIMAR社)
サイトピック [Cytopick](アンネ社)

です。 頚部の細胞の採取には、綿棒もよくつかわれるのですが、これらは、より効率良く頚部の内側を採取できるような工夫がされているもの、です。

下の二つは子宮内膜を採取するための器具で、それぞれ、

エンドサイト[Endocyte]
エンドサーチ[Endoserch](アンネ社)

といいます。

細胞の採取、固定、染色は、正しい診断にかかせない重要な要素であり、あらためてじっくり書いていくつもりでいます。



柳井@広島先生、小川@KOBEさん、山本@ディカさん
写真のご提供、ありがとうございました!




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