細胞診クラス分類

*** 細胞診での見え方 ***

細胞診は、形態学の一端であっても、がんの全体像を見ているわけではなく、採取された、癌の一部分の細胞を見ているだけです。
だから、組織切片によってがんの構造や浸潤の有無を判断できる病理診断のように、つねに最終診断になるわけではありません。
ここでいう最終診断というのは、それによって、手術などの治療方針が決定することを指します。
特定の場所をねらって細胞を採取する、穿刺やブラッシングでは、細胞診が最終診断として用いられることはあります。細胞採取については、いずれ詳しく書くつもりです。

細胞形態の特徴をとらえることによってその細胞の良悪性が診断できることは、前述の「細胞を見ただけで癌がわかるの?」で、書いたとおりです。
だから、超音波やレントゲンなどで癌の病変の範囲がはっきりとわかっているのであれば、そこから細胞を採取した細胞診が最終診断となることもあるのです。
けれども、細胞をみただけでは癌かどうかはっきりしない場合や、その細胞の発生源がどこか漠然としかわからない場合、癌がどの程度浸潤しているのか推定出来ない場合、など、細胞診ではわからないことが多いのも事実です。
この場合は、がんの構造や浸潤の有無を判断できる病理診断が、やはり最終診断になります。

もちろん、細胞診は、細胞たった一つの色や形だけを見て、良悪性の診断をしているわけではありません。
塊で出現しているときの構築状態や、細胞の背景にどんなものが出現しているかなど、情報を少しでも多く集めることによって、総合的に診断をしていきます。
長年のこうした経験から、たとえば、子宮頚癌に関しては、微小浸潤といって癌が浸潤を始めたばかりの状態を細胞像でとらえることができます。
胃の印環細胞癌や、肝臓癌など、特徴的な細胞所見のあるものであれば、肺などの転移巣で先に細胞が見つかった場合に、原発巣を推定することもできます。
そのほか、さまざまな研究の成果によって、細胞診が最終診断になりえる癌も、ずいぶん増えてきています。


では、具体的に、組織像と細胞像には、どんな関連性があるのでしょうか?
ここでは、婦人科の扁平上皮を題材に、両方を対比させて絵に描いてみました。
実際の顕微鏡では、固定法の違いから病理組織片と細胞診では、細胞の大きさに差があるのですが、ここでは同じにしてあります。
扁平上皮では、一番上の細胞がこすりとられているのだ、、、ということを頭において、想像しながらみてください。


*** 炎症の組織像(潰瘍)と細胞診像 ***

炎症は、細菌やウィルスなどに対する体の防衛反応として起こります。
沢山の血液が集まって、そのなかに含まれる遊走細胞(白血球といいます)がこれらの異物をやっつけるのです。
ところが、白血球は肝心の異物のみならず、周辺の細胞まで巻添えをくらわせて、ある程度破壊してしまいます。
破壊された組織を再生するため、細胞の分裂は通常よりも多くなり、つぎつぎ分化していきます。
この状態を、細胞活性が高い状態、といい、核は肥大して見えます。
核内のDNAが活動期にあるときあらわれる、核小体とよばれる赤い球体がみられることもあります。


*** 老人性の萎縮像 ***

子宮はホルモン依存臓器なので、年をとってホルモン量が少なくなると、上皮は分化しなくなります。
そのため、若年〜壮年時のころより組織の厚みが薄くなり、基底部の細胞が直接採取されるようになります。
厚みが薄い状態は、もろく、外部からの細菌などの刺激にも弱く、しばしば炎症をおこします。
これは、加齢によるものなので異常ではないのですが、基底部の細胞は小型で、核も大きめなので、炎症が加わったりすると、癌細胞との鑑別がむつかしくなる場合があります。
この場合は、ホルモン剤を投与して、人為的に細胞の分化を促進させます。
正常の基底細胞は、ホルモン剤の投与によって、きちんと分化するので、分化できない癌細胞との鑑別がつくようになります。


*** 異形成 ***

核にだけ異型があって、細胞質は正常にみえるもの、を(婦人科領域では)異形成と言います。
なんらかの原因で基底部の細胞に異常がおこりDNA量が増えた状態で分裂がおき、その異常のある細胞が上皮の表層部まで達しているも状態、、、を言います。
大腸のポリープなどと並ぶ、境界病変のひとつとされており、細胞診クラス分類では、良性のclass I、class IIより一つ上のclass IIIに分類されます。(ちなみに、初期癌はclass IV、進行癌はclass Vに分類されます。)

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異形成は、さらに細かく、軽度異形成、中等度異形成、高度異形成の3つに分類されています。
扁平上皮の厚さは、栄養補給面からほぼ一定に保たれています。
そこで、病理組織標本では、基底部の細胞に似た小型で分裂する能力のある細胞(幼若な細胞=自己増殖をはじめるステップを踏み出した細胞、ともいえます。)が、基底膜からどのくらいまでの割合を占めているかで分類します。
左の絵の組織図では一つ一つの細胞が実際より大きい比率で描いてあるので、1/3だか、1/2だか、はっきりしませんが、分化せずに下から1/3を占めているものを  軽度異形成組織図はこちら)、 2/3以下を占めているものを中等度異形成組織図はこちら)、 2/3をこえてみられるものを高度異形成組織図はこちら) とわけてあるのがわかるでようか?

細胞診でも、細胞の大きさとN/C比で、同じく三つにわけています。
細胞は、上皮の1/3までがN/C比の高い幼弱な細胞で占められている場合は、残りの2/3を使って、分化しようとします。
この場合は、核の異型はあるものの、細胞の大きさは普通の表層細胞と同じか、弱冠小さい程度の大きさにまでなります。
これが細胞診では、細胞質はほぼ正常に分化しているのに、核が肥大しやや核異型のある、軽度異形成細胞として、わかります。

上皮の2/3までが未熟な場合で占められている場合でも、細胞は残りの1/3を使って、分化し、2/3を超える場合でも、さらにその残りを使って分化します。
それぞれ、それなり、、、の大きさまで分化し、中等度異形では細胞はやや小型で、N/C比の高くなってきた、核異型のある細胞として出現します。
高度異形では、細胞質の更に少ない、核異型の強い細胞として、認められる、、、というわけです。
それなり、、、というのがどういうことか、たとえて言うと、、、。
日曜に試験があると決められていて、毎日ノルマをこなしていけば100点がとれるのに、月、火と遊んでしまったら、水〜土まで必死にやっても、60何点しかとれない、、、というのと同じです。(違うかな?)
月、火、水、木、金、と遊んでしまったら、土曜日にどんなに頑張っても、全体の1/6しか問題が解けないから、点数は10何点、遊ぶ時間が長くなればなるほど、限りなくやっていないに近くなっていくわけです。
余計にわかりづらくなっちゃったかな?絵を見ていただければ、わかるでしょうか?


みつかった異形成の細胞が、それが癌化のステップを踏み出した細胞なのか、それとも良性ポリープと同じ様に癌にはならない細胞なのか、見ただけでは区別はつきません。
また、軽度、中等度異形成は消失してしまうこともあり、治療の対象にはなりません。
見極めがつくまで定期的に経過観察することになります。
高度異形成は、上皮内癌へ移行するものが多く(高度異形成にまでなる細胞は、癌化のスッテップを踏み出した細胞が多い、といえます)また、癌との鑑別が難しい場合もあり、治療の対象となります。

ここで、異形成が癌化するかどうか、見ただけでは区別がつかない、と書きました。
そうなのです。遺伝子的な検索まで行えば、ある程度予測はたつのです。
子宮頚部の扁平上皮癌は、HPVウィルス、という、ウィルスの感染によって引き起こされることが、わかってきました。
HPVウィルスの中でも、ある特殊な型(インフルエンザに香港A型などという、型があるように、HPVウィルスにも沢山の型があることが報告されています)の数種類が、癌を引き起こすのです。
まだ、ウィルスの同定が異形成の治療の根拠になることはないようですが(アメリカでは始まっている、と聞きます)いずれ、異形成の発見>ウィルスの同定>治療の有無、となる日がくるでしょう。
HPVウィルスは、性交渉によって感染します。
そして、近年の性交渉の若年化のせいか、20才代でも異形成や、癌が見つかることが多くなっています。
エイズだけが怖いのではないのです。
最近は保健の授業も昔に比べてずいぶんとつっこんだ内容をやっている、と聞きますが、自分の、パートナーの、体を守るための性教育を、もっともっと、急いで充実させないといけません。


*** 上皮内癌 ***



さてさて、いよいよ癌の話に入ります。
細胞自体は、勝手気ままな増殖をするまぎれもない癌細胞であるにもかかわらず、基底膜(上皮の下の間質組織=支持組織と境を作っている膜)を超えることなく、上皮内だけで癌が増えている状態を「上皮内癌」(carcinoma in situ =CIS という呼び方のほうが耳になじんでます) といいます。
癌化のステップを踏み出したものの、まだ浸潤するの能力のない状態、といえます。
組織像では、勝手気ままに分裂する能力のある、小さくって細胞質の少ない未分化な細胞が、全層にわたって出現しています。
細胞診のクラス分類では、class IV に分類されています。

勝手気ままに分裂できる、ということは、上皮のどの部分にあっても増殖していけるということで、左の絵の中の、ところどころに核の変わりにニョロニョロした線が描いてあるのが、その、分裂像をあらわしています。
  (組織図の写真はこちら)、 絵が適切でなく分かり辛いのですが、最上層にも分裂像があることで、癌の特徴を象徴したつもりです。

細胞診では、細胞質の分化がほとんど見られない、 N/C比が極端に高い細胞 として認められます。
核は、DNAの異常増殖によって不必要な成分で満たされ、パンパンにふくらんで立体的になり球状に見えます。(緊満感をもつ、と表現します)
核の色は、DNA蛋白の集合体であるクロマチンが多く染まるため、一般に濃く、粗く、見えるようになります。
ここで一般に、、、といったのは、上皮内癌にもさらに色々あってクロマチンのあまり染まらないタイプもあるからなのですが、ここでは詳しい説明は避けます。(染色については、近日中に書く予定です)いずれにしても、核は球状に、立体的に見え、良性の細胞との鑑別は可能です。
細胞質は分化していないため、ほんの少ししかありません。それだけでなく、細胞質の不完全な状態は、まともに分化した細胞質に比べ解けてしまいやすいので、もやもやした残骸になってしまい、核だけが残って見えることもあります。

右の絵の上の図は、上皮内癌が横に広がっていく様子をあらわしています。(境界部の組織写真はこちら
近藤誠氏のように、浸潤をはじめていなければそれはまだ悪性とは言えない、、、という立場をとられている方もいるようですが、本来正常に分化してくはずの細胞が、つぎつぎと癌細胞に置き換えられている状態、、、は、やはり周辺の状況に全く頓着せず勝手きままに増殖してしまうという悪性の特徴を備えている、といえます。
下の絵の、左は、正常扁平上皮と腺細胞の隣り合った場所(=SC-J = 一番癌が発生しやすい場所。前のページ参照)をあらわしており、右は、そのあたりに発生した上皮内癌の細胞が、腺の内部まですっかり置き換えてしまった様子をあらわしています。
この状態は、次に述べる微小浸潤癌と、基底膜の一部が破れていること以外はそっくりでほとんど鑑別がつかないほどです。
また、組織標本上で細かく確認していくと、上皮内癌が浸潤癌の辺縁部に連続してみられることがありますが、これは、上皮内癌がだんだんと悪性化して浸潤癌に変化していることを証明するものと言えます。
つまり、上皮内癌自体は独立した病変なのではなく、浸潤癌の先行病変なのです。
これらのことから、上皮内癌が近藤氏の主張するように転移がないからといって放っておいて良いものではないことがおわかりになるでしょう。

浸潤するだの、進行するだの、恐ろしげなことを書きましたが、でも、安心してください。
あくまで「上皮内」の癌なのですからどんなに横方向に置換していても、腺腔を癌細胞が満たしていても、転移していることはありえません。
治療によって100%治る
癌であり、次に述べる微小浸潤癌とともに、私たち細胞検査士が
「検査を受けて、発見できて、あなた本当によかったわねぇ!」
と思える癌なのです。
癌は、少しでも小さいうちに発見した方がいいこと、少しでも小さいうちに治療した方がいいことを、もう一度強調しておきたいと思います。





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