良悪性を区別するのは、、、?

*** がん、ガン、癌、悪性腫瘍 ***

さて、まず、言葉の整理をします。
がん、ガン、癌、血液のがん、筋肉のがん、悪性の腫瘍、などなど、いろいろ聞いたり見たりしたことがあると思います。
「がん」とひらがなで書いた場合は、「細胞が勝手気ままに増殖を続けたあげく」それが原因で、宿主である人が死んでしまう、すべての病変をさします。
胃癌、乳癌、肺癌といったよく耳にするものの他、筋肉のがんである筋肉腫や、骨のがんである骨肉腫、液性がんとも呼ばれる、白血病などもすべてが含まれます。
「ガン」も「がん」とほぼ同意で使われていると思います。

「癌」と漢字で書いた場合は、発生学的に上皮性のものをさします。

が、、、ここでまた、「上皮」なんぞという、わけのわからない言葉が出てきてしまいました。私流に、ばっさり切り捨てます。
表(おもて)につながっているありとあらゆるもの、全部、が「上皮」です。
「癌」は、「がん」のなかで最も割合が多く、発生母体となる細胞の種類によって、形態もさまざまです。検診の対象となっている、胃癌、肺癌、大腸癌、子宮癌、乳癌など、すべてこの「上皮」性の「癌」です。
、、、と、これだけでは、「上皮」とはなんのことやら、ますますさっぱり、、、だと思うので、ざっと列挙してみます。
皮膚はもちろん、口から肛門までパイプ状につながっている消化管の内側すべて。例えば、ペプシンという強力な胃液を出している胃の細胞も上皮です。肝臓や膵臓とつながって消化管に消化液を出している管の内側や、さらには消化液を作る肝臓や膵臓の細胞そのもの、も上皮です。呼吸によって空気と接触している、肺の気管支というパイプの内側全部。尿管、ぼうこう、さらに続いて腎臓と、おしっこが作られて出てくるまでの通り道も、内側は全て上皮です。子宮のちつ(なんと、私のパソちゃんでは、月遍のついた窒の字がでないぞ!)、子供を育てる本体である子宮体部の内側、卵子を運ぶ卵管の内側、さらには卵巣の、卵子を育てる卵胞の内側なんてのも、上皮です。おっぱいを作る乳腺細胞や、おっぱいが外に出てくる時に通る管の内側も、もちろん上皮です。
ずらずらと、思いつくままに並べてみましたが、大体の感じがつかめたでしょうか??

ただし、「癌」の中でも、例えばおっぱいを作る細胞や、胃酸を作る細胞など、何かを作る細胞そのものが癌になることは少なくて(ないわけじゃありません。念のため)、管の内側を構成している細胞が悪性化することのほうが、圧倒的に多くみられます。
左の図では、オレンジ色の線が上皮をあらわしています。
実は、上皮は上皮でない成分によって裏打ちされているのですが、図では省略してしまっているので、かえって混乱をまねくかもしれません。とにかく体表面を覆う形で存在しているすべての細胞が「上皮」、、、と考えて下さい。そして、一般に「がん」といった場合の多くはこのうちのどれかから発生している「癌」のことだと思ってください。

上皮というのは、外界と交流があるというその性格上、基本的に丈夫にできています。
お互いにがっちり結びあっているのはもちろん、基底膜と呼ばれる膜を使って、足場を固めたうえで分裂、分化しています。
細胞が腫瘍として、勝手に増殖し始めてからもこの性格はかわらず、特に良性の腫瘍では、基底膜のカプセルのなかで大きくなっていることも多いのです。
ここで、「腫瘍」という言葉を使いましたが、ここでは、増えてしまった細胞の塊、と思っていてください。
「腫瘍」については、このあとすぐに詳しく書きます。
悪性化して、分裂速度が早くなり、転移をするようになっても、基本的な性質は変わりません。
上皮性の「癌」では、細胞は結合していることが多いのです。
また、この結合は、分化度の高いものほど、強くなります。 ただし、皮膚を構成している扁平上皮のように、分化するにしたがってばらばらになってはがれていくものが癌化した場合、高分化型の癌ほどばらばらになりやすい、など、例外もあります。

がん化した細胞のもとの細胞がどんな性格をもっているかによって、がんの性質はさまざまだし、また、分化度の違いによっても全く違う性質をもつようになるから、がんをひとくくりに同じものとして扱ってはいけません。
このことは、ぜひ覚えていてください。

上皮性の「癌」に対して、非上皮性のがん、というのもあります。
非上皮というのは、発生学的には中はい葉由来なのですが、表面を覆っている上皮に対して、主に体を支えている部分をさします。
たとえば、骨、筋肉、脂肪、血管、結合織といって上皮とその下の筋肉の間などの詰め物的な役割をはたしている細胞、などです。
上の図では、青っぽくかいてあるのがそうです。
良性、悪性のどちらの腫瘍もできることがあり、悪性のものを肉腫といいますが、がん全体の割合からみると少数です。
非上皮性細胞は、上皮細胞に比べると、結合がゆるく、ばらばらになりやすい、という特徴があります。

上皮性の癌、非上皮性の肉腫は、どちらも原発巣といわれる、最初に出来た場所がはっきりしており、塊としておおきくなるので「固形がん」ともいいます。
「悪性腫瘍」とほぼ同義語です。
「固形がん」の反対語は、「液性がん」といわれるもので、白血病など、塊を作らず、全身にまんべんなく行き渡る細胞が悪性化したものをいいます。
右の図は、それぞれの言葉の関係を図で表わそうとしたものなんですが、良性腫瘍と悪性腫瘍が完全にわかれてしまって、「腫瘍」の関係のはっきりしないものになってしまいました。
なんか、もっと、すっきりした図にしたいんですが、、、。 もごもごもご、、、。

キーワードひとこと
がん上皮性、非上皮性、液性を問わず、細胞が勝手に自己増殖して人を死に至らしめる、すべての病変
上皮由来の悪性腫瘍で、がんの中で最も割合が多い。一般に結合性がある。
肉腫筋肉や骨など、非上皮性の腫瘍。結合がゆるく、ばらばらになりやすい。
液性がん白血病など。癌や肉腫のように、塊で大きくならない。


*** ようやく、腫瘍の話です ***

腫瘍、というのは、体の正常な細胞が性格を変えて、周辺の状況に全く頓着せず、勝手気ままに、何の目的も持たずに増殖してしまったかたまり、をいいます。

この、「勝手気ままに、何の目的も持たずに」というところが腫瘍の大切な定義になります。
だいたい、たった1個の受精卵が、約60兆個の細胞をもつ成人になるまで、分裂と細胞死を繰り返しつつも増殖しているのですから、細胞が増殖するということ自体は、あたりまえのことです。
もちろん、このような成長にともなう増殖の他、さまざまな理由で細胞が増殖することもあります。
たとえば、風邪をひいたとき血液のなかの白血球が増えるのは、風邪の原因であるウィルスや細菌をやっつけるためですし、怪我をしたときにだんだんと傷口がふさがって治っていくのは、怪我で無くなった部分を細胞が増殖して補い、修復しているためです。
必要とされている機能に応じて、その役割を果たせる細胞が増殖しているのです。
成長にともなった増殖は、成人すれば終わりますし、必要とされている機能に応じてその役割を果たせる細胞が増殖した場合は、原因が去り、目的が達成されれば増殖は停止します。
ところが「勝手気ままに、何の目的も持たずに」細胞が増殖してしまった場合、その細胞の集合体が腫瘍になります。

腫瘍には、大きく分けて良性腫瘍悪性腫瘍のふたつがあります。
良性腫瘍はまわりを押し退けるように膨張性に大きくなります。また、周りを被膜でおおわれていて、はっきりとした境界を作ります。
これに対し、悪性腫瘍では細胞が周りに入り込んで発育していきます。周囲との境界は不明瞭で、抵抗の弱い部分(=細胞と細胞のすき間や、血管、リンパ管など)へ、しみだす様に増えていきます。(英語のcancer,carcinoma、ドイツ語のKrebsはいずれもカニが足をのばしたような浸潤性の増殖形態からの連想だそうです)
また、悪性腫瘍の場合は、良性腫瘍にくらべ一般に成長が早く、他臓器への転移をします。

細かい点はいろいろありますが、周辺組織へ入り込んで転移するようになる、すなわち、腫瘍を作っている細胞とは別の種類の細胞が作る組織へ、入り込む能力をもつようになるかどうかが、良性、悪性をわけるポイントとなります。

さてさて、ここであっさり「悪性腫瘍」と言ってしまいましたが、この「悪性腫瘍」をいつ治療するか、については、いろいろ意見がわかれているようです。
近藤 誠氏の「患者よ、がんと闘うな」を始めとする一連の論争以来、「がんもどき、は本物の癌じゃないから放置しろ」だの、「リンパ節転移があったら、初期癌じゃなくて進行癌だから手術しろ」だの、「どんなに大きくなっても他臓器へ転移しない癌は、癌じゃない」だの、「対費用効果を考えたら、悪性かどうかわからないような初期癌を発見するための検診を行うより、その分のお金を癌の基礎研究に回せ」だの、<あ、これはちょっと関係ないですね
沢山の意見があるようです。
私は細胞検査士として、癌の早期発見に日々務める身ですから、あくまで、初期癌の発見と治療は患者にとって有用である、という立場をとった上で説明をしています。
ここから先も、そのつもりで読み進んでください。

余談になりますが、、、近藤氏の著作は、細胞検査士を侮辱した文章がある(「それでもがん検診をうけますか?」内)点と、「がんもどき」という誤解を伴いやすい理論を除いては、*私は*好きです。(あ、好きとか、嫌いとかの問題ではないかもしれませんね、、、。)
医学界の中だけで、なんとなく、なぁなぁで済ましていた問題を正面からとりあげて、沢山の例をあげながら(それが、自分に都合のいい、勝手な解釈に基づくという批判があるにしても)非常にわかりやすく、一般向けに説いてあると思います。
問題提起となった意味でも、功績は大きいと思います。
近藤氏の著作や、それに関連しての癌検診事業については、いずれゆっくり書きたいと思っています。(いつになるかは、、、???)

キーワードひとこと
腫瘍勝手気ままに増殖した細胞のかたまり
良性腫瘍膨張性に大きくなり、まわりと境界をもつ。転移しない。
悪性腫瘍腫瘍を形成する細胞とは別の組織へ入り込み、浸潤性に大きくなる。良性腫瘍より成育が早いことが多い。


*** 転移について ***

話しがそれました。
転移について、もう少し書きます。

正常な細胞は、基本的に細胞1個だけで生存し続けることはできません。 (何にでも例外はあって、血液細胞や、卵子、精子は単独でもいきていますが)
隣り合った細胞同志がくっつきあってお互いに影響しあい、互いを正しく分裂、分化出来るように制御しあっているのです。
正しく分裂し分化した細胞によって、胃や肺といった組織が形作られ、組織の集合体としての個体が存在できるわけです。
転移できるということは、細胞が本来の組織を離れても生き続け、分裂できる能力を獲得することを指します。

転移、と一言で書きましたが、転移する為には、さまざまなステップが必要です。
まず、細胞個々が自立した増殖能力をもたねばなりません。いらないものを排除しようとする体の自己免疫機能に打ち勝ち、できることなら逆に利用して増殖できるようにならなくてはいけません。増殖するためには、がん細胞にだって栄養が必要ですから、血管を取り込む必要があります。次に、他の組織に入り込むためには、境界となっている(厚さは組織によって違いますが、何層にもなっています)を、突破する能力が必要です。隣り合った組織にしみ出すように(これを浸潤といいます)増えることができるようになったとしても、血管やリンパ管を流れて、他臓器へ移り住めるようになるには、また別の条件が必要です。やしの実が北極にたどり着いても芽を出さないのと同じように、がんにだって、生育しやすい場所というのがあるのです。
細胞ががん化し、悪性化するのに、多段階式にステップを踏んで遺伝子の傷が増え、より悪くなっていくらしいことは、前にも書いた通りです。
このように、だんだんと能力を獲得してより増殖スピードを増し、また、転移しやすくなっていくことをがんの悪性転化といいます。

良性腫瘍とよばれるものの多くでは、がんのようにステップが次々踏まれる、ということはありません。 同じ「自分勝手な増殖」であっても、どうやら癌とは違う系統のステップを踏んでいるらしいのです。
だから、子宮筋腫や良性のポリープが、癌になることはありませんので、ご安心ください。

ただ、現在のところそれが悪性に転化していくのかどうか、まだはっきり決着がついていない腫瘍、というのはあります。
また、形態学的に良性腫瘍か悪性腫瘍かを区別するのが難しい腫瘍、というのもあります。

キーワードひとこと
転移腫瘍細胞が本来の組織を離れても生き続け、分裂できる能力を維持して、他の組織内で新たな腫瘍を作るようになること。
転移のステップ自立した増殖能の獲得>自己免疫機能の突破>血管の取り込みと増大>境界膜の突破>他臓器への転移


*** 形態学について ***

残念なことにあまり知られていないのですが、現在のところほとんどの場合、良性腫瘍と悪性腫瘍を区別するには、形態学的に診断を下すしか方法はありません。
つまり、顕微鏡をつかって人の組織の薄切りを観察し、悪性か良性かを判断する(=病理診断といいます)、人の目で見て診断を下すしか方法がないのです。

大腸癌や乳癌では、分子細胞学的な手法で遺伝子を検査することによって、癌になるかどうかがある程度わかるようになりました。近い将来、すべての腫瘍にたいして遺伝子レベルで診断できる日がくることでしょう。
けれどもそれまでは、さまざまな染色方法を使って、長年の研究の成果と経験に基づいて、良悪性を判断し、分類し、診断を下していくしかありません。

良悪性の診断がつかない、形態学的限界を感じさせるまぎらわしい腫瘍、というのもたしかにあります。
こうした腫瘍は、観察し、検査を繰り返し、経過をみたうえで、治療の有無を判断していく必要があります。
また、たとえ良性であっても、できた場所によっては早急な治療が必要なこともありますし、悪性であっても、年齢や悪性度を考えて、治療を急がなくていい場合もあります。

ここで、悪性とわかっても治療しない場合もありえる、、、と書きましたが、近藤 誠氏の「がんもどき」理論=がんは症状がでるくらい大きくなるまで放っておいて良い、というのとは、違います。
小さい腫瘍で、それがまだ浸潤や他臓器への転移をはじめていなくても、悪性へのステップを踏み出しているとはっきり分かるものであれば治療が必要だ、と思うからです。

がんは早期発見、早期治療が大切です。
なぜなら、がんの悪性化へのステップは一段でも下で食い止めた方が、治療の範囲も狭くてすみ、患者の負担も小さくなるからです。
そして、形態学は、かなりステップの低い段階から良悪性を診断できるようになってきている、と、形態学を学び、仕事としているものの一人として、自負しているからです。
今現在も、がん診断にかかわる多くの人達が、少しでも早く、少しでも小さいうちに癌を発見しようと努力を重ねています。

近藤氏の「がんもどき」理論はいただけませんが、無駄な治療、無駄な手術は必要ない、という点は賛成です。
せっかく私達が早い段階でがんを診断することに成功したのに、無駄な治療をされて臓器をまるごととられたりしたのでは、たまりません。

現在の日本の医療界相手では難しいことかもしれませんが、自分のがんが、どんながんでこれからどうなっていくのか、患者自身がはっきり把握して、治療方針を決められるようにならないといけないと思います。
そのためにはもちろん、医学界が判断に必要となる資料を積極的に公開し、わかりやすくかみ砕いて説明していく必要があります。
近藤氏の一連の著作は、このことのきっかけになったと思います。
患者の側も、「知らない、わからないからおまかせします」や、「とにかくいっさい、治療は必要ありません」ではなくて、自分にとって、家族にとって、できれば社会にとってまで、を考えて、なにが最善かを選んでほしいと思います。

形態学の一端としての細胞診の特徴と役割、については、後述します。


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