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このページは2000年に作成したページです。ものすごく変わった部分もそうでもない部分もあります。"HPV"と検索して見に来て下さった方は必ず最新ページもご覧下さい。



HPV - 応用編 -

*** HPVはどういう時にがんを引き起こすか ***


基礎編に引き続いてもうちょっと具体的に、HPVについて書きます。

HPVが細胞に入り込んでその宿主細胞の遺伝子に取り付き、それが癌化を招くのだという点については、基礎編に書いた通りです。
では、どんな場合に癌になるのか、もう少し具体的にまとめてみたいと思います。
ただし、このあたりのことは、ウィルス、遺伝子、免疫、もちろん病理や細胞診、疫学的な面などなど、多方面で同時に猛烈な勢いで研究が進んでいることであり、私の知り得る部分は、情けないくらいにそのうちのホンのわずかです。
また、できるかぎりウソ偽りの無い、誰もが納得している、そしてできるだけ新しい情報を集めてまとめようと努力はしましたが、全てが正しいのか?と言われると、モレ、ヌケ、勘違いなども多数でしょうし、今日正しいと思っていた内容が明日には否定されるかもしれないし、正直な話し、責任は持てないです。

そんな無責任なこと書くくらいだったら、書くんじゃないよ!って?・・・確かにそうです。(^_^;;ゞ
私の不勉強から来る説明の不足や記載のあやまりについて気がつかれた方は、ぜひ御指摘をお願いいたします。また、そんなこと言われてもHPに載せてあったら信じちゃうよ、そう思われる方は、どーぞ、所詮、医者でもなければ研究者ですらないこっこママの書いてることなんて信じない方がイイぞ、、、と、最初からさっぴいて読んで下さることを、ここでお勧めいたします。


さて、HPVはDNAの型によって、現在90種類以上のタイプに分類されていて(前の更新から1年近く、、、また増えました(^_^;;)、子宮頚部扁平上皮癌の前駆病変のほぼ100%、浸潤癌のうちの70〜90%に、いずれかの型のDNAが検出されています。

ここでいきなり、頚癌の前駆病変などという聞き慣れない言葉を使ってしまいましたが、これは、 軽度異形成〜上皮内癌にいたる浸潤をおこしていない異型のある細胞全部をひっくるめて、上皮内新生物(cervical intraepithelial neoplasia =CIN)としてひとくくりに考えよう、という米国式考え方に基づいた呼び方です。
CINは、異形成と癌を一連の病変として扱うことで早めの治療をしようとする分類方法で、CIN1〜3まであり、特に高度異形成を上皮内癌と同じCIN3に分類して治療必須の病変であるとしているのが特徴です。
日本では日常的な検査の場ではあまり使われていないし、いろんな専門用語が出てくるのはややこしいと思いますが、異形成→癌という考え方をひとことで表現しやすく、また、海外からこちらのHPを御覧になっていらっしゃる方にとってはCINとはどういう分類なのかは興味のあるところかと思いますのでちょっと使ってみました。

・・・と、話がそれました。
形態的に全く正常な子宮頚部の細胞からのHPVの検出率は10%程度と言われていますから、前駆病変との差違は明らかで、つまり、HPVに感染することが子宮頚癌発生の重要なステップのひとつを成していることは、ほぼ間違い無いといわれています。
また、基礎編に書いた通り、HPVの感染が細胞の不死化を行うことで癌化のきっかけを作ることは遺伝子工学的に証明されています。
さらに補足するなら、単に不死化を起こすというだけではなく、リンパ節転移先の癌細胞からもHPVのDNAが見つかることや、HPV DNAが不死化したマウスの細胞を悪性化させることも考えあわせると、もっと直接的にHPVが細胞を癌化させる働きをしていることも、どうやら間違いなさそうです。

・・・ただし。
実はHPVを培養する方法、というのは未だに確立されていません。というか、HPVを培養するために必要な、HPVを長期間に渡って感染させておけるような培養細胞系列が作れないでいるのです。(2000年7月の段階でHPVの培養細胞として使えそうだ、というものがようやくいくつか報告されています>実用はこれからです)
だから、HPVについての実験のうちのかなりの部分が、DNAの断片を実際の病変から採取した細胞から取り出すことによってのみ、行われています。
これはある意味で、アリバイや遺留品といった状況証拠を積み重ねて何が起きているかを推測している状態とも言えるワケで、物的証拠としては不十分であると言えます。だから、100%と言い切ってしまうことはできません。直接、細胞を使って培養実験を行うことができないため、HPVの感染経路についてや、HPVがいかにして細胞を癌化させているか、という点についてはまだまだ不明なことや、確認の取れていないことの方が多いのです。

たとえば、多くの方が特に気になさっている感染経路についても、HPVが生きた細胞内以外ではごくごく短時間しか生きていられない(生きた細胞同士の直接的な接触が無いと感染できないらしい)こと、産道感染(出産時、感染している母親の膣を通過することによって胎児が感染すること)の可能性も完全に否定しきれないものの、その場合は子宮頚部ではなく気管支に症状が出る(実際、イボを作るタイプのHPVは産道感染によって乳児の気管支にイボを作ることが問題になっています)と思われること、性的に活動的になる以前の年齢層ではHPVが性器から検出されることは無いこと(性的虐待を受けた児童に関してはもちろん別問題です)、尼僧に代表される処女が子宮頚癌になることはまず無いということ、などといった状況証拠はHPVが性的伝播をすることを物語っていますが、これも、実際の細胞を使っての感染実験ができない現状では推測の域をでてはいません。他の経路での感染の可能性も全く無い、とは言い切れないのです。

具体的な話しばかりを集中して書いているこの段階で、こんな話しを載せるのはちょっと気がひけるのですが、なかなか最後までたどり着けないでいる(^_^;;ゞので、ついでにここでちょっとひとこと。。。

実は、-はじめに- で、子宮頚癌の原因はほぼ間違い無くHPVであり、それはSTD(sexually transmitted diseases=性行為感染症)である、「原因のひとつ」ではなく「原因そのものである」ということをHPに載せて以来、かなりの数の御批判を受けることになってしまいました。
中には、HPの存在そのものまでも否定するような過激な内容のものまであって、ある程度の批判は覚悟の上だったとはいえ、正直な話し、この問題にこれ以上触れるのはイヤになってしまっていました。
けれど、冷静になって頂いた批判を読み返してみると、確かに今ここに書いた通り、すべて状況証拠ばかりで具体的な証明が取れないでいる状態のものを「原因そのもの」と言い切ってしまったことは間違いだった、と思いなおしました。
また、正常細胞→前癌病変→癌細胞、というステップを踏んでいることを考えれば、前癌病変でほぼ100%HPVがみつかっているということは、それが癌の原因であることを充分に証明していると言えると思いますが、反面、浸潤癌では70〜90%しか見つからないということは、(癌化する段階でDNAに変質が起きて検出できなくなるのだ、という分を除いても)ひょっとしたら他の原因があるのかもしれない、ということの含みを持っているとも言えます。
先程書いた感染経路についてもそうですが、これらはどれも単なる状況証拠にすぎず、言い切ってしまったことが間違いでした。
私の書き方が未熟で配慮が足りず、「原因そのもの」と言い切ってしまったことに対して不愉快に思われた方々には、ここでおわびし、謝罪いたします。

ということで、前のページの書き換えを行うことはもちろん、いっそのことHPVの項目自体をすっぱり取り下げてしまうことも考えましたが、一度公開してしまった以上、どうして言い切ってしまおうと思ったのか、私の真意を分かっていただく為には、取り下げや書き換えよりも、むしろ詳しいことを書いて納得して頂いた方がいい、と思い直し、かなりこみいったことまで(分かりにくい内容であるのを承知で)、書くことにしました。

今回いろいろと調べているうちに、臨床医に対する感染症の手引書の中には、HPVはSTDなので本人には告げない方が良い、とまで書いてあるものをみつけてしまって驚いてしまったのですが(だって、病気は誰のものでもない、患者本人のものじゃないですか?癌告知の問題もですが、医者や周りだけが情報を握っていて本人が知らない状態というのに、私は反対です)、どんなにあいまいな言い方をしても、HPVが子宮頚癌の発生で中心的な役割をしているのだということ、そしてHPV(の現時点で分かっているほとんど大半)はセックスで感染するのだ、という事実は消えません。
そしてもう一度繰りかえしますが、私が言いたいことの主眼は、複数の相手との無防備なセックスで癌になる可能性を高めるようなマネをしないで、という一点につきます。
若くして子宮を失って悲しい思いをする人が、ひとりでもいい、減ってほしいのです。
そのために、ほんの少しでもこのHPが役立ってほしいという気持ち、ひとりでも多くの若い世代にこのページを見てほしい、という気持ちに変わりはありません。

毎日の仕事の中で、私より若い人たちが子宮頚癌になっているのを見つけるたびに、深い悲しみとやるせなさを感じます。
知識の普及を心底願ってやみません。


さて、前置きが長くなりすぎました。
HPVに感染したら、それがみんな癌になるのか?というと、決してそうではありません。
前にも書きましたが、軽度異形成のうち癌に進展するのはわずか数%、中等度で20〜30%、高度異形成で40〜60%程度だけが癌へと進展し、残りは自然消失したり、長期間の観察を行ってもなんの変化も起きてこなかったりするのです。
これは、感染したHPVの型によって大きく差が出てくるためと、その人その人の体の免疫機能や他の要因による差が大きいためだと、考えられています。
子宮癌検診に行ってクラス III でフォローアップ指示を受けると、それが将来必ず癌になるのではないかと強い不安を感じてしまう方がいらっしゃいますが、HPV感染が必ずしも癌になるわけでは無いのだということを、まずは良く御理解下さい。


では、どんな場合が癌になりやすいのか、HPVの型の違いについてから、書いてみることにしましょう。

婦人科領域に関連すると思われるHPVの型はおおよそ30種類程度、それらは更に、癌になりやすいリスクによって3段階に分けて考えられています。
HPVの型番号別リスクをあらわした図
右の絵は、婦人科領域に出現する代表的なHPVの型番号とそのリスクの関係について、私なりにまとめたものです。
ちょっと分かりづらくなってしまっていますが、緑色の文字で書かれた番号が、low risk群、青い色のものがintermediate(中程度) risk群、赤のものがhight risk群と言われているものです。
ピンクだの、紫だの、どっちつかずの色に塗ってある分は、文献によって分類が違っていたり、特にhight risk群にいれてある紫色の3つは、普通はintermediate risk群に入れられているのですが癌化することもけっこうあるのではないか?と言われている分です。
(ちなみに、細胞の絵が緑やオレンジになっていることと、文字の色とは関係はありません。)
図の見方としては、緑色の囲みに入っている軽度異形成には、ほとんどの種類のHPVが入っていて、軽度異形成には様々なタイプのHPVが出現する=いろいろなHPVが軽度異形成の原因と成り得る、ということをあらわしています。もうすこし具体的に言うと、例えば外側の緑色の枠の中に入っている11型も、一番内側のピンクの枠の中に入っている16型も、どちらも緑の枠の中に入っていることにかわりはないので、軽度異形成の細胞中で見つかることがある、ということです。
中等度異形成まで進むタイプのものは緑の枠の内側の水色の囲みの中に入っているものに限られ、さらに高度異形成や上皮内癌に到るのは、絞り込まれたピンクの枠の中に入っている数種類のHPV型のみとなる、つまり癌化するHPVはある程度限られている、ということをあらわしているつもりです。
low risk群にしか名前の入っていない、6型、11型の二つは、いわゆる尖圭コンジロームと言われるイボを作る種類のもので、軽度異形成以上の細胞形態をあらわすことは無く、悪性化はしないことが分かっています。
逆に、hight risk群の中でも太字になっている16型と18型は特に高度異形成や上皮内癌での検出率が高いもので、この二つでhight risk群中の検出率の50%程度を占めています。
さらに言うと、上皮内癌より悪性化が進んで浸潤癌になってしまった細胞の70%程度から(資料によっては16型が71%、18型が19%の、あわせて90%という数字もありました)16型か18型かが検出されていて、この二つのHPVのうちのどちらかに感染することが、頚部癌の主な原因になっている、とも言えると思います。


型による違いの他、HPVに感染したことがただちに癌化につながらずに個人差が大きいことのもう一つの理由は、癌化は、HPV単独ではなかなか進まず、他の要因による影響も大きいのではないか、ということです。

代表的なのは、HIVを初めとする他のウイルス、細菌の感染、タバコ、ホルモンなどで、HPVによって不死化した細胞がこれらの要因によって悪性化への引き金をひかれるのだ、とされています。
それぞれの詳しいプロセスについては、具体的にはまだまだ研究段階なのですが、例えばHIV(エイズになるウィルスのことです)は、細胞内でHPVと共謀して直接的に遺伝子レベルで癌化を引き起こしている可能性を示唆されており、これはヘルペスウィルスについても同様で、細胞の中で遺伝子をあやつることのできるウィルスならではの共謀行為だと言えます。
また、Epstein-Barr virus (EBV) というウィルスについては、HPVとは別の独立した危険因子である可能性も示唆されているようですが、まだハッキリとしたことはわかっていないようです。

HIVに関しては、免疫細胞を殺してしまって数を少なくしてしまうことが知られていますが、それにともなってHPV感染細胞への攻撃力も弱まってしまって、癌化の始まった細胞を排除しきれなくなってしまう、、、というのは、何となくイメージできるかと思います。
子宮癌に限らないのですが、ストレスによる免疫力の低下が発ガンを促進するものであることも、同様の理由からです。
細菌やトリコモナスといった感染症についても、体の免疫機能の変化をもたらして癌化を促進するのではないかと考えられているようです。
HPVと癌化の起きる他の要因 タバコは、肺ガンはもちろんのこと、胃ガンとの因果関係も示唆されていますが、タバコを吸う女性の頚部粘液からもタバコの成分が検出することが知られており(タバコを吸う女性の頚部粘液は粘性が高いとも言われています)頚部癌、特に頚部腺癌との因果関係が疑われています。

ホルモンについては、一部のホルモンがHPVのE6、E7遺伝子の働きを促進させると考えられており、特に妊娠中に乳腺を発達させる為に大量に出てくるプロゲステロンに癌化を促進する働きがあるとされていて、妊娠中の悪性転化という深刻な自体を招くことがあるようです。

HPV遺伝子をすでに不死化したラットの細胞に移植すると細胞が癌化することや、リンパ節への転移巣からもHPV DNAが検出することなどから、HPVは他の要因無しにも単独でも癌化を引き起こす能力があるとされていますが、とはいえ、上記のような他の要因によって、大きく個人差が出るのも確かです。

対する、免疫力陣営ですが、一般的に言われる免疫力を増強させる働きのあるもの(薬の他、充分な休養や栄養、運動なども含みます)以外には、HPVについてはビタミンAが癌化を抑制するのではないかという報告がありましたが、これが本当にHPVに特異的な働きをしているのかどうかは、これからの研究が待たれる段階です。


HPVには(というより、一部を除くほぼウィルス全般において)今のところこれと言った治療薬が無いことは、基礎編に書いた通りですが、その分、今世界中で注目されているのは、ワクチンの開発です。
WHO(世界保健機構)は、'99年の2月に「HPVワクチンが一般に出回るまでは後10年くらいの年月が必要だ」という発表をしましたが、予防的ワクチンがあれば性生活を始める前の若い世代に投与することで頚癌を予防することができるので、頚癌の低年齢化(後述します)が進む中、早い時期での開発が切望されています。
また、HPVのE6、E7蛋白質が癌細胞の表面にいつも現れていることを利用して、癌細胞を直接やっつけることを目的とした治療的癌ワクチンの開発も同時に進められており、こちらはすでに癌になってしまった人の為の治療薬として期待がもたれています。

これらの予防方法、治療方法が一般に使用され普及するまでの今しばらくの間は、とりあえず従来通り、異形成を指摘されたらちゃんとフォローアップ検診を受け続けて悪性化しないかを観察し、癌は初期のうちに見つけて治療する、、、これが現在可能な最良の方法だと言えます。(これからの検診のあり方については、- おわりに - に書く予定でいます。)

 
*** 18型についてとHPVの細胞所見について、など ***



ところで、世界的には、癌化する可能性の最も高いHPVとして注目されているのは16型で、遺伝子の解析も、それに基づいたワクチンの開発も、みんな16型を中心に行われているのですが、アジア、特に日本においては他の国にくらべて18型の割合が高く(グラフは前回アップ分参照)、特に若年者(20代)で高くなっているのが問題視されています。
なぜこれが問題になるかと言うと、16型にくらべて18型は病変の進展が早く、また、18型は腺癌からの検出率が高い=頚部腺癌の主な原因ウィルスであるらしい、と考えられているからです。

扁平上皮癌だけでは無く頚部腺癌の原因もHPVである可能性が高い、ということは、一般にはほとんど(全く?かな)知られていないことだと思うので、えっ?頚部腺癌もなの??という声が聞こえてくるような気がします が、理屈を書けばおそらく理解していただけることと思います。

ということで、下の絵は、以前子宮頚部癌のできるわけに書いた絵を、もう少し補足したものです。
上から斜めに書いてある赤い矢印がHPVをあらわしているつもりで、HPVは子宮頚部全体にまんべんなく降り注いでいることをあらわしています。

HPVは、等しくどの細胞にも降り注いでいるのですが、だからといって、全ての細胞に感染して不死化を起こすことができるわけではありません。
基礎編に書いた通り、HPVの側からすると自分が感染した細胞は不死化させて少しでも長生きさせ、その細胞の中でより多くの子孫を残さなくてはならない、という目的があります。
となると、分裂を止めて分化をしている、扁平上皮の表層細胞(絵では一番左の方にピンクの山として描いてあります)のような分化の最終段階にある死に行く細胞に感染してもなんの得にもならないワケで、予備細胞のようにこれから分裂できる力を秘めた幼若な細胞に、積極的に感染をしようとます。
そして、不死化が継続した細胞に、さらに前述したような他の要因が重なって、癌化が導かれることになります。

HPV感染によりCISやECACができるところ

さて、この予備細胞というのは未熟な細胞ですから、条件によって扁平上皮的にも腺細胞的にも、どちらにも成り得ます。
人間の体というのは(イエ、何も人間に限らず動物全般なんでも、ですが)もともとはたった一つの受精卵が分裂を繰り返してそれぞれの機能にふさわしい形と性能を持つようになったものです。
ある臓器のある部分に位置する細胞が、分化をしたらどんな機能と形ちを獲得するかは、その細胞がどこにあるかの場所によって決定するのですが、予備細胞のような幼若な細胞は、最初の受精卵により近い状態にあると言えるので、どんな細胞にでも成り得る能力を持っています。
だから、その幼弱な細胞が癌化した場合、扁平上皮でも腺細胞でも、隣り合った細胞のどちらの形態をとることもあり得ます。その結果扁平上皮癌だけでなく腺癌になってしまうこともあるのです。
実際、私達が顕微鏡での検査を行っていても、扁平上皮に異形成のある標本には頚部の腺細胞にも異形のある場合がけっこう多く見受けられ、逆に頚部腺癌の標本には扁平上皮の核に異型があるものも多く、これは必ずしも予備細胞が両方に分化したためとは限りません(このすぐ後に理由を書きます)が、HPVの影響は両方の細胞に及んでいるのだなぁ、と感じることがあります。
ただし、頚部腺細胞とひとくちに言っても、子宮体部の腺細胞(こちらはホルモンが癌化の原因だと考えられています)へと徐々に移行していることを考えると、HPVよりもむしろホルモンなど他の要因の影響の方が強い場合もあることが考えられ、今のところ、扁平上皮癌ほどには強い因果関係は言えません。

ところで、HPVは予備細胞に積極的に感染するのだ、とはいえ、予備細胞だけに特異的に感染すると言い切れるものでもありません。
完全に分化しきってしまった表層細胞に感染しても変化を起こすことはできませんが、深層細胞〜中層にかけての小型な細胞が、びらんなどで表在化していれば、その中に入り込んで細胞に影響をおよぼすことがあります。
これは、表層細胞にくらべると基底部に近い細胞はまだ幼若でHPVのつけいるスキがあるからなのですが、ただし、一度分化の始まっている細胞については関与できる範囲も限られるのか、予備細胞に対してのような完全な不死化を行うことはできず、不完全に分裂に関与することになります。こうしてHPVに影響を受けた深層〜中層細胞は、中途半端に細胞分裂を行いつつ、左上方向に進んでいる矢印のようにそのまま分化を続けることになります。
そのため、HPV感染した標本では、2核やそれ以上の数の多核になっている細胞、すなわち、核だけが分裂した状態の細胞が多く出現することになります。
(腺細胞についても、同じように直接的にHPVの影響を受けて増殖傾向が増したりしていることが考えられますが、今のところは、HPVの感染を腺細胞内ではっきり確認できるような所見というのは確認されていないようです。)

多核の他にもうひとつ、HPV感染の重要な決めてとなる細胞所見に、絵の左上端にあるKoilocyte(コイロサイト) という所見があります。
これは、感染により核周辺の細胞質のタンパク質が無くなり、空洞化して白く透けて見えるようになっている状態を言い、従来、HPV感染していることの決定的な証拠として注目されてきました。
Koilocyte はいわばHPVが細胞の不死化に失敗した状態であり、これがあればHPV感染していることは間違い無し、核に異型がなくても、class IIIa をつけてフォローアップ検診を指示するというのが婦人科検診の定石です。
ところが、実は近年、 Koilocyte が出現するタイプのHPVはlow risk型やせいぜいintermedeiate risk型の場合が多く、もっとも危険度の高い16型や18型ではほとんど出現しない、ということが分かってきました。
Koilocyto の出現が必ずしも癌の前駆病変と結びつくものではなかったのです。
ただし、16、18型にKoilocyteが無いとはいえ、他の種類のhigh risk型には出現することもあるし、Koilocyte の目立つタイプのintermedeiate risk型の中には癌化することのあるものもあるし、さらには重複感染している場合もあることを考えると、Koilocyte という細胞所見が重要で無くなったわけでもなければ、むろん、Koilocyte のあるタイプのHPVだったから安心、というわけでもありません。
やはりHPV感染の重要な所見として Koilocyto は慎重にフォローアップを行っていく必要があると言えると思います。(このあたりのことについては、後でもう少し書く予定です)

多核や Koilocyte といった所見は私達が日常の検査の中でもっとも見つけやすくチェックしやすい所見なのですが、近年、Koilocyte よりもむしろ注目すべきでは?と言われているのが、上の右の方に書いてある、小型の化生細胞や円柱上皮様細胞に核異型を伴った所見です。
細胞の異形としては、ぱっと見てすぐ分かるほどの強い変化ではなく、細胞自体が小さのでさらに判別がつけにくいのが辛いところなのですが(私の絵じゃさらに分かりにくいですねぇ。。。)、化生細胞( 先ほどの子宮頚癌のできるわけのページに写真があります)というのは、かならず予備細胞から分化をしてできると考えられているものなので、それがちゃんと分化できない小型の姿のままで核に異型をもって存在するということは、すでにHPVが予備細胞にまで影響をおよぼしてしまっているということの現れだ、と疑えるのです。
こういった所見は、見つけてもはっきりした核異型が無いとなかなかClass IIIa をつけて精密検査へ回す、ということは出来ないことが多いのですが、再検査をしてもっと進んだ病変が無いかを確認したり、1年後ではなく半年後にもう一度検査をしてもらう、など、次の検査までの期間を短くしたりして綿密なフォローアップを行っていく必要があると言えます。
さて、ここで、さっき後回しにしていた18型について、もう少し書いておきましょう。

浸潤した頚部腺癌の約70%くらいから、HPV18型のDNAが発見されていてます。
頚部癌の原因もHPVだと考えられる理由については先ほど書いた通りですが、この、頚部腺癌というのは扁平上皮癌よりもさらにいろいろな問題を多く含みます。

HPVの16型と18型の比較 ひとつには、扁平上皮癌にくらべて腺癌の病変部位は子宮の入り口から奥の方にあって採取しづらく、また細胞異形の度合いも小さくて鑑別をつけにくくて、なかなか初期の段階では異型が見つけられないことが多いということです。
また、子宮の入り口から奥の方にあるということは、扁平上皮癌に較べて子宮本体に近い位置にあるということで、病変が広がるとすぐに妊娠に影響のあるところまで及んでしまい、妊娠できなくなる可能性が高くなってしまいます。

また、一般にHPVが癌化するのに必要な時間は最低でも5年、ふつう10年から20年近くと言われていて、異形成細胞の経過観察をしているとだんだんと異型度が高くなっていくのが分かるものなのですが、18型が異形成を起こす場合に関しては、軽度異形成の状態ではなかなか見つからず、前回の検診では全く陰性だったものが2-3年程度後の検診時には、あっという間に高度異形成になっていたりして、どうやら病変の進み具合が他のタイプよりも早いのではないか、と言われています。
だから、運良くたまたま異型が初期の段階で検診を受けて見つけることが出来た場合でも、マメなフォローをしていかないと、あれよあれよと間に病変が進んでしまう可能性があるわけです。
さらに、浸潤癌から検出されたHPVの場合、18型の5年無再発率は16型の58%に対して38%と低い、という報告もあり、治療が済んでからも再発について心配しながらよりいっそう厳重な管理をしていかなければならない、ということも言えます。

日本ではHPV感染のピークは40代と20代にあると言われているのですが、特にこのHPV18型の割合が、20代の若年者の方により多くみつかっています。
ということは、若いうちにより危険度の高いHPVに感染してしまい、癌で子宮を失ってしまう人が多くなってしまう、ということであり、これは大変な問題と言えます。
癌になってしまうこと、体の一部を失ってしまうことは、年令、性別に関係なくいつだって大変な、辛いことであり、若いから不幸で年令がいっているから幸いだった、というものでは無いと思っています。

ですが、やはり、子供を産む前に子宮を無くしてしまうことと、子供を産み終わった後に無くしてしまうこととでは、大きな差があるのは事実です。
悲しい思いをする人が、一人でも少なくなるよう、感染予防知識の普及と若年者での検診の必要性を感じます。


さて、応用編の最後に、男性が感染した場合についての話しを少し書き足しておきましょう。
昨年、HPVについての項目を載せて以来HPVに関して頂いた質問メールの中には、男性もHPV感染で癌化するのか?と、パートナーを心配する女性からのメールが多く含まれていました。
-はじめに- にも書いてあった内容なのですが、結論から言うと、男性性器のHPV感染による癌化は、ゼロではないが滅多に無い、です。
前の方にも書いたことの繰り返しになりますが、子宮には扁平上皮と頚管腺の境目という、構造的に弱い部分があって、HPVは、そこがびらんを起こしたことによってできる予備細胞という幼若な細胞を狙って癌化を起こすので、扁平上皮に全体を覆われた男性性器では簡単には癌化は起きないのです。
感染経路については詳しいことはまだまだ解明されていない部分が多いのですが(培養が確立できていないので実験的に確認することができないという点についても前の方にも書いた通りです)イボを作るタイプの6型、11型は精液や尿中からも検出されているようですが、他のフラットタイプのものは粘膜から直接採取した時にしか検出されていないようで、イボを作るタイプのものとは分けて考えた方がよさそうです。
逆に言うと、粘膜であれば性器に限らず感染をするということも言えるわけで、実際、口腔や気管支、尿道などからもHPVは検出され、しかもその検出率は年々上がって来ています。
これは、オーラルセックスなどセックスの多様化に伴う上昇だ、と考えるのが最も自然だと考えられていますが、もしかしたら性的伝播以外の感染もあるのかもしれず現在のところ推測の域を出ていないので、これ以上の言及はやめておきます。

男性の場合は、感染はしても癌化は滅多にないし、イボを作るタイプのもの以外は感染したことを示す症状がほとんど現れないということ、そのため、知らず知らずのうちにパートナーにHPVを感染させている可能性があるのだということを、ここでぜひ認識して頂きたいと思います。




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