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HPV - 基礎編 -

*** HPVの感染がなぜがんを引き起こすか ***


さて(いいかげん、待ちくたびれたって声が多数でしょうがm(_ _)m)、HPVとはどんなウィルスで、どうしてHPVの感染が癌の原因になるのか?を、書くことにしましょう。
このあたりのことは、今まさにホットな研究材料として世界中で取り上げられている内容で、私なんぞがどこまで書けるのか多いに疑問なのですが、分かる範囲内で、できるだけ分かりやすく書いていきたいと思います。

ウィルスと聞いて、まず思い浮かべることは何でしょうか?
インフルエンザやポリオといった病気の原因となる、正体はよくしらないけれどすごく小さいやっかいもの、というイメージでしょうか。
コンピュータウィルスなんていうパソコン用語への転用を考えると、ウィルスのもつイメージというのが、勝手にどこからともなく感染して増殖し、宿主を苦しめ、時には大流行を引き起こしてしまう、、、そういったものであることが分かります。ウィルスパニックの映画や本のたぐいも沢山あるし、その正体は良く分からないものの、かなり身近な存在、とも言えると思います。
とはいえ、その構造や性質を具体的にイメージできる人は少数派、でしょう。
一口にウィルスといっても、植物、昆虫、動物、ありとあらゆる生物に感染するウィルスの数を全部集めると、他の生物すべての種類の数よりも多いのでは?といわれるくらいだそうですから、その形も生活史も色々で、イメージしろ、という方に無理があるのもたしかです。

というわけで、まずはごくごく簡単にウィルスについての基礎の基礎、構造と基本的な生活史についてをHPVを例にとって書いて見ようと思います。
そんなの聞いてもわからないからイイヨ!って声が聞こえて来そうですが(実際、説明する私自身も専門じゃなし、よくわかっちゃいないしね。>ごめんなさいm(_ _)m)、ウィルス感染がなぜ癌化に繋がるのか、どうやったら癌化を防ぐことができるのか、という話しの基本になりますので、まぁ、さらっとでも目を通して下さい。

ウィルスの構造というのは基本的に遺伝情報そのものであるDNAまたはRNA遺伝子と、それを取り囲む蛋白質のカプセルとだけからなります。
この、だけってところが、他の生物とウィルスを分ける、大きな違いとなっています。
普通、生物の細胞には、ミトコンドリアやリポゾームといった、自らの細胞を複製し、栄養物を細胞内でエネルギーにかえるための機関が備わっていてます。
バクテリアとウィルスの生活史の違いをクッキー作りに例えた絵 たとえばウィルスと同じように宿主に対して悪さをするバクテリアや細菌のたぐいにも、ちゃんとこういった機能は備わっていて、だから、条件さえ整えてやればバクテリアや細菌は、宿主細胞なしで、自分自身を再生するために必要なタンパク質を自作し、試験管内で増えることができます。
つまりバクテリアは小さいながらも独立した、一人前の(?)生き物なのです。
ところがウィルスには、自分自身を維持し増やすための機関がなにも備わっていません。そのため、かならず 宿主となる細胞を必要とします。材料もエネルギー源もなにもなく、ただ自分自身の形を表わす情報だけを持っていて、必要なものはすべてホスト細胞から調達するのです。

この絵では、ウィルスというのは、遺伝子情報とそれを取り囲むカプセルだけからできている、いわばクッキー型ような存在だ、ということをあらわしたつもりです。
バクテリアは、材料となる小麦粉や卵、燃料やオーブン、形を作るクッキー型など、すべてを自前でもっているかもしくは作ることができるのに対して、ウィルスが持っているのはただ、自分自身と全く同じものを作る為の型のみ、その他のすべてホストから調達しているのだ、ということが分かっていただければと思います。
型以外の何も持たずに他人の家に上がり込み、材料もエネルギーも、作る労力さえも、すべてをホストにやらせて欲しいものを手に入れていまう。。。
この欲しいものというのは、もちろん自分の子孫、自分の複製そのもの、を指します。

他の生き物の細胞に入り込み、その細胞に備わっている様々な機関を勝手に自分のものとして使用し、自らを複製し、増殖する、、、これがウィルスのやり方なのです。

さて、では、どうやってホスト細胞の機関を使うのか、、、もう少し詳しくウィルスの生活史について書いておきましょう。
少しややこしいですが、なぜウィルスの感染が癌を引き起こすのか、、、の大事なポイントになりますから、もうしばらくおつきあいください。

ウィルスの種類は先ほども書きましたが驚く程多く、その分類方法にも、形や大きさ、内包する遺伝子の種類、などなど様々な方法が用いられています。
人に感染するウィルスには、大きくわけてRNAウィルスと、DNAウィルスという2種類のウィルスがあり、癌化に関して言えば、RNAウィルスの中のレトロウィルスと呼ばれる一群に、HTLV(ヒト白血病ウィルス)など、癌化するウィルスの大半がふくまれています。(ついでにいうと、このレトロウィルスにはエイズを発症させるHIV(ヒト免疫不全ウィルス)も入っており、有名な恐いウィルスの名前が含まれている一群だといえます。)

一方、HPVはDNAウィルスの一種で、2重になったリング状の遺伝子をもつパポバウィルス科に属する正20面体で50nmくらいの大きさのウィルスです。
、、、って書いてもなんのことやらわかりませんね。
ウィルスはゴマ、私の足は千葉県 大体、大きさからして50nmと書いても、どれくらいの単位かちょっとピンときませんよね。私にもピンとこないです。(笑)
ちょっと他のものと比較して計算してみましょう。
感染症の一つに、トリコモナスというアメーバの仲間がいます。
細胞を食い荒らして炎症を引き起こす厄介者ですが、これの大きさが平均すると、だいたい長径15-16μmといわれています。
1/1000mmが1μm、1/1000μmが1nm、ですから、トリコモナスはウィルスのほぼ300倍の大きさ、ということになり、これを身近なものに置き換えてみると、、、HPVウィルスがゴマひと粒の2mm程度として、トリコモナスは、×300で600mm=6cm、、、大体、テニスボールよりも少し小さいくらい、でしょうか。
私達が顕微鏡で検査している時に見る、アルコールで固定された扁平上皮細胞で、ひとつの細胞の長径は約50-60μmくらいですから、ウィルス:トリコモナス:扁平上皮細胞=ゴマ:テニスボール:ハンドボール、くらいの比率だということになります。
ちなみに、私の靴のサイズは23cmですが、ウィルスの大きさをゴマとすると、、、私の足はざっと92kmの大きさ!!ということになります。私の住んでる千葉県と同じくらい?の大きさ、ということになりますね。 <ひどいスケール比較してるかも。間違ってたらごめんなさい。
ともかく、いかにウィルスが小さいか、、、ということが分かって頂けたら、と思います。
ウィルスという言葉事体、もともと「病毒」という意味で、素焼きの入れ物の小さい小さい穴でもすり抜けて病気を起こしてしまうことから、昔はこれが生物だとは考えられず毒の一種と思われていた、というのが語源のようです。 ま、そう考えるのも無理のないくらいに、小さい、、、ということでしょうか。

正二十面体とその中の二本鎖リング状遺伝子 さて、大きさの次は、形と中身、です。
ウィルスの形は千差万別ですが、その中で20面体(立方対称ってやつですね)というのは最も基本的な形ようです。
必要最低限に絞り込んだ情報を入れるのにふさわしい、必要最低限の形、というのがこれ、、、なのでしょう。HPVの形もこの正20面体です。

ほんとは、カプソメアと呼ばれる蛋白のつぶつぶが寄り集まって20面体を作ってるのですが、絵に描くのが面倒になってしまったんで(^_^;;ゞ、左の絵ではつるんとした表面になってます。この点は御容赦ください。

HPVでは、この中に遺伝子情報そのものであるDNAが、右側の絵のように、二本鎖でリング状に入っています。
また、HPVでは2本鎖のうちの一本だけに、タンパク質を作るための情報が全部のっていることが分かっています。
DNAというのは、アデニン(A)、シトシン(c)、グアニン(G)、チミン(t)という4種類の塩基が延々と並んでいて、AとT、GとCとが必ずペアになって2本のDNAがくっついている、、、っていうことは、昔理科で習いましたよね。
2本くっついた鎖が外れて、つらなった塩基の3つひと組がひとつのまとまりとして指定(コードといいます)され、それがリボゾームという細胞内の型検知機<?で認識され、蛋白質として形成されていきます。
この、3つひと組の塩基の情報を取り出して、それをもとに蛋白質を合成する、ということは、人間もHPVも同じです。
この「同じである」ことを利用して、ウィルスは人の細胞を自分の都合のいいように使し、その過程で細胞の癌化のスイッチをいれるようなマネをしてしまうのです。


HPV遺伝子地図 (ウィルスの中には、1本鎖DNAとか、2本鎖でも直線のDNAとか、同じようにRNA遺伝子を持ったウィスルスでもいろいろなパターンのものがあり、やり方も少しずつ違うのだけれど、、、ここでは省略します。
ただ、本題とは全然関係ないことなのですが、ちょっと面白い話しなのでひとつだけ。RNAというのは細胞内にあっては非常に不安定ですぐに分解しやすく、それにくらべてDNAというのは断然丈夫で長もちです。だから、遺伝情報を確実に再現し生物の生き残るための戦略として使うにはDNAの方が圧倒的に有利です。だからこそ、地球上のほとんどの生物はDNA遺伝子による情報伝達、という方法を採用しています。にもかかわらず、ウィルス界ではRNAが遺伝子情報として使われているものが数多くあります。
これは、ウィルスのようなRNAだけの世界というものが実は私達DNA世界よりも前に存在していた、そのなごりなのだ、と考えられているようです。
他の生物がDNAの中に多くの余白をもちつつ=ヒトの場合、遺伝子情報として必要なのは全体の5%程度と言われています、、、身体を大きく、より複雑なものにしてきたのに対し、ウィルスはより単純に、より無駄のない遺伝子情報だけを残して、必要最低限な情報だけで生き残ることができるように進化して、世界中のありとあらゆる生物に寄生しながら繁栄し続けているのです。
もっとも単純にしてシンプルな生き方が、もっとも長い歴史を刻んでいる、、、なんて、いらない物、メッタに使わない物の数々や、山のように積まれた本、ネットはむろん次々に入ってくる様々な情報に囲まれて、それら無しには暮らせない、と思い込んでる私にはすごく暗示的に感じるんですけど。(^_^;;ゞいかがでしょう?)


HPV遺伝子の絵の二重○の外側に詳しくあらわしてあるのは、ゲノム構造と呼ばれる、遺伝子の働き別に領域を分けて書いたものです。
このうち、HPVによる癌化について特に問題になっているのは、初期遺伝子と呼ばれるウィルスが自分自身を再生するために最初に使う遺伝子の中の、さらにE6〜E7という領域です。
なぜこの部分が問題になるのかを、もう少しウィルスの生活史について触れながら、ざざざざっっと書いてみます。

ウィルスが細胞に入ってから増殖し放出されるまで HPVは宿主の細胞の中で2段階に分けてDNAの合成をします。

HPVに限らずウィルスは、まずホストの中に入り込むやいなや自分自身の殻を溶かして内包していた遺伝子(=自らをあらわす型そのもの)を放出し、ホストの遺伝子の一部に成り済まして、細胞内にある必要物すべてを自由に使いこなすようにになります。

左の絵は、HPV(様20面体ウィルス)が細胞の中に入って増殖し、出てくるまでの様子をあらわしているつもり、です。

またもちょっと余談になりますが、よく言われる「ウィルスに抗生物質は効かない」理由は、この、ウィルスが自分自身の殻を放棄してホストの遺伝子の中に入り込んでしまう、という点にあります。
抗生物質は細菌の殻を破壊することによって細菌を殺す薬ですから、ホストの細胞に入り込んでホストの一部に完全になりすましているウィルスには、手も足も出ません。
だから、例えばインフルエンザの時に処方される薬は対症療法のための解熱剤だったり、痛み止めだったりするわけで、インフルエンザウィルスそのものを殺すための薬ではありません。
カゼ(の原因のほとんどが色々な種類のウィルスです)をひいたら、無理せず栄養をとっておとなしくして、体の免疫力を高めるようにするのが一番、なのです。もちろん、普段からカゼをひかないような抵抗力をつけておく、というのもとても重要です。このあたりの話しはあとでまた出て来る予定です。


さて、ウィルスにとって細胞は住む場所と食べるものと燃料と、、、全てを与えてくれる、絶対に必要不可欠な生きる場所です。
ですから、ウィルスとしてはせっかく感染を果たした細胞の中に少しでも長くいて、少しでも多くのものを利用し、より多くの子孫を残したい、という立場にあります。
そこで、細胞に対していくつかの仕掛けを行います。
それは、自分の感染した細胞の遺伝子に細工をして、その細胞自体が自殺して消滅してしまわないように、また、少しでも長い間その細胞を利用できるように、細胞を長生きさせようとすることです。

細胞&貪食細胞と細胞内部のウィルスの戦いの図 それに対し、ホスト側は感染された細胞自体が全ての活動を停止させてウィルスに余計なチャンスを与えない様にし、さらに小さく縮小、分断してウィルスごとの消滅をはかります。
この、細胞の自殺行為を「アポトーシス」といいます。
、、、というと、なにやら特攻隊員のような悲愴感がただよいますが、例えば、オタマジャクシのしっぽが段々と短くなっていくのは川底の石に削れて減っていくわけではなく、不必要となった細胞が自ら消滅していく為に起こることだと考えれば、細胞の自殺=「アポトーシス」が生物の体内でごく普通に行われていることだということが分かるかと思います。
「アポトーシス」という言葉はギリシャ語の花や葉が離れて落ちる、という意味をとった造語で、その語源の通りに不必要になったものを細胞が自ら消滅することで生物の中に残さないようにすることをいい、ウィルス感染した細胞は生物にとっては不必要なので、必然的にアポトーシスが起きるのです。

さて、アポトーシスが起きて自殺した細胞は、小さく細かく裁断した状態となり、貪食細胞に食べられます。
こうしてウィルスは消化され、消化されることによってさらに、キラー細胞と呼ばれる、標的となる細胞の細胞膜に穴を開けて浸透圧の変化をおこしその細胞を抹殺するのが仕事の細胞を誘導します。
ウィルスの居場所の見分け方を覚えた貪食細胞が、狙った獲物は逃がさない殺し屋細胞を呼んで来る状態、とでも言えば、分かりやすいでしょうか。

感染した細胞を少しでも長生きさせ、増殖の役に立てたいウィルスと、アポトーシスを起こすことによって早いところウィルスを抹殺してしまいたい宿主側との、ミクロの、じゃないですね、もっともっと小さいナノ単位の攻防が繰り広げられているのです。

全てのウィルスがアポトーシスを阻害するわけではなくて、中にはHIVのように免疫細胞にアポトーシスを起こす(誘導する)ことによって、自らの感染している細胞が叩かれることを防いでいるウィルスもありますから、一筋縄にはいきません。
もっとも、ウィルス感染細胞だけに選択的にアポトーシスを起こさせる方法も治療の視野に入って来ているなど、アポトーシスの利用については科学者も負けずにがんばってます。今後に期待!といったところでしょう。


HPVの場合、アポトーシスを阻害する=細胞を不死化する主役となるのが、先程でてきたE6、E7遺伝子です。
一番有力と思われているのは、p53という名前のがん抑制遺伝子(この遺伝子をもとに作られる蛋白の分子量が53kDaだったことから命名されたそうです)にE6が結合して、p53が(直接的または間接的=他の遺伝子を活性化させる)に行っている、細胞の分裂制御機構をダメにし、アポトーシスを起こさせないようにしているのではないか、というものです。
他にも、E6は、p53に関係なく、テロメアを長くするための酵素(テロメラーゼ、といいます)を活性化させているのではないか、いう研究もあります。
テロメアというのは、DNAのはしっこにあって細胞が分裂するごとに段々と短くなる、細胞にとっての命のろうそく(って昔話しがありますよね?)のようなものです。ろうそくと同じで、次々に継ぎ足されていけば短くならないわけです。


E6がp53を、E7がRB蛋白を押さえ付けて細胞が増殖をしている



一方E7の方はRB蛋白という細胞の分裂が始まるのを押さえる役割をしている蛋白と結合して、RB蛋白が押さえ込んでいたはずの分裂を始めさせてしまう、という役割を果たしていると言われています。
HPVは、アポトーシスで細胞が自殺しないようにすると同時に細胞を長生きさせ、さらに分裂を進める作業を同時に行っているといえます。

宿主のDNAや免疫機能が感染細胞をめぐってのウィルスとの攻防に破れて、HPVの感染が細胞の不死化を持続させるようになり、さらに、DNAの中のどこかがなにかの原因によって変異を起こして無秩序な増殖を繰り返すようになった時、その細胞は単なるウィルス感染細胞ではなく、ひとつの癌細胞として宿主の中に存在するようになります。
そしてさらに、その癌細胞が人の免疫系をくぐりぬけて生き延び、周辺組織を押し退けるほどの大きさまで増殖を続けた時、人は癌を患うことになるのです。



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