音戸山通信 プロヴァンス紀行 2003春−6

 

 第四日目の3 セナンク修道院  3月29日

 ゴルドの峠から見下ろすセナンク(Senanque)修道院

 ゴルドの町を外れて険しい峠道にかかる。狭い道に待避所があるぞ、と覗いてみると、白い修道院が眼下の谷間に突如現れた。プロヴァンスシトー派修道院の三姉妹の第三番目、セナンクだ。なるほど有名なラベンダーの畑が前に広がっている。ゴルドのような都市は城塞も備えて、用心深く山の頂きに位置するのに対して、修道院は谷間を塞いでいる。雨の多い日本では考えられない配置だが、乾燥した地ならではの布陣だ。

 

 東面から望む

 それにしても、周囲には何もほかの建物が見当たらない。土産物屋など門前町が形成されはしないのだろうか?

 南側に先ほど通って来た急峻な山が迫る

 境内から見ると、なかなかに立派な建築。ひとつひとつのブロックの形がいい。トロネーのような動きある流れがない分、しずかな印象がある。ラベンダーの渋い色合いによく合っている。

 回廊に囲われた中庭

 この回廊は1つのベイの中に2本の柱で3つの小アーチを持ついわば3連符のようなちょっと変わった構成になっている。泉殿は持たず、水盤だけが置かれている。この角度から見ると、聖堂の交差部から回廊屋根への流れがもう一つ整理がうまくできていないような気がする。聖堂の壁を支えるリブ(バットレス)が回廊のリズムと合っていない?そんな筈はないのだが、どうだろう。

  回廊

 

 この回廊では開口部を受ける壁柱の部分と小アーチを受ける柱とが同じような扱いになっているので、全体に細やかな情感で統一されていると言える。が、その分、回廊のヴォールト天井や壁との響き合いは、その点では面白みに欠ける。ただ、柱列の面白さは魅力的だ。全体としては彫り物も少なめで、押さえられた表情と言ってもいい。ただ、細長い開口部と小さなアーチ、アーチを受けるせり石のシルエットは、イスラム風の印象がある。

 

談話室の窓と内部

 談話室はなかなか魅力的で、3段になったベンチがしつらえられて、ここに坐ってガイドさんの美しいフランス語にしばし聞き惚れていた。天井を低くして、残響を長めにしないところが工夫だろう。小窓を通しての光がとても美しい。この修道院の各所に見られる分かりやすい比例は、とくにドーミトリウムにいい味わいがあったが、残念ながら暗くて写真がうまく撮れなかった。ガイドによる一巡なので、もう一度確認するということができなかったのが悔やまれる。ほかの2つの修道院とはまた違ったよさがある。三姉妹のいずれとも優劣つけがたいそれぞれのよさがあって、ゆとりがあるのなら、ぜひ3つともご覧いただきたい。

 スケッチ

 最後に、下手なスケッチを。幸い、20分ほどのガイド待ち時間があったので、早速外に出て、スケッチ。陽はもう陰って来て、肌寒く、手がかじかんで来たので、陽の当たるところに坐って描いた。周囲の山をもう少し入れたかったが、この辺からは背後の峠道の山しか入ってこない。フラットであまり面白みのないスケッチとなってしまった。イマイチ感動に欠けると、子供たちにも評価されなかった一枚である。

(文と写真 さのはるひと)