音戸山通信 プロヴァンス紀行 2003春−5

 

 第四日目の2 リュベロンの町 3月29日

  ボニュー(Bonnieux)

 シルヴァカヌ修道院から北に上がって行くと、だんだん山地に入って行く。この辺りはリュベロン(Luberon)地方と呼ばれ、景勝の山地は自然公園に指定されている。まさに険しい石灰岩の峠を走ると、あちこちに魅力的な村が散見する。いくつかを見て通ったが、その中でもこのボニューは素晴らしい。下と上に教会があり、車を降りて上の教会の展望テラスを目指して歩く。落ち着いた自然な感じの小さな町のたたずまいがなかなか好ましい。

 

ボニューの町中の登り道   町の頂上の教会からの風景

 上に上がると、これがいい眺めだ。お腹を空かして路を降りてくると、小さなパン屋さんがあった。店に残っていたパンや焼き菓子のほとんどを買い漁り、車で町を出て隣の町、ラコストを眺めながら皆で昼飯にした。それがとても美味しいパンなので、一同びっくり。

  Goultの町に立ち寄る

 さらに北に走ると、道はGoultの町に入って行く。そこの街がとてもいい感じなので、しばし休憩。街の色使いがなかなかに素晴らしい。観光地ではないけれども、落ち着いて明るい印象のきれいな町だ。中心にある教会やその付属の建物が石の肌色を基調に、木部を藤色に塗っているのが、実にいい。明るい黄土色(ベージュ)と藤色の取り合わせはフランス人の好みらしくよく見かけるものであるが、互いに補色関係になっているものの、彩度を落とした明るいパステル調であれば、とてもいい。

 花咲くワイン畑

 目指すゴルドの町はすぐ近く、広い谷間がのんびりとつながっている。のどかな風景がじつにいい。石灰岩のうねりが近づいてくると、そこの先端にゴルドの町が見えてくる。

 ゴルド(Gordes)

 ゴルドの町を見るには、向いの尾根道から眺めるのがよく、素晴らしい眺めだ。昔スペインの古都トレドを眺めたのを思い出す。頂上に城、やや降りて教会がある。他は民家だが、山肌と石垣と家が混じりあっていて、しかもすべて同じ石灰岩でできているのだから、海の泥に住む虫が住処を潮の満ち引きの間に作ってしまうのに似ているなどと思ってしまう。こんな風景、ここでのんびり構えてスケッチでも始めたらどんなに時間がかかるだろう。よく見れば、そう民家の数は多くない。

 ゴルドの町の中を歩く

 さて、その街の中を歩くと、これがほとんど人が歩くのが精一杯で、とても車は入れない。観光地というのは車の通れる上の方だけで、下に降りて行くと、普通の人家があるだけで、生活の風景が楽しめる。サン・ポールやヴァンスのような洗練された観光地ではない。

  

 ボリー(Bories)の石垣風景

 ゴルドの町を訪れたかったのは、その周辺にあるボリーと呼ばれる石垣の集落があるからだ。ゴルドの町の手前から、石灰岩の岩に石垣が重ねられ、とても美しい景色となっている。さらに行くと、石が累々と積み重ねられて、実に面白い景観ができている。これが石垣だけではなく、ちょっとした小屋につながり、それを売り物にしたホテルまでできている。小屋の多くは、長方形平面のむくりの強い寄せ棟風の石積みの家で、中央では、両側から積んで来た石垣が互いにもたれ合うといったようになっている。棟に当たるところでは、一枚の大きな平石が置かれており、その上にさらに石が積まれて行く。

 Bories風景

 遠くに2階建てほどもあろうかというボリーが見えたが、近付けなかった。この先に「ボリー村」(Village des Bories)という展示施設があるのだが、残念、セナンク修道院に急がなくてはならない。セナンクは、このボリーの石垣の峠道を行けば眼下にあるのだ。

(文と写真 さのはるひと)