音戸山通信 プロヴァンス紀行 2003春−4

 

 第四日目の1 シルヴァカヌ修道院 3月29日

 サン・ヴィクトワール山

 昨日見損なったサン・ヴィクトワールを見にドライブに出たのはよかったけれども、山に近づいて迫力ある眺めをと思ったのが間違いで、いささか近づき過ぎ、山容がセザンヌとは違うものになってしまった。朝の素晴らしいドライブではあったけれども、結局、山のスケッチはあきらめて、この日の目的である第二のシトー派修道院、シルヴァカヌへと向かうことに。

 ワイン畑風景

 エクスから北に向かうと、辺りはワインの名産地。よく手入れされた畑が広がっている。これがプロヴァンスの風景だな、と写真を。この辺のドライブは本当に楽しい。とにかく景色がのどかで心がゆったりとするので、あわてて車を飛ばそうなどと思いもよらない(こともない)。車の性能などどうでもいいや、という気分になってくる。(まあまあスピードは出ているけれども、フランス人も飛ばすな〜。)

 ラ・ロク・ダンテロンの町

 シルヴァカヌ修道院を探している内に隣接の町、ラ・ロク・ダンテロンに迷い込んでしまった。この町も小さいながら雰囲気のあるいい町。あちこちにこうした小粒で気の利いた楽しい町や静かな町があって、通り過ぎるのがもったいない。修道院を聞こうにも、こんな田舎ではさすがに英語も通じず、女房の通訳を買って出た高校生の息子も困っていた。

 南側からのアプローチより全景を望む

 道を聞いて、ちょっと道をもどると、畑の中に、目指す修道院がひっそり建っている。そこそこ建物は大きいけれども、全く標識はなく、道端の畑の中に鋪装していない駐車場があって、やっとそれとわかる程度のものだ。駐車場から畑を歩くと、塀の向こうに修道院の側面が見えてきた。ル・トロネが起伏のある木立の中にすっくと立っていたのに対して、シルヴァカヌは畑の中にゆったりと建てられている。どこまでものどかで平穏なイメージだ。

シルヴァカヌ修道院西面全景

 あぜ道のようなアプローチからさりげない観光受付けを経て、聖堂前の広場に出る。写真は西側の広い空き地で、大きなプラタナスの樹と聖堂の軸線に沿ってずっと伸びている水路が、修道院を大きな風景に取り込んでくれている。

  聖堂正面

 聖堂は身廊と側廊とに付けられた大きなリブによって、シトー派修道会の名刹、フォンタネーのファサードに似る。ここでもやや斜面地に建てられていることもあって、身廊の右左で高さが違う。面白いことに、床のレベルも違い、屋根のレベルも違っている。1mも差はないのだから、そのくらい平坦にすればよさそうなものなのに。でも、そのずれが全体に柔らかな味わいをもたらしている。

 聖堂内部

 ここは身廊正面から中に入る。ル・トロネーよりも少し狭いといった印象だ。不思議なことに、ル・トロネーでは相当に長かった残響が、スルヴァカヌではそれほど長く引かない。子供達が全く同じだと言っていたように、プランも形もほとんど前者と同じだ。

 僧坊内部

 ドーミトリウムは横への広がり感の印象がル・トロネと違った。天井のヴォールトがいくぶん尖頭になっているということと、窓の彫り込み方の違いによるものだろうか。ここでも正面の窓の中心をわずかにずらしている。

 回廊風景

 回廊はル・トロネに較べてずいぶん大味だ。一つ一つの窓の中にあった小アーチ付きの柱が破壊されているということもあるが、似たようでも、こうして比べれば、ル・トロネのプロポーションのよさを思い知る。

 談話室

 回廊に附随する談話室(講話室)は通常、3スパン分の間口になるので、中央に2本の独立柱が建ち、象徴的に内部の天井を華麗なリブヴォールトで支えている、魅力的な空間だ。回廊が中庭に面した光の空間だとすれば、ここは一段暗く落ち着いた閉じこもった空間となる。聖書を講読するには暗くて困るだろうが、冥想や神のイメージをたくましく抱くのには、このくらいのほの暗さが必要なのかもしれない。写真は露出時間が長く取ってあるので、実際よりもかなり明るく写っている。 

 付属屋

 これは帰り道で、事務所があるのかな?なかなか自然できれいな景となっているので、写真を。よく見ると、煙突や窓、腰の石積みなど、偶然そうなったのではなく、それなりによく見てデザインしてある。かつての日本の大工や農家のひとたちもそれをやっていた。今の日本では残念ながら、そこまで見てつくりはしない。

(文と写真 さのはるひと)