町家を直すと、まちが元気になる

学生たちの町家改修ブログから 2007.11

初めての訪問

今回は私の教えている京都建築専門学校の一年生たちによる町家改修を紹介しよう。毎年、町家の改修をさせてもらっているが、今年は学生たちみずからが借りて住むために耐震改修を行うこととなった。知識も技術もほとんど持ち合わせていない一年生にとって、文字通り体当たりの工事となった。学校のHPに改修の悪戦苦闘ぶりが彼ら自身の日記として紹介されているので、いくつか拾い読みを。

大宮町家ブログから

1はじまり・出会い

とある熊本県出身の二人の学生が町家に興味を持ち、話しが盛り上がり、町家に一緒に住もうと決意。自分らでビラを作り、そこら中に配り、笑顔をふりまき声をかけ始める。数件の不動産屋も回り、いくつかの町家物件を見て回り始める。(6/8はじまり)

 大宮町家外観 小粒なたたずまい

この日、町家の空き借家をお持ちだったOさんが、よしやまち校舎に貼ってあったビラを偶然に見て、われわれにお声をかけて下さった。運命の出会い。ここから、熊本からやってきたJ&Yの町家生活への夢が大きく動きを見せる。(6/18出会い)

2大宮通りの町家

 入口に「非行防止は家庭から」とある。厨子二階、虫籠窓、出格子・・・外見はかっこよくいい雰囲気だ。

雨がざーざー降る中、町家の中に入る。雨漏りの心配はあったが、屋根はしっかりしているようで雨漏りはない。1階は、長く広い土間に2畳・3畳・6畳の3部屋。縁側、庭。離れにトイレ2つ。2階が4畳?の1部屋と物置?・・が、しかし。雨空のせいか薄暗い室内は・・・怖い。壁は崩れている箇所もある。床はぶかぶかで浮き上がっているところも。柱は斜めになってるとこも。怖がりの九州男児J&Yは・・・怯む。

 町家内部 光の空間

昔住んでたらしいおばあちゃんの話しに怯む。ここにピアノがあったのよ〜。。。怯む。二階の小さな写真?に。。。怯む。二階の謎のスペースに。。。怯む。学生T、面白がって怖い話しばかりをする。。。怯む。妄想が得意なので。。。怯む。

怯みっぱなしの見学だったが、なんか惹かれるものがあった。なんというか、昔のままの感じの良さ!やりがいがある痛み具合!大家さんOさんがいい人!ここで過ごすことへのMOUSOU!!

住みたい気持ちもあるが、歪みが心配だし、大家さんも先生に一度見ていただきたいらしいので、S先生に次回見て頂くことになった。(6/24町家を見せてもらう)

3実測調査

今日はK棟梁に町家を見て頂きました。表を見つめ、横面を見つめ、裏面を見つめ・・・中に入り、柱を見つめ・・・。

僕らにはまだどう直していくのか、はっきりは分からないけども、K棟梁には見えているのでしょう。

S先生&K棟梁の指示により、今後の作業が決まりました。

これから、まずは建具を外し、レーザー機器で水平・垂直をとり、床の下がり&柱の傾きをとります。今日は建具を外すまでやりました。歪んで動きもしない建具はなかなか取れず苦戦しました。ジャッキで鴨居を上げ、建具を一枚一枚外す。建具を外してみると、建具と壁の間に、生き物かのようなものすごいホコリの固まりが・・・(7/21

 柱の沈下状況を調査

 柱の倒れ状況を調査

TV取材

今日は・・・なんと大宮町家の作業についてのテレビ取材がありました!

京都の優れた景観を未来に引き継ぐために今月スタートする「新景観政策」についてのKBS京都の番組です。京町家の保存・再生に取り組んでいる一つの活動として、僕らの大宮町家が取り上げられたのです。

 TV取材風景 木村忠紀棟梁

 暑い中、床板を外す作業をしながら、撮影スタッフを待つ・・・撮影開始を待つ・・・

撮影スタッフが来られて、町家の前にも近所の方々「何だ、何だ」と集まり出す・・・

大宮町家さんの最初の?晴れの舞台!!

大宮町家の存在が、集まられた近所の方々にも再認識されていいことだ。。。よいよい。

また、番組を見られた方にも何か伝わればよいですがな。。。

大宮町家があったらこそ、こんなみんなで何かできる機会が出来た。。。また楽しげなことができた。。。良い思い出?ができた。。。町家に感謝。みなさまに感謝。8/22

5衛生掃除

 今日は朝から、姉町子さんからお誘いのあった町家見学へ姉町子も、妹町子も、髪の毛お団子や・・・

床下を開けて、屋根裏に入り、かる〜い衛生掃除!

昔は、各地区で一斉に衛生掃除というものが行われていたらしい。畳を上げ、床下を開け・・・家の大掃除を行うのです。そして、昔は各家に出入りの大工がいて、その時に家の点検を行うんですね。しかも地区で一斉にですよ!もうお祭りなんでしょうな〜・・・今では考えられないですね・・・寂しい世の中ですね・・・各家の前の道には、たくさんの畳が並んでいたそうです。不思議で、けど何か楽しい良い風景だったんだろうな〜。見てみたい!とても見たい!!

 衛星掃除風景

 この日、町家見学に来られてたおじさん方も、床下開けているのを見て、昔の衛生掃除を思い出し、懐かしそうに色々話されていました。いろいろと考えさせられました・・・衛生掃除、復活せんかな。復活させたいな。何か出来ることはないかな・・・

 町家に住む大先輩方と情報交換・知恵を色々と聞き、とても勉強になりました。(9/8

6小舞編み

 今日は、壁を崩して露わになった木舞の補強と土壁の練りを始めた・・・

 木舞は、綺麗に残っていた。大家さんの話しによると、明治から木舞・壁を修復してはいないと思われるらしい。普通は、壁を崩すと木舞が一緒に崩れてくるのが多いらしいが、こんなに綺麗に残っているのは珍しいらしく貴重なものである。すばらしい!しかし、やはり痛んでいる所もあり、その補強をした。新たな木舞を足し、縄で編んでいく・・・縄や木舞で擦れて、指が傷だらけや・・・

 古い竹小舞の修繕編み

 そんな時に、仲良しのご近所の屋根屋のおじちゃんKさんが覗きに来られた。木舞編みの昔話や、土壁の土練りのアドバイスなど色々と・・・屋根屋さんなだけに詳しいことをいろいろ聞かせて頂き、勉強になりました。。。

作業を続けていると、またKさんが来られて、コーヒーと紙テープを持ってきて下さいました。紙テープは、木舞編みで指が擦れるのを守るために職人は巻くらしく、痛んだJの指を優しく包み込むのでした・・・Kさん、ありがとうございました〜!!!!!

 大家さん娘さんも「こんばんは〜」ってチラッと来られた。この日はその他にも、もう暗くなった中、灯りをともし木舞を編んでいる僕らを外から見かけた老夫婦が声をかけてくれた。「おお、若い人こんなしてくれてるなんて嬉しいね〜。偉いね〜。」・・・

あれはなんか嬉しかったね・・・なんか元気をもらったね・・・作業に少し疲れたみんなの手がまた動き出した・・・あれは良いね。

 荒壁塗り 古土と新土を混ぜて使う

 そういえば、前を通る人がみんな中を眺めていくね〜。大宮が気にかけられてるね〜。挨拶を交わす人もだんだん増えてきた。良いことや〜。小さな幸せや。

 お隣さんのNおばあちゃんは、いつも玄関から「おきばり〜!!」って言ってくれる。

「こんにちは〜」「おきばり〜」、「こんばんは〜」「おきばり〜」・・・いつも、これ!なんかイイね♪

 床を受ける大引きの加工風景

こういうのも、大切にしていかなね!!!!

ご近所さん、これからもどうぞ宜しくお願いします!!!(9/15)

7町家で灯り展

大宮町家はどうなったのか・・・前日夜まで怒涛の追い上げで床を作り、畳を敷いた大宮メンバー。当日の朝というのに大宮町家はまだ建具が入っておらず、寒い風が通り抜けています。キレイになった庭で、朝からぼろぼろの障子紙を張り替え、おお部屋っぽい!!?取り壊しになった別の町家から頂いてきた素敵な建具が、はまりました!(実は縦の幅も横の幅も合っていないのですが
 とりあえず完成!学園祭だ

続いて灯り作品を搬入、よしやまち校舎からつきたてのお餅の配達を受けつつ会場の準備をしたり、土間の掃除をしたり準備の途中でご近所さんが見に来られて慌てたり。夕方、無事点灯それぞれの灯り、お花部による生け花作品、大家さんの灯り、花瓶並びました。灯りがつくと、いつもの大宮が見違える空間に・・・

 何かサマになっていて嬉しい

 たまたま通りがかって気にしてくれた人や、卒業生、ご近所さんも沢山来てくださり本当にありがとうございました!工事中のことや、思い出話など色々楽しくお話させていただきました。ふつつかものですが、これからもどうぞ宜しくお願いいたします!

 最後は大鍋で打ち上げパーティ!こたつに入り、ひとときの幸せ・・・大宮での生活に思いをはせるJY・・・しかし作業はまだ終わっていない・・・床下にはまだ、塗られていない大量の壁土、目覚めを待つ大工道具が眠っている・・・!!次に来た時にはまた建具を取り、畳を上げ、また床下作業かぁと思いつつも、今日だけは幸せな夢を見る大宮町家であった・・・(11/4

 大家さんも一緒に記念写真

 以上、学生たちによる大宮町家の改修工事の紹介である。ここでは省かれたが、柱の沈下が激しい部分は、プロの大工に依頼して、最小限の柱の根継ぎおよび揚げ前を行ってもらっている。幸い、この町家には間口方向に壁がいく枚か取ることができ、比較的容易に耐震補強をすることができた。

かくして、この十二月の末ごろから二人の学生があこがれの町家に住むことになった。工事は住みながらも続けられて行くことだろう。また、彼らが学校を卒業した後も、彼らの意志を継いで行く学生がいることだろう。この場を借りて、学生たちにこのような学習の機会を与えて下さった大家さんに、また折々御迷惑をお掛けしている隣家の方、御近所の方々に、また始終技術的な指導と協力をいただいている木村棟梁、そしてわが町家研究室の諸君に心から感謝したい。

町家の魅力とは?

実際に、ぼろ町家を治して住むというのは、たいへんなことだ。暗いし寒いし、汚いし、それに心配。通常の意味では、ちっとも快適では無い。にも拘わらず、この町家には若者たちを惹き付けて止まない魅力がある。町家の何が学生たちを、町家ファンを惹き付けるのか?それをこの大宮町家が端的に示してくれているように思うので、以下残された紙面に記しておこう。

第一に、小さいこと。いわゆる小屋の魅力。小さいが、独自の世界を完結している。強者、勝者の邸ではなく、弱者、敗者の隠れ家という側面もあるだろう。自分の大きさにフィットする手ごろ感がいい。学生たちにとって、大きく立派な町家は見学するのは楽しいが、住みたいとは思わないようだ。多くの子どもたちが目を輝かす「基地」ごっこ。町家は日常の世界から身を隠す「基地」でもある。

第二に、嘘が無く、真っ当であること。近年の言葉で言えば、オーセンティシティ(真正さ)。どんなぼろでも、きちんと造られたものであり、永年住い手を守って来た忠実な家であって、洗練された伝統のデザインの密度には相当なものがある。例え後の改修によって一部がベニヤで覆われようと、クロスが張られていようと、それらを剥がせば、元の真っ当な姿に戻る。

第三に、ほぼ同じことであるが、素材の力。ムクの木、土、竹、紙、瓦、といった町家を構成している素材は自然の、大地の素材であり、地球環境に優しいというだけでなく、それ自体が頼もしく、嬉しい存在だ。不思議に、土壁塗りはやっていて楽しい。

第四に、伝統の空間の魅力。その魅力は雑誌が写真によって取り上げる如何にも美しい空間ばかりではなく、坪庭などを持ち合わせた基本的な空間構造自体がすでに自然な美しさを持ち合わせている。このことはまた別の機会にとくと取り上げたい。

第五に、町家には長年磨かれ、住い手とともに歴史を耐えて来たことによる一種の風格が匂い出ている。それ自体が一個の人格であり、単に住むための道具的なもの以上の存在として、住い手を超えている。住い手の勝手であれこれ変形させることがためらいを覚えるほど、それは正統な原型を持っている。この家の原型こそ近代建築が見失ったものではないか。

第六に、その人格をもって、町家はその町に属する。これほどまちに共属意識を感じさせる住いは他に無い。極力隣接家屋との関係を断っていながら、内部は表通りにいわば滲み出ている。いや、表通りに面した部分はすでにまちの皆のためのものでもある。町家はその形態こそ都会に詰め込まれ縦長に成長した農家であるが、都会に肩を寄せ合いながら共に住むために互いの距離感を保つ工夫に満ちているという意味で、最も洗練されたみやこの住形式だと感心させられる。

古い町家が数あるまちから町家が消えれば、まちへの共属意識の後退、欠落が感じられる。逆に、古い町家に手を入れて蘇らせる工事は、まちに安堵感と元気をもたらす。まして、その新たな住い手が若くして、まちの古くからのしきたりを喜んで受け入れるとなれば、お年寄りの喜びはいっそう深い。大宮町家での学生たちの活動はその好例である。いや、今回に限らず、これまでの各所での学生たちによる町家改修ではいつも多かれ少なかれ、近所の方々から励ましの声をかけていただいた。若い学生にとって、何よりの元気の源となっている。そんな行動からまちづくりの芽が芽生え成長してくれることを見守って行きたい。

      (さのはるひと)