平成14年度木工コース卒業制作紹介 

「S造の離れを子供部屋にリニューアル」

 卒業制作に木工実習コースを設けて2年目は、学校の近所にお住まいの方の離れを子供部屋にリニューアルしようというもの。秋におおよその設計をし、メンバーが決まってから、実測、精密な図面を制作することとなった。単なる内装工事に終わらせたくないので、S造の小屋の中に木軸で構造をこしらえることとした。しかも、北山杉の丸太を使うので、簡単ではない。ただし、週に2日で半年、その間に材木の刻み、建て方、木舞編み、土塗り、内装工事をして、なんとか卒業式までに完成させなくてはならない。

  基本設計図(さのによる)

 この下図をもとに、学生たちに実測の結果を踏まえてきちんとした施工図を作成してもらうことになる。

 さっそく、12名の学生たちをまとめ、指導する棟梁として、堀栄二氏に依頼、快く引き受けていただいた。さっそく、物置となっている離れの整理、内装材の撤去作業から始まった。
実測風景(左 9/30) 土台・大引き据付(右11/7)

 既存の設備を除去するとともに、木製の床も一部腐っているので、すべて除去した。見れば、屋根の排水が樋から内部に浸入していた形跡がある。応急処置として排水路まで樋を継ぎ足しておくことに。床の高さもブロックを束石に使い、従来よりも上げることにした。内部はやや壁が倒れているので、その分を設計に反映しなくてはならない。


部材を刻む学生たち(10/7〜31)
 とにかくコストを抑えるという目的から、産地に問い合わせ、北山杉の在庫品から適宜送ってもらった。たしかにきれいな材木だが、4本の隅配柱を除いてすべて磨き丸太である。丸太の墨付けや加工の勉強にはなるが、とても手間と時間がかかる。期限に間に合うだろうか?

建て方作業と窓枠を塗装する丹治君(11/21)

 12月9日、やっとできあがった部材を運び、建て方をはじめた。なにしろ土壁塗りで壁を仕上げるので、貫が入る。通常の工事と違い、中に建て込むので、貫を入れるのに一苦労だ。順番も難しい。堀棟梁の采配で何とか2日間で納まった。柱は土台に長ほぞ込み栓打ちとするところだが、実際には外側から打てないので、込み栓は数箇所にとどまった。貫は3段に入れているが、通しで入れられるところが少なく、ほとんどが柱間で切られている。
天井板を支える垂木を納める作業・塗装に余念ない丹治君(12/9)
 壁はすべて土壁塗り、床と天井には美山森林組合の杉厚板を張ることで、断熱材を略している。床下から天井まで壁裏を通じて、空気が流れるようになっている。元々あった換気窓を開閉できるようにして生かしている。やや床板が冬に冷たくなると思われるが、必要とあれば、カーペットを敷くことで対応していただくことになる。
 桁と天井板を受ける垂木も化粧丸太なので、上下と中央の口を合わせるのが大変。作業のしにくい隅のところでたいへんな苦労の末に、なんとか納まった。

小舞編み風景(12/12)
 貫が入ったところで、小舞を編む。えつり竹を前もってあけておいたえつり穴に差し込み、ビスで留めて、小舞を編みつけて行く。小舞は指2本の隙間を空けて縦横に入れる。片壁の場合は、貫の向こう側に小舞を編むため、やや手間が要る。今回は藁縄を使用。左官学院の西村先生によれば、藁縄が費用対効果ということからも一番だそうだ。12名もいるので、意外に早く編みあがった。

小舞が入れ終わったところ(12/19)

荒壁土を現場に運ぶ学生たち(12/9)
 荒壁土はおよそ1m3ほどが必要になる。学生のことなので、かなり多めに練り土を購入、物干し場を空けていただいて、寝かし場所を確保した。藁を切り、混ぜて練る。元気な学生君たちなので、厄介な土運びもうまく進んだ。

荒壁を塗る京都府左官学院の学生と教員のみなさん(1/8)
 年末に塗るつもりが、年明けに荒壁付けをおこなうこととなった。学生たちだけでも塗れるが、左官学校の生徒さんたちの練習にと、左官学院に相談したところ、快く引き受けていただいた。頼もしい学生さんたちが手際よく仕事をしてくれた。学生というよりも、日頃現場で仕事をしているのだから、ほとんどプロである。特に、終わってからの片付けと掃除の手際よさにはとても感心してしまった。

荒壁を塗る学生諸君(1/9)
 翌日、わが学生君たちのために残しておいてもらった5枚の壁を塗りあげた。一部、両側を塗る小壁を忘れていたので、小舞を編みながら塗ってもらったが、気が付いたときには、両側を塗ってしまっていた。まあ、小さい小壁で乾き易そうなところなので、だいじょうぶでしょう。

床板・天井板を納める学生たち(1/16〜2/6)
 床板と天井板をともに張り付けてゆく。丸太仕事なので、柱回りがたいへん。天井は思ったよりもスムーズにできた。

ロフト天井を仕上・窓枠を納める学生たち(2/10〜13)
 後期試験が終わり、通常なら休みだが、木工グループは2月一杯まで作業を続けるということになった。窓回りの枠を納め、ロフトの天井、小壁を納め、玄関口を納めてもらう。塗装を一手に引き受けてくれているリーダーの丹治君は仕上のペンキ塗りに余念がない。建具は、他所からいただいたものや、古建具を買い、障子は知り合いの建具やさんに頼んでつくっていただいた。電気工事もお施主さんの知り合いに依頼。水道工事も近所のお知り合いに依頼して工事してもらった。学生には難しいミニキッチン回りは、堀棟梁の仕事だ。最後に、学生君たちにはロフトの手すりと梯子をやはり磨き丸太でつくってもらった。

ミニキッチンを仕込む堀棟梁
 荒壁が乾くのを待って、また左官学院の生徒さんたちが貫伏せと中塗りをしてくれた。さすがに、美しくなったが、もう一度、中塗りの仕上げ塗りをしてもらう。土壁が仕上がると、丸太が美しく生きてくる。あちこち下手な仕口が目に飛び込んでくるものの、全体としてはまずまずの仕上がりと見ていいだろう。

完成風景 入り口付近
 ようやく、卒業式のころに完成。なんとか学生諸君に完成を披露したく、卒業式に間に合わせてもらった。なんといっても杉と土壁の空間はここちよい。
完成風景
半間ピッチに柱を入れているが、磨き丸太のやや細めを使っているので、それほど苦にならない。半間ピッチに入れておけば、何かを壁に取り付けたい場合でも、柱が使い易いという利点はある。実際は柱の間隔は80cm以下になっているので、角柱ではうるさくてかなわない。壁の塗り厚も、通常よりもチリを大きめにしないと、柱の取り付きが薄くなってしまい、チリ際の具合が悪い。また、柱の丸みが隠れて柱が細く見えてしまうので、左官屋さんは気を使う。(設計側としては、密に入っているので、少しでも柱を細く見せたい、輪郭をぼかして面白く見えるかなと期待していたのだが、...。)
完成披露茶会(3/16)
 卒業式の翌日、完成祝いの儀式を行なった。学校の茶道部(部長廣垣君)のメンバーが出張で記念茶会を催してくれた。しばしの緊張タイムだ。当初の予定とちがい、参加者が大勢で、しかもすべて亭主が点てることととなり、ずいぶん長時間にわたり、全員が板の間に正座をするはめに。でも、和気あいあいとしたいい雰囲気でした。その後、お施主さんのはからいで、全員、楽しいご馳走となりました。皆様、ごくろうさまでした。

堀棟梁を囲んで(3/16)
 
 「児玉邸離れ改修工事」
 建築科木工実習コース卒業制作 2002.9.30〜2003.3.15
 設計・監修 佐野春仁
 大工指導  堀 栄二
 学生     建築科2年 12名 代表 丹治一明
         山内太志 山田鉄也 井上雄次 清野禎朗 野田優作 杉本卓満 
         横山敦司 森田高司 鵜野慎也 卞  俊達 田中誠二
 協力     京都府左官技能専修学院 (学院長 西村弘三) 
         三間恭二(材木) 井川建具店 由尾良治郎(配管)

(写真と文 さのはるひと)