軽い土塗り耐力壁をつくる  京都建築専門学校建築科 構造実験2011より

かねてから構造実験の授業で軽い土壁をつくって耐力を見たいと思っていたのだが、学生たちの協力を得て、藁スサを極限まで含めた土壁(No.5)と、杉皮 の繊維からなる断熱材であるフォレストボードをほぐしてスサとして混ぜた土壁(No.4&6)をつくって実験してみた。比較のために、伝統土壁両面塗り壁 (No.1)および伝統土壁片面塗り+FB張り壁(No2)、FB両面張り壁(No3)の合計6体を作成した。すべて、サンプルを作成し、あらかじめその 圧縮破壊強度を測定している。

作成試験体  W910  H2730   タイロッド式による
                                           
                                           サンプル密度による推定重量
No.1  伝統土壁両面塗り t70 薄貫5段   藁スサ 0.8kg/150リットル程度  240kg/試験体
No.2  伝統土壁片面塗り t55 厚貫4段 +FBt25張り               200kg/試験体
No.3  FBt25両面張り      薄貫5段                       25kg/試験体
No.4  FBスサ多め土壁  t70 厚貫5段    FBスサ  5kg/150リットル    180kg/試験体 
No.5  藁スサ多め土壁  t70 厚貫5段   藁スサ   5kg/150リットル    195kg/試験体
No.6  FBスサ入り土壁  t70 厚貫5段    FBスサ  5kg/150リットル    180kg/試験体




上の画像は土をつくるところで、左はFBスサ多めのもの、中央は藁スサ多め。土はほとんどスサのつなぎとしてやっとの量であった。
ともに、竹小舞にはとても塗りにくく、叩いて込めて行くという印象である。作業性はとても悪く、とくに藁スサ多め土壁は3人掛かりで荒壁を両面に付けるの に3時間ほどかかった。



土を塗る前に、20cm角のサンプルをつくった。この場合は、とくに叩き込めるというようなことはせず、普通に塗り込める程度である。乾燥してから、サン プルの圧縮強度を測定した。




グラフはサンプル土壁の密度と圧縮強度の相関を記したものである。この結果から見る限りでは、ほぼ比例関係があると見てよいかもしれない。スサが多いと強 度が出ないという、通常言われている通りの結果である。




実験の様子。学生たちは自分たちがつくった試験体ということもあって、実験の様子を興味深く見ている。今年は6つのグループに分けて作成、実験、結果の発 表を行う。データ採り、写真、記録、など手分けして行う。




画像は載荷時の試験体の状況。左はNo.2で、1/20rad(186mm変位)、表は貫位置でクラックが入り、裏側はFBが面外座屈しながらも、 95kNほどの耐力を残している。右は両面にFBを張ったもので、緩やかに剛性が上がっていく特性をもっているようだ。1/15rad変形辺りまで耐力を 残している。どの壁も、貫をしっかり効かしているので、そうそう耐力は落ちない。




 6体の試験体の実験結果をグラフで示す。交互反復で荷重を掛けたものを合成しているので、鋸状のグラフとなる。土は繰り返しの荷重で耐力はその都度、減 じて行くので、鋸歯が顕著となる。対してFBは滑らかな特性をもつと言える。もともと軽く(密度0.23)、変形に強いすぐれた材料である。断熱材として 利用されるが、留め方に工夫をすれば、耐力壁としても十分な効力をもっていると思われる。実験では、60cm間隔で入っている貫に薄板を通して釘打(普通 釘6cm@10cm)している。初期剛性はそれほど上がらず、壁倍率換算で1.5倍(ばらつきを考慮して1.2程度)と見られる。片面塗り土壁と合わせた ものでもそう変わりはないようだ。
土壁を防火的に必要な厚さに塗り、断熱材としてFBを40mmほど裏に張った場合等は、剛性が高くなるので、全体の剛性バランスをみて、留め方に配慮が必要になるかもしれない。

 FBを張る場合には、張り方で初期剛性に大きな違いが出そうなので、これをほぐして土に混ぜて軽い土壁をつくってみたらどうなるか、これが今回の関心 だった。結果は、まず、塗るのが想像以上にたいへんだった。ワーカビリティは最悪に近い。通常の施工には到底組み入れられないだろう。試験結果は、極限ま で混ぜたNo.4および通常のスサの倍ほどの量を混ぜた No.6では、No.4の方がいい結果が出ている。これはワーカビリティの悪さによって、叩き込められて施工されたためにしっかりとした土壁が出来た結果 であろうと推察される。杉皮の繊維をすさに混ぜると、塗られた土が垂れ下がってくる。スサと土との馴染み(付着力)はあまりよくないということがわかっ た。

 これに対して、藁スサを基準法の8倍ほど混ぜた土壁は、やはり耐力が高い。これもしっかり塗り込めた結果によるものと思われる。出来上がった土壁は見た ところ、がさがさで、耐力が望まれなかったにも拘らず、全体としていい結果が出たことは意外であった。FBスサ多め土壁とおおよそ同じような結果が得られ ているが、耐力は安定的と見られる。

 FBスサをうまく使った軽い土壁は、塗って使うよりも、パネル成形したもので利用できるように思われる。来年はそれを含めて、実験してみたい。

 この場を借りて、たいへん苦労の多い実験につき合ってくれた学生諸君に感謝します。

                                                   (さのはるひと)