音戸山通信第43話 01/01/05

稲荷山の住宅(4)着工から上棟まで

 久しぶりの稲荷山シリーズです。9月着工予定だったのが、1ヶ月ほど遅れて工事が始まりました。工事は、学校でもお世話になっている竹内理事に依頼。理事は組合でもBKホームという会社の面倒を見ており、今回の工事もこのビーケーホームという会社で請け負うことに。設計は全体を通じて僕が責任を持ち、建築確認は僕が所員でもある一級建築士事務所 Studio菖 (所長 稲端下恵子)、実際の図面はほとんどすべて的場優子によって作成。彼女の希望により、今回はすべて手描きとしました。手描きの方が寸法感覚がピンと来るという理由です。

 現場に入ってからファサードを変えています。僕の場合、よくあることです。前にお見せしたファサードが、真壁-大壁を混ぜて面を割っていたのを、全部一枚の大壁としました。それですっきり。この壁はすべて土塗り壁で、それも4寸の柱に内側は真壁、外側は大壁という、厚さにして12〜13cmはあろうかという厚い土壁にしようというものです。厚い土壁は遮音性、暖熱性、耐力性能、いずれも有利になるだろうと期待してのこと。したがって、断熱材も遮音材も、被覆材も使わず、ただ土壁だけでやってみようというもの。もちろん、環境や健康における有意味は言うまでもない。ただ、本当にうまく行くのか、これは挑戦です。はっきりしているのは、施工がたいへん。まず、あまり例がない工事となり、手間と時間がかかる。(でも、あれこれのボードやらシートやらを何層にも張っていれば、結局同じくらいの手間がかかっています。)ただ、冬の間は、土塗り壁にとってもっとも乾きの悪い時期となるので、ほとんどの施工計画は左官仕事を睨みながら立てることに。それで早く業者を決めて、土を寝かしておきたい。気ばかりはやる8、9月でした。

               

                              変更なったファサード

 さて、僕の設計はいつものこと、見積もりがたいへん。ちょっと普通と違っているせいか、なかなかすっと出てこない。でも、出来の悪い図面を眺めている内に、こんなものも一度やってみようと思ってくれるのか、面倒にも拘らず、またこちらの希望してくれる値段ではあまり儲けもなさそうなのに、請けてくれます。竹内さんもこころよく引き受けて下さいました。ありがたいことです。ちょっと思っていたより高めに出ましたが、お施主さんにも認めていただき、契約へ。決め手となる土壁は谷岡さんという左官屋さんが引き受けてくれることに。早速、材木の段取り、土の段取り、小舞の竹の段取りという作業です。

 まず、現場の地盤を調べることに。葭屋町でお馴染みのスエーデン式サウンディングによる地盤調査。結果は、通常の2階建てならば大丈夫という程度。ただし、粘土質で水を含んでいるため、あまりよくないことは確かで、竹内さんと相談し、ちょっと心配な分、地盤改良を行うことに。基礎もコストを下げようと布基礎に変えたのを、もとのベタ基礎にもどしました。おかげで4階建てでも大丈夫というようなしっかりとした基礎ができあがりました。

地盤改良工事 10/06

ベタ基礎配筋D13@200 10/17

 値段を押さえようと、土台も防腐剤を含浸させた米とが材だったのを、竹内さん、ひのきにしましょうと。檜の4寸角の立派な土台をネコパッキンに載せてアンカーボルトで止めることに。この間の近畿大学での耐力試験を見てきたわれわれは、ボルトを止める座金を大きく、厚いものに変えて安心しております。立上がりのコンクリートは巾を4寸5分、13、5cmにしています。

ベースのコンクリート、次に立上がり部のコンクリートを打ち、天端を均して基礎の完成 11/05

 柱や梁は、美山、京北の杉材にしたかったのですが、地元に適当な材がなく、通し柱は檜、管柱は杉、梁は米松、すべて乾燥材。梁は人工乾燥により、肌が焼けたようになっていますが、収縮するよりずっとましです。肌も今回はベンガラを塗るので、構いません。却って木目が立ってきれいでしょう。ただ、米松の乾燥材はのみの切れがよくないので、大工さんは喜びません。床板はすべて美山の厚い杉板です。今回は2重に張ってみます。天井も厚い杉板を用います。屋根の野地板は、やはりコストを押さえるため、ベニヤ合板の指定を、杉板でやってくれました。コスト的にはそう変わりはないそうですが、ありがたいことです。いくら通気工法で湿気はたまらないとはいっても、やはり杉板のほうがいいですね。(ただし、構造的には合板のほうが強いことも確かです。)

工場にて乾燥中の杉柱を見る 10/29

 さて、材の段取りがつき、大工さんによるほぞ加工です。プレカットによらず、すべて手作業。手伝いに傳代さんという宮大工仕事の得意な副棟梁が来てくれました。とても緻密な方で、全体を司る田中棟梁はたいへん。毎日のように学校に足を運び、寸法の確認に来て下さいました。なにしろ、ほとんどすべての構造材が化粧材として、そのまま見えてきます。おまけに、ほとんどの柱と土台、梁との接合を込み栓止めにしようということをお願いしました。これはたいへんな作業。でも、意外にこころよく?引き受けて頂きました。もちろん、ボルトも併用しています。

 11月中ごろからようやく建て方です。貫をおさめるのが大変。通常3本の貫を入れるのに、ここでは4本、しかも厚さが1寸。隅を通さない通し貫なので、柱を立てながら入れなくてはならず、余計にたいへん。建て方に丸3日かかってしまいました。1寸貫にしたのは、土壁の厚さと全体の重量を考えて、耐力を高めたかったため。4本にしたのも同じ理由。さらに、4本にすると、後々でちょうどいいところに釘が打てる。葭屋町では5分貫が3本で、これは欲しいところに釘が打てず、後で困る。土壁の難点は、そうした後の釘懸りが利かないこと。しかし逆にいうと、穴を開けたいところに貫があって開けられない。設計段階で細かい配慮が必要です。建て方では、この貫にまだ楔を止めず、また込栓を打っていないにもかかわらず、全体がとてもしっかりしていました。それは、柱が4寸で太いこと、また、ほぞがしっかりしていて、きちんとはまっているということによる。大工さんたちが口を揃えていうには、貫が利いているとのこと。もっともそのために、部材を組み付けるのにとても苦労したらしい。あまり嬉しそうな口振りではなかったからね。

建て方2日目 11/14

 近年は建て方に必ずレッカーが登場する。以前はもちろん、人力で組み上げた。ここではどの部材も二人で持ち上がる様なものばかりなのだが、やはりレッカーがあると、楽なのだろう。ただ、貫を納めるのに手間取って、レッカーの運転手も暇で仕方ないという顔をしていた。

ほぞを調整する田中棟梁 11/14

 ほぞはきちっと作ってあるので、ともすると、現場ではうまく入らない。ゆるゆるでは困ったものだが、全体の寸法がいい加減だとそれでも入らない。この現場では、そもそもがきつめに過ぎるので、棟梁は調整に忙しい。

束や柱 込栓の穴が開けられている 

 ここでは長ほぞ込栓を多用している。ほとんど化粧で見えてくるから、後でちょっと自慢もできるでしょ。栓位置は、受け側と入れ側とで少しずらしてあり、込栓を叩き入れることで引き寄せ、胴付がぴしゃりと合うよう工夫されている。ために、ほぞの栓穴の位置に気をつけないと、そこで木の繊維方向に割れてしまう。

登り梁 養生の紙が貼られている 

 僕の設計は小屋裏を使うので、よく登り梁を使う。母屋はそのまま勾配に載るが、むくりを取るための母屋受けとダボを梁に仕込んでおく。むくりは最大で1寸2分程度にとり、ほとんど気が付かない程度である。ただ、それをとらないと下がって見えるので、必ずとる。本当は敷き桁や束で高さを調節して、登り梁に長い材を使えば、素直なむくりカーブが得られるのだが、何本かを繋ぐため、その方法では折れ線になってしまう。母屋下で調整するわけだ。正面では、土壁をこの母屋下まで塗って来るので、この下駄は見えない。

松丸太の敷桁を納めている

 東に広い板の間があり、ちょっとした吹抜けの空間になっている。そこに飾りをかねて、松の丸太を架けている。見た目にも楽しく、暖かみがある。大工さんの手間もたいへんだけれども、最近はごろんぼ(丸太)を使うことはめっきり減ってきているので、そこは腕の見せ所、文句を言う人はあまりいない。そんな所をいくつか作ってやることはいいことだが、あまり多すぎないことが肝要。また、あまりにこれ見よがしも、上品さに欠けるので、ほどほどにしよう。

松丸太梁を納めている

 ごろんぼは今回、ちょっと細めにした。もう少し大きくして、太鼓に面を付ければ、大工も仕事がしやすい。ここはあえて、細めに。写真で架けている梁は、敷き梁に架けて、その上に柱を立てるという仕方もあるけれども、この柱が通し柱であること、継手が重なるのを避けて、ちょっと上に差し込んでいる。構造的にその分、力がストレートに伝わらず、柱にせん断がはたらくが、この程度なら大丈夫だろう。

けらばにおける母屋の出 

母屋が載った頃の全景

 表側のけらばの出は、母屋先端で90cm。かなりたっぷり取ったつもりだったが、できてみれば、もう10cmほど長くてもよかったかなという印象だ。こうして見ると、西側にもう半間でも壁があれば、見えはいいのになと思う。棟木の位置を構造に合わせたかったので、仕方ない。

棟上げの儀式 記念写真

 かくして、11月15日、大安吉日の佳き日に施主の工藤さんご夫妻、設計メンバーおよび竹内社長以下、総勢22名の出席のもと、上棟祭を無事に執り行いました。みなさんご苦労さまでした。後ろに見えるおかめの付いた棟札は、1本が施主用で棟木に付け、1本は棟梁用で、工務店に保管、残りの1本は、以前は手伝い方用であったもので、設計側で戴き、記念に葭屋町校舎においておくことにしたものである。