音戸山通信第29話 00/09/07

稲荷山の住宅(3)

楽しい中で、しかしそろそろあわてている稲荷山の住宅の続編です。チロル風が大好きな施主家族の意向を踏んで進めてきた設計も、7月に入って模型を的場さんにつくってもらい、契約もしていよいよ詰めの段階に入ったところが...

以下、画像をもとにその後の展開を説明することにしましょう。

的場さんの作った模型。縮尺1/50で、室内の雰囲気も再現されている。手前から、土間の吹抜け、リビングの半分が吹抜け、その奥に10畳の寝室が南側に並び、北側にはダイニング、キッチン、水回りとなっている。2階は8畳のアトリエと6畳の和室と便所が北、バルコニーが南となっている。お施主さんのおおいに喜ぶところであったが、...

南西から望む模型外観。こう見てみると、ちっともチロル風じゃないなあ。うーん、と思っているうちに、事前にお伺いを立てた風致課から、「表に廂を付けて和風にして欲しい」とのお達し。憤懣やる方ない的場さんであったが、これぞ天の声、そうだそうだ、そもそもそれが出発点だったと、一挙に和風へと走ったのでありました。7月中頃のことです。たまには風致課も役に立つという例ですな。

といっても、別に風致課がおっしゃるからというのではなく、前案がどうも合点が行かなくてちっとも乗り気にならなかったところへ、ちょうどいい皮切りになった。傍らで葭屋町の町家の改修をやっていて、その延長の仕事がしてみたかったというのが本当のところかもしれない。あの工事で得たものを自分なりに確認してみたい。そこで町家風に平面から思い切って変えてみた。左(西)から寝室(間口2間)、居間(間口2間)、玄関土間(間口1.5間)、板の間(間口2間)となり、廂を南に大きくとって、老夫婦となった折にのんびり風に当たる空間を寝室の前に取った。ファサードではちょっと屋根勾配を緩くして形を整えようとしている。

東の板の間の間口を拡げ、寝室や居間の間口をやや狭めてみた。部屋の仕切りと構造とが合わず、悩んでいるところ。

結局、間取りに忠実に構造を合わせてみるのが一番自然ということに。これは大壁のデザイン。ちょっと屋根が平たすぎて、現実にはぺしゃんこの家、という感じになるかもしれない。あれこれいじって、現在、下に示す様な平面になっている。

1F

こんな間取りとなって落着いた。以前の案と違い、寝室や居間が狭くなったが、人の集まる板の間を充実する方向で進めた。(よしやまちでお馴染みの掘りこたつがここにもある。)居間からキッチンが近くなったのが使いやすいし、勝手口へと風も南北に通る。玄関土間は一転して渋く落着いた空間となった。(もはや洗濯物を干せないぞ)。正面に飾りを兼ねた箱階段が来た。ここが一つの見所(けんしょ)となる。

2F

2階は前案とそう変わらない。アトリエがちょっと広くなったかな。板の間の吹抜けには松の丸太の梁がかかり、上部のトップライトに黒く鈍く光る。この空間がもう一つの見所。

南立面

最終ファサード案。先の大壁デザインよりもちょっと背を高くしてぺしゃんこ感を消している。実はまだ大壁にするか、繪のように真壁を入れて面を割るか、悩んでいる。大壁の方が品がいいでしょ。でも、真壁の垢抜けない面白さにも惹かれている。大壁というのは、通気工法を採りたいがため。土壁を厚く塗って、通気層を取り、ラスモルタルで仕上げることになる。左官屋さんがよろこぶだろうね。通気層は直射日光による熱や北側の湿気に対して有効に働いてくれる。一部の真壁は、環境条件のよいところに限られる。大壁にすれば、土壁の亀裂も隠れる。一方、真壁にしておけば、後で塗り足せる。一長一短なのだ。

いずれにしても、この建物では、最終のテーマは南面の土廂の空間ということになる。朽木の森川山荘でのテラスがあまりにも心地よかったので、あれを生活に取入れたい。このページでおおよそ全体の形が見えた。次回からは、その伝統的な土壁をどのように使っていくか、詳細を示すことにしよう。           (さのはるひと 2000/09/07)