音戸山通信 2004/04/15

カンボジア旅行記より 第四日目

 

スラ・スランとバンテアイ・クデイ

 カンボジア旅行もいよいよ最後の四日目を迎えた。この日は午前中にスラ・スランおよびバンテアイ・クディ、そしてその西北のタ・プロムを見学する。スラ・スランは12世紀末、バイヨン寺院を創建したジャヤヴァルマン七世によって仏教寺院バンテアイ・クディとともに、王の沐浴場として改修整備された。池の中央には小さい寺院があったとされるが、現在はその残骸が横たわっているのみである。およそ東西700m、南北300mといったところで、こんな大きな沐浴場があるだろうか。今はどう見ても、池であるが、どうしてどうして、なかなか美しい。ここの日の出は有名だが、さぞかし神々しいものであろう。池の西側にシンハ(獅子)とナーガ(大蛇)が飾られたテラスがあり、その手前に祠堂があったようだ。現在は階段のみである。かつての沐浴場も現在は灌漑施設として機能していると聞く。

スラ・スラン(王の沐浴場)のテラスから東を望む 

スラ.スランを見据えるバンテアイ・クディ寺院の東門

 バンテアイ・クデイ寺院は、10世紀ごろに先行した僧院があったとされる。熱心な仏教徒であったジャヤヴァルマン七世によって仏教寺院として再興された。廻廊に囲まれた中は第二廻廊と十字廻廊とで田の字型の平面となっている。規模は小さいが、それぞれの交点に塔が立っているところなど、バイヨンと似た構成が見られる。復元工事の途中といったところで、あちこちが崩れている。

東塔門前のテラス

門にある衛士の像 仁王とは違って瞑想を想わすしずかな表情だ

中央祠堂前に伸びる柱廊と多数の塔

経蔵に穿たれた像

中央軸線の眺め リンガの台ヨニが置かれる

写実味のあるレリーフ

今後の復元工事を待っている部分

西南から望む 大きなスポアンの樹があった

西塔門

タ・プロム

 昔から、アンコールワットというと、遺跡に絡み付いた大きな樹の根が映った衝撃的な写真を思い出す。あの遺跡がタ・プロム寺院である。今回の遺跡群見学の目玉のひとつであった。ここは復元の方針で、本来なら遺跡を破壊する樹木を除去するところを、あえてそのままにしておくという。この方針が文化財の保存という点から見て、適当であるかどうかは疑わしいが、それとは別に、はなはだ衝撃的、感動的な光景が繰り広げられるこの遺跡はもっとも人気があり、カンボジア人のガイド君も好きだという。タ・プロムは、もともとは僧院であり、後にヒンドゥー教寺院になった。複雑な平面構成をもっており、東に向いて整えられているが、西向きにも堂々とした正面性を備えている。

 

タ・プロムの東門前のテラス ここにも樹木が堂々と生えている

 

東門脇の大きなスポアンの樹

遺跡の屋根に根付いたスポアン(東門西内側)

同上 昔から憧れていた光景 ついに会えたね

最も印象に残った空間 未知の惑星を歩いているような印象だ

同上

スポアンの樹は太い幹に水を貯え、乾季に備えている

別種の樹木、巨大な板根 (垂れ下がっている葉の下までの高さは3mほど)

レリーフ(仏像が削り取られている)

不思議にユーモラスな光景

スポアンが廻廊を押し潰そうとしている

西門風景 樹木に覆われた寺院ということがわかる

 このタ・プロームの素晴らしい印象がスポアンの樹木と遺跡との絡み合いの面白さから来ていることは言うまでもない。それとともに、遺跡を覆っている樹木が、日陰を適当に与えてくれていること。眩しい直射日光と真っ暗な日陰部分というコントラストは、空間的な味わいをほとんど平板なものにしてしまう。タ・プロムは、複雑な平面構成もさることながら、この日陰が空間を湿り気のある、奥行きのある味わい深いものにしてくれている。日陰は、ほかの遺跡では見られない苔などの潤いを石に与えている。もちろんそのために、強い直射日光と同じ程度に、遺跡を傷めることになるであろうが。少なくとも、日本人のわれわれは、こうした湿り気のある空間や石の表情が好みなのであろう、ガイド君もそう感じていたようだ。

 

シェムリアップのオールド・マーケット

午後からは、市内の市場を訪れることになっていた。シェムリアップの中心部には毎日のように行ったのであるが、公園と周囲の美しい建物を撮影する機会がなかったのが残念。ついにシェムリアップという街の様子を紹介できず仕舞い。ここでは、最後に、お気に入りのオールド・マーケットの風景をご覧頂きましょう。

野菜売り場の活況  アジアの市場は本当に楽しい 

焼きバナナ ココナツミルクをかけている 

お米屋の姐さん 

ソーセージかな?天井にいっぱい篭が...ひょっとして、断熱材?

奇妙なかたちのトンレサップ湖の干し魚 

お祭りの晩

 一度ホテルに帰って、飛行機が出るまでの間、ガイド君がお祭りに連れて行ってくれた。サッカー場に人気バンドが来て、人が集まるのだそうだ。たくさんの人、バイクで、ごった返している。日本の昔の祭りの風景と同じだな〜と、何だか懐かしい。いろんな屋台が出ていて、面白い。公然と賭事があちこちで。それを子供達も真剣に見ている。いい勉強だぞ。子供達も、高校生達も、大人たちも、みなとにかく、擦れていない。微笑みかえしてくれる。ああ、日本も昔はこうだった。

 ガイド君が得意なのは、ダーツである。といっても、日本で言えば、空気銃で景品を打ち落とすあれである。区画の中の風船をダーツで割って行く。割った風船の数で景品がよくなるというものだ。すでに腕が知られているのか、われらがガイド君に店の人がエントリーを渋るというのが面白い。これは風船を割って行く小気味よい感覚が楽しめるので、日本でも導入してみたらいいかもしれない。小さい子が危険なダーツを覚えるのはどうかって?密室に閉じこもってコンピューターゲームをしているよりも健全でしょ。

ダーツ 

ジュース屋さん 人参もあるぞ 

 げんごろうと巨大なタガメのつくだ煮!

 

お祭り会場風景

 さて、これで僕のカンボジア旅行記もおしまいです。まだまだ紹介したい写真はいっぱいあるけれども、ご覧になられた方はもう満腹でしょう。こうしてネットで紹介するのは、昨年の春のプロヴァンス旅行記以来です。今回の旅行は、まだ日数も短く、お定まりのツアーのため、見学も少ない方でした。タイの北方の遺跡巡礼の旅行、バリ〜ボロブドゥールの旅行や、中国福健省の土楼を訪ねた旅行などは、この数倍の量になります。もう一日伸ばして、いくつか他の遺跡も見たかったかとも思います。いつもの旅行のように、自分達で勝手に見て歩く方が、スケッチも写真も時間も自由にできますが、体温よりも高い気温の中で歩き通していたら、どこかで倒れていたかもしれません。お年寄りに合わせたようなゆっくりとした見学と昼寝付きの三日間でしたが、お陰でほとんど疲れも出ず、のんびりさせてもらいました。そう若くもないので、熱帯では無理をしないことでしょうね。

 これからカンボジアに向かう観光客は増えることでしょう。いずれ、アンコールワットやバイヨン寺院などは入場制限の必要が出てくることでしょう。カンボジアはまだまだ貧しい国ですが、深いジャングルの奥にはまだまだ素晴らしい遺跡や文化遺産も眠っていることでしょうし、なによりも、大自然の中で悠々と暮らしている人々の生活文化が魅力的であり、貴重かつ尊重さるべきものだと思います。できれば、土足でどかどかと踏み込むような無礼は遠慮したいものです。つたない写真や文章をご覧いただきまして、ありがとうございました。

(文と写真 さのはるひと)